代々木公園のイタリアン「Ostu」グルメレポ。「定番」なのに「新鮮」な美味を存分に頬張る!

長靴のような形の細長い国土を持つイタリアには、シチリアやトスカーナなど様々な州があり、それぞれの州で特徴的な料理が発達してきました。今回お伺いした「Ostu」では、イタリア北部に位置するピエモンテの名店で修業した宮根正人さんの、食材の持ち味を活かした郷土料理がいただけます。2007年から長く好評を博している宮根さんのお料理の魅力を、皆様にお届けします。

代々木公園の近く、都心の喧騒を忘れるような裏路地を入ったところに「Ostu」はあります。店内はアイボリー調の温かみのある漆喰とイタリアから持ち込んだ調度品で整えられ、気持ちが落ち着く心地よさがあります。

窓からは、四季折々の代々木公園の風景を楽しむこともできます。席に座ると厨房の方から食欲をそそる香りが届き、早速一皿目のお料理が運ばれてきました。

噛み締めるほど、美味しさが口の中に

一皿目は「ラ チスラ ランゲ地方の雑穀と豆、トリッパのミネストローネ」。
ブロードとちりめんキャベツの水分が中心の澄んだスープは、トリッパの臭みがまったくありません。鮮度の良さが食べる前から分かります。少量の豚足が入っており、スープに豊かなコクを与えています。煮込んでから最後にオーブンに入れることでスープの表面が香ばしく焼き上げられ、お皿の下の方にあるトリッパとの食感の違いも楽しめました。

ここで最初の一杯に、アンドレア・アリチの「フランチャコルタ ドサッジョ ゼロ ウノ」を。名前のとおり補糖していないスパークリングワインは、繊細な味わいのミネストローネの邪魔になりません。穏やかな酸味とスッと消えていくミネラル感が、お料理をしっかり引き立ててくれます。

続いては「“ヴィテッロ トンナート” 国産和牛モモ肉の冷製ローストビーフ ツナソース」。一度香ばしく表面を焼き上げた牛モモ肉は、香味野菜と共に鍋に移し、蓋をして蒸し焼きにすることで、しっとりとした仕立てに。ツナソースをつけて口に運ぶと、肉の脂とソースが溶け合うようにまざり、噛み締めるほどに牛肉の美味しさが口の中に広がります。

ソースには、アンチョビのほかに蒸し焼きをした時に使った香味野菜も入っていて一体感が出ており、パンにつけて食べても絶品でした。

合わせるのは、リッチ・カルロ・ダニエーレの「リスペット 2018」。爽やかな柑橘とほのかな樽感のバランスが特徴的な白ワインで、しっかりした酸味がツナソースの旨味を柔らかく受け止めます。ややクリーミーな質感はソースに親和性のある粘度で、飲み応えを感じる後味にお酒もすすみます。

最後の前菜は「カダイフで包んだ自家製バッカラ 白子のムニエル ケッパーバターソース」。今まではジャガイモの千切りをガレットのように仕立てて包んでいたが、どうしても水分が出てくるので、今年からカダイフで包むようにしたとのこと。去年のイタリア訪問中にヒントを得たそうで、塩漬けの鱈の身は熱々でふっくら、カダイフのサクサクとした食感との妙が楽しい一皿です。上に乗っている白子を固形のソースのようにバッカラにつけて食べると、口の中で白子がクリーミーなソースに変化します。白子をソースとすることで、水分でカダイフの食感が失われない見事な工夫です。

イ・カッチャガッリの「ファランギーナ アオリヴォラ 2016」は、しっかりとした辛口の白ワイン。淡麗な塩味が、冬のご馳走である白子のクリーミーさと旨味を、より鮮明に際立たせてくれます。口内がオイリーになりすぎてしまわないように、食中酒としてぴったりなご提案の一杯でした。

いつも新鮮さを感じる、美味しさに敏感な郷土料理

最初のパスタは「タヤリン ヴェネト産サルシッチャのソース」。タヤリンに使われている玉子とバターの香りのよさに、たまらず汁気たっぷりのタヤリンだけを食べると期待を裏切らない美味しさ。対照的にサルシッチャはしっかり煮詰められ水分がないため、凝縮した肉の旨味を堪能できます。
数年前まではよくまぜた状態で提供されていたそうですが、こちらもやはりイタリアでヒントを得て、お客様が単体で食べたりまぜたりを自分で楽しめるようにと変更されたそうです。まぜ合わせると、汁気も丁度よくなります。タヤリンの太さもあえて均一にしておらず、味わいに深みが出ています。

ここで登場するのは、プロデュットリー・デル・バルバレスコの「バルバレスコ リゼルヴァ 1993」。世界中から引き合いがある名生産者の赤ワインですが、ベリーやバラ、スパイスなど複雑で官能的なブーケが力強く広がります。サルシッチャの旨味とも滑らかに呼応し合い、洗練されたタンニンを舌の奥の方で感じる時、思わずため息が出ます。これはゆっくり二皿目のパスタにも合わせていきましょう。

二皿目のパスタ「アニョロッティ デル プリン 3種類のお肉の詰め物」は、牛肉と豚肉と、兎の肉が使われており、硬い肉から火を入れて一体感を出す仕立てになっています。食べてみると、押し返してくるような弾力のある歯応えを感じたあとに、肉汁がスパイシーなセージバターの香りと一緒に流れ込んできます。
バルバレスコも空気に触れてシナモンや白コショウの香りが現れはじめ、鼻を抜ける空気の美味しさに酔ってしまいます。時間をかけて楽しめる美味しいワインと至福のパスタ二皿でした。

メインディッシュは「フィナンツェーラ」。ポレンタの上にあるのは鶏のとさかやレバー、馬の脊髄など様々な内臓を煮込んだもの。トロッとした煮込みはまさにメインディッシュに相応しい味付け。ポレンタと合わせることで味の強さの調節ができ、よく絡めて食べると内臓の脂と乳化して渾然一体とした滋味深い味わいに。口に運ぶ内臓の部位によって味わいにグラデーションが生まれます。食べ方を自分で探せる宮根さんのお料理は、食べる人の数だけ楽しみ方があります。

合わせる赤ワインは、テヌータ・ロッカの「ドルチェット ダルバ ソリ ロッカ 2016」。
どっしりとした濃厚な果実味が、ポレンタとまざり合った内臓とよく合います。とげのない
優しいタンニンが、フィナンツェーラの滋味深さをさらに高め、何度も噛み締めたくなります。

デザートは「トルティーノ ディ ノッチョーラ」。温かいヘーゼルナッツのチョコレートが閉じ込められたトルタで、上質のヘーゼルナッツがふんだんに練り込まれた生地の美味しさと香ばしさは絶品です。冷たいザバイオーネと温かいトルタを行ったり来たりして楽しめます。

プティフールには、ふわっと泡雪のような口溶けの生クリームを挟んだメレンゲ、ヘーゼルナッツのチョコレートとクルミリをエスプレッソと一緒に。心ゆくまでピエモンテの郷土料理を食べ尽くしました。

同じメニューを繰り返し作っていても、たまに見返したり疑ってみたりする。違う考え方で物事を見ると、もっと美味しくなったりすることもある。だから料理には飽きを感じることがなく、いつも自分に新しい面白さや驚きを与えてくれるのですという宮根さんのお話が印象的でした。

「Ostu」のお料理とお酒は、どのお客様にも美味しさを思う存分に楽しんでいただきたいという思いで満ち溢れています。思わず笑顔になる宮根さんのおもてなしを、ぜひ皆様もご堪能くださいませ。

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北イタリア料理

Ostu

東京メトロ千代田線 代々木公園駅 徒歩2分

10,000円〜11,999円

アクセス
住所: 東京都渋谷区代々木5-67-6 代々木松浦ビル1F

※こちらの記事は2023年04月20日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

橋本 恭一

美味しいお酒とお料理を求め続ける 都内屈指の胃袋&肝臓フル回転系ライター。 和洋中ジャンル問わず、王道の古典料理から イノベーティブ系のお料理にどんなお酒が合うかを ひたすらに追い求めており、食前食後などのバーの 楽しみ方も皆様にお伝えしてまいります。
【MY CHOICE】
・さいきん行ったお店:ナスキロ/サエキ飯店/赤坂 らいもん/鮨 みうら
・好きなお店:レストラン キエチュード/ラ クレリエール/私厨房 勇/トラットリア ダディーニ
・自分の会食で使うなら:くろ﨑/Les Chanterelles/日本料理 晴山/の弥七
・得意ジャンル:フレンチ/イタリアン/バー
・好きな食材:サルミソース/真鱈の白子/生トリ貝

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