大阪・北新地の名店「空心 伽藍堂」大澤 広晃氏に聞く、美食に集うゲストの想像を超える中国料理への挑戦

北新地に店を構える「酒中花 空心」本店「空心 伽藍堂」。今回は、大阪を代表する中華の名店を営む大澤広晃氏に、料理人を志した理由から、2022年に北新地にてオープンした「空心 伽藍堂」での心華やぐ独創的な中国料理、今後の挑戦についてお伺いしました。

料理好きな父の姿を見て料理人を目指し、上海で中華料理の美味しさを知る

-まずは料理人を目指されたきっかけを教えてください。

最初のきっかけは、父が料理好きだったということ。サラリーマンで接待が多く、色々な食事をいただく中で、家でもその料理を再現してくれていたんです。肉まんを生地から作ったり、ふかひれスープを作ってくれたりしたこともありました。今考えると変わったことをしていたと思いますが、それで自分も子供の頃から料理に興味を持つようになりました。

中華料理を選んだのは、専門学校に行ってから。和食やフランス料理が人気でしたが、中華料理の奥深さに触れて、感銘を受けました。中華って皆から好かれている料理なのに、目指す人が多くなかったので、逆に面白そうだなと。

-その後、小籠包を学びに上海に行かれたそうですね。

当時は仕事があまりなかったんですが、どうしても中華料理に携わりたいという気持ちが強かったんです。たまたま知り合いに「上海で小籠包の勉強を一緒にしないか」と誘ってくれる方がいて、一緒に行かせていただきました。

小籠包の勉強という名目で上海に来ましたが、本場ならではのものばかりで、すごく勉強になりました。全ての料理が日本にない。日本で勉強し、食べていた中国料理というものは中国にはなくて、まるきり違うということです。

-特に印象に残っている出来事や料理は何ですか?

25年位前ですが、当時「空心菜」という野菜を食べました。塩炒めのような、シンプルに空心菜だけを食べるための料理。すごく美味しくて感銘を受けたというか、感動しました。それが野菜を色々な料理に組み込んでいくきっかけになり、とても印象に残ってますね。最初のお店は「酒中花 空心」という名前でしたが、空心菜の思い出がルーツになっています。

どこにもない中華料理を目指して、様々な形態のお店を展開

-2005年にオープンした「酒中花 空心」の名前の由来は空心菜だったんですね。最初のお店は素材を惜しまず、アラカルトで独創的な料理を提供されていましたが、どのようなコンセプトで始めたのでしょうか?

公式Instagramより

「どこにもないような料理を作ってみたい」という気持ちがありました。日本の中華料理はあまり季節を感じるものがないので、季節の食材を取り入れるだけでなく、日本にある中華にこだわらずにやろうと。あまり中華で使わないけど美味しい食材で、独創的なアイデアを試してみようと考えていました。

-その後、2011年「酒中花 空心」2階に中国茶と点心のお店「茶酔楼 時の葉」をオープンさせ、「阪神梅田本店」9階に2021年10月にオープンした、新スタイルの「阪神大食堂 フードホール」で、中国料理「空心」を始められました。

(「空心」阪神梅田本店 ※画像は2023年6月5日時点の情報です)

「茶酔楼 時の葉」は、お茶と点心のコンセプトで始めました。これも上海や広州などにある、お茶を飲む「飲茶」のお店の雰囲気がすごく良くて。お茶を飲みながら、食べ物をちょっとつまみ、皆でわいわいと夜中まで過ごすような空間と時間が素敵だったので、そういう背景がコンセプトのお店でした。

「阪神大食堂 フードホール」は、コロナ禍になる前からのお話でしたが、その頃から今の「空心 伽藍堂」としてお店を始めることが決まっていたので、今のグランドコースのメニューと、フードホール内のメニューとは別のものにしようと考えました。「酒中花 空心」の味を守りつつ、既存のフードホールのイメージに捉われず、レストランとして営業する新しいフードホールの形にしてみたかったんです。高級レストランの味が気軽に食べられるというのは、すごくいい試みかなと。周りのお店も良いお店ばかりで、お客様からも好評をいただき、喜ばれています。

真骨頂「空心 伽藍堂」でのライブ感溢れる新たな挑戦

-2022年8月1日より、北新地で新たにオープンした「空心 伽藍堂」は、大きなカウンターが目を引きます。ライブ感溢れるプレゼンテーションが人気ですが、どういったイメージで作られたんですか?

「伽藍堂」というのは、伽藍神を祭ってあるお堂で、お寺の僧侶が集まる場所を指します。“料理を楽しむ人たちが集まる場所にしたい”というコンセプトで、カウンターは9席あるんですが、コースを食べて楽しんでいただけるような場所を目指そうと思いました。

-月ごとのメニューの組み立ては、どういうことを意識されていらっしゃいますか。

“季節食材を使う”というのが元々の大事なテーマで、かつスタッフがメニューを一品考えています。スタッフはプレッシャーもあり、結構大変なようですが、お客様にも楽しんでいただけて、応援もしてもらっています。スタッフのものを味見して、コースの緩急をつけ、最終的にどうまとめていくかを組み立てるのが、僕の仕事ですね。

メニューを考えるときには「お客様の記憶に残るものを作ろう」と常に言っています。レストランの料理は美味しいのは当たり前で「美味しかったけど、結局何食べたんやっけ」って思うときもあるじゃないですか。家に帰って「こんな美味しいものをいっぱい食べたで」って言ってもらえるような料理を考えていきたいですね。

-スタッフにメニューを提案してもらうのは面白いですね!オリジナリティに溢れるスペシャリテも人気ですが、例えば「メロン入りメロンパン」はどのようなきっかけで生まれたんですか?

「チャーシューメロンパン」というのが点心の一つとして流行っていて「酒中花 空心」でも人気メニューでした。「空心 伽藍堂」では「うちらしく新しいものを」と思っていたときに、たまたま静岡のメロン農家さんと知り合いになって「メロンをどうぞ使ってください」と言われたんです。小メロンという、なかなか出回らないものを取り入れて、メロンの一皿に仕立てました。それが「メロン入りメロンパン」。「酒中花 空心」時代の「チャーシューメロンパン」が、静岡の農家さんとの繋がりによって「空心 伽藍堂」らしいメニューとして組み合わさり、完成したものです。

-他にも様々な人気メニューがありますが、お客様が「すごい!」と驚くようなプレゼンテーションが話題です。

カウンターでは、僕やスタッフがお皿を持っていき、円卓代わりのような動きをするイメージで動いています。小皿に料理を盛ってちょこちょこと出てくるお店も多いですが、僕が考える中華の魅力は「大皿がドン!」みたいな、インパクトの大きいものが何度も登場すること。なので、先に大皿に盛った料理を順番に見せて取り分けていくスタイルにしました。カウンターだからこそライブ感も出せますし、スタッフと気軽に会話もできます。

またコース料理の中で、一皿にストーリーを込めるものもあります。例えば「羽黒緬羊のスペアリブ 藁焼き酢羊」は、山形の生産者のところに行ったとき、羊がだだちゃ豆の藁を一生懸命食べていたんですね。そこで、藁焼きで藁の香りをつけて、羊の下にだだちゃ豆のペーストを敷きました。一皿で、羊が育った場所をイメージできるようなものをお客様に伝えられるようにしたいな、という思いが込められています。
その話を一言伝えるだけでも、お客様からたくさん喜んでいただけますし、考えている方も楽しいです。

-一皿の中に様々なストーリーがあるからこその、コース料理なんですね。

関西だと、アラカルトとコース料理を両方やっているお店が多いですが、今のプレゼンテーションの仕方を全力でやっている中で、アラカルトが混ざってしまうと、どうしても難しい部分があって。全員が同じコースだからこそ、大皿で表現できる料理もあるので、今回はコースに絞りました。今後、オペレーションも少し落ち着いてきたら、夜遅い時間からアラカルトを始めたいなとも思っています。

-今後挑戦してみたいことは何でしょうか?

今、力を入れて頑張っているのが「通信販売」です。お店のキッチンをかなり広めに作っていて、セントラルキッチンのような形で使っています。「ふかひれ餡と麻婆バターで肉まん野菜まん」や「麻婆バター」などを、公式ホームページ上でも販売しています。仕込みと一緒にやっているので忙しいこともありますが、色々試してみたいなって思っています。

日本は世界中から食材が集まる場所であることはもちろん、スタッフも優秀ですし、そういう意味では、世界一美味しい中華ができる場所ではないでしょうか。お客様にはワインを始め、お酒と料理ももちろん楽しんでもらいたいです。また、スタッフとお客様との距離も近いので、会話を楽しみつつ、美味しい料理を食べに集う人たちに満足してもらえるようなお店作りをしていきたいですね。

***プロフィール***

大澤広晃氏

父親が料理好きだった影響を受け、調理専門学校へ。上海に渡り小龍包の技術を半年間学び、帰国後小龍包専門店に勤務し、2005年に独立し「酒中花 空心」をオープン。2011年、中国茶と点心のお店「茶酔楼 時ノ葉」をオープン。2021年、阪神梅田店9Fフードホールに「空心」出店。2022年、北新地に「空心 伽藍堂」をオープン。移転前はミシュランガイドにも掲載され、出身者で独立して活躍している人も多い、大阪を代表する中華の名店。

中華料理

空心 伽藍堂

JR線 北新地駅 徒歩1分

20,000円〜29,999円

【編集後記】
オーナーシェフだけでなくスタッフに料理のメニューを考えてもらい、取り入れるというスタイルは、スタッフへの信頼感だけでなく、人を育てる器があるからこその取り組みだと感じました。お客様がいかに美味しく、面白いと思ってもらえる料理を出すか?ということに心血を注がれている大澤シェフのお料理。一座建立のカウンターで、ぜひ味わってみたいですね。

Airi Ishikawa

一休のメディア事業部長。日本全国を旅しながら、その道のプロにインタビューや取材をしています。休みには足をのばして国内ワイナリーを巡るのが好き。地産地消や、生産者に近い距離で食材や料理に向き合う「極みのシェフ」がいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:銀座 しのはら / 南青山 まさみつ / サエキ飯店 / コートドール
・好きなお店:鮨 梢 / フランス料理 エステール / コンチェルト / エンボカ 京都
・注目しているお店:SeRieUX / プルサーレ / bistronomie Avin
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材:山菜 / 鴨

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