福岡の名店「御料理 まつ山」松山照三氏にインタビュー。一切手を抜かない日々の所作と重なる匠の思い

松山照三氏。生まれ故郷の福岡県北九州市で開業した自身のお店「御料理 まつ山」を、たった3年で「ミシュラン」の星を輝かせた人物。そこで今回「KIWAMINO」では、松山氏に料理の道へ進まれたきっかけや食材へのこだわり、「食を美味しく楽しんでもらいたい」という想いなどを聞かせていただきました。
※本インタビューは、2021年4月19日にオンラインにて行いました。

料理の世界で生きたい、25歳の時にやっと見つけた自分の進む道

―料理人を目指すまで、紆余曲折あったと伺いました。

実は高校では建築学科にいて、母親の勧めもあり設計士になろうとしていたんです。高校を卒業して建築の仕事へと思ったのですが、当時はかなり不景気で、就職先がありませんでした。その時、好調な大手自動車のエンジニアになれるということで、車の専門学校へ進むことになったんです。好奇心旺盛な性格ですし、器用な所があったので結構仕事はできていましたね。

でも、実際自分は車にそんなに興味がなかったので、同僚との温度差に疑問を日々感じていました。20歳から2年間、エンジニアとして働いていたのですが、人を相手に仕事をしてみたいという気持ちがどんどん大きくなってきたんです。

モダンな外観の「御料理 まつ山」。夜はまた異なった表情を見せてくれます。

そんな時に立ち寄った、たこ焼き屋さんのたこ焼きの美味しさに衝撃を受けて。「こんなに美味しいものをお客様に提供できる仕事って素晴らしい!」と感じ、エンジニアの仕事を辞めて、そのたこ焼き屋さんのフランチャイズのお店を始めたんです。それが22歳の時ですね。

最初は、お客様が全く来なくて苦労しました。でもある時、毎週来てくれる新聞記者さんが、「こんなに美味しいのに人がいないのはおかしい。自分の新聞で紹介するよ」と言ってくださって。紹介された記事は、かなり小さいものだったんですが、そこからいろいろなメディアにご紹介いただいて。気付いたら休む暇もないくらい、お客様が来てくれるようになっていました。

接客も楽しいし、美味しいと言ってくれる声も嬉しい。このままこの仕事を続けようと考えていたんですが、徐々に自分の料理を作ってみたいと思うようになったんです。独立型のフランチャイズでは、決まったメニューしか出すことができなくて。

そこで一念発起して、日本料理の世界へ飛び込みました。それが25歳の時。かなり遅いスタートですよね。実際に修行したお店では、私よりも年下の方が多かったですし。
その遅れを取り戻すために、自分の将来の姿を想像して、その姿になるにはどうしたら良いかを逆算して日々働いていました。調理場にも早い時間に行って、先輩の動きを見たり準備をしたりと、1日24時間では足りないくらい動きました。しかも、妻と子供がいたので修行のお給料だけでは食べていけず、寝る間を惜しんで深夜にバイトをして生活費の足しにしていました。この時のおかげで今があると思っています。

2軒目に修行させていただいたカウンター割烹のお店では、実直さ、手を抜かないこと、コツコツ進む必要性を学びましたね。これまでは、効率よく動くことを考えていたんですが、修行の時は一段抜かしのようなことをしてはいけない、とわかりましたね。わからずとも、無駄かもしれないことをやり続ける。その先に、宝があることがわかりました。

創業して3年でミシュラン一つ星を獲得

―30歳で独立して「御料理 まつ山」を開業されました。

独立は30歳になったら、と目標にしていましたね。場所を北九州市にしたのは、山も海もあるので美味しい食材が手に入りやすいという点と、生まれ故郷なので勝手もわかるからでした。

―オープンしてから、全国の名店を貪欲に食べ歩いたと伺いました。

蛤のおかゆ

オープンしてすぐ、ありがたいことにお客様がたくさん来てくださいました。自分の味に自信をもって邁進していた時に、「ミシュランガイド2014 福岡 佐賀特別版」で一つ星をいただいて。順風満帆だったんですが、ある時、自分のお店には県外のお客様が少ないと感じました。地元の方からご贔屓にしていただくだけでも充分なのですが、それが気になって。

天然縞鯵と虎魚のお造り

それまでは、食べ歩いても「さて、このお店のお料理を吟味しよう」みたいな、なんとなく上から目線で食べていたと思います。ある意味、天狗になっていたんですかね。でも、その状況に気が付いてからは、全国各地の名店で味の勉強をさせていただこうという姿勢になりました。

食べ歩きで気をつけていたことは、料理人とお客様の目線を両方持つこと。料理人は気が付くと料理人の目線でしかお店を見ないことが多いんですが、お客様の目線を大事にすることで、細かい設えやおもてなしなども見えてきて、より多くの気付きを得ることができるんです。今でも食べ歩きは続けていて、そこのお店のご主人の食に対する気持ちや食の流行を真似しなくても、知っておくという意味でも勉強させてもらっています。

料理だけではなく、見えない細部にも手を抜かずにこだわる

―松山様が料理の時に大事にしていることは何でしょう。

4月の八寸

料理って手を抜くのであれば、簡単に抜けてしまうんですよね。「そんなにこだわらなくても、よほど食べ慣れた人でないとわからない」というような仕事が多いんです。でも、それを一つでもちゃんとやらないと全部が手抜き作業になってしまう。この意識ってすごく大事で、していると思っています。

例えば、板場に置く布巾の場所はもちろん、自宅のリモコンが決まった位置にないと気になるんです。この気になる気持ちがないと、仕込みや盛り付けなどに表れてきます。しかも、お客様の目の前で調理をさせていただいているので、適当なことを少しでもしようものなら、お客様にすぐにばれて信頼を無くしてしまいます。日々の癖づけというか、開店前の仕込みの時から、常にお客様に見られているという意識で仕込みをしています。

―四季を大事にする松山様の料理のこだわりを教えてください。

鹿児島黒牛と花山椒のしゃぶしゃぶ

使用する食材は地元のもの、九州産のものにこだわっています。でも、それに固執してはいません。石川県の方が美味しいという食材があれば、迷わず取り寄せてお客様にお出しします。90点の食材であれば、技術で100点まで近づけようと思いますが、100点満点の食材があれば、それを使った方がお客様により美味しいと感じていただけるからです。

料理では、日本の美しい四季をお皿の上でも感じ取っていただきたいと思っています。お出しするメニューは、おまかせにさせてもらって毎月中身を変えています。四季だけを意識するのであれば、その季節ごとに変えればいいのでしょうが、私のお店は、県外と地元のお客様の割合が半々くらいなんです。特に地元の方は毎月来てくださる方が多く、中には月4回もいらしてくださるお客様もいて。ご贔屓にしていただいているお客様に、同じものはお出しできないですよね。

逆に、毎月変わるので名物のようなものがうちのお店にはないんですね。味わっていただきたいのが一品だけではなく、コース全体を通して堪能していただきたいからなんです。
気をつけているのは、素材本来の味わいを壊さないこと。例えば、アスパラは部位によって味が変わり、シンプルに湯がいていただくのが美味しかったりします。でも、それでは家庭の料理ですから、最も美味しく味わえる調理を施した食材たちを、絶妙に合わせて一皿としています。うちの料理は複雑そうに見えると言われるのは、それが理由だと思います。

カウンター席6名のみと少ない席数にしたのは理由があって、自分が納得するおもてなしができる限度の人数だと考えているからなんです。これからも“楽しんで美味しく食べていただきたい”という想いを大事に、この場に立ち続けたいと思っています。

―最後に今後の目標や、やりたいことなどをお聞かせください。

飲食店の将来のために、第一次産業である生産者さんを盛り上げたいと思っています。こだわりを持って仕事されている小規模の農家さんはたくさんいらっしゃるんです。その方たちの悩みは、頑張りに見合わない収入であったり後継者不足であったりと様々。付加価値を付けブランド価値を生み出すことによって、周囲の第一次産業に対するイメージを変えていきたいですね。

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【プロフィール】
1981年福岡県北九州市出身。高校卒業後、専門学校にてエンジニアの資格を取得し20歳の時に大手自動車メーカーに就職。その後、接客業に魅力を感じフランチャイズ系のたこ焼き屋へ転職。25歳の時に本格的に料理の世界へ飛び込み、約5年の研鑽を経て30歳で「御料理 まつ山」を開業する。2014年にはミシュラン福岡・佐賀特別版で一つ星獲得。実績に満足せず、研鑽と挑戦を日々し続けている。
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おまけインタビュー:松山様がよく食べに行くお店はどこですか?
福岡・小倉駅近くにある「天寿し京町店」さんですね。地元北九州の大先輩で、苦労の日々を経て日本でも屈指のお店にのし上げた天野功親方の食やお客様に対する姿勢にいつも感動しています。自分も頑張ろう!という心と体のエネルギーを蓄えることのできる場所です。

割烹・小料理・懐石料理

御料理 まつ山

JR線 黒崎駅 徒歩10分

20,000円〜29,999円

【編集後記】
お話がとても上手で、笑顔の素敵な松山様。現在、「氷菓子屋KOMARU」という和をコンセプトにしたアイスクリーム店のプロデュースもされていて「御料理 まつ山」と同じ黒崎駅エリアにお店を構えているそう。ぜひそちらもチェックしてみてはいかがでしょう。

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「極みの店」をInstagramでも紹介中!
ぜひチェックしてみてください。
https://www.instagram.com/kiwamino/
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※こちらの記事は2023年10月31日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

吉田ふとし

人材業界系メディアの編集・制作を経て、現職。小学生の娘をもつ1児の父。アルコール(日本酒、焼酎、ウィスキー)を好むのは祖母譲り。読者のみなさまには、気づきのある多くの情報をお届けいたします。よろしくお願いいたします。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ジランドール
・好きなお店:広東料理 センス
・自分の会食で使うなら:「赤坂浅田」
・得意ジャンル:和食 / バー
・好きな食材: ジビエ、白子

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