名古屋「GapricE」上之薗遼氏・宏奈氏に聞く、こだわりの食材で夫婦が織り成すイタリアンとデザートの魅力とは

名古屋・池下駅から歩いて約5分の場所にある「GapricE(ガプリス)」は、2022年11月にオープンしたイタリアンレストラン。シェフ・上之薗遼氏とパティシエ・宏奈氏がご夫婦で営まれています。今回は、KIWAMINO編集部がお二人にインタビューを実施。お店のコンセプトやダブルシェフ体制のお話など、詳しくお聞かせいただきました。

サッカーの指導者を目指していたなか、アルバイトを機にイタリアンの道へ

-まずは、料理人になったきっかけをお聞かせください。

遼さん:実は、もともと料理の道に進もうとは思っておらず、専門学校もスポーツ系のところに通っていたんです。子供にサッカーを教える指導者になりたくて。

一方で、高校生の頃からずっとイタリアンのお店でアルバイトをしていたこともあって、料理も面白いなと思っていました。個人店だったこともあり、サービスから料理まですべてやらせてもらえたので本当に様々なことを経験できて。いざ就職となったとき、どちらの道を進もうかと考えて料理の道を選びました。

-修業時代のエピソードや、印象に残っていることはございますか。

遼さん:専門学校を卒業後は、アルバイトをしていたお店で社員として2年ほど働かせていただきました。僕はもともと食べ歩きが趣味で、当時も色々なお店へ足を運んでいたんですが、中でもイタリアンの「ガッルーラ」さんは特に美味しくて。ずっと「ここで働きたいな」と思っていたので、お店に直接お願いをしに行ってみたところ、念願叶って働けることになりました。

オーナーシェフの森岡さんは、まさに“背中で語る”ような方でしたので、基本は2番手の方に色々と教えていただきました。お店はいつもキッチンや調理道具をピカピカに保っていて、最近も伺ったのですがやっぱり綺麗なままで。綺麗な料理を作られる方って、キッチンも綺麗なんですよね。働いた期間は1年ほどでしたが、今でも多くのことを見習っています。

その後は、ウエディングやホテルを手掛けるレストラン会社で8年ほど働きました。具体的には、婚礼施設に併設するイタリアンレストランの責任者として、コースの開発なども手掛けながら、昼は婚礼会場にお出しする料理を作り、夜はレストランで働くかたちですね。

「THE AOYAMA GRAND HOTEL」を展開している会社でしたので、オープン時は東京でも働いていたんです。東京にいた1年半くらいの期間もたくさんのレストランを食べ歩いていたのですが、だんだんと「自分のお店で、自分で表現した料理を出したい」と思うようになって、名古屋に戻ることを考え始めました。

-その後、独立までの経緯についてお聞かせください。一時期は、有名人のパーソナルシェフを務められていたこともあるそうですね。

遼さん:東京から名古屋に戻ろうとしたタイミングで、ちょうどSNSで料理人を募集していたのを見つけまして。有名な方の料理人とのことで連絡をとってみたところ、「数週間後にある食事会のシェフが足りないのでお願いしたい」と言われました。

「東京へ出てきた記念にやってみようかな」くらいに思っていたのですが、気に入っていただけたようで。トータルで1年ほどのお付き合いになり、ハワイをはじめ、ロシアにも1か月ほど同行していました。名古屋に戻ってからは、自分のお店を出すために物件探しを始めて。同じ頃に妻と結婚したので、2人で話し合いながらゆったり決めることができました。

ご夫婦が好きなネコのモチーフを散りばめた、スタイリッシュな空間

-お店の看板や食器など、ネコをモチーフにしたものが印象的です。お店にはどのようなコンセプトがあるのでしょうか。

遼さん:僕も妻もネコが大好きで、今も2匹のネコと一緒に暮らしているんです。それもあって、「お店もネコっぽい感じにしたいよね」と話していました。店名の「GapricE」は「gatto=ネコ」と「Caprice=気まぐれ」という言葉からできた造語です。

僕自身、ちょっと気まぐれっぽい感じで料理を作ることもあるので(笑)。そういう部分も、お客様には楽しんでもらえたらいいな、という想いで付けました。
イタリアンはもちろん、ネコが好きな方も結構お店にいらしてくださいますよ。

-内装やサービスなど、ゲストが心地よく過ごせる空間づくりについて心がけていることはございますか。

遼さん:内装はデザイナーさんに入っていただきました。店内はわりと暗めですが、照明がスポットライトのように料理に当たるよう設計されていたり、他のレストランよりもテーブルの間隔にゆとりを持たせています。なるべく料理に集中できるような空間を意識しました。

あとは、キッチンもシンプルさを追求するために特殊な造りになっています。オープンキッチンとも言えますが、お客様には鍋を振っている手元は見えません。盛り付けをしているところが見えるくらいで、客席からはなるべく何も見えない状態にしたかったんです。絵も飾っていませんし、テーブルの上にはパーテーション代わりの植栽だけ。かなり削ぎ落とした感じですね。

自らが美味しいと思える食材で、シェフならではのイタリアンを表現

-料理には、和の食材もよく使用していると伺いました。普段どのような部分を意識して、「GapricE」ならではの料理に仕上げているのでしょうか。

遼さん:意識して和の食材を使っているわけではないのですが、海外でも料理をしてきて、やはり日本の食材はすごく美味しいと感じました。普段僕が作っているのって“ガチガチのイタリアン”ではないと思っていて。イタリアンの要素を入れながら、日本の美味しい食材を使って僕ならではの料理を“ご提案”しているイメージですね。

食材だけでなく「魚醤」や「肉醤」といった日本ならではの調味料も使っていますが、オリーブオイルはイタリアのものにするなど、素材に一番適したものを使い分けしています。

-食材を選ぶ際、こだわっている部分などはございますか。

遼さん:自分で足を運んで手に取った食材、実際にお会いした生産者様のお野菜などを使うことが多いです。今の時代はSNSでもたくさんの方が宣伝していますので、実際にお野菜を食べに行って自分が美味しいと思えるものを使うようにしています。

魚介類については基本的には地のもの、西浦の漁港のお魚で、お肉は近江牛をよく使っていますね。お肉はレストラン会社時代からのご縁がありまして、担当の方にはとても良くしていただいています。当時は様々な産地へ足を運んでいたので、そういった繋がりを活かせているのはありがたいです。

パティシエが食材の魅力を最大限に引き出したデザートにも注目

-料理だけでなく、デザートも「GapricE」の大きな魅力だと感じます。宏奈さんが、デザートづくりでこだわっている部分についてお聞かせください。

宏奈さん:料理と同様に、デザートも食材にこだわっています。私も前職は主人と同じレストラン会社に勤務しており、パティシエのリーダーなどを経験してきました。長いこと愛知で働いていたのですが、あるとき転勤で福岡に行く機会がありまして、外へ出てみたら九州にも美味しい食材がたくさんあることに気付かされたんです。

自分の目で見たり、食べたりして、美味しい食材に触れることはできましたが、やはり会社という大きな組織に属しているので、考えなければいけないことがたくさんあって。小さい農家さんだと、すごく美味しい食材でもいただける量が少ないので契約できないとか。あとは、自分だけでなく他のメンバーにも扱いやすい食材かなど、色々なことにとらわれていました。

しかし、今は食材を扱うのも、実際にデザートを作ってお客様に提供するのも、感想をいただくのも自分ですから、自分が本当に良いと思う食材を使いたいと思うようになりました。以前は使うのを諦めていたフルーツも、今なら使えたりするので、そこにしっかり感謝をしながら、食材をもっと美味しいかたちでお客様にご提供したいです。

仕入れについては、例えば完熟状態が美味しいイチゴなどは、なるべく採れたてのものを出せるように地のものを使い、柑橘類などその他のフルーツは、追熟するものが多いので全国から取り寄せています。これまでに食べたことがない食材を食べて喜んでくださる方もいらっしゃるので、食材をメインとしたデザートが作れるようにと考えています。

-料理とデザートの組み合わせやコース全体の流れについて、普段はどのようにお二人で話し合われていらっしゃいますか。

遼さん:メニューは月替わりですので「来月はこんな感じにしたいね」と、2人で話し合って決めています。実際に試作を作って、2人で食べて。そこで「もっとこうしたほうがいいんじゃない」とか、何度かやり取りをしながら実際のコースに落とし込みます。

宏奈さん:2人とも作りたいものがはっきりしているので、お互いがちゃんと美味しいと認め合えるもの、満足できるものをお出ししたいです。私の作るデザートも、主人が美味しいと言ってくれたらきっとお客様にとっても美味しいものではないかなと。

-お二人で様々なレストランへ足を運ばれているそうですが、そういったときにインスピレーションが湧き上がることもあるのでしょうか?

遼さん:最近は、お店もあるので月に1度くらいになってしまいましたが、以前は頻繁に2人で出掛けていました。「あの料理美味しかったね」とか「ああいう風に作ってみるのはどうだろう」とか、過去に行ったレストランのことを思い出しながらメニューに落とし込むことは結構ありますね。

ご夫婦で思い描く未来図とは

-今後挑戦してみたいことや、未来への展望などがあればお聞かせください。

遼さん:いつか一軒家レストランをやりたいなと思っています。一軒家のお店を一からちゃんと造って、1階がレストラン、上の階を住居にしてネコがいるみたいな。あとは、もし機会があればミシュランも狙いたいです。

ちょっと違う方向だと、今ECサイトに着手し始めているんです。僕はもともとトレーニングが趣味なので、プロテインチョコレートのようなものを販売してみたくて。最近はフィットネスブームなので、需要もあるのではないかと思っています。

-宏奈さんはいかがですか?

宏奈さん:来年や再来年といった直近の話であれば、少しお店が落ち着いた頃にデザートコースを楽しんでいただけるようなイベントをやってみたいです。

以前「THE KAWABUN NAGOYA」で働いていた頃にもデザートコースのイベントをさせていただいたことがあり、たくさんのお客様が足を運んでくださいました。今も結構リクエストをいただくことが多いので需要もあるかなと思っています。

-お二人とも、未来についての希望が明確化されていらっしゃいますね。

遼さん:2022年の11月にオープンしてから半年ほどしか経っていないので、まずはお店を続けていくことが最優先ですね。やっと流れがわかって、落ち着いてきた頃ですので。最近は常連さんもついてきてくださっているので、お客様が帰ってきやすい場所、また来たいと思ってもらえる場所を作っていくのが使命だと思っています。

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上之薗 遼氏 プロフィール
愛知県出身。サッカーの指導者を目指し専門学校へ進学するも、イタリアンのお店でのアルバイトを経て料理の道に進む。「ガッルーラ」での修業を経てウエディングやホテルを手掛けるレストラン会社に就職。8年勤め上げたのち、(株)ZOZO創業者の前澤氏のパーソナルシェフなどの経験を経て、2022年「GapricE」をオープン。
上之薗 宏奈氏 プロフィール
愛知県出身。ウエディングやホテルを手掛けるレストラン会社にて勤務。パティシエのリーダーとして仕入れやメニュー構成等を担当したのち、遼氏と共に「GapricE」をオープン。

https://gaprice.therestaurant.jp/

【編集後記】
柔らかな笑顔が印象的なご夫婦のインタビュー。お話の内容やお二人の間に流れる雰囲気から、信頼し合っている様子が伝わってきました。ネコのモチーフをところどころに散りばめたこだわりの空間で、「GapricE」ならではの料理とデザートをゆっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。

※こちらの記事は2023年08月20日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Yuri

校正の仕事に興味を持ち、スクールを経て一休コンシェルジュ編集部へ。好き嫌いはほぼなし。食べることが大好きで、どんなものでも美味しく・楽しくいただきます。編集部メンバーとのお店巡りが最近のマイブーム。もう少しお酒が強くなりたいと思う今日この頃です。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:さ行/デンクシフロリ/BLESS/レストラン プルニエ/ラフィナージュ

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