真の鮨好きが注目する「九州の鮨屋」巡り。「KIWAMINO」では、「一度は訪れたい九州の鮨の名店と名宿を巡る旅」を連載開始。第1回は、福岡の名店「天寿し京町店」天野功氏、「近松」坂西信浩氏、「鮨 よし田」吉田健司氏の対談が実現!併せて、福岡で泊まりたいおすすめの宿をご紹介します。地元の魚による絶品の一貫を味わい、余韻に浸る旅へ出かけてみませんか?
目 次
福岡を代表する鮨の名店「天寿し京町店」「近松」「鮨 よし田」特別対談!
福岡の名店「天寿し京町店」天野功氏、「近松」坂西信浩氏「鮨 よし田」吉田健司氏の対談が実現!福岡でいただく鮨の魅力について語っていただきました。
鮨職人になったきっかけ
天野功氏(以下、天野):きっかけは親父です。先代の親父が昭和14年から小倉で鮨店を立ち上げまして。当時の北九州は炭鉱と鉄で栄えており、博多よりも栄華を誇っていて、その活気の中で親父が楽しそうに仕事をしていました。鮨職人の親父の後ろ姿を見て育ったので、小さい頃から決めていました。鮨屋の中での生活しか知らないので、鮨屋になることに抵抗が無かったです。
坂西信浩氏(以下、坂西):高校を卒業した時に叔父が勤めていた鮨屋から独立した頃で、叔父のお店を手伝う形で就職したのがきっかけです。もともと料理は食べるのも作るのも興味がありましたが、そこで鮨の面白さを知りました。
吉田健司氏(以下、吉田):私の場合はいとこが鮨職人で、独立する時に「鮨職人にならないか」と声をかけてくれて。それまでに色々な仕事を経験し、お店を立ち上げる時に手伝う形で鮨の世界に入りました。
ー鮨職人が身近にいらしたという共通点があるお三方ですが、日頃から親交が深いそうですね。
天野:もう10年近くの付き合いになります。この3人は目指す世界が一緒なんです。見えている世界が一緒なので、悩みごとを話すと自分が求める答えが返ってくる。そういう繋がりで10年甘えさせてもらっています。
坂西:寂しがり屋の集まりなので、3か月に1回くらいは会っていますね。昨日も夜遅くまで話していました。
天野:定休日が3人同じ月曜日なので、食事もしますし皆で旅行にも行って、本当に兄弟より仲が良いかもしれないです。時には連休を取って「近松」さんのお鮨を食べに行ったり。
吉田:「天寿し」さんには修業先の親方に連れて行っていただいて勉強させてもらいまして「近松」さんも独立する時に共通のお客様を通じてご紹介いただきました。自分がお店を持つと色々聞けなくなってしまうので、交流させていただいて。自分が一番年下なので甘えさせていただいて、悩みも弱音も本音でお話できますね。お2人のおかげですね。
天野:3人のキーマンは吉田(「鮨 よし田」)さんですね。吉田さんが全部盛り上げてくれて、調整してくれる。年は違いますが、3人ともお互いにリスペクトしています。
小倉に人が集う「天寿し」ならではのスタイル
天野:基本は先代の親父から続く、九州のカボスとお塩で食べていただくスタイルです。それが一番ベースになりますし、九州前という感じで呼ばれているようです。ただ、そればかりでは美味しくないので、醤油の江戸前の味付けもお出しすることで、カボスとお塩の味が生きてくると考えています。
削ぎ落としてシンプルにしていく「マイナスのお鮨」が江戸前の鮨。地方の鮨とよく言われますが、江戸前の鮨が底辺にあることが前提で、江戸前ありきの地方のお鮨だと思います。何でも創作になっていくと鮨じゃなくなるので。江戸前が太陽、地方は月や惑星なんです。太陽が輝き続ければ、月や惑星も輝ける。芯がしっかりしてくれるからこそ、地方が光ってくると思います。
坂西:「天寿し」さんの鮨は、他の県にないカボスとお塩を使った独創性のある鮨だと思っています。最初は私も真似しようと思ったのですが、真似できない。全国からお客様を呼べる個性があるお鮨ですね。
吉田:技術だけでなく、人とのふれあいや職人同士の信頼をベースに「天寿し」さんがいらっしゃることで、脈々と引き継がれている部分があります。「天寿し」さんに自然に集まってくる。居心地の良い雰囲気を出しつつ、個性も際立っているので、惹きつけられますね。
天野:奇をてらっただけだと飽きられる。親父が習ったのも江戸前で、そこから親父の考え方の小倉の鮨に変わってきたと思います。鮨を深めて深めて仕込みの「深化」を続けることで、進む「進化」に変わっていくのではないでしょうか。出来上がってないのに先に進むような仕込みはしたくないので、日々同じことを繰り返しやっている中に見えてくればいいなと思っています。
福岡・薬院に店を構える「近松」、久留米で輝く「鮨 よし田」の魅力
坂西:私は叔父の鮨の店から博多の「寿司 河庄 本店」に修業に行かせていただきました。修業先の店は玄界灘の新鮮なネタで、活きの良い魚を握るスタイルでした。鮨の仕事というものは少なかったので、良い魚に手当てをするとより良さが生きてくるのではと思い、江戸前の仕事で提供する。自分は「江戸風博多前」ということで、極力仕事は最小限に抑え、玄界灘の魚の良さを前面に引き出した鮨をお出ししたいです。
魚は一匹一匹違いますので、それにあわせた仕込みをしていきたいですね。完成形というものはうちも無いので、その日に一番良いものを一番良い状態で提供できればと思っています。
完全紹介制なのは人見知りというのもありますが、常連の方に新規の方をご紹介いただくと私も安心ですし、他のお客様にも安心していられる雰囲気の良さを大事にしています。長く来られている方を中心に、鮨に向き合う人が集う店にしていきたいですね。
吉田:私は生まれも育ちも久留米出身で、好きな景色や街並みがあって、素朴な人たちがいる、そこでお店をやりたいということにつきます。立地的には玄界灘や魚の仕入れには不便な部分もありますが、仕入れは「柳橋(柳橋連合市場)」できちっとやっていければと思っています。16年前にオープンした当初は悩んでいて「近松」さんに相談したら、仕入れている所を全部紹介していただきました。足を運んで仕入れをするのが大事だなと思い毎日通って、魚を少しずつ分けていただくようになりました。鮪は豊洲のものを使っています。
一貫一貫、それぞれの方が召し上がるものなので、流れ作業にならないようにするのは心掛けています。毎日やる仕込みは労力を使いますので、怠らないようにしたいと思います。良い道具が進化して、仕込みも大分楽になったと思うんですが、そういう所は頼らないというか、作業になったらダメだと思うんです。
坂西:博多の台所といえる「柳橋」は新鮮な食材が並び、鮨屋や料亭の魚をおろしていて、良い魚が集まる市場です。大きな魚はサクで切り分け、好きな分だけ買えるので使い勝手も良いです。
天野:うちは親父の時代から付き合いがある魚屋さんとお付き合いしています。母が亡くなる前に「浮気はしないこと」と言われていまして。東京や大阪を始め、多くのお客様が県外からいらっしゃるので、九州の食材、魚で迎えたいという気持ちがあります。鮪と九州の旬ではない時期のウニ以外は近海で揃える、漁師さんと直の話ができるというのが田舎の良さですね。
次世代への育成
天野:技術は後からでもよいので、空気を学んで「天寿し」という空間を引き継いでいただければ。世代が変わっても「変わったね」と言われないようにするには、お店の空気感だと思うんです。美味しい鮨を出すというのは最低限のマナーで、食べる空間がいかに「天寿し」らしさを保っているかを引き継いでもらいたいと思っています。調理学校で講師としてお話させていただくと、今の若い世代は僕らとは全然違います。
自分の時間を大切にされ、学びたいからというより仕事として入ってくる。料理人として、どう学ばせるかですね。「お客様が暖簾をくぐって来られて出られるまで、お客様。食べ終わった後のほっとした空間も必要だからね」と話しています。うちはお酒を扱っていないので、お客様も最初は緊張して来られる。まず緊張をほぐす会話から始まりますし、自分の空気感を真似しろというのではなく、若い世代の空気感として昇華してくれればと思いますが、深化と一緒でベースの空気感だけは覚えていてほしいです。
坂西:鮨屋をやる上で一番大事にしているのは、修業先の先輩の大将に言われた「魚や鮨をお客様に売るのではなく、心を売りなさい」ということ。心を提供するというのが一番大事じゃないかなと思います。「お客様に心を売っていきなさい」と、今息子の技術を磨いています。
息子は9年前から裏方で入りました。5年前にカウンターでサポートしてもらい、4年前から握りを4種類ほど教え、違和感なく引き継いでいけるようにしています。息子には後ろ姿じゃないですが、精神を受け継いでもらえたらと思いますね。お客様目線で見た時に、仕込みはもちろん空間づくり、情熱やセンスも全て心を込めていくということです。技術以外全てに気を配ることが伝われば良いと思います。
吉田:全て相手への思いやりだと思うんですけど、一言で伝えられないから、修業をするのであって。カウンターで鮨を握るという仕事は全てを学べます。お客様が今寒くないか、居心地は良いか、お鮨のペースは大丈夫かということを考え、お客様と呼吸をしながら作っていくものです。作業ではないので言葉でも伝えられないし「こういう時はこうするんだよ」と伝えるのも難しいです。
もし弟子を取ることになったら、技術よりも想いに重きを置いてやってほしいと思いますね。親方は第二の親父のようなもので、弟子を育てて一人前にしてその世界でご飯を食べていけるようにする責任が伴いますから。自分たちの想いを伝えられない軽薄な時代になりつつありますが、鮨の世界は想いを大事にしている世界なので、大事に伝えていきたいですね。
ーユーザーにメッセージをお願いします。
吉田:カウンターなので色々なお客様が座られますが、一番に楽しんでいただき、来て良かったなと満足し、また来たくなる、そんな空気感や波長が合うようにしていきたいですね。旅先で食べる地方の鮨は、楽しんでいただくこと。約2時間の食事の時間を楽しんでいただければいいなと考えています。
坂西:九州は皆温かい人が多いので、素直にカウンターに座って貰えたらと思います。うちはおまかせコースしかないですので、その日の最高にいい魚を最高の手当てでお出しします。ご満足いただけるように一生懸命作ります。
天野:最近一番嬉しかったのは、九州に大人の遠足として来るというお客様の話。日帰りでもうちに来るのにワクワクして来てくださって。子供の頃のワクワク感があるのが嬉しいですね。
九州は魚も肉も野菜も美味しく、食材に恵まれている地域だと思います。関東・関西圏の方々は、南に行くと美味しい魚があるイメージがなく、九州を旅して「こんなに魚が美味しいなんて!」と驚く人が多いそうです。もし食べに来られるなら、旅の初めにいらっしゃる時は心地よい旅のスタートを、途中でいらっしゃる時は旅の記憶に残るお鮨を、帰りがけにいらっしゃる時は「九州でお鮨を食べて良かった」と思ってもらえるようにしたいですし。そういう感覚で仕事をさせてもらってます。
今回特別対談にご協力いただいた皆様のお店はこちら▼
福岡に行くなら!一度は泊まりたい宿
美味しいお鮨を食べに行く福岡の旅。せっかくならワンランク上の宿で、福岡滞在を楽しんでみてはいかがでしょうか。今回ご紹介する鮨店にほど近いおすすめ宿をご紹介します。
リーガロイヤルホテル小倉(福岡県/北九州 小倉駅直結)
地上30階建ての高層シティホテル「リーガロイヤルホテル小倉」は、JR小倉駅新幹線口から空中回廊を通って徒歩3分というアクセスの良さが魅力の一つ。客室は全室30㎡以上の広々とした空間を誇り、北九州市のランドマークホテルで安らぎの滞在が叶います。
注目は2020年3月にリニューアルした26~27階の「タワーフロア」。「小倉の花灯り」をモチーフにした客室は、仄かな灯りが美しく広がるエレガントな寛ぎの空間が広がります。ゆとりある滞在をご希望の方は「スイート」もおすすめです。
小倉の街での体験が本によって深まる「タワーライブラリー」の利用や、前日予約制による特別朝食セットの無料提供など、滞在者のみが味わえるワンランク上の特典が満載のホテルステイを楽しんで。
WITH THE STYLE FUKUOKA(ウィズ ザ スタイル 福岡)(福岡県/博多駅7分)
博多駅から徒歩約7分、福岡空港からも車で約15分の立地にあるラグジュアリーホテル「WITH THE STYLE FUKUOKA(ウィズ ザ スタイル 福岡)」。アメリカ、パームスプリングをイメージしたスタイリッシュな空間に、ミッドセンチュリーの家具。ゼレナク・シャンドルの絵画を始め、アートが散りばめられた贅沢な癒しの世界が広がります。
ゲストルームは16部屋のみ。どのお部屋にも、風にそよぐパームツリーを望むテラスが備わります。冷蔵庫はオールフリーなど、開放された時間を満喫できるよう、数々のお楽しみが用意されています。思わず童心に帰るきっかけを与えてくれる、大人のためのアーバンリゾートです。
WITH THE STYLE FUKUOKA(ウィズ ザ スタイル 福岡)の予約はこちら
天然田園温泉 ふかほり邸(福岡県/久留米市)
筑後平野の真ん中、久留米の穀倉地帯に佇む「天然田園温泉 ふかほり邸」は、180年に渡って受け継がれた旧家をリノベーションした温泉宿。一歩門をくぐると、4,000坪の敷地へ四季折々の木々や果樹が出迎えてくれ、日常を忘れさせてくれる光景へと誘います。
全5棟の離れ客室には、源泉掛け流しの内風呂と露天風呂を完備。化粧水のようなとろとろの温泉を掛け流しで楽しめます。至る所に取り入れられた「旧深堀邸」の梁や柱、土壁などが現代のデザイン家具と調和し、田舎に帰ってきたような懐かしさが感じられる宿です。
訪れるたびに魅力を発見できる街、福岡。九州随一の握りと恵まれた自然を楽しむ、ここだけの豊かな美味に癒される旅を、体感してみませんか。
※こちらの記事は2023年06月07日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。