「日本料理 龍吟」山本征治に聞く、「料理人として嘘のない本物の世界を作る」

日本はもとより、このお店の料理を求めて世界からグルメが集う「日本料理 龍吟」。KIWAMINOでは、日本屈指の日本料理店を率いる山本征治氏を訪ね、独占インタビューを敢行。「東京ミッドタウン日比谷」への移転にまつわる秘話や、料理人としての原点、「日本料理 龍吟」の料理・おもてなしについて掘り下げて語っていただきました。

「理屈抜きに、料理を作ることが好き」

―料理人を志したきっかけについてお聞かせください。

母親が料理好きだったこともあり、家に帰ると学校での出来事を報告するのはいつも台所。その際、料理の手伝いばかりさせられました。そこで、料理の段取りをどんどん覚えていったのです。次はこの鍋を使うとか、次は醤油を入れるとか。そういった具合に、自然と鍛えられましたね。
ある時、家庭科の授業で習った料理を母に食べさせてあげたいと思い立ちました。母が出掛けている間、貯めたお小遣いを持って近所のスーパーで材料を買い、授業で教わった通りに料理を作りました。帰って来た母が食べると、「美味しい」と言ってすごく喜んでくれたのです。
その瞬間、「ああ、自分は料理でやっていける!」と強く実感しました。それ以来、料理人になることだけを考えるようになりました。

―料理人として、とてもチャレンジングな道を選んできたという印象があります。

そうかもしれません。ただ、「ああ、自分は料理でやっていける!」というのは、「自分は料理なら絶対に辞めない」ことの裏返しでもあったのです。
困難にぶつかると、人は苦労だと捉えがちですが、それを乗り越えればもっと美味しいものができるのだと考える。そうすれば、困難は可能性と同義になります。今日はこのレベルだが、明日になれば新しい発見があるかもしれない。料理であれば、1つの物事を多方面から見られることも性に合っていたのだと思います。理屈抜きに、料理を作ることが好きなのでしょう。

―「料理でやっていける」と実感した瞬間から、独立への道のりは定まっていたのかもしれません。

そうですね。これが良い、あれが良いと他人にどれだけ言われたところで、自分で良いと思わなければ、責任が持てないと考えています。自分が、これだと決めたことに対してあらゆる面から責任を持つ。この考えが、幼い頃から料理人に至る今まで、一貫して自分の根底にあるように思います。

皇居を望む「東京ミッドタウン日比谷」への移転

―お話を伺っていて、屋号である「龍吟」の典拠である「龍吟雲起」を想起しました。独り立ちする山本さんの姿と重なります。

本を読んだり、自分の心に刺さったものを改めて振り返ってみたり。その中で、ぴったりとマッチした言葉が「龍吟雲起」という言葉でしたね。
「日本料理 龍吟」は上皇陛下のお誕生日に合わせて、平成15年12月23日に六本木にオープンしたお店です。開店日を含め、しっかりとした志を持った上でのスタートでしたが、自分のやっていることが本当に正しいかどうかも分からない時でしたから。思えば、本当にゼロからのスタートでした。

―2018年8月には、ここ「東京ミッドタウン日比谷」に移転しました。

皇居を望みながら料理ができるということで、まずはこの立地に心を動かされましたね。
「日本料理 龍吟」は、上皇陛下のお誕生日に開店したお店です。日本料理屋をやっていくのにこれほど良い日は他にないと考え、何が何でもその日にオープンしようと頑張りました。そういう想いがあったからこそ、皇居を望むこの立地で毎日料理を作れるのは、本当にすごいことだと感慨深いものがあります。日本中の善い気がここに集まって、自分はそのお膝元で料理を作れる。勝手ですけど、そういう風にとてもポジティブに捉えています。
移転に当たっては課題もありました。特に大変だったのが、炭火での調理を可能にするダクトの設置です。消防法も関係してくるのですが、設置できるというお返事をデベロッパーの方からいただくまでに、8カ月もかかりました。
そこから、話が進んでいきました。打診をいただいたのが2017年の初頭あたり。実際に移転するまで1年半くらいかかりましたね。

―初めて訪れましたが、内装へのこだわりの強さを改めて感じました。

実はお店の設計・施工者欄の一番上には、私の名前が書かれています。それくらい、私のイメージが細部にまで行き届いた造りになっています。
例えば、壁に用いている素材や、ギャラリーのような器の展示など、どれも私のディレクションによるものです。

特にキッチンについては、自分で平面図を作成したほどです。毎日三角スケールを持って、机に向かっていましたね。前のお店でも改修を行ったことがありましたから、ノウハウは一通り頭の中にありました。

「精神を満たすことが日本料理の役割」

―「日本料理 龍吟」が提供する日本料理についてお聞かせください。

お客様に対して、「日本料理 龍吟」では、「日本の豊かさの象徴としての日本料理」を提供するという想いを込めています。
日本料理屋は、日本料理とは何かという問いに対する答えを持たなくてはなりません。その答えを持っていることが、日本料理屋の前提となります。
そして、日本料理とは何かと問われれば、私は「日本の自然環境の豊かさを料理で表現したもの」という確固たる答えを持っています。これは「日本料理 龍吟」の約束事でもあります。
それゆえに「日本料理 龍吟」は、お客様に対して「日本の豊かさの象徴としての日本料理」を提供できると考えているのです。

―素材を重んじる姿勢にもつながっているのでしょうか。

素材こそがもっとも尊い。人間は素材を作れませんから、当たり前のことです。
では、料理人にできることは何か。私は、素材に対して何ができるのかを考え、調理を通じて素材に語ってもらうことだと考えています。
だから私は、自分の料理の前に立って、何かを述べ・説明することは絶対にしません。言葉は食べられませんし、それは自分の料理を正当化することにつながるからです。
朝、キッチンに入った時、全国から送られてきた素材が並びます。私には、それぞれの素材が発する声が聞こえるような気がするのです。「自分たちがこれまでに蓄えてきた、土のエネルギーや海の豊かさをちゃんと宿した状態で調理しなければ、責任を持ったとは言えないはずだ」という声が。
お客様の視点から見れば、そのエネルギーを受け取って明日への活力にしていくわけです。美味しいものをいただくのではなく、自然のエネルギーを吸収しにお店に足を運ぶ。私はそこに精神というものを見ますし、精神を満たすことが日本料理の役割だとも考えているのです。

ガストロノミーという言葉もありますが、私の解釈で言うと、料理は美味しいという味覚ではなく精神を満たすものなのです。
今季節はちょうど秋頃ですが、松茸やさんま、新米など、旬のものの持つ魅力が、そのまま伝わっているかどうかがとても大切だと考えています。
山や海のエネルギー、豊かさをちゃんと伝えられているか? そうでないと、日本料理を極められているかがあやふやになってしまう。日々自問自答しながら料理に励んでいます。

―先ほど述べられていた、「理屈抜きに、料理を作ることが好き」という部分にも重なりますね。

素材を重んじることは、次世代に何を残していくかを考えなくてはならないということ。希少性に対して価値を置くことを、どうやって伝え、考えていくかも重要な課題です。料理人として、素材に対して悪いことをしたくないという想いも強いですね。ただでさえ、料理は殺生と供養の繰り返しなのですから。

「自分たちの想いに対して、嘘のない本物の世界を作る」

―サービスで工夫されていることはありますか。

変な言い方ですが、お客様のことを思って何かをしようと考えたことはありません。
「日本料理 龍吟」では、自分たちがお店に行った時に、こうしてほしいと思うサービスをするだけ。自分であれば、お店側がこうしてくれたら満足するということを基準にしているのです。
料理と同じなのですが、「自分で良いと思わなければ、責任が持てない」。だから、自分たちが良いと思うことを実践することが、「日本料理 龍吟」流のサービスだと捉えているのです。
ただし、その結果としての点数は、お客様からの評価ですので自分たちではつけられません。しかし、自分たちがされて満足できるレベルのサービスでなければ、100%の力を使っているとは言えないと思っています。ここが、サービスの根本ですね。

―料理からサービスまで、理念が一貫していることを改めて実感しました。

自分たちが納得した「本物」を、お客様に届けることも「日本料理 龍吟」のコンセプトの1つです。
異なる視点からの話になりますが、この数年間は、国内はもちろんですが海外の方々にも「日本料理」の玄関口として認められるために、命を懸けて取り組んできたとも言えます。その要になるものこそが、「本物」というコンセプトです。

例えば、日本の経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」のおよそ5分の1が、料理にも使えるものだと言われています。器など、日本が誇れるものを総結集して、「日本料理 龍吟」が考える「本物」を、お客様に伝えていきたいのです。
料理屋というのは、運営側が想いを伝え、お客様がそれを受け取る場所です。「めであう空間」というか、相互性・互換性を持たない場所だと意味がありません。自分たちがどんなに高級志向のお店だと言っても、お客様が納得しないのであれば成立しませんから。

「自分たちの想いに対して、嘘のない本物の世界を作る」。この軸がぶれなければ、あとは自分たちが決めた理由を明確に伝えていくだけです。

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山本征治氏 プロフィール

1970年香川県生まれ。 四国調理師専門学校(現KISS調理技術専門学校)を卒業後、料亭・ホテルなどを経て2003(平成15年)12月23日に「日本料理 龍吟」を東京・六本木に開店。
2004年11月、スペインのサンセバスチャンの料理学会への参画がきっかけとなり国内海外に対し日本料理の歴史や伝統、自身オリジナルの技術発信にも注力するように。2007年から有名ガイドブックをはじめ国内外から高い評価を獲得し続けてきた。
2012年には香港で「天空 龍吟」を、2014年には台湾で「祥雲 龍吟」をオープン。2018(平成30年)8月「日本料理 龍吟」の舞台を東京ミッドタウン日比谷に移し、「日本の豊かさ、本物の魅力」に触れることのできる日本料理を提供し続けている。

編集後記
「自分たちの想いに対して、嘘のない本物の世界を作る」。日本料理に対する山本征治氏の情熱を垣間見た瞬間でした。先日11月26日には、引き続き3つ星を獲得されたとのこと。「日本料理 龍吟」の料理への注目はまだまだ高まりそうです。

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日本料理 龍吟

東京メトロ千代田・都営地下鉄三田線 日比谷駅 駅直結

50,000円〜

アクセス
住所 東京都千代田区有楽町1-1-2 ミッドタウン日比谷 7F

※こちらの記事は2022年08月02日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:和田倉、SENSE
・好きなお店:六雁
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

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