代官山「TACUBO」田窪大祐氏にインタビュー、薪で焼く肉の美味しさの秘訣とは

焼肉、ステーキ、鉄板焼きなど、肉を焼いて食べる調理法は様々ありますが、ここ数年、薪を熱源とした調理法を取り入れるレストランが増え、肉料理の楽しみ方の選択肢にますます広がりを見せています。
調理器具が進歩し、最新器具や技術を取り入れた科学的な調理法も生まれている一方で、原始的な調理法である薪火焼きにシェフ達が惹かれる理由とは何なのでしょうか?
今回は、薪焼きの肉をメインにしたイタリア料理で人気を集める「TACUBO(タクボ)」のシェフ・田窪大祐氏にインタビュー。薪火焼きの魅力から、薪で焼く肉の美味しさの秘訣まで、たっぷりと語っていただきました。

レアだけど熱い。熱量を感じる薪火焼きの肉との出会い

―田窪シェフと薪火焼きのお肉との出会いについて教えてください。

2014年に「ヴァッカロッサ」で、渡邊シェフの薪火焼きの肉を食べたのが最初です。
僕はそれまで炭火焼をやっていて、そろそろ違うことをやりたいなと思っていた中で、料理の流れ的には低温調理が流行り出した頃でした。でも僕としては「低温調理=フレンチの調理法」というイメージで、しっくりこなくて。イタリアンやフレンチの「スーゴ・ディ・カルネ」や「フォンドヴォー」といった出汁は、旨みを出したいからしっかり焼いて煮込む訳で、美味しくするためには「焼く」ということが、僕は大事だと思うんです。
そんな中で、たまたま「ヴァッカロッサ」で薪火焼きをやっているというのを聞いて。実際に行って食べてみて「薪火焼きいいじゃん!」となったんですが、やりたくても設備が無いとできないので、移転することを決めました。

―薪火焼きの肉との出会いが、お店の移転を決意するきっかけになったのですね。実際に薪火で焼かれた「ビステッカ」を召し上がられたときは、どのような印象でしたか?

今まで食べたことのない感覚というか、熱量を感じました。美味しいとか綺麗とかじゃなくて「旨い」という感覚。何か考えなくても、一口食べたら「旨い」と本能にくる美味しさが薪にはあると思いました。
僕がずっとやってきた炭で焼く調理法は、どうしても最後に休ませる工程が入ります。薪火焼きのステーキには、焼きたてをそのまま食べる焼肉のテンションに近いくらいの熱量を感じました。香りもいいし、表面の香ばしさもあるのが、今までイメージしていたステーキとは全然違って、レアだけど熱いというのがすごく衝撃的でした。今でもそれが自分の目標になっていて、そのときの感覚をイメージして毎日焼いています。

―炭火焼と薪火焼きの一番の違いは何だと思われますか?

ぱっと見は同じ熾火だけど、IHとガスくらい、肉の焼き上がりが全然違います。
炭は焼いているとどんどん表面が乾いていくけど、薪は香ばしくなるのに乾かないんです。焦げにも少し水分を含んでいるというか。みずみずしさと香ばしさって逆のイメージがあるけど、それが共存している感じがあるのが薪ですね。

2016年4月、薪火焼きの肉をメインとした「TACUBO」をオープン

―「TACUBO」をオープンされるまでは、「ヴァッカロッサ」の渡邊シェフの元で研修を重ねられたそうですね。

そうですね。「アーリア ディ タクボ」をやりながら、休日に「ヴァッカロッサ」に行って、暖炉のことや熾火の作り方を教えてもらいました。焼き方は、渡邊シェフが焼いているところを見させてもらいながら、イメージを膨らませていくという感じでしたが、研修をさせてもらった中で一番感動したのは、上と下はしっかりと焼けているけれど真ん中がレアで、真ん中から上下に向かって徐々に火が入っているという火入れのグラデーションです。店をオープンしてからは、それをイメージして、お客様の反応を見ながら手探りで自分のやり方を作っていきました。

薪火焼きにも色々な焼き方があるんですけど、渡邊シェフの焼き方がいいなと思ったのは、分厚いステーキを焼くときに強火の近火で焼くというのをやられているから。遠火で焼くのは炭でも表現できるので、熱源として薪を捉えたときに、他の熱源では不可能な、薪でしかできない火入れの仕方を目指したいと思ったんです。

―“自然”というコンセプトを掲げていらっしゃいますが、どんなお店にしたいという想いだったのでしょうか?

歳を重ねていく中で、ずっと自分がクリエイティブなものを作り続けて、第一線を走り続けるというのは難しいと思っていて。仮に60歳までやるとして、ここから勝負していくなら、歳を重ねているからこそ、シンプルなものが旨いという料理人になっていった方がいいなというイメージがありました。クリエイティブじゃなくて原始的なものやシンプルなものを突き詰めたいと思ったし、薪自体は炭よりも前からある原始的なものだけど、でも新しいというところに好奇心をくすぐられました。

―カウンターから見える開放暖炉が目を惹きますね。暖炉や薪にはどのような特徴があるのでしょうか?

「せっかく薪焼きをやるなら客席から暖炉が見えないのは勿体ない」と思って、このスタイルにしました。薪が燃えている様子や、焼いている様子を見てもらうのも楽しめますし、うちのウリのひとつです。

暖炉は「ヴァッカロッサ」と同じ、増田煉瓦の開放暖炉がベースです。薪を燃やすスペースと焼き台の右左の位置が違うくらいで、うちでは向かって左側で薪を燃やして熾火を作って、右側の焼き台で調理をしています。薪の組み方も“渡邊流”ですね。

薪は基本的にナラで、たまに知り合いの業者さんがオリーブの枝とかを送ってくれたりすると、ちょっと入れて香りを付けたりすることもあります。ナラは燃えやすくて香りに癖が無いので使いやすいし、どんな肉にも合うんです。

美味しいだけじゃない、循環を意識して育てられた国産牛へのこだわり

―メイン料理の薪焼きで使用するお肉は、どのようなものを使っているのでしょうか?

産地訪問をしていく中で、最近ではより循環を意識した育て方をされた牛を使うようにしています。
例えば、先日会った岩手県の中屋敷さんは、循環を考えながらジャージー牛を育てていて、自分達の牛から出た堆肥を自分達のところで発酵させて、牛たちの餌を作る畑に撒き、そこでできた無農薬の草を牛たちが食べる、という循環を成立させています。今後は仔牛用のミルクも自分達のところで搾れたミルクを与えて、自分達で全て循環することを目指しているそうです。
他にも、岩手県・田村牧場の短角牛とか、埼玉県・国分牧場のジャージーやブラウンスイスとか、循環を意識した取り組みや、自然に負担をかけない取り組みをされているのを見て、すごくいいなと思いました。

―お客様からのクチコミで「経産牛の美味しさに感動した」といった内容を多く拝見しました。

先ほど名前をあげた農家さん達は、周りで生まれた雄の乳牛を引き取って育てて肉にしたり、ミルクが出なくなった経産牛を再育して肉にしたりする取り組みも行われていて、うちでもその経産牛のサーロインを使っています。
実際、今の日本のシステムでは、例えば放牧で育てた短角牛を市場に出しても、A4とかA5以外は殆ど値段が付かないのが現状なので、市場には出さずにレストランと直で取引している農家さんが多いんですけど、それだけでは生計が成り立ちません。そこで、ホルスタインも一緒に飼って、ミルクを売ることで生計を立てるという感じで、自分達が続けていくために、本当にやりたい趣味の部分と、商売の部分を両立されています。
そういった取り組みをされている人達の応援もしたいし、自分達も商売をしていく上で、自然に負担をかけないようにしていきたいので、今後はもっと、そんな方々の肉を使っていきたいと思っています。

田窪シェフにとって薪焼きの魅力とは

―田窪シェフにとって薪火焼きの魅力とは何でしょうか?

火の味がするというか、熱を感じるところが、他には無い薪の一番の魅力だと思います。イメージは分厚い焼肉。分厚い肉は本来、焼いて休ませて、中まで火を入れたらちょっと落ち着かせてから切るというのが当たり前です。一方で焼肉は、薄いし強火で焼かれる。肉にとって良いことは何も無いのに美味しいのは、噛んだときの香りとか、肉汁が暴れるとか、そういったものを本能で「旨い」と感じるから。その感じのテンションを分厚い肉でできるのが、薪焼きの醍醐味だと思います。

―焼き方にはどのようなこだわりがあるのでしょうか?

真ん中まで火が通ると肉汁が動き出すので、肉の状態変化と、自分が理想とする周りの香ばしさとのせめぎ合いです。完全に火を入れずに、真ん中から徐々にグラデーションが出るような火入れができると、周りはカリカリしているし、中はレアで肉汁が暴れていないけど、中まで冷たくはない。そうすれば食べたときに口の中で肉汁が躍るんです。

「メイラード反応」と言われる、周りの焼き目の部分が美味しさの一番のポイントで、僕が薪焼きで目指しているのは、厚い肉に薄い焼き色を付けて、メイラード反応の部分を重ねていくこと。要は、端っこにソースをまとわせるようなイメージで焼いています。
ソースは肉の旨みと油脂分と塩で出来るので、サシがちょっと入った肉から染み出てきた脂が焼かれるとカリカリになって、そこに塩をのっけている感じです。最後に肉汁が出てきて、全部が合わさってソースが出来るというイメージです。

―付け合わせの野菜も、薪で焼かれていますよね。

野菜によっては、薪で焼いています。でも、ただ焼けばいいという訳ではなくて薪で焼くことに意味があって、そうじゃないと美味しくならないんですよね。例えば人参は、薪を燃やしている横で2時間くらいかけてじっくり焼いています。
あとは、薪専用に持ち手が長い鉄のフライパンを作ってもらったんですけど、例えば「パドロン」というししとうみたいな野菜は、それを使って薪で焼いても面白いかなと思っています。

“ALL国産食材”から“旅する料理人”まで、まだまだ続く田窪シェフの挑戦

―今後「TACUBO」で挑戦してみたいことや、目標はありますでしょうか?

来年辺りから考えているのは、肉だけじゃなくて、調味料以外は輸入に頼らないで“国産のものしか使わない”というコンセプトでやろうかと。
今まで各地の生産者さんに会ってきたけれど、コロナで全く会えなくなっていたので、もう1回そこから突き詰めたいと思っています。どの生産者さんのところに行っても「日本って、別に輸入に頼らなくても本当はやれるよね」と言いますし、輸入のものはどんどん値段が高くなるので、ちゃんとやっている人達の国産の食材をもっと使った方がいいなと考えています。

今は「おまかせコース」で、1か月のメニューを決めていますけど「おまかせ」なんだから、もっと自由でいいと思っていて。1か月もつ食材を探しがちになっていたけど、それも、もうちょっと考えたいんですよね。旅する料理人じゃないけど、月1回はどこか産地訪問して新しい食材を探し、その輪がどんどん広まって、国内の生産者さんがもっと幸せになれることに自分達が関連できて。それで仕事ができたら一番いいですね。

あとは料理のことではないですけど、熊本の「ヤマチクさん」という会社が作っている使い捨ての竹の箸を、店で使っています。「竹は成長が早くて山を荒らす」と言いますが、竹の箸を使う人がいないと作らないし、竹の箸を作らないと切りに行く人がいないし、仕事として安定していないと若い人が継がなくなる、ということが問題になっていて、そうすると山も荒れていきます。
うちでは毎日約50本、1か月で考えたらそれなりの本数になるので、箸を作る会社も竹を切りに行く人もある程度安定するので、その結果、山や海も綺麗になっていく。そんな循環に少しでも関われたらと思っています。使い捨てと言っても、暖炉の焚き付けのときに使っているので、ここでもある意味、循環ですよね。
やっぱり自分達も続けていくためには、地域貢献とか役に立つことをやった方がいいなと、最近特に考えています。

―薪火焼きで挑戦してみたいことや、使ってみたい食材はありますか?

今はメインと付け合わせだけですが、いつか、全部の料理に薪を使えたらいいですね。2017年にスペインのレストラン「エチェバリ」に行ったんですけど、デザート以外、全部に薪を使っていました。環境も規模も全く違うので、日本で簡単にはできませんが、憧れはあります。
自分用にパスタを薪でやったことがあるんですけど、軽く火の香りが付いて、謎に美味しいんです。今、日本でパスタを薪でやる人って多分いないし、プリミティブな料理を突き詰めるなら、そういうこともやってみたいですね。

食材は、鴨や鳩をいい感じにできたらと思っています。鶏は基本的にはしっかり火を入れないといけない食材ですが、生っぽい状態で食べると実はすごく美味しいんです。弱火や遠火の火入れであればできるんですけど、薪らしさを追求すると僕が目指しているものとは全く違うので、どこまで薪でやる醍醐味を残すかというところが課題です。
僕にはそこがすごく大事で、アツアツで周りをガリっとさせて、かぶりついたら肉汁が躍るというのが理想なので、いつか納得いく形でできるようになったらいいなと思います。
あと挑戦してみたいのは、愛媛やどこか田舎で店をやってみたいとか。やってみたいことはまだまだ尽きません(笑)。

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【プロフィール】
田窪大祐
1976年愛媛県生まれ。
調理師学校を経て愛媛県のイタリア料理店に勤め、上京して「アル・ソリト・ポスト」、「アロマフレスカ」で研鑽を積む。
2007年、広尾に「リストランティーノ バルカ」を開業。10年に恵比寿に移転し、「アーリア ディ タクボ」に店名をあらためる。
16年に恵比寿内で移転し、「TACUBO」としてリニューアルオープン。現在、姉妹店としては他2店舗を持つ。
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イタリア料理

TACUBO

東急東横線 代官山駅 徒歩7分

30,000円〜39,999円

Mika Tsuboi

一休.comの宿泊営業アシスタントから編集部へ。ワインと一緒に、美味しいものを少しずついただくのが最高の幸せ。こぢんまりとしたフレンチやネオビストロがお気に入り。
最近は日本ワインにも興味を持ち、旅先で出会った好みのワインを自宅で愉しむのが日課。パンやスイーツなどにも目がなく、週末にはカフェやパン屋巡りをし日頃の情報収集も欠かさない。
・最近行ったお店:Restaurant Fermier/六雁/Varmen
・好きなお店:広尾 ぺりかん/RESTAURANT MAMA./LATURE
・得意ジャンル:ビストロ
・好きな食材:ジビエ/蛤/伊勢海老/キノコ

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