老舗と言えば、どのようなイメージをお持ちでしょうか。受け継がれてきた伝統、先代から伝えられる秘伝の味など、さまざまな印象があるかと思いますが、お店が世代を超えて愛され続け、この令和の時代にも比類なき存在感を放っているというのは、素晴らしい事です。今回は東京都内にある、創業100年以上の老舗日本料理店を7軒、ご紹介いたします。
目 次
1.カウンター席で味わう、こだわりと真心が詰まった伝統の天ぷら
茂竹(東京都/銀座駅)
数寄屋橋交差点から新橋方面に歩いて5分ほど、ビルの2階にお店を構える天ぷら料理店「茂竹」。木の格子状の入口と、真っ白な暖簾の落ち着いた外観は、いたずらに飾らない品の良さが漂います。創業は1913年、現在は4代目店主となる西澤祐太氏が、伝統の技を今に伝えています。
カウンター8席のみのこぢんまりとした店内は、西澤氏と女将の真心が伝わってくるような、心が和むアットホームな雰囲気。使用する食材はもちろん、油や温度にもこだわり、サックリと軽やかに揚げられているのに、しっかり満足感があり、最後まで美味しくいただけます。
2.老舗精肉店が脈々と伝えてきた、時を超える黒毛和牛のおもてなし
すき焼割烹日山(東京都/人形町駅)
「すき焼割烹日山」は、1912年に精肉店を創業し、1935年から飲食を楽しめる場所として運営を開始しました。“格付や産地ブランドにとらわれず牛肉の本質を求める”という信念から、目利きが競りで選ぶ、その日に食べて美味しい牛肉が提供されます。
複数あるコースメニューはどれも人気ですが、なんと言っても「すき焼コース」を目当てに足を運ぶゲストが最も多く、長い歴史の中で培われてきた圧倒的な味への信頼が伺えます。客席はすべて完全個室。そのどれもが老舗ならではの、下町情緒あふれる趣のある和空間の内装で、寛ぎのひとときが過ごせます。
3.希代の文豪も愛した、色褪せぬ心意気を継ぐ江戸前鮨
蛇の市 本店(東京都/三越前駅)
小僧と富裕紳士が、屋台の鮨店で遭遇する事から始まる物語を記した傑作「小僧の神様」という短編小説の著者である、志賀直哉が命名した「蛇の市 本店」。1889年から本格的な江戸前鮨の魅力を伝える名店ですが、板場を預かる親方の物腰は柔らかく、肩に力を入れずに食事を楽しむ事ができます。
新鮮な江戸前のネタに合わせる酢飯は、硬めに炊き上げた米に、赤酢と塩だけで味を調え、あとは煮切りで塩梅をとります。握りを口に運ぶと、口の中で一粒一粒の輪郭をはっきり感じますが、ネタと一緒に滑らかにほぐれていく見事な仕立て。流石の一言に尽きます。
4.メニューはコース1種類のみ、鉄鍋で焼き上げる鴨の魅力
あひ鴨一品 鳥安(東京都/東日本橋駅)
創業は1872年、明治の時代に老舗合鴨料理店として「あひ鴨一品 鳥安」は、オープンしました。打ち水が清々しい昔ながらの石畳の玄関は、時を重ねて情緒に富んだ風景として馴染んでいます。個室のみの客室は、掘り炬燵席とテーブル席から選べ、館内はエレベーターが完備されているだけでなく、バリアフリーにも配慮。幅広い用途で利用しやすい造りになっています。
メニューは「あひ鴨のすき焼きコース」の1種類のみ。合鴨の胸肉を皮付きのまま分厚く切り、備長炭の炭火で熱した鉄鍋で焼き上げます。おろし醬油でいただくと、一口で虜になる味わいです。
5.積み重ねてきた信頼の歴史が届けてくれる、一口目の幸せ
日本橋 伊勢重(東京都/小伝馬町駅)
「日本橋 伊勢重」が、日本橋の小伝馬町にお店を構えたのは1869年。現存するすき焼き専門店の中では東京一の歴史を誇ります。厳しい目で選び抜いた特選和牛の美味しさを最大限に引き出すのは、肉の繊維の流れを考慮した繊細な包丁捌き。すき焼きのコースでは、ここに創業時から受け継がれてきた秘伝の割り下を合わせます。
火入れは、長年使いこんできた水火鉢にて炭火を用います。食欲をそそる香りと調理音に包まれると、誰しも笑顔になってしまう事でしょう。給仕の方に最良のタイミングで取り分けていただけるので、ただひたすらにすき焼きと向かい合う事に集中。噛み締めた時の牛肉と割り下と玉子の調和に、老舗の底力を感じます。
6.美味しさで心が震える、下関直送の天然のふぐや鰻でもてなす饗宴
かねまん(東京都/人形町駅)
この味が、この歴史を紡いできた。創業1880年、東京で初めてふぐ料理の認可を受けた「かねまん」が提供するふぐ料理の素晴らしさは、多くのゲストから賞賛を集めています。長年にわたり、各地に深く付き合いのある鮮魚業者から、厳選した旬の食材が年間を通して入荷できるのは、老舗の強み。
ふぐは本場である、下関から天然のトラフグを直送で仕入れます。「かねまん」の名声を不動のものにした立役者として、吟味した素材の持ち味を活かした「元祖江戸式調理法」を抜きには語れません。ふぐの確かな歯ごたえと、出汁のまろやかな風味が渾然一体となるふぐ鍋は、必食の逸品です。創業140年目を迎えた現在は、80年前に暖簾分けした姉妹店の鰻料理を携え、夏の時期にしか流通しないご当地の天然ふぐを使用した会席料理と合わせて贅沢なコースを提供しています。
いかがでしたでしょうか。時代が変わっても多くのゲストに愛され続ける、老舗が老舗である所以が、どのお店からも伝わってきます。ただ時を重ねたというだけではなく、弛まぬ努力があるからこそ、私たちは幸せなひとときを享受する事ができる。感謝の気持ちで、胸が一杯になる思いです。この時代に生まれた幸せを感じに、皆様にも老舗日本料理店に足を運んでいただけたら幸いです。
※こちらの記事は2023年04月20日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。