代々木のイタリアン「Ostu」宮根正人氏インタビュー。永く愛される郷土料理と文化を楽しむ料理を

北イタリアにあるピエモンテ州の郷土料理を、日本で余すところなく楽しみたい。2007年6月に、代々木公園近くの落ち着いたエリアに開業した「Ostu」には、宮根正人さんのお料理を求めて国内のみならず海外からも多くのお客様が訪れます。なぜ宮根さんのお料理は多くの人を虜にするのか、その魅力についてインタビューいたしました。

「作る楽しさ」と「美味しくて嬉しい」、料理は2つの喜びを与えてくれた

―料理人を志したきっかけを教えてください。

両親が共働きだったので、子供の頃から母親が使っていた料理の本を見ながら工作をするような感覚で料理を作り始めました。料理は作るのが楽しいだけでなく、食べると美味しくて嬉しい気持ちにもなれたので、飽きることはありませんでした。

父親が自宅で食事をすることが好きだったので、外食の機会はあまり多くありませんでした。その分給食や家族旅行などで気になる味付けや仕立ての料理を見つけると、家でも外食した時の料理を楽しみたいと思って本を読んだりして、自分なりに探求していくきっかけになりました。

高校時代のアルバイトも当然喫茶店、鮨店、パスタ専門店など、飲食店を選んでいましたね。趣味ではなくて一生の仕事として料理人を志すかどうか、高校を卒業する直前まで悩んでいました。将来は何かしら事業を興し、自分の責任で自分の思うように商売をしたいと思っていたのですが、それが料理でいいのかと。母親からこんなに料理が好きなんだから行ってみたらと、背中を押してもらって料理学校に進むことを決めました。

料理を学びながらアルバイトをして、お金が貯まると仲間と様々な料理店を巡りました。そんな日々の中で出会ったのが代官山の「アントニオ」で、料理を食べて、「ああこれだ、なんて美味しいんだろう!」と思い、その場で料理学校を卒業したら働かせてくださいとお願いしました。

―修業時代のことを教えてください。

苦労も多かったですが料理が好きでしたし、認められる料理人になって自分のお店を絶対に持ちたいと思っていたので、途中で辞めたいと考えたことはありませんでした。いくつかのお店で修業を重ねていく中で、先輩や同期がイタリアへ旅立って行くのを見ていました。いつかは自分もと思っていましたが、26歳の時についに先輩の紹介でイタリアへ渡ることができました。

帰国するまでに、イタリアの料理、そしてワインのことをしっかりと学びたいと思っていました。当時は今のように、インターネットで何でも検索できる時代ではなかったのですが、人づてに情報を集めて訪れたお店の中に、ピエモンテ州・バローロの名店「ロカンダ・ネル・ボルゴ・アンティーコ」がありました。素朴ながら滋味溢れる魅力的な料理とワインに心打たれ、まだ流暢にイタリア語を喋ることもできませんでしたが、ここで働きたいという思いを懸命に伝え、約4年間研鑽を積みました。

イタリア修業で得た貴重な経験「真面目にいいかげんな料理を」

―イタリアでの修業で学んだ、印象的な出来事を教えてください。

手を抜くという意味ではなく、「きっちりやりすぎない」ことですね。例えばパスタを切る時に、日本人はお蕎麦のように正確に狂いなく切ろうとします。イタリアでは多少太かったり細かったりして、その結果茹で加減が硬め柔らかめと揃わなくてもいい、それが味わいにグラデーションを持たせると。「良い加減の、いいかげんさ」というものを彼らは真面目に考えているのです。

それをイタリアの風土と共に学べたのはとても大事なことでした。ただ、雑な仕事だなあと自分の固定観念だけで結論付け、どうしてそうしているのだろうと疑問を持って考えて質問をしていなかったら、私の料理は今とまったく別のものになっていたと思います。

イタリアでは最後に、この国の文化や歴史をもっと心と体で感じておきたいと思って、旅行をしつつパンや肉、チーズの工房をまわったりしながら1年間を過ごして帰国しました。

―帰国後に「Ostu」を開業されますが、開業当初と今で、お料理に変化はありましたか。

イタリアに渡る前、最後に働いていたお店の先輩から、「Ostu」を開業し独立しないかと声を掛けていただきました。開業当初は、今のようにピエモンテの郷土料理を前面に押し出したものではありませんでしたが、「Ostu」がお客様に認知されていく中で、自分のルーツであるピエモンテの料理をしっかりと楽しめるスタイルに変えていきました。たまたまですが、開業の時期に日本で郷土料理ブームがあり、イタリアンへの注目が集まっていたのもよかったのだと思います。

―「Ostu」の楽しみ方を教えてください。

郷土料理は、永く親しまれ続けている料理なので説得力があると思います。イタリア人が、イタリアの文化と歴史の中で育み、愛している料理の魅力を、余すところなく伝えたいと思っています。ピエモンテの風土を感じられる「Ostu」の設えの中で、郷土の料理とワインにじっくりと浸っていただきたいと思っています。「Ostu」に行くからこそ楽しめる料理と寛げる時間があると、お客様に思っていただけたら嬉しいですね。

―接客について留意されていることを教えてください。

親しみやすい接客を心掛けています。一方でスタッフには、一人一人の佇まいや所作が、お客様に不快な印象を与えることがないようにと伝えています。そしてそれを決めるのはお店側ではなく、いつもお客様であるということを忘れないでほしいとも伝えています。

―今後の展望を聞かせてください。

自分の技術だけでなく、イタリア料理を若い世代により広く伝えていきたいと考えています。仲間が長く「Ostu」で働いてくれるのはもちろん嬉しいです。一方で、私のお店をきっかけにしてイタリアに渡って、現地の文化や歴史を学びながら、イタリア料理の素晴らしさを心から理解できる料理人を多く育てていければとも思っています。そして彼らが、日本で自分のお店を開業してくれるようになってほしいと思っています。

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宮根正人 プロフィール
1974年8月31日生まれ。
調理師学校卒業後、「アントニオ」と、「ロニオン」「アルソリトポスト」「イル・ルシェッロ」を経て渡伊。ピエモンテ州・バローロの名店「ロカンダ・ネル・ボルゴ・アンティーコ」などで修業を重ねる。帰国後、2007年に「Ostu」シェフに、2011年8月からオーナーシェフに就任し現在に至る。

編集後記
「Ostu」を開業し、忙しい日々の中でも様々な料理を食べに出掛けたり、イタリアを定期的に訪れている宮根さん。イタリアの蚤の市で奥様と気に入った骨董品を買い集め、帰国の度に「Ostu」の内装を少しずつ模様替えするのも密かな楽しみだそうです。季節を問わず味わいたい、温もりと滋味溢れる宮根さんのピエモンテ郷土料理を皆様もぜひ。

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北イタリア料理

Ostu

東京メトロ千代田線 代々木公園駅 徒歩2分

10,000円〜11,999円

アクセス
住所: 東京都渋谷区代々木5-67-6 代々木松浦ビル1F

※こちらの記事は2023年04月20日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

橋本 恭一

美味しいお酒とお料理を求め続ける 都内屈指の胃袋&肝臓フル回転系ライター。 和洋中ジャンル問わず、王道の古典料理から イノベーティブ系のお料理にどんなお酒が合うかを ひたすらに追い求めており、食前食後などのバーの 楽しみ方も皆様にお伝えしてまいります。
【MY CHOICE】
・さいきん行ったお店:ナスキロ/サエキ飯店/赤坂 らいもん/鮨 みうら
・好きなお店:レストラン キエチュード/ラ クレリエール/私厨房 勇/トラットリア ダディーニ
・自分の会食で使うなら:くろ﨑/Les Chanterelles/日本料理 晴山/の弥七
・得意ジャンル:フレンチ/イタリアン/バー
・好きな食材:サルミソース/真鱈の白子/生トリ貝

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