新橋「鮨 神楽」望月将氏に聞く、老舗鮨店で磨いた技術力と溢れる自信から生まれる渾身の一貫とは

江戸前鮨を代表する老舗の名店「銀座 久兵衛 銀座本店・新館」にて12年間に渡る修業の末、満を持して独立された望月将氏。2021年10月に「鮨 神楽」をオープンして以来、注目を集めています。望月氏が握るのは、長年の下積み時代に磨き上げた技術と、その経験に基づく自信による珠玉の一貫。今回「KIWAMINO」では望月氏にインタビューを実施し、鮨職人を目指された経緯から、鮨を握る上でのこだわりまで多岐に渡って伺いました。

引き算の美学に惹かれ、鮨の世界へ

―料理人、なかでも鮨職人に興味を持たれたきっかけをお聞かせください。

両親が共働きでしたので、小学生の頃から母親の手伝いで料理をする機会がよくありました。その後も料理に対して興味があったこともあり、高校は地元・静岡県の調理科がある農業高校へ進学しました。卒業後はさらに料理を学びたいと思い、調理専門学校への進学をきめ上京しました。元々はフレンチやイタリアンなどに憧れがあって入学したんですけど、実習中に本当に美味しいと思えるフレンチやイタリアンに出会えませんでした。好みだと思うんですけど、フレンチなどは、基本的に足し算をして綺麗に見せる、美味しくする料理だと思います。一方で鮨は、魚と米のみ。この2つの要素だけを使って、美や美味しさを表現します。「このシンプルな引き算の世界観が僕には合っているな」って思いました。心から美味しいと思えたのも鮨でした。

―「銀座 久兵衛 銀座本店・新館」での12年間に及ぶ修業時代について、特に印象的だったエピソードや、経験を今に活かされていることなどについてお聞かせください。

専門学校で行う調理実習の一環として課外授業があるのですが、その時「銀座 久兵衛」で働かせていただいたのが始まりです。その時の体験が素直に楽しかったこと、職場の人達の雰囲気なども心地いいなって思えたので、そのままアルバイト、そして就職をさせていただきました。
「銀座 久兵衛」では、多くのことを学びましたね。特に下積み時代の経験はなかなか他の店舗ではできなかったと思います。例えば、ホテルに入っている店舗にいた時は、宴会場の利用が入ると1,000人前とかを1回の食事で提供するんです。1人分が4~5貫ですので、4,000~5,000貫分の仕込みを担当します。凄まじい量の魚を捌いていました。

―12年もいらっしゃったら、修業開始したばかりの頃と最後の数年では全く環境も違ったのではないですか?

もちろん仕事内容は異なりますが、昔ながらの店ですので初めてお客様にお金をいただいて鮨を握ったのは9年目とかです。でも、それだけ下積みを積んできたというのは僕にとって大きな自信になっています。個人のお店などでは、一生握っても追いつけない、追い抜けないくらいの量をこなしてきましたので。そこはお客様には伝わるんじゃないかなと思います。皆さん非常に敏感ですし、少しでも自信がない仕事をしていたらそういう負の感情はすぐにばれてしまうと思います。

―中目黒の「鮨おにかい」での経験から独立までの経緯を教えてください。

独立前の2年間は「鮨おにかい」で責任者を務めていました。中目黒には「鮨おにかい」と「鮨おにかい+1(たすいち)」があるのですが、どちらの店舗の立ち上げにも携わりました。もしこの2年間を「銀座 久兵衛」だけで働き、合わせて14年間を同じ店で過ごしていたら、独立しようとはなっていなかったかもしれません。「銀座 久兵衛」では、長い間非常にトラディショナルな仕事をさせてもらえて、基本的な技術や礼儀作法、人への気遣いなどをたくさん学ばせてもらいました。一方で、自主性を求められることはなかったです。“自分でやりたいことがあるなら、独立しろ”というスタンスですね。逆に「鮨おにかい」は、“自分達で作っていこう!色々な発想を持って、今までの経験を活かしつつ、やりたかったことをやってみよう”という環境でした。毎月みんなでメニューを考えて試行錯誤するのは楽しかったです。元々完全独立しようとまでは思っていなかったのですが、35歳までに条件が合えば自分の店を持ってみたいなとは漠然と思っていました。そんな中、34歳の時にお声がけいただいて、チャレンジしてみたいなと思ったのが「鮨 神楽」開業のきっかけです。

ジャズが流れる空間で鮨を楽しんでもらいたい

―10月18日で2周年目を迎えられましたが、手ごたえはいかがでしょうか?

日々必死なのですが、1年半経った頃から、少し心に余裕を持てるようになってきた感じです。ありがたいことにお客様もついて来てくださって、直近1か月は予約が埋まるようになってきました。リピーターさんも15パーセントくらいはいらっしゃると思います。毎月来てくださる方もいますし、季節ごとに来てくださる方もいます。本当にありがたいですね。

―お店では、鮨店では珍しくジャズを流されたりしていますが、お店のコンセプトや、お客様に味わって欲しい食体験についてお聞かせください。

基本的にはお客様には楽しく食事をしていただきたいなと思っています。お店の内観は全体的に白をベースにしていますので、少し緊張してしまうお客様もいらっしゃると思うんです。ジャズなどを流すことで少しでも肩ひじ張らず、和やかな雰囲気で楽しんでもらえたらなと考えています。

―鮨を握る上での仕入れのこだわりについて教えてください。

マグロに関しては特にこだわっています。ちょっと古い考えかもしれないですけど、鮨屋はやっぱりマグロが美味しくないとダメだと思うんですよね。マグロは「鮨おにかい」の頃からお世話になっている仲卸「石司」さんから仕入れています。信頼をしているので、全部おまかせしています。「石司」さんが提供してくれるマグロは、とくにかく美味しいです。季節によってマグロは味が変わります。冬は脂の甘味、春は甘味と酸味の両立、夏は酸味が特徴です。その季節ごとのマグロの魅力が引き立っているものを提供してくれます。

―その季節ごとの特性が光るマグロを1番美味しく食べるために、仕込みや食べ方に何か工夫などはされていらっしゃるんですか?

基本的には、少し早めに切りつけて常温に戻しておきます。そしてお客様にマグロを出す前には必ず温かいものを出して、口の中を温めてもらうようにしています。大体茶碗蒸しを出すことが多いんですが、事前に温かい食べ物で口内を温めることで、マグロの甘味をよりしっかり感じてもらうようにしています。マグロの脂は口溶けが早いので、せっかく食べてもらうなら、食べる前からコンディショニングを整えて、最適な状態で召し上がってもらいたいなって思います。

―シャリに関してのこだわりはいかがでしょうか?

シャリに関しては、香りづけに赤酢、酸味を出すために米酢、味を調えるためにリンゴ酢と3種類のお酢をブレンドしています。まろやかさを出すためにお砂糖も少し使っています。シャリは固めなのが特徴です。結構厚めに切りつけるので、ご飯が柔らかいとネタを食べきる前にご飯が終わってしまうんです。それにしっかり咀嚼して味わって食べて欲しいなと思うので、ネタも柔らかいものはあまり使わないですね。

―これだけは味わって欲しい逸品はなんでしょうか?

やっぱり、マグロです。今は2貫出していて、赤身と中トロまたは大トロです。ただ、12月から少し料金帯が変わるので、マグロの提供は一貫増える予定です。

―自らセレクトされる日本酒やワインとのマリアージュについてお聞かせください。

僕自身お酒を飲むのが好きなので、自分が美味しいと思ったお酒を提供しています。敢えてあまり有名すぎるものはおかないようにしています。できればマイナーだけど美味しいお酒を出したいです。有名なお酒はどこでも飲めるので、ここでしか飲めないお酒を通して新しい発見をしてもらえたら嬉しいですね。

若手に活躍の場を設け、鮨職人を育てたい

―現在挑戦されていることや、今後取り組んでみたいと考えられていることについてお聞かせください。

自分はもう人を育てるという年代ですので、少しでも握り手を増やしていきたいと思っています。今は2人で切り盛りしていますが、来月新しく2名新人が入るんです。体制が落ち着いたら2号店なんかも考えていきたいなって思います。今も平日のランチタイムは2番手に握ってもらっていますし。少しでも若手が握る機会を作っていきたいと思っています。何回か専門学校の講師もさせてもらいましたが、鮨って人気がないんですよね。40~50人いる日本料理専攻の中でも、3人くらいしか希望者はいなかったりするんです。鮨職人を目指す人が挑戦する場を、自分が少しでも提供できたら嬉しいですね。

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望月将氏プロフィール
1987年3月、静岡生まれ。老舗鮨店「銀座 久兵衛 銀座本店・新館」で12年間修業。
その後「海老天 海苔巻き」などで知られる中目黒「鮨おにかい」「鮨おにかい+1」の立ち上げに携わり、独立。2021年10月、新橋に「鮨 神楽」をオープンし今に至る。
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https://kagura-shimbashi.com/

編集後記
長年に渡る名店での経験と、そこで得た技術を軸に腕を振るう望月氏。望月氏の所作からは、確固たる自信がひしひしと感じられました。そんな大将が握る珠玉の一貫、ぜひ味わってみたくなりました。

※こちらの記事は2024年03月29日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:銀座レカン/シンシア/Heritage by Kei Kobayashi
・好きなジャンル:フレンチ/鮨/肉料理
・最近行ったフレンチ:ラルジャン/apothéose/渡辺料理店/フロリレージュ
・好きな美食宿:ホテルリッジ/sankara hotel&spa 屋久島

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