麻布十番「ACiD brianza」児玉智也氏に聞く、フレンチと発酵が生み出す新しい食体験とは

2022年6月に麻布十番にオープンした「ACiD brianza(アシッドブリアンツァ)」。シェフ・児玉智也氏が織りなすのは、フレンチにノルディックを掛け合わせた独自のスタイルの料理の数々。その斬新で独特な感性は、すでに多くの美食家を唸らせています。今回は児玉氏に、発酵を取り入れる料理の魅力やスペシャリテについてなど多岐に渡ってお伺いしました。

好奇心溢れる性格に押されて突き進んだ料理人への道

料理の道に入られたきっかけをお聞かせください。なかでもフレンチに興味をもたれたきっかけはなんでしょうか?

幼い頃から母親の料理を手伝うのが好きで、自然な流れで専門学校へと進みました。様々な料理ジャンルの中でも憧れがあった、フレンチの世界へと進みました。

修業は地元札幌から始まり26歳の時に渡仏されましたが、元々フランスへ行こうという気持ちがあったのですか?

フレンチを志すなら、本場のフランスには絶対に行った方がいいなと思っていました。自分にとっての最初の目標はフランスに渡ることでしたね。

フランスでの修業時代、特に印象的だったエピソードはございますか?

フランスと日本の労働環境の違いが印象的でした。日本では休憩を取らずに働き続けるなど、飲食業界の長時間労働が当たり前の風潮がありますが、フランスでは「働く時は働く、休む時は休む、遊ぶ時は遊ぶ」とオンとオフのメリハリがしっかりあるなと思いました。「ACiD brianza」でも、こういう働き方は意識していますね。

その後デンマークに移られ「Kadeau(カドー)」で働かれていらっしゃいますが、フランスからどういった経緯でデンマークに渡ることになったのでしょうか?

フランス在住時に、2週間ほど休暇期間があったんです。その際フランスの次はどの国に行くか迷っていたので、スペインとデンマークにそれぞれ1週間ずつ滞在してみました。フランスとスペインは地理的にも近いですし、スパニッシュはフレンチに似ている部分を多く感じたんですけど。デンマークの料理って、実際に食べてみても全然解読できなくて。本当にわからなかったんです(笑)。そこで自分の性格的なところから、知らない世界、理解できないものに対する好奇心が溢れ出してしまい、デンマークで働こうと決めました。

「Kadeau(カドー)」での修業時代特に印象的だったエピソードはどんなことでしょうか?

「Kadeau」はデンマークに2店舗あるんですが、1つはコペンハーゲンに、もう1つはボーンホルム島にあります。それぞれの店舗に半年間勤務していたんですが、コペンハーゲンの店舗の方がより洗練された雰囲気で、手をかけた料理が多いイメージです。一方ボーンホルム島の店舗の方は、少しカジュアルで自然な雰囲気の料理が多い印象でした。ボーンホルム島では、毎朝チームに分かれて、それぞれ山または畑に食材を収集しに行っていたんですが、それらをピクルスなどの保存食にして1年中使用していました。そういうところも学べる意義は大きかったです。

帰国後に奥野義幸シェフと出会い、「ACiD brianza」でシェフになるまでの経緯をお聞かせください。

元々「MAZ」で働く予定で、東京には2年前に来ました。ただ新型コロナウイルスの影響でシェフがなかなか入国できず、開業が大幅に遅れてしまったんです。そこで「MAZ」にジョインするのは断念して、知り合いが六本木に持っている物件を借りて1人でポップアップレストランをしていました。そんな中、半年くらい経ったタイミングで、たまたま奥野義幸シェフが食べに来てくださったんです。正直その時は、これといって込み入った会話もしたわけではなかったんですが、それがきっかけでご縁をいただき、「ACiD brianza」を開業するに至りました。色々タイミングもよかったんだと思います。

フレンチ×ノルディックの組み合わせが生み出す唯一無二の味

フレンチとノルディックに、児玉シェフならではの独自性が加わる「ACiD brianza」。ここで表現する児玉シェフならではのお料理とはどんなお料理でしょうか ?

デンマークの料理は発酵をベースにしているんですけど、そのデンマークの料理に僕がやってきたフレンチの要素を組み合わせて、素直に美味しいと思えるような料理にしたいと思ったんです。デンマークで料理を食べていた時、もちろんおいしいと思うものはあるんですが、中には口に合わないものもありました。正直、何を食べてもすごく美味しいっていう感じではなかったんです。でもその「自分が食べている料理が何かわからない、けどすごく面白い」という状況に自分の好奇心がうずいたんですよね。自分が学んできたフレンチとデンマークの技法を組み合わせた上で、それが1つにまとまって美味しいと思えるような料理を作りたいなって。そしてそれが僕の料理のスタイルだと思います。

「Oyster/Bread/Strawberrや花粉 Bee pollen/Fig」などずらりと単語が並ぶ、斬新で意外性のある組み合わせはどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

何か突飛なことをしたいと思っている訳ではないんですけど。自分の中でパズルのように食材同士を組み合わせていって、合うなと思うものを組み合わせて1つの料理にしていくイメージです。

シェフ自ら山に入り採って来た食材を塩漬けやピクルス、オイルにして使われていると伺いましたが、食材や調味料に関するこだわりをお聞かせください。

食材は主に北海道で採ってきています。去年の春に行って、1年分の食材を採ってきました。今使っている食材も、去年の春に集めてきたものです。今年もそろそろ、北海道に採りに行く予定です。

ピクルスなど、食材は仕込んだ後に時間で味は変わっていかないんですか?

ピクルスなんかは、基本的に一旦浸けてしまったら、冷蔵庫に入れておけばほとんど味は変わらないです。温度が変わらなければ一定の発酵で止まりますので。

シェフの好奇心を刺激続ける調理技法「発酵」の魅力

児玉シェフのお料理の中で、北欧の発酵技術が大事な要素となっているかと思いますが、児玉シェフが思う「発酵」の魅力とはどんなものでしょうか ?

自分の好きな味を、自分の匙加減で作り出すことができるので、とても面白いです。ただ自然現象ですので、思い通りにならないことも多いです。でも、それがまた好きですね。自分の興味や好奇心を常に刺激し続けてくれます。

発酵の技術を使った定番メニュー、またはこれだけは食べて欲しい自慢の1品についてお聞かせください。

帰国後に北海道で料理をしていた時からずっと作っている料理が1つあります。「酵母」というんですが、ローストしたイーストを使った料理になります。ローストしたイーストをピューレにしたものに、バターで炒めたリードヴォーやスティックセニョール、干し柿、発酵させた麹のジュース、そしてカリカリに揚げたごぼうチップス、焦がした春菊を使った料理です。正直見た目が綺麗、とかではないんですけど、味はすごく好きです。これは僕にしか作れない料理だと思います。

お客様の反響はいかがでしょうか?

この料理だけはコースの中に必ず入れるようにしているんですけど、反応が1番いいですね。「どの料理が1番印象に残っていますか?」と聞くと、この料理を挙げてくださることが多いので嬉しいです。お客様には料理を通して純粋に楽しんで、美味しいと思ってもらえたら嬉しいですね。

北海道に日本を代表するようなレストランを作りたい

現在取り組んでいらっしゃることや、今後取り組んでいきたいことについてお聞かせください。

今まで試したことのない発酵の技法にもチャレンジしたいと思っています。今は主にデンマークの発酵技術を使って料理を作っていますが、それこそ日本の発酵技術である醤油や味噌なども使っていきたいですね。あとは、食材に関しても東京近郊の農家さんから直接仕入れるようにしていきたいです。うちはストックを置く場所があまりないので、やり方を考えないといけないですけど、少しずつ取り組んでいきたいですね。
また将来的には、出身地である北海道にレストランを開きたいと思っています。どんなお店にしたいとか細かな構想はまだ考えられていないですけど、東京をはじめ世界中からお客様が来てくれるような、日本を代表するレストランを作れたらいいなって思っています。東京ではできないけど、北海道だからこそできることがいっぱいあると思っています。

児玉智也氏 プロフィール
1990年6月30日、北海道小樽市生まれ。高校卒業後、調理師専門学校を経て20歳で札幌のレストラン「ジャルダン・ポタジエ・テラニシ」で料理人としてのキャリアをスタート。その後「レストラン ミヤビ」での経験を経て渡仏。オンフルールの「Sa.Qua.Na」、デンマークの「Kadeau」で研鑽を積む。帰国後はポップアップ的な食事会を催す中、奥野義幸シェフと出会い、「ACiD brianza」の開業と共にシェフに就任。

イノベーティブ/北欧

ACiD brianza

都営大江戸線 麻布十番駅 1番出口徒歩1分

15,000円〜19,999円

【編集後記】
飽くなき興味、好奇心、挑戦心が溢れ出していらっしゃる児玉シェフ。その真っすぐな思いがお料理に昇華され、人々をあっと驚かせるような独特の一皿になるのでしょうか。シェフの思いが詰まった料理の数々を食べに伺いたくなりました。

※こちらの記事は2023年08月28日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:CIRPAS/Sincére/Heritage by Kei Kobayashi
・好きなジャンル:フレンチ/鮨
・最近行ったフレンチ:ラルジャン/apothéose/渡辺料理店/フロリレージュ
・好きな美食宿:ホテルリッジ/sankara hotel&spa 屋久島

このライターの記事をもっと見る

この記事をシェアする