インタビュー|

大阪「鮨 三心」石渕佳隆氏インタビュー。決意を原動力に進化を続ける大将の想い

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大阪の中心部にありながらも程良い落ち着きのある、谷町五丁目に店を構える「鮨 三心」。今や全国から足を運ぶお客様も後を絶たない人気店です。
店主の石渕佳隆(いしぶちよしたか)氏は、子供の頃から寿司屋を志し、地元熊本や大阪で約20年の修行を経て、2016年11月に「鮨 三心」を開業。
今回「KIWAMINO」では、オープン5周年を目前に、日々進化を続ける大将・石渕氏の想いや、これからの「鮨 三心」について伺いました。

※本インタビューは、2021年8月30日に感染症対策の上で行いました。

1.父の何気ない一言から志した寿司職人への道

-まず、お寿司屋さんを志したきっかけについてお聞かせください。

小学生の頃に両親が離婚して、父と会うのは年に数回でした。10歳ごろの時に、父と近所の寿司屋で食事をしていたら「うちの子の中の誰かが料理人になってこうゆう店をもってくれたら、俺は毎日来れるのにな」と、独り言のようにつぶやいたんです。離れて暮らしていた父を喜ばせたい気持ちみたいなものがどこかにあって、「その夢を俺が叶えたげたいな」と思ったのが最初のきっかけです。今となって思うと、あれはきっと父の導きだったのかなと感じております。

-修業先として、大阪を選んだのは何故でしょうか?

東京より近いから、という程度だったと思います。ただ、当時学生の頃は親に迷惑ばかりをかけ、周りに甘えた日々を過ごしていたので、すぐには帰れない、親の手が届かない、知り合いが一人もいないところにまずは行ってみようと決めました。
「決めて、やって、成し遂げて」という一連の流れというか考え方みたいなものが自分のなかで確立されたのもこの頃からです。今でも、どんな小さなことでもまず決めることから始めています。

-寿司屋のみならず、和食・洋食など様々な店で約20年修業を積まれたそうですが、現在のご自身に特に影響を与えたエピソードを教えてください。

一番大きいのは、父親が亡くなって、24歳の頃に一身上の都合で料理を辞めなければいけなくなってしまったことです。料理をしたいのに、料理の世界で生きていけなくなってしまったので、料理への想いや、周りに置いて行かれる焦りを強く感じました。

その後、30歳頃から大阪の「寿司たいすけ」さんで働くことになり、ようやく自分が目指していた寿司の世界に戻ることができました。そこからの9年間は今までとは意識が全然違って、人の20~30年分くらい働きました。料理人を目指す者が当たり前に毎日料理をできることは、とても幸せで特別なことなんだと感じました。同年代の人たちが独立していく中で自分はまた下積みから始めて、悔しい思いはありましたが、その分良い経験ができたと思います。

少し特殊ですが、親方は前のお店の兄弟子で、実は年齢は同い年なんです。なので「親方」といっても、普通の親方・弟子の関係とは違う、もっと深い関係だと思います。料理のことで熱く語って喧嘩をすることもあり、一緒に戦ってきた戦友のような、今も仲良くさせてもらっている特別な存在です。独立に向けて親方はすごく応援してくれて、店をやるための色々なことを積極的に経験させてくれました。

2.約20年の修業を経て、想いが詰まった念願の自分のお店をオープン

-お店を始める前からこの場所に思い入れがあったようですが、どんなところに魅力を感じられたのでしょうか?

修業時代は大阪の繁華街のミナミで働いていましたが、食事が一番の目的ではない同伴やアフターのお客様が大半でした。ちゃんと食事を楽しんでくれるお客様が来る場所でやりたかったですし、わざわざ来るような場所にお店を作りたいという想いがありました。

この建物は古い長屋が数件並ぶうちの1つで、ここの場所も有名な蕎麦屋さんが入っていました。修業時代のある日の夜に近くを通ったら、人も歩いていないような静かな住宅街にぽつりと暖かい灯りのこのお店を見つけました。表から覗くとたくさんのお客様で賑わっていて、そのお店が発するオーラに鳥肌が立ったのを覚えています。「いつかお店をやるときは、こうゆう場所でやりたい」と思いました。

それから何年も経ち実際に物件を探している中でたまたま前を通って、たまたま「テナント募集」の張り紙を見つけたときは、あの時以上の鳥肌が立ちました。年に一度も通らない小さな路地に足がふと向いたのも運命というかなにかの導きなのかなと思えるような不思議な出来事でした。

3.主役である「寿司」を一番輝かせてくれる空間へのこだわり

-まさに運命的ですね!念願叶ってオープンしたお店とのことで、設えにもたくさんのこだわりがあるかと思います。

同郷・熊本出身の設計士、間工作舎の小笠原絵里先生に設計していただいたんですが、実は最初は忙しくて断られてしまったんです。でも、断りのメールから人柄を感じられるくらい素敵な方だったので諦め切れず、「この人にお願いしたい」という気持ちがより強くなりました。
次の休みの日に事務所まで押しかけ、想いを伝えさせてもらって、雑誌の切り抜きや自分で描いた設計図などをまとめた自作のファイルを見せて2時間くらい熱く想いを語っているうちに、「石渕さんの話を聞いていたら作りたくなってきた」と、受けてもらうことができました。

「これにはこうゆう理由がある」とはっきりと言えるお店にしたいと思っていました。寿司が一番格好よく見えることが大事で、他はそれを引き立てるもの。

設計士さんにはイメージを伝えただけでしたが、完成した店は全部それが叶っていたので、本当に驚きました。最初に設計士さんを見つけたときに自分が感じたことは間違っていなかったなと。店を造ってくれた人たちの本気に負けないように、美味しいものを作っていい店にしようという想いが強くなりました。

-石渕さんの想いが設計士さんに伝わったんですね。特に気に入っている場所はどちらでしょう?

店内に光が入る感じです。お寿司屋さんは戦後一時、表向きに営業できない時期があったそうで、名残で今も閉鎖的な造りの店が多く、自然光が入る店はあまり無いと思います。夜営業から昼営業に変えて初めて気付きましたが、自然光が入る空間で寿司を食べることがこんなにも気持ちいいんだと。そこが一番気に入っています。設計士さんも最初から昼営業のことを考えてくれていたのかな?と思うくらいです。昼営業にして、より店の良さが際立ちました。

お客様全員から外の桜が見えるように、カウンターは少し斜めになっていて、一番奥の席の方が体を反らさなくていいようになっています。ひとつひとつにちゃんと理由があることが、いいなと思います。

4.今までを当たり前と思わずに進化を続ける「鮨 三心」の料理

-「シャリも絶品」とのクチコミを数多く拝見しました。2020年6月から米作りを始められたそうですが、シャリへのこだわりを教えてください。

寿司は伝統を守る美学が強く、昔から変わっていないことも多いです。だからこそ、まだまだやれることがあるのではと思い、寿司の半分を占めるシャリを一度掘り下げてみようと思いました。

今まで、米の種類、洗米、浸水方法、炊き方、釜、酢と色々なものを変えて、理想のシャリを追い求めてきましたが、米を作るという選択肢に辿り着いたのは、お米屋さんからの提案でした。それも「同じ想いを持った生産者と三つ巴で作ろう」ということ。お米屋さんはお米をブレンドして持ってくる立場、僕は料理に繋げる立場であって、二者だけでは限界があるので、想いを持った生産者が加わればもっと良いものができるという話になり、米作りを決意しました。上手く出来るかはわかりませんでしたが、やらなければ始まらないですからね。同じ想いを持つ農家さんに出会うことが出来て、2020年から「三心米」を作り始めました。

-シャリを掘り下げられた結果、米作りに辿り着くという発想がさすがですね!米作りもとても奥深いかと思いますが、どのような目標をお持ちでしょうか?

「100%三心米」を目指しているのではなく、「一番美味しいシャリ」がゴールです。今年の6月から、昨年収穫した米を全体の3割だけ混ぜて使っています。実はもう1種類作ってもらっているので、またそれが出来たら比率を変えながら、これからも理想のシャリを目指していきたいです。

-料理をする上で、特に大事にされていることはありますか?

「これにはこうゆう理由がある」ということを基本に、どこまで進化できるかを日々考えています。
先ほども言いましたが、寿司は他の料理と違って、あれこれやらない美学というものがあります。その美学が故に先に進めていないのも一理あると思います。
まだ誰も気づいていない、誰も考えたこともないような事だってあるのではないかと思っております。ただ、あくまでも寿司という美学を貫きながら、私にしか作れない寿司を握っていきたいです。

あと、料理人という仕事をしているなかで、魚屋さん、漁師さんだけでなく、お野菜を作る農家さんとの出会いも増えてきました。一般的には寿司屋ではほとんど野菜が出ません。だから使おうと初めから意識していたわけではないのですが、いろんな生産者さんの熱い想いを聞かせて頂いて、美味しいだけでなくお野菜の生命力というか野菜本来の力強さに気づき、実際自分の手で料理をしてみたいなと思うようになりました。今ではその季節のお野菜なども織り交ぜて、料理を組み立てるようにしています。

5.飲食店業界に新しい世界を、「鮨 三心」と「石渕氏」のこれから

-現在は昼のみの営業ですが、今後はどう考えていらっしゃいますか?

もう夜はやらないで、昼だけで行きます。新しい世界を作れたと思いますし、飲食業界の当たり前を変えていきたかったので。
今うちの店は、最初は11時半から、次は14時からスタートして、遅くても17時には営業が終わります。頑張って片付けをすれば19時台にはお店を出られるので、その後はプライベートの時間や料理の勉強・研究などの時間にも費やせる。今までの飲食業界ではなかなか無い、画期的な世界だと思います。「まずはやってみて」でスタートして、もう一年になります。この非常識が他の店にも広まって、少しずつ常識に変わっていったら面白いなと思います。

こうゆう時代の中で働き方が変わって、家で仕事をする人も増えているので、昼に外食をすることも、昔よりは当たり前になっていくのかなと。今までを当たり前と思わずに、これからも先のことを考えて進化していきたいです。

-時代の変化にあわせてお店を進化させたことで、飲食店としては画期的な、仕事とプライベートを両立できる素敵な職場環境になったのですね!

仕事の面で求めるものは大きいしハードな職場だと思いますが、料理人を目指す若い子たちのために環境を整えて、自分が未来の飲食業界のためにできることをもう少し頑張りたいと思っています。仮に自分と女将さん二人で5席くらいの店をやったとしても、きっと利益的にはあまり変わらないし、精神的にはぐっと楽になると思います。でも、まだまだお店をやり始めて5年、僕もまだ43歳なので、そこの世界に行くのはまだ早いかなと。

今頑張ってくれている店の若い子たちは自分にとっての子供みたいなものなので、せめて何人かは一人前に育てたい。そして、その子たちがまた次の世代を育てる。そうしていくことが今の自分の役目かなと思ってます。そうやって自分に負荷をかけてでも世の中のために頑張ることが社会貢献だと思いますし、そんなんもできないんやったらやってる意味がないと思っています。「誰かのためになれよ」、「世の中のためになれよ」と弟子たちにもいつも言っています。それが老後の自分が本当にやりたいことをやるまでの仕事かもしれないですね。しんどいこともありますけど、今は一人でも多く雇えるだけ雇おうと思っています。

-最後に、石渕様ご自身の今後の目標についてお聞かせください。

店舗増やしたい、東京や海外に行きたいとは全く考えていなくて、ただ生涯料理人でありたいというだけです。寿司職人としてもっと美味しい寿司を握りたいと純粋に思います。それが50歳60歳になっても同じような想いでやれてたらワクワクしますよね。そして、叶うなら想いのあるこの場所で一生続けていきたいです。

年を取って衰える部分もあると思いますが、それを補えるだけの経験値も付くと思うので、10年後はもっといい店になっている自信があります。店がオープンして5年になりますが、既に5年前よりも今の方が美味しい自信があるので、そう考えたら、10年後、20年後には、すごい寿司握ってるんじゃないかって勝手に妄想しております。

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石渕 佳隆
1978年熊本県生まれ。
高校卒業後、寿司職人を目指し大阪へ。
21年間の修行を経て、2016年に大阪谷町五丁目にて「鮨三心」を開店。
隣に待合兼食後のデザートをいただける茶の間「刻家(ときや)」を2020年にオープン。
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【インタビュー記事の読者様限定】特別プランのご案内

今回、本インタビュー記事を読んでいただいた読者様限定で、特別に「鮨 三心」のご予約枠をご用意させて頂きました。どうぞ鮨三心のお料理と空間をお楽しみください。
※通常はOMAKASEのみでのご予約となります。

https://restaurant.ikyu.com/117450/plan11632987/

【編集後記】
穏やかな口調で語られる様々なエピソードを通じて、料理への情熱はもちろん、人と人との繋がりを大事にされる人情みも感じられ、「この人が作る寿司を、料理を食べたい」と多くのお客様が再訪を願う気持ちが分かったような気がします。
「決意」と「進化」という言葉を軸に、今あるものを当たり前と思わずに、もう少し深く、もう一歩前へ進み続ける石渕氏。10年後、20年後、石渕氏が作る「自分にしか作れない寿司」や、新しい飲食店の世界が、今からとても楽しみです!

Mika Tsuboi

一休.comの宿泊営業アシスタントから編集部へ。ワインと一緒に、美味しいものを少しずついただくのが最高の幸せ。こぢんまりとしたフレンチやネオビストロがお気に入り。
最近は日本ワインにも興味を持ち、旅先で出会った好みのワインを自宅で愉しむのが日課。パンやスイーツなどにも目がなく、週末にはカフェやパン屋巡りをし日頃の情報収集も欠かさない。
・最近行ったお店:Restaurant Fermier/六雁/Varmen
・好きなお店:広尾 ぺりかん/RESTAURANT MAMA./LATURE
・得意ジャンル:ビストロ
・好きな食材:ジビエ/蛤/伊勢海老/キノコ

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