大阪「上方中華 新瓊」新谷亮人氏に聞く、中国と関西の食文化が融合した“上方中華”とは

大阪・中崎町駅から歩いて約1分、2022年にオープンした中国料理店「上方中華 新瓊(かみがたちゅうか しんたに)」。「ミシュランガイド京都・大阪2023」では一つ星を獲得し、今注目を集めています。今回は、オーナーシェフ・新谷亮人氏にインタビューを実施。これまでに新谷氏が料理人として歩まれてきた道のりと、ご自身が提唱されている“上方中華”という新たな中国料理の概念について、詳しくお話をしていただきました。

中国料理人としての原点、そして情熱と技術を磨き上げた修業時代

-新谷さんが料理人を目指された経緯、特に中国料理を選ばれたきっかけについてお聞かせください。

うちは家業として中国料理店を営んでいたんです。両親ともに料理人で、僕も5歳くらいから焼売や春巻きを包んだり、小学校の時にランドセルを背負いながら肉団子を包んで油の中に入れたりと、小さな頃から中国料理と向き合って生きてきました。それで物心つく頃には「この業界で活躍したい」と思うようになっていました。

なので“中国料理を選ぶ”という考えではなく、元々身近にあった中国料理をやるために料理業界に入っていった感じですね。調理師学校には1年間行かせていただいて、その後に京都にある「青冥(ちんみん)」というお店に入社しました。

-幼少期から、自然と中国料理と触れ合う環境にいたのですね。修業時代でご経験されたことについて、特に印象に残っていることなどはありますか?

「青冥」

「青冥」では、台湾出身シェフの下で6年ほど仕事させていただいたんですが、そこで中国料理の奥深さや、豪快さにすごく魅了されました。元々やりたかった中国料理というものに対して、さらに追及したい気持ちが強くなる感覚でした。

でも、その方のご紹介で、台湾で料理の仕事をさせていただく機会があり、その時に現地で「君は日本人なのに、なんで中国料理をやっているの?」と言われたことがあって、その言葉が胸に刺さりました。それまでは特に意識していなかったことを気づかされたというか。それが後々“日本人として中国料理をやることの意味”を考えるきっかけになっていきました。

「知味斎」

その後は日本に帰ってきて、千葉の「知味斎(ちみさい)」というお店にご縁があって行かせていただきました。創業者の小笹六郎さんとお話させていただく機会があり、野菜や醬(ジャン)、麺もすべて自家製で、自家菜園の野菜を使って料理を出されて、中途採用はほとんど採らないことで有名なお店でしたが、何とか入店する事ができました。

そこで働いた経験によって、僕の料理に対する情熱や姿勢といったものが、さらに1つギアが上がったように思います。そのお店では技量も精神も磨かれました。食通のお客様が沢山来られるので、日々緊張感をもって仕事にトライできる環境で、とても大きく大切な日々を過ごしました。

-中国料理人として、着実に実力を上げられていったのですね。そのような経験を経た後、いつ独立開業をされたのでしょうか。

親のお店を継ぐために、30歳手前のタイミングで大阪に一度戻りました。でも僕は、今までに積んだキャリアを元に自分の納得いくスタイルを維持しつつ、地方都市で2代目としてお店を成立させる、というやり方は難しいんじゃないかと感じていました。
そのことを親に話して、独立の道を進ませてもらったんですが「戻りたくない」というのと「やるからには結果を出す」という気持ちで、当時は本当に一生懸命やったのを覚えています。

-そのお店が大阪・江坂にあった「中国采 老饕」ですね。

はい。そのお店では「中国料理を研鑽したい」と思って、日本でも根付いている代表的な、麻婆豆腐や青椒肉絲、海老のチリソースなどの中国料理をしっかりと作っていました。王道で勝負してみて、自分がやっていけるのかどうかを力試ししたかったんですね。
そこでは15年間やらせていただき、業績も上がって、自分なりに一通りできたという達成感を感じるところまでいけました。

「じゃあ、次は何をするのかな」と考えた時に、以前に台湾で言われた「なぜ日本人なのに中国料理なのか」という言葉が、心のどこかにずっと引っかかっていたことを思い出したんです。すると「やはり日本人としての誇りを持った仕事をしていきたい、生まれ育ったこの関西を背景に勝負してみたい」という気持ちが湧いてきました。

それで次のステップとして、関西の食文化を今までやってきた中国料理の形で発表していくのがいいんじゃないかな、と思って“上方中華”というものを作り出そうと思いました。
“上方”とは、広く京阪地方を指す言葉です。それに“中華”を合わせることで、他のどこにもない“関西で生まれる中華”を表現しようと思って、考えた概念でした。

中国と関西の食文化が融合することで生まれる“上方中華”とは

-「上方中華 新瓊」をオープンされてから1年半ほど経ちますが、お客様からの反響はいかがですか?

僕はいつも「お客様には新しい体験をして欲しい」と思っています。そしてありがたいことに今、多くのお客様に来店していただき、「初めての感覚!」というお声を多数頂戴しています。その理由は、僕が気を衒うのではなく、中国料理人と言う角度から関西食文化を受け捉えている事にあると思います。

僕は中国料理人として“四川料理”や“広東料理”と同じように“上方中華”という1つのジャンルを作り上げる感覚でやっているんです。“関西風の中国料理”ではなくて、関西の食文化や土壌だからこそできる中国料理、という新しい文化を作って、根付かせたいと思っています。

-中国と関西の食文化の融合によって生まれる“上方中華”の核となるものは何でしょうか?

“上方中華”の核として譲れないものは、スープです。中国語でも“歌舞伎の演劇、シェフの出汁”という意味の言葉があるんですが、言わば“スープを制する者が、料理を制する”ということですね。一つひとつの料理に香りや味の振り幅を生み出す、出汁をきっちり取ったスープこそが料理の“陰の主役”なんです。
そしてこれは、中国料理では「湯(タン)」、関西料理では「出汁」として共通している部分でもあります。

-中国の「湯(タン)」と関西の「出汁」の、それぞれの特徴を教えてください。

まず日本の方から説明すると、関西の「出汁文化」というのは、昆布出汁が主でかつ澄んでいるものが好まれます。着色されておらず、濁ってもいなく、非常にクリアで澄み渡っていて旨味があるスープ。一口で「うん、美味しいね」という分かりやすさだけではない、滋味深さが最大の特徴です。

一方、中国料理はより振り幅があります。関西出汁と同じように滋味深く、澄んだ「清湯」、旨味の強い「上湯」「頂湯」というような出汁もありますが、反対にコラーゲン質を重んじる事により、白濁させて旨味を濃くアピールした「白湯」「濃湯」というスープもあります。さらに動物系・魚介系などでまた分かれます。
近年は日中共に、野菜やキノコ出汁が発酵工程を含め非常に注目されています。料理人のセンスを問われるスープでもあり、時代に求められているように思います。

-そのような出汁の取り方の違いは、料理によって使い分けられるのでしょうか。

はい、使い分けています。僕はその出汁の取り方で、さらに関西圏で取れる食材を使うなどして “関西だからこそ生まれる中国料理”を追求しています。
例えば、従来の中国料理では“金華ハムや豚肉、鶏肉などを入れて、ネギやショウガ、陳皮というミカンの皮を加えて、一定時間煮込む”という出汁の取り方があるんですが、その方法だと、えぐみを感じたりもするんですね。
それを関西的に削ぎ落としていく。全部入れずに、肉類と昆布だけで出汁を取る。ネギやショウガを効かせたければ、料理の最後の仕上げとして入れればいい、という感じです。
そうすると雑味が少なくなって、味や香りの輪郭がはっきりとしてきます。

さらに素材だけでなく、出汁を取るのに合わせて鍋も、圧力鍋・土鍋・寸胴鍋などと変えて、お水も硬水・軟水・電解水・水道水の4種類からベストなものをチョイスしています。“食材とお水をどうしたいか、一つひとつの料理でどのようなことを伝えたいのか”というビジョンを明確にすると、そのように余計なものを選ばなかったり、削ぎ落としていったりする作業に入っていきます。なので、うちの料理はお客様から「中国料理なのに、すごくスッキリとしてる」と言われることが多いです。味と香りはしっかりあるのに、スッキリとしていて、変なしつこさや重たさがない。そのような感想を持ってもらえたら、自分がやろうとしていることがちゃんとお客様に届いているな、という実感が湧きますね。

-新谷さんが特別に味わって欲しいスペシャリテの一皿などはあるでしょうか?

僕のスペシャリテは「ナマコ」です。料理名は「一品海参」といって、湖南料理の一皿なんですが、これには瀬戸内の小豆島で上がってくるナマコを主に使用しています。関西のナマコは肉厚ですし、中国では特級品として取引されているんです。それを関西圏の地場で使わずに、海外ばかりに流しているのがなんか歯痒くて。

ナマコは、見た目も含めてとても個性的ですが、僕はこれから可能性のある食材だと信じています。中国料理でフカヒレや鮑が大変人気なのは百も承知ですが、地場で採れるこの個性的な材料を使って、美味しく仕上げられるのであれば、これも“関西だからこそ生まれる中国料理”という、僕が発信したいことにつながります。

関西の食材や日本食と、中国の料理というダブルの視点で勉強を続けていると、見えていなかったものが段々と見えてくることがあります。その2つを重ね合わせたところで「あ、これを表現していけばいいんだ」というものに気づくことがあるんです。それを形にできると、自分も“上方中華”を表現できている実感を得られますし、お客様もそれが楽しみでご来店されて、また喜んでいただける。非常にいい関係性が生まれるなって思うんですね。

“上方中華”をもっと沢山の人に体験してもらうためにできること

-新谷さんが現在挑戦されていることや、今後取り組んでみたいことがあればお聞かせください。

それはもちろん「“上方中華”をもっと根付かせて広げていきたい」ということなんですが、ここ数年のコロナ禍を経験してから、お店にわざわざ食べに行く意味というものを非常に考えるようになりました。

実は屋号にある「瓊」という字は、日本語なのですが、中国の意味では“居心地の良い空間”という意味があるんですね。お店側からすると、味も空間もサービスも、お越しいただいて体験してもらう他はないんですが、場合によっては、お越しいただけない様々な理由もある。来店していただくことだけが料理人の仕事でもないような気がしていまして。

なので、例えば「食の会」のようなイベントに出るとか、企業とのコラボレーションとか、そういったことに自分から参加していきたいな、と最近は思っています。
今よりもっと沢山の人に体験していただける機会が増えるなら、お客様が来るのをお店で待つだけでなく、自分からも動いて活動の幅を広げていきたいですね。

新谷亮人氏 プロフィール
大阪で中国料理店を営む家に生まれ、幼少期より中国料理人を志す。京都「青冥」、千葉「知味斎」で湖南・四川料理を学び、2006年に大阪にて「中国采 老饕」を開業。15年間、同店にて王道の中国料理を提供し続けた後、2022年に「上方中華 新瓊」をオープン。関西と中国の食文化を融合させた“上方中華”を提唱し、開業1年目にして「ミシュランガイド京都・大阪2023」で一つ星を獲得する。

https://www.kamigata-shintani.com/

【編集後記】
ご自身が掲げる“上方中華”というコンセプトについて、情熱をもって語ってくださった新谷亮人氏。関西の食材、中国の技法、そしてそれぞれの食文化が融合して生まれる魅力が、インタビューを通してひしひしと伝わってきました。“唯一無二”の中国料理を、ぜひ一度体験してみてはいかがでしょうか。

Katayama yuta

神楽坂在住の、外食を楽しむ編集部メンバー。
旬の食材を活かした料理がとても好きで、特に季節の野菜にはこだわりが。
気になった食材は、採り方などまでしっかりと聞き込みます。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:南青山 七鳥目/鮨 はしもと
・好きなお店:笠井/ひらまつ 広尾
・注目しているお店:比良山荘/cenci
・好きなジャンル:和懐石/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:季節の旬野菜/お肉/麺類

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