インタビュー|

「CAINOYA」塩澤隆由氏に聞く。2021年、これからの食に求められるキーワード

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国内外から美食家が集う鹿児島の名店「cainoya dal 1931」が、2019年に「CAINOYA」として京都に移転。塩澤隆由氏による、上質な食材と技術を駆使して作り上げた一皿一皿を心ゆくまで堪能できるガストロノミーレストランです。“NOT THE SAME”という理念で様々な挑戦をされる塩澤氏に、これからの食を読み解くキーワードについてお伺いしました。

京都にて新生「CAINOYA」が掲げる「イノベーティブ・ジャパニーズ」

―鹿児島の「cainoya dal 1931」と言えば、予約の取れないお店として有名でしたが、初代はおじい様が「甲斐乃家食堂」というお店をやっていらしたそうですね。

元々は祖父が山梨甲斐乃国から鹿児島に疎開し、1931年に「甲斐乃家食堂」を作りました。祖父が亡くなり「甲斐乃家食堂」は一度閉店、父が東京のホテルでコックとして働いたのち、鹿児島に戻ってきて「サンバード」というレストランを始め、その後小料理屋として「カイノヤ」の名を継いだんです。当時僕は20代で交通事故に遭い、それまでの仕事ができなくなってしまいました。そんな時に自分で料理でもしようかなと思って、父のお店で働いてから深夜のパスタ専門店を始めました。「LA BETTOLA da Ochiai」の落合シェフに憧れていて、「ベットラ・食堂」を屋号にしていた時もありました。

父の店を継ぎ「cainoya dal 1931」を始めた頃、15年ほど前はトスカーナの郷土料理に惹かれていて、本場の味にこだわり、食材も全部取り寄せて全く同じことをする時期がありました。やればやるほど「日本人なのに」という思いや、日本でお店をやっていることとの矛盾が出てきて。その頃「リストランテ カノビアーノ」の植竹シェフや「イル・ギオットーネ」の笹島シェフ、「リストランテ 濱崎」の濱崎シェフといった「日本人のイタリア料理」を意識されている人たちの価値観に、自分も移っていきました。

今は、僕が鹿児島でやっていたことに憧れて地方で頑張っているレストランもできてきていると言われますが、地方でレストランをすることってすごく大変なんです。当時、鹿児島には要予約のリストランテなんてなかったですし、全国からのお客様が毎日来て下さることはない。地方で尖ったことをやっても、それを求めてのお客様だけで満席にはならない。

ある時期仕入れができなくなったことがあって、料理の本を見てこういうのを作りたいなと思っても、仕入れができない。すると目の前に畑があったから、畑にある食材で作ってみようということでできた料理が「クリスタルサラダ」や「ヴィシソワーズ」です。地産地消とは発想が逆なんですよね。

―2019年に京都にある「GOOD NATURE STATION(グッドネイチャーステーション)」の中に「CAINOYA」をオープンされました。鹿児島時代の「イタリア料理」から「イノベーティブ・ジャパニーズ」というコンセプトを打ち出したきっかけは?

鹿児島で自分のスタイルを確立して国内からお客様が沢山来るようになり、客単価も4万円迄になりました。そのうちに京都のお話が来て、最初はプロデュースで人に任せ、鹿児島と京都を行き来しようと思っていました。同時に、ミシュランの星は40代のうちに獲りたいとも思っていて、他のレストランは皆朝から晩まで仕事していて、自分もそれを目指しているのなら、お店を閉めて京都で勝負しようと。
京都に行くにあたって辿り着いたのが「日本人らしさ」の象徴と言える「寿司」。
世界に対して発信するときに、世界の最先端の情報を集めても真似じゃないですか。海外から来る人たちは、日本に来て日本の文化を学ぶのに、僕たちは海外を追いかけてしまう。日本人として日本人らしさや精神を全面に出したほうが、世界の人々を呼べるかなと。

寿司についてはずっと構想があって、寿司職人を雇ったり、チームに入れて開発していたりしていました。握りじゃない寿司を作りたくて、辿り着いたのが「ガストロバック“SUSHI”」です。「これはもう寿司じゃなくて料理だ」とフーディーの浜田岳文さんに言われましたが、料理に対しては、今までやってきたことに疑問を持つこと。組み合わせや表現の仕方でガストロバックを使ったりですね。それをイノベーティブにしようと思いました。

僕はこれまで出汁を取る方法もガストロバックで、火入れも機械を使ってきたから、デジタルなものを駆使しているイメージがあるかと思うんですが、自分が営業中に立っている立ち位置は焼き台の前です。仕込みにはデジタルなものを駆使しているんですが、フィニッシュは備長炭や人工のおがくずを使った薪を使って、営業中は内輪を煽るといったアナログな部分を残しています。
それは、伝統と現代の融合、デジタルとアナログの融合に対して意識しているからです。

―塩澤シェフの掲げる「NOT THE SAME」という信念にも通じますが、今までやってきたことに疑問を持つという言葉にすごく惹かれました。

京都に来てから「NO RULE」ということもキーワードとして掲げているのですが、ルールを作らない。「CAINOYA」のロゴは四角で囲っていますが、よく見ると端が空いていて、柔軟性を表現しています。良いなと思ったらどんどん取り入れ、要らないと思ったものは捨てていく。

地方はお客様が毎日来てはくれないので、自分と向き合って毎日やるしかないんです。地方にいたときは、定番のスペシャリテが求められ、鹿児島でやってきたことは自分の中でも限界かなぁと感じていて、もうクリエイション出来ないのでは?と思った時期もありました。
都会に来て対面でやると出会う人も変わるし、毎月のように来てくれる人もいて、すごい刺激をもらうんですよね。フーディーと言っても変わった人も多いですし(笑)、厳しいことも言われます。
スタンスが変わるとどんどんクリエイション出来てきて、2ヶ月に1度メニューも変えて、合わせるペアリングも変えています。

「コロナによってリセットされた世界」、新しい価値観の中で生き残っていくために

―2020年以降、テイクアウトやお取り寄せ、フードデリバリーが成長する中で、シェフが取り組まれていることやお考えをお聞かせください。

鹿児島の頃から10数年ほど百貨店でのおせちの販売などをしていたこともあり、製造販売業の許可はもともと取っていました。去年の緊急事態宣言中はパートナー会社からの要請もありお店を休業しましたが、お取り寄せの販売を開始して、期間中に500万円の売上がありました。自粛解除後の売上は過去最高になりましたが、その後まん延防止等重点措置や2度目、3度目の緊急事態宣言があって、どのお店も不安定な状況になっています。
理由の一つは世の中が慣れてしまったこと。フードデリバリーがあまりにも普及して、今食べたいものはすぐ持ってきてくれるようになったので、前のようにお取り寄せは売れません。
「レストランができることは何だろう」と考える中で、僕の持っている技術をコンサルティング的に外に広げていくことをしていく必要があると思っています。
今はハヤシソースとジャワカレー、鍋セットなどをお取り寄せで販売していますが、委託して添加物なしのレトルトを販売することや、今までと違うことを準備しています。
また、新幹線内で食べられるちょっと高級なお弁当が作りたいなと思っていて、温められる箱の「のり弁」を試作しました。ソムリエによるノンアルコールのドリンクもつけて6,000円程で販売しようかと企画も動いています。

あと、先日京都に新築の家を買ったのですが、そこのアイランドキッチンを使って料理教室をやろうかと思っています。
自粛期間中に家で料理していたのですが、皆さん毎日3~4品を狭いキッチンでどう作るの?凄いなって感じたのです。
コンセプトは、ちょっと良いスーパーで手に入る食材を使って、コース仕立てにできる料理。人を招いた時に少し席を立つだけで準備できるイメージです。
バルミューダやバーミキュラ、マイヤーなどの調理器具をそろえて、圧力鍋だけでどれだけ美味しいリゾットが作れるかをレクチャーするような。アッパーなお客様は「CAINOYAの料理教室なら5万円以上からでしょ」と言われるのですが、付加価値にお金を払う方もいらっしゃると思うので、しっかり料理を覚えたいという人と、うちで一緒に料理を食べたいという人に向けた設定をしようかなと考えています。
料理教室のこともそうですが、次世代のことも考えています。自分が若い頃は植竹シェフや笹島シェフに憧れていて、現在はコラボさせていただく機会も増えましたが、プライベートでもめちゃくちゃかっこいいですし、今でも憧れる存在。
自分も目標になるような憧れの人になっていかないと、レストランの未来がないのかな、と思います。なので家や車、身に付けているものを公開したりもしています。

―シェフのお家で料理を教えてもらえるのはプレミアム感がすごいですね!まさに「NOT THE SAME」というか、様々な挑戦が垣間見えます。

確実にもうコロナ前の元の世界には戻らない、いい意味でも悪い意味でもリセットされたので、新しい価値観の中で生き残っていくにはどうすべきかを考えていきたいです。
レストランはもっともっと強く「行きたい」と思われないと、生き残っていけないと思います。一方で、家庭の中にどうレストランを落とし込んでいくかも考える必要がある。
今後はチームにしていって、定休日の月・火を使って自分がいなくてもいいレストランにしてもいいかなと思うんです。僕がいなくてもCAINOYAの食材とフィロソフィーを織り込んだスタッフ達の料理で、皿数は半分、値段も半分にする。名前も「(?)CAINOYA」という新しいスタイルや価値を問いかけることも考えています。

また、価格に価値をつけるために、自分たちの仕事でいかに価値を高めていくか。
去年、ソムリエ上杉が素晴らしいものを作れるようになり、ノンアルコールのペアリングをワインと同じ値段にしました。ワインと同じグラスで、同じ数量の飲み物を出しています。
これまでお酒を飲めない方は料理にはお金を使えるけど、アルコールは使いたくても使えなかった。ただ、ノンアルコールでも料理と合わせて楽しみたいという気持ちはあるんですよね。ワインと同じ価値観を見出すように、それを創り上げていきたいです。
実はノンアルコールペアリングは10年後スタンダードになるのではないかと思っていて、ファインダイニングなのにあえてお酒をださないという世界のどこにもない未来のレストランを東京でやってみたいですね。

―これからの時代の「新しい価値観」の中で、料理人はどういう存在であることが求められるのでしょうか。

言葉にして、やって見せること。
お店としてInstagramも利用していますが、今後はスタッフが料理について、仕事について思うことを発信していく場にしていきます。
僕の料理に対する考えや料理工程については、オンラインサロンとして活動していきます。月額1,000円の会員制の有料Facebookページでは、お店のことについてはもちろん、プライベートなこと、政治・世の中の状況に対する率直な思いを言葉として記しています。
今後は月会費3,000円でFacebookを利用した動画投稿の会員制のコミュニティを開設する予定です。
情報は価値があるもの。それを無料で出すことに意味がないと思っているので、クローズドなコミュニティに対して価値あるものを提供していきたいという考えからのアクションです。

また、SDGsだからとか、流行りのワードだからではなく、行動していく姿勢を見せていくこと。
京都の開業準備をしていた時に大河ドラマの「西郷どん」が放送されていて、日曜に見て月曜の朝一で京都に来る日がありました。ちょうど西郷隆盛も京都入りするシーンだったので色々思うことがあって。当時は、白米を食べるだけでもものすごい贅沢だったわけで、見ていて涙が出てきました。
こんな時代があったのに、今は便利になりすぎてフードロスが叫ばれているし、乱獲も良くないと思い、これもシェフたちが動いています。すぐには変わらないかもしれないけど、行動しないと変えられない。その上で美味しい料理を作る、仕込みに使う際に食材を廃棄せず最後まで使う。
うちは「サステナブル」と言われる前からガストロバックで野菜の皮や葉で出汁を作り、魚のアラ(頭や骨)でスープを取り食材に戻しています。生ごみは堆肥化しています。
ピンの食材の真ん中だけ使い、残りを捨てるというのは中国と日本の一部だけです。世界はそうじゃないです。高級食材ではなく、仕事でお金を取る。その覚悟がないと未来はないと思います。

言葉にできないと、人には伝わらない。
言葉にできないと、料理も形にならない。
政治的なことも含めて、言葉にしていかないと人には伝わらないし、行動していかないと変えていけないのではないでしょうか。

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【プロフィール】
塩澤 隆由
1972年鹿児島生まれ。料理はほぼ独学で会得。鹿児島市内に祖父が開業した「甲斐乃家食堂」を、1999年に父から「かいの家」の名で継ぎ、イタリア料理店「cainoya」に。約20年間鹿児島で営業した後、2019年12月に京都・四条河原町へ移転。
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【編集後記】
塩澤シェフの、初対面にも関わらず赤裸々に語ってくれる一言一言。その根底には、食に携わる人としての感謝の気持ちで溢れていると感じました。「NOT THE SAME」の信念は、今の飲食業界を取り巻く様々な課題への一つの解になるのではないでしょうか。

CAINOYA
https://goodnaturestation.com/restaurant/cainoya/

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。高級旅館のお取り寄せが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:祇園 さゝ木 / Crony / のぐち 継 / 津の守坂 小柴
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / ブラマソーレ / 美伶
・自分の会食で使うなら:鮨きむら / 中国飯店 富麗華 / エディション・コウジ シモムラ
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: 魚卵

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