インタビュー|

「ピエール・ガニェール」エグゼクティブシェフ・赤坂 洋介氏に聞く、東京で表現する「ガニェールの精神」

世界中の美食家を虜にしているピエール・ガニェール氏。‟料理界のピカソ“との呼び名を持つ彼の東京店「ピエール・ガニェール」では、一人の日本人シェフが右腕として厨房を任されています。エグゼクティブシェフ・赤坂 洋介氏に、日本で表現するフランス料理の美と、超一流の店が組み立てるおもてなしの美についてお伺いしました。

「料理で人を喜ばせたい」気持ちから始まった料理人人生

―赤坂シェフは長年ピエール・ガニェール氏の右腕として、現在は東京の「ピエール・ガニェール」にて腕を振るっていらっしゃいますが、最初に料理人を志したきっかけは?

小さい頃から、「人を喜ばせる」ことが好きで。高校時代には友達を家に呼び、料理を作ってもてなし、喜んでもらうのが好きでした。
また、昔から食の喜びを感じることが多かったですね。土日は、普段仕事が忙しい父や祖父母も一緒に、家族で食事に行くことが楽しみでした。家ではない他の空間で料理が出てきて食べることに喜びを感じ、これを職業にしたら面白いのかな、と。

専門学校では、和・洋・中・製菓・マーケティングなどを学ぶ中で、料理の世界の面白さを知りました。特にフランス料理は、こんな世界があるのか、と強く惹かれました。
今まで行ったレストランとは全然違う料理、違うお皿が出てくる。プレゼンテーションも味もすべてが違う新しいものに見え、興味を持ちました。
卒業後、学生時代からアルバイトしていた結婚式場の厨房に入りました。そこでは、宴席用のフランス料理を一度に100人~200人分作っていて、洋食だけで40人程料理人がいました。今のレストランよりも大きな厨房で、お魚場、肉場、コールド場、ホット場といった分業制で、やることも限られる。楽しかったし覚えることは沢山ありましたが、フランス料理を続けるなら一から全て自分で作りたい、本当のフランス料理のベースをフランスで学びたいと思いました。
卒業して約10か月働いて、フランスに行きました。

―フランスでは、地方の名店をご経験されたそうですね。

最初はブザンソンの山奥にある一つ星のシャトーレストランでした。非常にクラシックな料理で、ベースからきちんと全て作っていて。
羊は丸々一頭、ジビエも毛のついたままで届くので、すべて自分たちで下処理をしていました。スモークサーモンもベーコンも自家製。ハーブは自家農園で育て、牛乳はチーズ屋さんに取りに行って、低温殺菌していないので殺菌するなど。食材について一杯学べたことが本当に幸せで、ものの大切さ、食材の大切さ、育てる人の気持ちを学びました。
自分はそこでフランス料理の基礎を学んだと思っています。基礎を見ることで料理をより大きく捉えられ、キャパシティが広がりました。

2年程働いてから、シェフのご紹介でアルザスの「オ・クロコディール」という三つ星レストランで1年程働きました。アルザス地方の特徴的な料理を作りつつ、グランメゾンながらの綺麗で華やかな料理を作っていました。ベースのクラシックを大事にしつつ、地方の特徴を活かし、郷土料理をいかにガストロノミーにつなげるかに取り組むレストランでした。シェフも有名な方で、感性を学ばせていただきました。その後、紹介でガニェール氏のところに行きました。

お客様と会話する「料理以上の料理」を作るのがガニェール

―ガニェール氏の料理について、当時はどんな印象でしたか?

当時から有名店でしたが、最初は彼がどういう考えで料理を作っているのか全く分からず、理解できていませんでした。一緒に働き、彼の料理を見ていく中で、お皿の上で彼らしい表現をする料理に魅了されました。つまり、人にはない、彼にしかできない料理を作るのがピエール・ガニェールなのです。

彼の料理は、レシピだけでは成り立たない、レシピ以上の料理の世界があります。良い食材、素晴らしいテクニック、華やかなプレゼンテーションというのが、皆さんが想像する高級料理だと思いますが、彼の料理はそれ以上。その結果、彼は料理を通じてお客様と会話する。お客様同士も料理を通じてつながり、非日常的な空間を感じられる。そんな世界を作れるのが、彼の料理の魅力ですね。

―料理を通じてお客様と会話するという、ピエール・ガニェール氏の料理を理解するまでには、どれくらいの時間がかかったのでしょうか。

16年以上彼のもとで仕事をしてきて、最近ですね。ガニェール氏の料理は、料理人の腕とセンスが求められます。レシピには食材や調味料が何グラムということが書かれていますが、そこだけではないギリギリのさじ加減が非常に難しいですね。

―パリと東京では食材も環境も条件も異なる中で、どのように「ピエール・ガニェール」の世界を表現しているのでしょうか。

日本は独特の良い食材が沢山あり、特に海産物は世界でも最高峰の食材が集まる国です。子供のころから慣れ親しんだ日本の食材の魅力をフランス料理の技法で調理するのは、私にとってはそこまで難しくないので、日本ならではのより面白い料理ができるのではないかと思っています。
気をつけなければいけないのが、日本の食材を使っても「日本の味付け」にしないこと。出汁や醤油でカルパッチョを作れば絶対美味しいですが、ここはフランス料理のレストラン。フランス料理のエスプリをお客様に伝える店なので、私はそういう料理はしないですね。

また、ピエール・ガニェールの哲学があるので、絶対どこかのコピーはしません。料理を作るうえで、周りの世間の動向や流れを気にするのは当たり前ですが、私たちはガニェールの哲学の中で成長し、新しいものを求め、変化していく。それがこの店のコンセプトです。

―お客様に伝える良い食材をお出しするために、されていらっしゃることはありますか?

視察はよく行きますね。この前も福島に天然の炭酸水を見に行きました。現場に行くと、色々なものに出会えますね。この時も蕪があって、根セロリの小さいものみたいな感じですが、すごく味が濃くて美味しかったですね。
また、素晴らしい業者が沢山いるので、常に「何かない?」と聞き、どんどん探してもらい、取り入れています。
新しい食材がくると、料理の幅が広がるのでアンテナを張り巡らしていますね。

お客様との対話を最重視する「ピエール・ガニェール」流のおもてなし

―お客様と料理でコミュニケーションすることを重視しているということで、より楽しんでいただくために、どのようなことを大事にされていますか?

予約を受けた時点から、おもてなしは始まっているため、どういう理由でのご利用か情報を伺って、サービスしています。ビジネスシーンやデートもあれば、結婚記念日やサプライズなど、色々な情報をいただける方がこちらも嬉しいですね。
厨房にはアレルギーの有無や料理の好みの情報がリストアップされています。

また、メニューを選ぶ手助けもサービスの仕事で、個々のテーブルに寄り添うのがおもてなしだと思います。
ビジネスであれば、時間が決められた会食に適したメニューをご提案したり、婚約記念日やプロポーズの利用なら、逆にゆっくりできるようご提案します。お客様一人一人の情報を把握して、シチュエーションに合わせていきたいなと。

―テーブル数が多いと、それぞれ対応するのが大変じゃないですか。

大変な分、スタッフ同士のコミュニケーションやチームワークが大事ですね。オープン前のブリーフィングには私も入ります。そこでアレルギー情報や、誕生日のプレートや花束、ケーキをどのタイミングで出すというミーティングをしています。

―「ピエール・ガニェール」で料理を作られていく中で、挑戦していきたいことは?

まずは来年で10年を迎えるこのレストランを継続していくことですね。10年続けていくのは本当に大変なこと。ホテルを始め、チームや関係各社、そしてお客様のおかげです。
また皆様から良い評価をいただくことで、スタッフのモチベーションがあがることも大事ですね。良いレストランは信頼関係があってこそで、より密に、強力なものにして、より良いチームを作っていきたいです。

料理は、去年の自分より今の自分と常に考えて新しいものを生み出していきたいです。
時代が変われば、料理も変わり、自分が変われば、料理も変わる。今の自分が今の食材を使ってお客様にどう伝え、どう喜ばせたいか、その感覚を大事にしたいですね。

師匠・ピエール・ガニェール氏の系譜を通し、人を楽しませ、喜ばせる料理を追求したい、という赤坂シェフの強い信念。華やかで見目麗しい料理を支える骨太で芯があるシェフの言葉に、フランス料理の哲学に対する敬愛と、楽しい料理の世界へ導くための情熱を感じました。

—プロフィール—
赤坂 洋介
1979年、千葉県出身。
1999年、調理師専門学校を卒業後、渡仏。4年間にわたりフランスで腕を磨く。
2003年からパリの「ピエール・ガニェール」で修業。
2005年、東京・青山の「ピエール・ガニェール・ア・東京」オープンを機に帰国。
2010年3月、ANAインターコンチネンタルホテル東京でのレストランオープンに伴い、アシスタントシェフとしてキッチンを取りまとめる。
2011年6月にエグゼクティブシェフに就任し、現在に至る。
ガニェール氏の下で約16年間従事し、氏のスピリットと感性をしっかりと受け継いでいる。ひと皿に込めたストーリーを語る情熱的な姿は芸術家さながらである。

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フランス料理

ピエール・ガニェール/ANAインターコンチネンタルホテル東京

地下鉄銀座線 溜池山王駅 13番出口より徒歩1分(溜池山王駅より約5分)

20,000円〜

アクセス
住所: 東京都港区赤坂1-12-33 ANAインターコンチネンタルホテル東京36F

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。若手の焼き物作家さんの作品を見に旅するのが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:La Barrique Tokyo / 実伶 / レストラン・モリエール
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / 福しま / エクアトゥール
・自分の会食で使うなら:六雁 / 中国飯店 富麗華 / ル スプートニク
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: 鯖寿司にはまり中

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