2024年8月、木場駅から徒歩2分ほどの場所に新規開業した「Chinese Restaurant 晴華」。店主・大胡晴雄氏は「東京チャイニーズ 一凛」や「TexturA」などの名店で料理長を務め、中国料理人として長年のキャリアを積まれた実力者です。今回「KIWAMINO」では、大胡氏にインタビューを実施。料理人としてのこれまでや、新店開業の経緯、料理へのこだわりなど多岐に渡って伺いました。
食べ手の笑顔を見たいという思いから始まった料理への道
―大胡氏が料理人を目指されたきっかけ、中でも中華の道に進まれた経緯をお聞かせください。
両親が共働きだったこともあり、子供の頃から自分で料理を作る環境で育ちました。家に友達が来れば自分が作った料理を食べてもらうこともあり、そういうところから料理することへの楽しさが生まれましたね。中華の道に進んだきっかけは、中華は高級店から安価なお店まで幅広いので、身近な存在だったという部分が大きいと思います。高校卒業後は調理専門学校に進み、その後は様々なお店で12年以上にわたり中華の料理人として働いていました。
―その後「東京チャイニーズ 一凛」「TexturA」では料理長を務められるなど経験を積まれていらっしゃいますが、今に活かされていることや特に印象に残っている経験についてお聞かせいただけますか?
「東京チャイニーズ 一凛」は今でこそ人気店になりましたが、僕が入社した頃はお客様に全く認知されていなかったので、最初は集客に本当に苦戦しました。提供する料理もアラカルトが中心で、今のようなコーススタイルではありません。当時は齋藤宏文シェフ(現:「イチリンハナレ」のオーナーシェフ)と、もう1名ホールスタッフの3名体制でしたが、斎藤シェフと一緒に週3、4回はお店で寝泊りしていました。
―お客様がいらっしゃらないのに、お店に寝泊りするというのはどういう状況なのでしょうか?
なかなか客足は伸びませんでしたが、1度食べてもらえたら美味しいと分かってもらえると信じていました。そこで営業中は、お客様との会話に集中して、仕込みは一切やらないようにしたんです。カウンターでしたし、営業中はお客様に話しかけ、全力で料理への思いを説明したりしていました。そのため必然的に、営業前の朝、午後のアイドルタイム、営業後の夜は仕込みの時間になります。結果的に週3、4日はお店に泊まるということに(笑)。料理やお店について、自分がどういう人間かを全力で伝えているうちに、段々と食べログなどの口コミでも話題になり、お客様が付いてきてくださるようになりました。
―「東京チャイニーズ 一凛」では、全力でお客様に向き合うことで、お店の魅力を理解してもらうことができたのですね。その後「TexturA」に移られていますが、そこではどんなことが印象に残っていらっしゃいますか?
「TexturA」は、中華とスパニッシュのイメージが強いと思いますが、その2つと同じくらいデザートにも力を入れています。そのためお店のスタッフも中華担当が2名、スパニッシュ担当が2名、パティシエが2名という体制でした。僕自身は、中華しかやってこなかったので、スパニッシュやデザートの知識など幅広く料理の知見を広げられたのが良かったですね。ただその一方で大変な点もありました。中華、スパニッシュ、デザートそれぞれのバランスを取ってコースを作るというのは非常にチャンレンジングでした。みんな料理人ですし、自分の作りたい料理もあります。ただそれぞれのジャンルがただやりたい料理を作ったら、コースとしてはまとまらなくなってしまうんですよね。
そこで、料理長という立場として、僕が1番大切にしたのはチームワークです。日常会話の中でなんでも話せるような関係作りをして、料理の構成などを気軽に話せるチームを目指しました。というのも、営業が終わった後にミーティングとなると、帰る時間は終電になります。日々そのような生活ですとメンバーも疲弊してしまい、精神的にも体力的にも持たなくなってしまいますので。休みの日に食べに行ったりする時もただ食べるだけではなく、うちの料理へどう取り入れていくのか、その場で構成まで話し合うなど、時間の使い方も気を付けていました。チームワークが良くなると、お互いの思いやりも生まれますし、メンバー同士が笑顔だと、お客様にも楽しそうに働いているのが伝わるので良い循環が生まれていたと思います。
カウンタースタイルで提供する、和と中華の融合を楽しむ中華料理とは
―その後、2024年に満を持して「Chinese Restaurant 晴華」を開業されました。そこに至った背景をお聞かせください。
「東京チャイニーズ 一凛」でのカウンタースタイルの経験が独立をしたいと思うきっかけです。それまでは中国料理って裏で働いているイメージで、お客様とは直接話さず黙々と料理を作る環境でした。それがカウンター席ですと、良いことも悪いこともダイレクトにお客様から伝えてもらえるんですよね。「このスタイルなら自分でもチャレンジできるかも」と独立を考えるようになりました。
―この場所を選ばれた理由はございますか?
「TexturA」を退職してからの約2年間で200軒くらいの物件を見て、ここに決めました。ずっと江東区や中央区で探していたんですが、なかなか良い物件が見つからず……。ここは2階ですが窓が大きくて開放感があるところに魅力を感じました。お店全体に光が入って明るいんですが、直射日光が入らないのでブラインドをしなくていいのが更に良いなと。あと木場の静かな雰囲気も気に入っています。
―お店のコンセプトやお客様に体験して欲しい食体験について教えてください。
料理は、“中華と和”の融合をテーマにしています。ただ、ゆくゆくは和食以外も取り入れていきたいので、これから変化していくところもあるかと思います。中華と様々な料理ジャンルを掛け合わせていけたらと思っています。和をコンセプトにするにあたり、醤油にこだわりました。ヤマサ醤油に鰹節と昆布、そこに干椎茸を入れて3週間ぐらい寝かしたものを使っています。その特製醬油をベースにして、全ての料理を作っています。
―食材に関してはどんなこだわりがございますか?
お肉に関しては「くるみとん」という、宮崎県・都城市にて家族で畜産をされている「なかつファーム」の豚肉を使用しています。「東京チャイニーズ 一凛」「TexturA」でご愛顧いただいていた「カツサンド」は、うちでもテイクアウトとしてお出ししたいなと思いました。ただ、テイクアウトの商品は自分の手から離れて時間が経ってから食べられることが多いです。そのため時間が経っても美味しく食べてもらえるようなお肉を使いたいなと思い、お肉選びにはこだわりました。脂身も甘くて、時間が経っても固くならない「くるみとん」は、「カツサンド」にぴったりですね。
「くるみとん」は、他にも餃子などにも利用しています。豚肉の人気部位と言えば、ロース、肩ロース、豚バラなどがありますが、それ以外の部位が余ってしまっては、ロスにもなりますし、他の部分は挽肉にしていただいています。特定の部位にだけ需要が偏ってしまうと生産者側も大変だと思うので、そこは持ちつ持たれつの関係性で協力しあいたいですね。将来的には、内臓や豚足なども料理に活用して、幅を広げていきたいと構想中です。
―コ―スに関しては、敢えてシェアスタイルにしているところにもこだわりがあるのでしょうか?
最近は、一人一皿提供がスタンダードになってきていると思うんですけど、僕はみんなで取り合いするような円卓スタイルが好きなんです。このお店のキャパシティ的に円卓は置けないですが、少しでもその雰囲気を味わってもらいたいなと思って、ものによりますがシェアスタイルを取り入れています。
―これだけは味わって欲しい逸品についてお聞かせください。
「よだれ鶏」に関しては「東京チャイニーズ 一凛」や「TexturA」でも大好評だった人気の料理です。それを楽しみに来てくださっているお客様も多いので、お出ししています。ただ、使っている醤油は違います。メニュー名だけ見ると、同じ「よだれ鶏」なんですけども、旨味を足しているので味わいは変わります。今までと同じ料理だとつまらないですし、定番料理にも自分らしさを取り入れていきたいなと思っています。
同時に、徐々にこのお店らしさを際立てていきたいので、少しずつ料理の内容も変えていきたいなと思っています。例えば夏の季節はうなぎを使った料理を出していました。「うなぎの唐辛子炒め」という料理なんですが、揚げたうなぎを唐辛子や野菜と一緒に炒め、それを特製の醤油を使った大和芋のソースにつけながら食べる料理です。中華ですが和のエッセンスを盛り込んだ一品に仕上げました。
秋は「イワ姫サーモンの蒸し物」をお出しする予定です。岩姫サーモンを使った中華風の蒸し物なんですが、和を取り入れるために塩麹を使っています。塩麹は塩味が強いので、薄めた塩麹に一晩漬けて、蒸します。岩姫サーモンはスーパーで売っているサーモンみたいに脂の量が多くなく、程よく脂がのっているのが良いんです。蒸すとふっくら柔らかく仕上がります。
麻婆豆腐には和牛を使っています。麻婆豆腐って本来豆腐がメインで、お肉が少ししか入っていないイメージだと思います。僕の麻婆豆腐は、和食で言うと肉豆腐をイメージして、豆腐とお肉の量を同じくらいの割合を目指しました。お肉の大きさにもこだわっています。できる限り大きくしたかったので、最大限大きく挽いてもらって8ミリくらいにしています。肉感もしっかり感じてもらえたら嬉しいです。
環境を整えつつ、どんどん自分らしい料理・お店づくりに挑戦していきたい
―現在挑戦されていることや今後取り組んでみたいことについてお聞かせください。
やりたいことはたくさんあります。料理に関しては、どんどん新しいものを作っていきたいです。ただオープンをして2か月ほど経ちましたが、調理スタッフは自分のみですし、ホールスタッフの育成も必要な状況です。お客様からの認知も拡大していかないといけない状況ですので、まだまだ実現できていないことがいっぱいです。オープンしてからは時間が取れずにまだ生産者さんのところに伺えてなかったので、そういった生産者さんを訪ねて食材への理解も深めたいですね。
僕にとっては、来店してくださるお客様が笑顔になってくださることが1番大切です。今後もお店に来てくださるお客様に向けて発信を続けていきたいなと思います。
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大胡晴雄氏 プロフィール
1981年生まれ
中華の道を志し、様々な店舗で約12年にわたり研鑽を積む。その後、東京を中心に飲食店を展開する「株式会社ウェイブズ」に入社。新富町「東京チャイニーズ 一凛」、日比谷「TexturA」にて料理長を務める。2024年8月「Chinese Restaurant 晴華」を開業。
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【編集後記】
「東京チャイニーズ 一凛」や「TexturA」などの名店で料理長を務め、料理人歴24年以上という経歴を持つ大胡氏。その根底にある、お客様が喜んでいる姿が見たいという氏の気持ちがひしひしと伝わってきました。お客様を満足させるために「自分らしさを取り入れた新しいものを提供したい」と試行錯誤を重ね、磨かれていく料理の数々。木場でしか味わえない大胡氏の料理の数々をぜひ食べてみたくなりました。
※こちらの記事は2024年12月05日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。