「祇園 きだ」、「祇園 にしかわ」、「にしぶち飯店」、「老松喜多川」、「おが和」、「料理屋まえかわ」。国内外の美食家たちを魅了しているこれらの料理店の共通点は、ミシュラン三つ星を獲得し続けている名店「祇園 さゝ木」の佐々木浩氏より遺伝子を継ぐ愛弟子が店主であること。今回「KIWAMINO」では、師匠の佐々木氏本人から、愛弟子たちとそれぞれのお店の魅力ついてお聞きしました。また「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山2022」でも三つ星を獲得した「祇園 さゝ木」で腕を振るう、期待の料理人に関してもお話していただきましたので、そちらも含めてご紹介します。
目 次
1.さゝ木一門会の長男が営む「祇園 きだ」で感じる名店のDNA
-早速ですが、さゝ木一門会の長男とも呼ばれる「祇園 きだ」木田康夫さんからお聞かせください。
彼との最初の出会いは、僕が料理長兼店長をしていた先斗町にある「ふじ田」でした。実は彼と僕は親戚関係にあるんですよ。なので、より一層他の弟子に比べて、厳しくしましたね。そうしないと「親戚だから特別扱いなんだ」と周りから余計な陰口を言われてしまいますから。初めはしんどかったんじゃないかと思います。
それから「祇園 さゝ木」を出すので彼を連れて独立しました。約30年、弟子の中で一番長く一緒にいましたね。東京のお店や富山の宿など、うちの看板を掲げた仕事は、彼に料理長として行ってもらうなど、信頼を置いていた人物です。今ある「祇園楽味」も彼のために出したお店なんですよ。
彼の性格はまじめで頭も良い、そしてリーダーシップがある。東京と富山に行かせたのも、その理由から。「祇園 きだ」でも彼の性格が出ていますよね。奇抜なものは出さず、これまでに培ったものをしっかりと表現している。彼は信頼できる“舌”を持っているので、間違いなく美味しいですよ。美味しいものを祇園らしく出しているなと。だからこそ、満席が続いているんだと思います。「祇園 さゝ木」と同じことはできないという思いが見えますしね。
個人的に嬉しいのは、お椀をいただいたときに出汁がうちと同じだったこと。DNAを継承してくれているなと、それだけでも満足でしたね。
2.遊び心に美味しいだけではなく楽しさも感じる「祇園 にしかわ」
-「祇園 にしかわ」西川正芳さんのお話をお聞かせください。
僕のところにいたのは3年ほどで、短かったと思いますね。彼がうちに来る前から、彼の奥さんが「祇園 さゝ木」で働いていて、それが門を叩いたきっかけと聞いています。彼の性格の特徴は、とてもまじめで茶目っ気があること。「さゝ木一門会」ではウケへんダジャレばかり言っていますよ(笑)。彼は周りの空気を読めて、入店当初から中継役が多かったんですが、その対応もうまかったですね。
彼の料理は、良い器を使いながら彼らしい演出を取り入れて、茶目っ気を感じられるものになっていますね。劇場型と言いますか、すべての料理においてその背景になるストーリーが説明できるのは、すごいと思いますね。だから、お客様も馴染んでついてきてくださるのでしょう。彼との会話は楽しいですよ。
うちのお店で「祇園楽味」がありますが、その店名の由来は、“美味しい”の上には“楽しい”というのがあり、いくら美味しくても楽しく感じさせなければ、お客様を満足させたことにはならないという思いからなんです。その思いが「祇園 にしかわ」では体感できると思いますね。
3.中国料理に「祇園 さゝ木」のDNAを注入した唯一無二の「にしぶち飯店」
-「にしぶち飯店」西淵健太郎さんのお話をお聞かせください。
彼は、中国料理から僕の所に来た少し変わった入り方でしたね。一番の思い出は、まかないで麻婆豆腐を作ってもらったときのこと。その味が正直イマイチだった。彼の軸となる中華がこれではあかんと心配になったので、京都にある老舗料理店「創作中華 一之船入」さんにお願いして10日間くらい預けたんです。戻ってから彼の麻婆豆腐を食べさせてもらいましたが、雲泥の差。「これや!」となりましたね。
「創作中華 一之船入」さんにお願いしたのは、独立して失敗してほしくないから。みんなに成功してほしい。そのためならいくらでもお願いしに行きますよ。彼は僕とよく似てやんちゃなところもあるんですが、まじめで頭が良い。だから下の面倒見も良いんですね。しっかりとしたリーダーシップを持っていますよ。
彼の料理は絶品。中国料理の中に和のテイストが入っているので、重くないんですよね。和と中の融合がバシッとはまった料理。うちで得たものが使われているのも感じられて嬉しいですね。満席でいつも予約が取れないのは、当然だと思います。
4.「さゝ木一門会」で最も師匠の味と似ていると評される「老松 喜多川」
-「老松 喜多川」喜多川達さんのお話をお聞かせください。
僕のところに来たときは、奥さんともう結婚していたときだったかな。うちで働いてしばらくしたときに手が痛いと言い出して。日に日に悪化していくので心配になり、僕の主治医に診てもらったんですよ。そしたら、手術が必要なくらいの状態で。まだ若いし、奥さんもいる、こんなことで料理人として終わらすのはもったいないと思ってしっかり治療させるために休ませたんです。無事に復帰できて、良かったですよ。
常連さんで「さゝ木一門会」を回ってくれている方がいらっしゃるんですが、その方たちからは彼の味が一番僕と似ていると言われます。僕のDNAというか、そういうのが彼の料理から見受けられるんですかね。
彼の性格は、調和のとれる性格、人に合わせることができて人懐こい。美味しい料理だけではなくて、そういった性格だからこそ、良くしてくれるお客様が多いのではないかと思います。
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5.突出した行動力、素朴さの中に斬新さが光る一皿「おが和」
-「おが和」小川洋輔さんのお話をお聞かせください。
彼は行動力が半端なかった。うちに料理を食べに来たときに「人を募集していませんか」といきなり聞いてきたんですよ。話しをしてみたら「京都 吉兆」で修行をして6年になると。びっくりしましたね。「それならあと4年は、吉兆さんにいなさい」と言いましたよ。吉兆さんに10年いたと履歴書に書いたら、それだけで箔が付きますからね。そしたら彼、どうしたと思います?次に来たとき「僕、吉兆辞めてきたのでここで働きます」って言ってきたんです。これには僕も困ってしまって、説明しに「吉兆」に行きましたよ。向こうは「急に辞めた」こっちは「急に来た」で、結果笑い話になりましたが、もうびっくりしました。
自分のお店を出したいと言ってきたときに、出す場所について相談があったんです。お店を出すなら腹をくくって妥協せずに、料理人として最も適している立地でお金を使いなさいと言いましたかね。僕の考えも色々考慮に入れてくれて、彼なりに考えたんでしょう。だから僕は、彼の貯金用の口座番号を知っていたので、彼に黙って500万円を振り込んでおいたんですよ。そしたら預金が結構な額になるので、銀行が信用してお店を出すときに良くしてくれるじゃないですか。彼は、1年以上前から料理人として人生設計ができていました。振り込んだお金も一切手を付けないと信じていたし。あるとき「佐々木さんありがとうございました」と言ってきたので、「ああ、バレたんやな」と思いましたね(笑)。
彼の料理は、素朴さがありますね。でもただ素朴なのではなくて、斬新さがある。ごま油をかけたり油で揚げてみたり。いろんな角度で仕上げてきますね。先々までしっかり考えている彼の性格が出ています。価格もあの立地なのにリーズナブルですよ。
6.「祇園 さゝ木」を継がせたいとまで言わせた唯一の弟子が営む「料理屋まえかわ」
-「料理屋まえかわ」前川浩一さんのお話をお聞かせください。
実は、彼にうちのお店を継承させようと思っていたんです。僕はもう還暦ですし、これから20年、30年と長く第一線に立っていることはできないですよね。彼が独立したのは2020年、僕が58歳のときで、ちょうどこれからの将来を考えているときだった。継いでほしかったですね。あまり褒めない僕でも彼は別格で、べた褒めしますよ。でも入店当初は目立たない子だったんです。徐々に頭角を現してきましたね。
人を育てるのは一朝一夕、そんなに簡単なことじゃないです。15人の弟子を入れたら光るのは1人しかない。それが彼です。他の弟子たちも、もちろんそれぞれ光っています。でも僕の後を継がせたいと思ったのは彼だけですね。性格はまじめで、野性的。野性的というのも料理人には大事なんですよ。車は走ればいい、服は寒くなければいい、料理だけに没頭できる性格なんですね。うちの二番手となってからの成長もすごかった。
今の「料理屋まえかわ」は料理に対して値段が安すぎると思いますね。今はまだオープンしたてだから、高い食材を多く使っていないようだけど、使うようになったら「さゝ木一門会」でトップの評価になるんじゃないかな。
7.佐々木氏も太鼓判!「祇園さゝ木」「鮨楽味」で輝きだす2人の新星
-最後に、今佐々木様のお店で活躍している注目の料理人を教えていただけますでしょうか。
しいて言うなら2人いますね。1人は「鮨 楽味」の野村一也。彼はこのまま行ったらすごい寿司職人になりますよ。「鮨 よしたけ」に1年間、修業させたんですがしっかり学んで吸収している。怠けずこのまま精進すれば、とんでもないことになりそうですね。
あと1人は、うちの二番手の中川寛大。彼は化けますよ。前川を抜くかもしれない逸材。努力を惜しまないのが強いですね。彼も前川同様に15人中の1人ですよ。
若い子を育てるのはもうないかなと思いますね、年齢的に正直しんどい(笑)。だから今の弟子たちが、少しでも僕のDNAを繋いでくれたら嬉しいですね。
【編集後記】
佐々木様がお話くださるお弟子さんたちとの思い出は、とても温かく愛情がこもっていました。一人前にするために、箸がテーブルの上で転がっても厳しく𠮟っていたという佐々木様。「まあいいか」と諦めるのは簡単だけれども、その子の人生がかかっているのだから同じパワーで当たらないといけない。その責任感の強さが、多くのお弟子さんを一流に育てあげた要因だと思いました。常連の方も行っているという「さゝ木一門会」の味巡り、ぜひみなさんも回ってみてはいかがでしょう。お弟子さんたちに引き継がれた名店のDNA。その進化をぜひ味わってみてください。
「さゝ木一門会」お店のご紹介
■ 「祇園 さゝ木」 https://restaurant.ikyu.com/116973/
■ 「祇園楽味」 https://restaurant.ikyu.com/117067/
■ 「鮨 楽味」 https://restaurant.ikyu.com/114659/
■ 「祇園 きだ」 https://restaurant.ikyu.com/124035/
■ 「祇園 にしかわ」 https://restaurant.ikyu.com/115545/
■ 「にしぶち飯店」 京都府京都市東山区八坂鳥居前下ル弁天町444-2 / 075-561-1650
■ 「老松 喜多川」 https://restaurant.ikyu.com/110089/
■ 「おが和」 https://restaurant.ikyu.com/118065/
■ 「料理屋まえかわ」 https://restaurant.ikyu.com/115292/
※こちらの記事は2024年11月08日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。