「il Pregio」岩坪滋氏インタビュー。美味しいものを食べ作りたいという、尽きぬ思い

有名店がひしめき合う代々木上原で、安定した人気を誇る「il Pregio(イルプレージョ)」。国内とイタリア各地の名店で修業を積んだ岩坪滋さんのお料理は評判を呼び、2012年のオープンからランチもディナーも多くのお客様で賑わっています。岩坪さんのお料理への思いを伺いながら、その美味しさの秘密をインタビューいたしました。

岩坪家の食育『美味しいものを知っているのは楽しい』

―料理人を志したきっかけを教えてください。

親が食と芸術が好きだったのが大きいですね。小さい頃から本物に触れなさいと、子供の時から苦味のあるものなど、大人が食べるものと同じ料理を食べさせてくれていました。
食べてみて美味しくないと思っても、今そう思うのはいい、でもまた次の機会にもう一度食べてみなさいと言ってくれました。時間をかけて、美味しい料理の魅力を伝えようとしてくれていましたね。父が日曜日の朝から家でくさやを焼いたりして、その匂いで起きたこともありました。(笑)

プラモデルを作るなど工作も好きだったので、高校に入る前に自分の将来を考えた時、自然と「食」+「自分の手で何かを作る」=料理人というイメージが頭に浮かんできました。高校生活を送りながらその気持ちに変化はなかったので、料理学校に進みました。

その料理学校に「リストランテ アクアパッツァ」の日高さんが外部講師としていらっしゃった時があり、とても素敵な授業だったので後日家族でお店へ食事に行きました。その食事の場で、料理学校卒業後に働かせてほしいということを日高さんにお伝えしたところ、研修の後に無事に入社でき料理人としてのキャリアが始まりました。

―修業時代のことを教えてください。

「リストランテ アクアパッツァ」に入社して3年が経ち、日高さんにイタリアに行きたいという話をしたのですが、もう少し実力をつけてからの方がイタリアに行った時に重要なポジションを任せてもらえるからと助言をいただきました。それから3年弱の修業の後に、イタリアに渡り様々なお店で修業を重ねましたが、早い段階で下働きではなくパスタ担当などの重要なポジションを任せてもらうことができました。

ピエモンテ、シチリア、エミリア・ロマーニャ、カンパーニャ、ヴェネト、サルデーニャ、トスカーナと3年間イタリア中を巡り、その地方の料理の良さをなるべく吸収しようと努めました。帰国後はイタリアで知り合ったソムリエの紹介で、「リストランテ カッパス」の料理長に就任しました。

その後「リストランテ カシーナ カナミッラ」にて、小西さんと共にダブルシェフという形で料理長を務めました。小西さんはフレンチの修業も経験されていて、二人で相談したりお互いにアドバイスをしながら料理を作り上げていくのは、とてもよい経験になりました。

人の声に耳を傾け、美味しい料理のために「永遠のアップデート」

―先輩からのアドバイスで、心に残っている言葉を教えてください。

「自分にとっては何万皿作った料理のうちの一つかもしれないが、お客様にとってはこの一皿がすべて。だからすべての料理を全力で作らなければいけない」「自分の親に作るつもりで料理に取り組みなさい」ですね。料理人として、絶対に忘れてはいけない気持ちだと思います。

―料理を作るうえで、留意されていることを教えてください。

若い頃は認められたいという思いから、技巧に走ってしまうことがありました。食材に合った調理法を適切に選ぶというより、派手さを優先して美味しい料理を作るということを疎かにしそうになった時もありました。いつもお客様やスタッフの声にきちんと耳を傾けられる、謙虚な心をもっていられる自分でいたいと思っています。

自分で作った料理はかわいいというかよく見えてしまい、どうしてもひいき目になって美味しくないはずがない、と思ってしまいがちなんですね。そうならないように、主観に溺れてしまうのではなく、客観的に「本当にこの料理は美味しく仕上げられたか」と考えるように気をつけています。

この料理は完璧で、完成したものだと思ってしまったら進歩がなくなってしまうので、今日の料理を明日もっと美味しくできる方法があるのではないかと、いつも考えています。お皿の上で味を変化させることができる、付け合わせやソースとのバランスの取り方で、様々な味わいを感じられる料理を作るのが好きなんです。一つ一つの食材の魅力をきちんと伝えつつも、自分で好みの味を探しながら、美味しいな楽しいなと思っていただけるようなものをご提供して、私自身もお客様と一緒に食事を楽しむことができればと考えています。

もちろんコース料理としての流れは考えていて、緩急がつくように例えばパルマ産生ハムのブロードのような、シンプルでしみじみとした美味しさのメニューを入れたりします。開業当初ご提供していたプリフィクスを止め、おまかせコースのみに絞ったのも、イルプレージョの料理を美味しく楽しんでいただけるようにと考えたためです。

―今後の展望を聞かせてください。

人も店も料理もワインも、永遠のアップデートをこれからもしていきたいです。もっともっと料理がうまくなって、美味しいのは当たり前で、本当に楽しい時間を過ごすことができてよかったと思っていただけるように努力を続けていきます。

美味しいものを食べるのも作るのも大好きで、料理が趣味であり仕事なんですという岩坪さん。お休みの日には様々なジャンルの料理を食べに出かけられているそうです。定期的にイタリアにも足を運び、山の中でトリュフを探した話も聞かせていただきました。一皿一皿美味しさを探す楽しみ、皆様もぜひ体験されてみてはいかがでしょうか。

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岩坪滋 シェフ プロフィール

調理学校を卒業後、「リストランテ アクアパッツァ」の日高良実氏に師事。その後渡欧し、イタリアのピエモンテやシチリア、エミリア・ロマーニャ、カンパーニャなどを巡り研鑽を積む。帰国後、「リストランテ カシーナ カナミッラ」での料理長などを経て、2012年にオーナーシェフとして「イルプレージョ」をオープン。

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イタリア料理

il Pregio

小田急小田原線 代々木上原駅 東口 徒歩6分

15,000円〜19,999円

アクセス
住所: 東京都渋谷区上原1-17-7 フレニティハウス2F

※こちらの記事は2023年04月20日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

橋本 恭一

美味しいお酒とお料理を求め続ける 都内屈指の胃袋&肝臓フル回転系ライター。 和洋中ジャンル問わず、王道の古典料理から イノベーティブ系のお料理にどんなお酒が合うかを ひたすらに追い求めており、食前食後などのバーの 楽しみ方も皆様にお伝えしてまいります。
【MY CHOICE】
・さいきん行ったお店:ナスキロ/サエキ飯店/赤坂 らいもん/鮨 みうら
・好きなお店:レストラン キエチュード/ラ クレリエール/私厨房 勇/トラットリア ダディーニ
・自分の会食で使うなら:くろ﨑/Les Chanterelles/日本料理 晴山/の弥七
・得意ジャンル:フレンチ/イタリアン/バー
・好きな食材:サルミソース/真鱈の白子/生トリ貝

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