大阪「capi」小川大喜氏にインタビュー。「素材」×「素材」が生み出す感動体験 

大阪・北新地に新たなイタリアンが誕生し、大阪の美食家達から注目を集めています。
2021年1月にオープンした「capi」は、大阪・高槻で人気を博していた「イル キアーロ」を率いていた小川大喜氏が手掛けるレストラン。
全8席のみのカウンターで繰り広げられるのは、素材らしさを極限まで突き詰めた美しい一皿ばかりです。
今回は、小川氏に料理人になったきっかけから新しいお店や料理に対してのこだわりなど、多岐にわたって伺いました。
※本インタビューは、オンラインにて行いました。

関西イタリアンの重鎮から学んだ素材に対しての考え方

-高校をご卒業後に宮大工になられたそうですが、そこからなぜイタリアンの料理人を目指されたのでしょうか。

父親が料理人として、お店を経営していたことがきっかけだと思います。やはり父親の背中を見て育ってきましたので、自分のお店を持つということに対して漠然と憧れはありました。
しかし、最初から料理人になることは全く考えていませんでした。
高校を卒業した後、何がしたいという明確なものがなくて……元々何かを作ることや美術関係のことが好きだったので、「一度、宮大工として働いてみたら?」という両親の勧めもあり、高校卒業後は京都の社寺建築の工務店へ就職しました。
2年程働いたのですがあまり楽しいと思えず、自分には合わないと感じ、料理の道へ転身しました。

-その後、関西イタリアンを代表する「ラ ムレーナ」の小塚シェフや「ポンテベッキオ」の山根シェフの下で研鑽を積まれていますが、その経緯をお聞かせください。

父親に料理人になりたいと相談した時、「最初はしっかり基礎から学んだ方がいい」と言われたんです。
イタリア料理が一大ブームの時代でもあったので、イタリア料理をやってみたらどうだと、父の知人の紹介で「ラ ムレーナ」の小塚シェフを紹介してもらいました。右も左も分からないまま修業を始め、皿洗いや食材の下処理の方法などを勉強させていただきました。

「ラ ムレーナ」を辞めて次に働くお店を探していたのですが、ちょうどその頃「ポンテベッキオ」がすごく有名で、一度家族で食べに行きたいね、と話していて。
食事に行った際、たまたま山根シェフが「デザートワインでもいかがですか?」と出てこられたんです。
山根シェフは毎日お店にいらっしゃるわけでもなかったので、本当に偶然で。その際に
働けるお店を探している、と話すと「うちに来てみないか」と。そこから「ポンテベッキオ」で働かせていただきました。
「ラ ムレーナ」では、なかなか料理を作らせてもらえないことが多かったのですが、「ポンテベッキオ」では若い料理人にどんどん経験をつませたいという山根シェフの考えから、同同じ世代のスタッフが中心になって料理を作っており、僕もどんどん仕事をさせてもらえました。
約8年間働きましたが、山根シェフには料理はもちろん、料理人としての考え方なども学ばせていただき、すごく尊敬しています。

その後、大阪市内のイタリアンでシェフとして5年間程働きました。働くうちにオーナーとの考え方の違いも出てきて、「それであれば自分でお店をやりたい」と思い、高槻に「イル キアーロ」というお店を立ち上げました。

-山根シェフとの出会いは、とても運命的ですね。山根シェフの下で学ばれたことで、今のご自身に活かされていることは何ですか?

食材の使い方、組み合わせや食材にかける想いという基本的な部分は、山根シェフから教わったことが今でも軸にあると思います。
僕の料理に対しての考え方は、山根シェフの考えを全面的に受けていますね。

料理と真摯に向き合う舞台で繰り広げられる美しい一皿

-人気を博していた高槻の「イル キアーロ」を閉店し、コロナ禍でもある2021年1月、北新地に「capi」をオープンされました。移転に至った経緯をお聞かせください。

「イル キアーロ」を開業した当初はお金もなかったので、店舗にお金をかけることができず、できるだけ費用を抑えた内装のお店でした。
高槻は大阪の中でもベッドタウンで、最初はその土地に合わせた料理を作っていたのですが、時を重ねる毎にどんどんやりたい料理が変わってきたんですね。
良い食材を使おうとすると、当然価格が上がってしまう。その価格の料理を提供するには、お店の設えがアンバランスだと感じるようになってきました。
このままではいけないと思い、「大阪の中心部に出て、お店を仕切り直したい」という想いが強くなったのがきっかけです。
元々移転を決めていたのは2019年だったので、まさかコロナ禍になるとは考えてもいなかったですね。

-店名を「イル キアーロ」から「capi」に改名していますが、どんな想いが込められているのでしょうか?

美術館に行って海外の絵画を見ていると、隅っこの方に蜜蜂が描かれていることに気が付いたんです。何だろうと調べてみると、蜜蜂は昔から「繁栄」や「神の言葉を人々に伝える役割を果たす」など、幸福の象徴であることを知りました。
新しくお店をつくるのにぴったりだと思って、そのあたりから名前を考えたんですが、「蜜蜂」はイタリア語で「api」と言います。
それに同じく、イタリア語で山頂や頂上という意味合いがある「cima」という言葉の頭文字をくっつけて「capi」という店名にしました。

-店内には、シンボルでもある蜜蜂が3つ隠されているそうですね。“見つけたら幸せになれるかも?”という遊び心も素敵です。そんな店内は、カウンター席が8席のみという造りになっています。こちらもこだわりがあるのでしょうか?

「イル キアーロ」は、客席とキッチンがセパレートの造りになっていて、お客様と全く触れ合うことができなかった点が、ずっと引っかかっていました。
お客様と直に触れ合いながら料理ができたらいいなと思い、カウンターという形にしました。後はライブ感を出したいという気持ちもありますね。

-調理の様子を眺めながら料理を待つ時間も楽しそうですね。小川シェフが料理に対して一番大切にされていることはなんですか?

メニューを組み立てるにあたり、旬のお野菜やお魚を使うことを大切にしています。
僕は“素材の美しさを引き出す”と表現しているのですが、美しさというのは素材のすばらしさのこと。できる限り素材らしさを残すということは、常に念頭に置いています。
何を食べているのか分からないような一皿にはしたくないというのは、一番考えていますね。
特に、素材の香りは大切にしています。素材には、塩加減や甘味などがあると思うんですけど、素材そのものの香りがする、しないというだけで、ものすごく印象が変わってきてしまうので、最大限引き出すように心掛けています。
後は料理を作る中で、複雑になり過ぎないこと。季節のお野菜と季節の動物性のお肉やお魚など、「素材」と「素材」を掛け合わせることをコンセプトにしています。

-「素材」×「素材」の掛け合わせで生まれる新たな感覚に、想像するだけでもどんな味になるのか気になります。そんな中でも定番料理のようなものはありますか?

一つは「爆裂魚介」。濃厚な魚介のスープを取り、炊き上げたリゾットをココットに入れて焼き上げているんですが、焼くことによって味と旨味を凝縮しました。
一般的にブイヤベースやスープを取る時は、剥いた海老の皮などを使うんですが、「capi」のスープは、旨味を増すために海老や貝柱を丸々入れているというのが特徴です。

もう一つは、鰻と牛肉のツラミを掛け合わせた「鰻 和牛頬肉」。「イル キアーロ」の時から提供していたメニューなのですが、牛丼屋さんののぼりにあった「うなぎゅう」という文言を見て、自分が作ったらどうなるんだろう、と試したのがきっかけで生まれた一皿です。
全く違うジャンルから組み合わせのインスピレーションを得ることは多く、常にどういった掛け合わせが面白いか、アンテナを張っています。

-小川シェフが生み出す料理は見た目も美しい一皿ばかりですが、どのようなことを心掛けてらっしゃるのでしょうか?

シンプルにしようと考えています。できる限りゴチャゴチャしないように、必要のないものはお皿に盛り込まないように。これは山根シェフから教わったことで、僕も影響を受けています。

「素材×素材」の妙が織りなす感動体験を

-新たな一歩を歩まれた小川シェフですが、料理を通してお客様に伝えたい世界観を教えてください。

僕の料理は「素材」×「素材」で料理を組み立てていますが、その掛け合わせで今までに経験したことのないような味や体験を味わっていただけたらいいな、と思っています。
「こんな合わせ方でこんな味になるんだ!」とか、お客様には“capiの空間や食事を通して幸せな時間を過ごしていただきたい”という想いで日々料理をしています。

-新しい食体験、考えただけでもワクワクしますね。そんな小川シェフの今後の展望をお聞かせください。

やはり素材を追求していきたいと考えています。コロナ禍の影響で、今はあまり全国に飛び回って素材を探すということは出来ていないのですが、今以上にもっと素材を追求し、面白い体験をお客様に提供していけたらと思います。

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【プロフィール】
小川 大喜
京町堀 「ラ ムレーナ」、「ポンテベッキオ」を経て、大阪市内のイタリア料理店でシェフを務める。
2012年、高槻市にて「イル キアーロ」を独立開業。2021年、店名を「capi」に改め、大阪 北新地に移転 。
現在に至る。
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イノベーティブ・フュージョン

capi

JR線 北新地駅 138m

20,000円〜29,999円

<取材後記>
小川シェフのお話を通して、言葉の一つ一つから素材に対してのリスペクトを感じました。
そんなシェフが紡ぐ料理は、シンボルでもある蜜蜂のように訪れる人を幸福なひとときへと誘ってくれることでしょう。
美しさを引き出された素材同士が織りなす驚きと発見の美食体験を、私もぜひ味わってみたいと思いました。

※こちらの記事は2023年04月17日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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