インタビュー|

名古屋「懐食庵 なかたけ」中武正行氏に聞く、上質な大人が集う紹介制割烹のお店作り

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名古屋某所に、マチュアな大人が集う隠れ家のような高級割烹があります。「懐食庵 なかたけ」は看板のない、知る人ぞ知る完全紹介制のお店。事前の予約のみのコース料理で、旬の食材が和食をベースに様々な手法で楽しめると評判です。今回は、主人の中武正行様、女将の中村真生様に、上質な雰囲気で非日常気分を味わえるお店作りについて伺いました。

「懐食庵 なかたけ」ならではのオリジナリティ

―中武様は、修業時代にどちらで働かれていたのでしょうか?

就職したのは、高校を中退後。何か仕事をしないといけない、ということで。色々やったのですがなかなか続かなくて、たまたま続いたのが料理の仕事でした。
実家は千葉ですが、親がもともと転勤族だったので、16歳の頃に北海道にいたんです。北海道の鮨屋で5年程働き、鮨を覚えました。その後10年程働いた、名古屋の石川橋にあった「東花庵」という和食店を始め、5~6店舗程経験してから独立しました。

―最初のお店である「懐食庵 なかたけ」人情屋台 今池店は、どのようにして始められたのでしょうか。

もともと、ずっとお店をやりたいと思っていました。
「東花庵」がお店を閉めたときに鍋や器などを譲っていただき、いつでも独立できるようにと思っていたのですが、なかなかお金が無くて。たまたま先輩に「人情屋台」に連れて行っていただきました。「人情屋台」は日払いで家賃を払えば誰でもできるということを知り、働いていたお店を辞め、1か月後にはもう始めていました。
もともとベースは和食をやりたかったので、居酒屋以上割烹未満という感じで考えていました。

―女将にも最初のお店で、お客様として出逢われたそうですね。2019年8月に「懐食庵 なかたけ」を中区新栄町に開業されましたが、完全紹介制としてオープンされた理由は?

次のお店を始めるときに女将に出逢い、女将を置きより手厚いサービスを提供出来るお店を創ろうと思いました。
完全紹介制としたのも、今池の「人情屋台」のお店に来てくださっていた方は良い方々が多くその当時のお客様方により贅沢なお料理やサービスを提供したいと思ったからです。

中途半端にやるよりそういったお店を気に入って来て下さるお客様に絞った方が良いのかなと、思い切って始めました。
最初の3か月位はお祝いに来て下さるお客様方の予約で埋まっていたのですが、3か月後にパタッと止まっちゃって。ただ、その後も残ってくれたお客様からの紹介で、今も繋がってお店を続けています。

―新規の方はなかなか訪問できない「懐食庵 なかたけ」の良さを知るご常連の方が、どんどん紹介されているというスタイルですね。

東京からだと分かりづらいかもしれませんが、今のお店の場所は名古屋の中でも中心地から少しだけ離れた場所で一見さんだとどうしてもお店のコンセプトや提供の仕方などに相違があると思ったので、敢えて閉鎖的にしました。
今は看板も表に出さず、暗証番号での入店というシステムでかなり絞って営業をしています。実際にやってみて、紹介の方と、そうでなく入って来たお客様とでも差が出てくるので、今の形を続けさせていただいています。
お店で知り合った人同士で仲良くなって一緒にご来店されたり、他のお店に食事に行かれたりするケースも多いですね。完全紹介制のカウンターならではの世界というか、お店の雰囲気などを理解して下さるお客様のみになるのでお客様同士も安心感があると思います。

―名古屋でお店を営む上で、他のエリア(のお店)との違いなどがあれば教えて下さい。

「名古屋ならでは」というものは意識していませんが、ここでしか食べられないという特別感を提供することは意識しています。
皆さんが良いお店に食べに行くというとき、京都に行かれることが多いじゃないですか。
「京都にあるお店みたいな感じだね」と言われることが無いように、むしろ京都からも名古屋の「懐食庵 なかたけ」を目指して訪れていただけるようにしたいですね。
料理の内容はなるべく素材を活かし、見た目はモダンですが、食べると素材がしっかり分かるような料理を目指しています。

今の時期なら、カニを丸々使ってカニで出汁を取り、釜飯を炊いて「カニかご飯かどっちが多いか分からない」と言われる程の迫力のものをお出ししたり、お店のモダンな造りに合うようにモダンな土鍋を作ってもらったり。器も好きなので、料理に合う器を探してこだわっています。たまに買いすぎると窘められますが。

―色とりどりの八寸を始め、一つ一つの盛り付けの彩りが器も含めて綺麗だなと思いました。どういうところからインスピレーションを受けていますか?

色々なものを見るということですかね。インスタもよく見ますし、食べ歩きもします。同じ位の単価のお店になるべく行って。和食だけでなく、イタリアンなどにもよく行きますね。
食材はどこのものを使う、というのは意識していませんが、常に良い食材を仕入れて使っています。五島列島から直送する魚もあれば、中華食材を使ったり、フレッシュなポルチーニを取り寄せて釜飯を作り、トリュフを削ることもあります。
洋食材を使ったものを一品は作りたいと考えていて、ここでしか食べられない、オリジナルを大事にしたいです。「京都行きたいね」ではなく「『なかたけ』行きたいね」という。“美味しいのは当たり前で、帰りに楽しかったと言ってもらえるのが嬉しい”ので、そんなお店作りを目指しています。

コロナ禍に飛躍する「なかたけ」流のお店作り

―2021年で移転されて2周年。コロナ禍も経験しながら、その中で取り組まれたことをお聞かせください。

もともと閉鎖的なお店なので、それが逆に良く働きました。タイミングや、これまでやってきたことが重なって良かったと思います。客数も少ないし、5人位で貸切もできますので、逆に「ここに来たら安心だね」とお客様からも言われます。指定通りの時間を守って営業していましたが、取り組んだということは特にないですし、コロナだから何、というものはなかったです。

―完全紹介制という部分もプラスだったのかと思いますが、特にどういう点がお客様に支持されたのでしょうか?

閉鎖的で安心感があるというのもありますが、海外旅行などに行けなくなった分、お金を使いたいという方も一定数いたと思うんですよね。単価も高い金額をいただいているので、「贅沢」ということは意識しています。
お店に来るということで非日常を味わえるというか、ここに来たら最高の贅沢ができるという体験をしてもらうというか。

―おもてなしをされる上で心掛けていることは?

(女将)コロナ禍ということもありましたし、情勢的に気持ちが落ちている時期が続いているじゃないですか。
女将に話しに行けば楽しいとか、暗い気持ちが明るくなったというように言ってもらえるような雰囲気作りをしています。

―2021年8月には「別邸 なかたけ 縁」をオープンされました。

色々な縁が重なったのと、タイミングですね。人がいないとできないということもあります。10年程働いている中で、前のお店で働いていたときに目をかけていた2人がいて。その後、それぞれ違うところで働いていたんですが、新しくお店をやりたいということで声をかけたら、二つ返事でやります、と集まってくれて。そう言ってくれた子がいたというのも大きいです。

―中武様の信頼できるメンバーが集結されたということなんですね。2店舗目のお店のコンセプトは?

別邸 なかたけ 縁

美味しい和食を食べながら、女性を口説きたくなるようなお店。こことは雰囲気が全然違いますね。バーやカジュアルダイニングのような感じで、しゃれた男の子たちが美味しい料理を。創作っぽい料理を心掛けてやっています。若い子がお店をやるというのと、客層のターゲットを考えて。味は、僕の味をベースにやってもらっています。

女将がプロデュースで、お店の配置や調理器具は僕が決めましたが、それ以外はほとんど口を出していません。

別邸 なかたけ 縁

(女将)うちと同じじゃ面白くないし、全く違うものを作りたいなと思ったんですね。オープンして3か月、やっと形になって来て、できあがってきたかなという。
2店舗目も「美味しいのは当たり前、帰りに楽しかったと言ってもらえるような店」になることを目指しています。楽しかったな、って思うところはまた行くじゃないですか。味がめちゃくちゃ美味しくても、お店が面白くなかったら行かないですよね。

―2つのお店を運営される上で、今後挑戦されたいことは?

お店をやっていく中でできてくるかもしれないですが、今は特にこれ、というものはありません。しいて言えば「懐食庵 なかたけ」では2~3人、「別邸 なかたけ 縁」は社員2人とバイトの子2人位で回していますが、今は若い子を育てたいという気持ちがありますね。

(女将)「なかたけ」に集うお客様と一緒にお店を作っていく、ということをこれからは表に出していきたいと思います。誰でも行けるお店より、行けないお店の方が行きたいと思いますし、「なかたけに行ったよ」と来たことを人に話したくなる。来れたときの感動もありますよね。
限られた枠のお客様だけが来れるという特別感をより一層楽しんでもらえるお店創りを目指していきたいですね。

【プロフィール】
中武正行
16歳で寿司の道に入り、21歳で寿司職人では無く、先輩のアドバイスの元割烹(和食)に転向、以来自分の味を追求してきた。その後和食、高級肉割烹での経験を元に「懐食庵なかたけ」を開業。味を足さずに、引き算の料理、余計なものを足さないことが得意で、炭の扱いにたけている料理人。現在は2店舗目となる「別邸なかたけ縁」を開業。

【編集後記】

最高の贅沢を味わっていただくために、最高の食材を用意し、お店の空間も最高の形で提供したい。来店の敷居を高くしている理由には、訪れる客人が心地良い雰囲気の中で非日常の体験をしていただくため、という心遣いがありました。2店舗目は食事と共に訪れた人が気軽にくつろげるお店を、と店ごとのコンセプトを考えて敢えて分けていらっしゃる点に、時代に見合うお店作りの一端を垣間見た気がしました。一座建立で美味しさを共有する「懐食庵 なかたけ」。完全紹介制のため予約の難易度は高いですが、幸運にも訪れるチャンスがあれば、名古屋の美食空間をぜひ堪能してみてはいかがでしょうか。

割烹・小料理

懐食庵 なかたけ

地下鉄東山線 新栄町駅

30,000円〜39,999円
割烹・小料理

別邸 なかたけ 縁

名古屋市営地下鉄桜通線 車道駅 4番出口 徒歩5分

8,000円〜9,999円

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。高級旅館のお取り寄せが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:鮨 あお / 西麻布野口 / むろまち 加地 / 鮨 しゅん輔
・好きなお店:鮨 梢 / 日出鮨 / SECRETO / リストランテ ラ・バリック トウキョウ
・自分の会食で使うなら:鮨 みうら / 中国飯店 富麗華 / エディション・コウジ シモムラ
・注目しているお店:胃袋 / アラマントス / TROIS VISAGES
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材:キノコ

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