「鮨かねさか」金坂真次インタビュー。「銀座の寿司屋はオートクチュールであれ!」

東京・銀座に佇むミシュラン二つ星の名店「鮨かねさか 本店」。国内外の美食家から愛される人気店の店主・金坂真次氏が、プレミアム美食メディア「KIWAMINO」のインタビューに答えてくれました。金坂氏のお寿司やお客様、日本文化への思いを深掘してお届けします。
※本インタビューは、2020年11月9日に感染症対策の上で行いました。

日本への愛を持って伝統を守っていくこと

―日本を代表する寿司屋「鮨かねさか」を率いる金坂さんの、お寿司に対する思いからお聞かせください。

ずっと気になっているのは、寿司を握る人が美味しさとは別のことに力を入れ始めたことですよね。インスタ映えを狙って、お皿からはみ出てしまうくらい大きな海老の寿司を握るなんてことよく耳にします。

でも、それだと本物を知るお客さんには理解してもらえないと思うんですよ。器に盛り付けるのであれば、余裕がなくてはならないのは当たり前だし、皿の縁より外に寿司が出てはいけないことは料理人として基本中の基本なんです。

本物を知らない寿司職人が増えて、知らないからこそできてしまうというのはありますが、そういう盛り付けをするのはその職人の心の状況が目一杯で余裕がないとも考えられるのではないでしょうか。仕事のアウトプットが、職人自身の本音を表しているとも言えるわけです。

結局は、寿司の文化や歴史をしっかり理解したうえでやっているのか?ということだと思うんですよね。決してオリジナリティーを追求することを否定しているのではありません。

寿司が長い歴史の中で紡いできた伝統を理解したうえでなら良いのですが、どうしても本来の寿司とは違うものになってきていると感じてしまうわけです。注目を集めようと、軽い気持ちで新規のアイデアを実現しても、本物を知るお客様からしたら納得できないのではないでしょうか。

―お寿司への熱い思いを感じますね。

寿司以上に、自分は日本に対する思いの強さだと考えています。“日本への愛”といっても良いかもしれません。自分は一人の寿司職人として、日本の素晴らしさを受け継いでいきたいと考えているのです。

唐突かもしれませんが、世界中を見渡しても、日本のような国はどこにもないじゃありませんか。仏教もあればキリスト教もあり、神社もあればお寺だってあります。そういうところって、すごく日本的だと思いますし、今後も守っていくべき伝統です。また、寿司屋で扱う魚介類が育つ海やそれを支える森林・山、広い意味での自然も、日本的なもので失われてはいけないものだと思います。

日本的なものの一つに寿司が含まれていて、それを承継し守っていくことで日本の伝統も守ることができるのではないでしょうか。寿司屋は日本全国の魚介類を扱うので、職人である自分を通してお客様に、日本中の素晴らしい素材を感じ、堪能してもらうことができるわけです。

―そんな金坂さんだからこそ、お寿司への愛、日本への愛が足りていないことに敏感なのかもしれません。

寿司職人にとってのもの作りとは何か?を突き詰めると、それは自分の生き方を寿司一貫に表現することなんです。だからこそ、ちゃんと勉強したうえでやらないといけないと思うんですよ。

歴史や伝統として残っているものって、それぞれにちゃんと意味合いがあるんです。
おめでたい時にいただくお赤飯は、病気が治った時にもう二度と病気にならないようにという思いを込められたものでした。また、小豆で赤に染めるということには、魔よけの意味がありました。寿司屋ですから、巻き寿司も作ります。例えば節分にいただく太巻きにも、使う食材や色にはちゃんとした意味があるんですよ。

職人であるなら、せめてそういうことを勉強し理解したうえで、お客さんから聞かれた時に答えられるくらいにならないといけませんし、それを途切れさせず、後世に残していくことも職人の使命だと思います。

銀座の寿司屋はオートクチュールであれ!

―オープンからちょうど20年が経ち、「鮨かねさか」は多くのエグゼクティブから支持されています。お客様に対する思いもお聞かせください。

若い子たちにもよく言っているのですが、 “いかに目の前のお客さんを喜ばせられるか”を考え抜くということですよね。

寿司屋に限らず、高級店では“おまかせコース”が当たり前ですが、勘違いしてはいけないのが、“お客さんにとってのおまかせ”であるべきということです。お客さんはわざわざ予約しているのだから、寿司職人である我々はお客さんのためのメニューを作らなくてはいけないのです。洋服でいえば、既製品ではなくオートクチュールの服を提案するということですねよね。

今でも日々豊洲市場に通っていますが、予約されたお客さんの顔を思い浮かべながら、その人の一番好きな魚を探すようにしています。そのためにも、お食事されたお客さんが何を召し上がったかは来店日毎に記録しているんです。

一番やってはいけないのが、“お店のおまかせ”をお客さんに押し付けてしまうことですよね。特に銀座という場所を鑑みても、寿司屋はお客様の好みを理解したうえで“お客様にとってのおまかせ”を提供するべきだと思います。

少し話はそれますが、自分は銀座にお店を開いて20年を経て、銀座という土地に育てられた思い強いんです。故に銀座愛というのも人一倍かもしれません。今後も、日本を代表する一等地・銀座ならではの文化も守っていきたいですね。

0.5秒の高級感とエレガントさ

―20年間、生き馬の目を抜く銀座でお店を続けてきたモチベーションをお聞かせください。

「銀座のクラブで働いていると普段会えない人に会える」といわれていますが、銀座で食べ物屋を一生懸命やっていると、色んな分野のトップの方に会えるんですよ。グローバルに活躍する映画監督も政治家も、そっとお忍びで通ってくれています。

そんな一流の方が、自分の仕入れた魚を召し上がって喜んでくれる。しかもその感動を目の前で共有できる。それは本当に嬉しいことです。その度に、地球って結構小さいのだと感じますし、一生懸命やっていれば報われるのだとも実感します。

その一方で、20年経っても毎日が緊張の連続です。オープン前、カウンターに立つと今でも心臓がバクバクします。今日のお魚、設え、サーヴィスは喜んでもらえるのかな?前回以上に愉しんでもらえるのかな?とすごく緊張しますね。

それもあってか、落ち着いて本が読めません。最初の2、3行を過ぎたら、今日明日お越しになるお客様のことばかり考えてしまって、文章が頭に入ってこないのです。

―日々、大きなプレッシャーを受け止めつつ仕事をされているのですね。

ただ、その緊張感がないと美味しい寿司ができないというのも事実ですね。

寿司は調理をするわけではないから、シャリとネタだけで勝負をしますが、職人によって味は変わるんですよ。違いは何かといえば、職人の手から出る“気”一つ。その人の生き方次第で美味しくも、そうでなくもなるのです。

仕入れからカウンターに立って仕事をするまで、一瞬一瞬が勝負だという気概がなければ、握る寿司にも雑味・邪気が混ざってしまいます。でも、寿司職人は皆そうなのではないでしょうか。でなければ、予約制のお店はやめた方が良いと思いますね。

カウンターをはさんでお客さんと対峙するということは、人と人の関係を築いていかなくてはいけません。寿司職人からすれば、人間力を売る商売なんですよね。一貫の寿司を通してどう愉しんでいただくのかを徹底して考える必要があるのです。

だから、寿司を握る時はもちろんお皿に置く際にも、自分は“0.5秒の高級感と0.7秒のエレガントさ” をしっかり意識しています。ただポンと置くだけでなく、そのちょっとした間があると、お客様の印象もぐっと変わります。

20年経っていつまで握り続けるの?とよく聞かれますが、自分の寿司はいつまでも完成しないと思っています。だからまた今日も、カウンターに立ってお客様と向き合うことができますし、何よりそれが愉しい。これからも日本の伝統・文化を勉強し続けて、細部まで創意工夫を怠らず、精進を続けていきたいですね。

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金坂 真次 プロフィール
千葉県出身。野球に没頭した高校時代を経て、寿司職人を志す。銀座の名店で約10年間にわたり腕を磨いた後、2000年に独立し「鮨かねさか」を銀座にオープン。『ミシュランガイド東京』では二つ星を獲得し、国内外の美食家から高い支持を集める知る人ぞ知る人気店に。

編集後記】
質問に対して、何でも率直に語ってくれた金坂さん。インタビューを通して、金坂さんのお寿司やお客様への愛を強く感じました。多くの美食家を魅了してやまない理由は、伝統に裏打ちされた確かなお寿司とサーヴィスにあるのだと実感しました。

銀座 鮨かねさか 本店 http://www.sushi-kanesaka.com/

謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:和田倉、SENSE
・好きなお店:六雁
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

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