【対談】東京「たでの葉」小鶴清史×熊本・川漁師 田副雄一~生産者と料理人、食材に対するこだわりと思い~

自分がイメージする最高の一皿をお客様に提供する料理人のそばには、その思いを叶えるためサポートする生産者たちの姿が必ずあります。今回「KIWAMINO」では「料理人×生産者対談」という形で、料理人の食材へのこだわり、それに応える生産者の思いをご紹介いたします。

<対談者プロフィール>

小鶴清史(コヅルキヨフミ)
1984年、熊本県生まれ。上野毛の「吉華(きっか)」「新中国家庭料理 浅野」で研鑽を積んだのち、西麻布「またぎ」にて4年間、料理長として活躍。その後、2017年5月に「たでの葉」をオープン。開業してすぐ予約困難店になり、多くの美食家を魅了し続けている。

「たでの葉」小鶴清史氏インタビュー。天然の鮎やジビエ、こだわりの先にある至高の一皿

田副雄一(タゾエユウイチ)
1970年、熊本県生まれ。田副水産代表。25歳の時、仕事で人吉市へ転勤。川辺川のきれいな水と魚に一目ぼれし、清流を守る活動をするとともに釣りの世界へ。川辺川のダム建設予定地の熊本県相良村に移住し、その後ダム建設中止を受けて本格的に川漁師となる。釣りだけではなくストーンオブジェを手掛けており、アーティストとしての一面も持つ。

日本随一の清流を守り、愛する

―2人がお取引をするきっかけはどのような形からだったのでしょう。

小鶴清史(以下小鶴):田副さんは、元々私の父の知り合いだったんですよね。

田副雄一(以下田副):小鶴さんのお父様との出会いは、川辺川のダム建設が大きな問題になっていた時でしたね。お父様は、美しい川辺川を守ろうと、ダム建設反対の先頭に立っていらっしゃって。私も同じ思いで運動に参加していて、その活動がきっかけですよ。

小鶴:川辺川へは、父に連れられて釣りの手伝いをさせられましたね。当時は川の美しさには気がつかず、手伝っていることに精一杯でしたが。

田副:川辺川は、国が調査して水質が日本一と発表している美しい川。その川を後世まで伝えていかなければならないという思いから参加したんですよ。ダムによって清流が死に、自然の形態が変わってしまうことが一番怖かった。小鶴さんのお父様や仲間たちの思いが叶い、ダムの建設は中止され、そのおかげで私も本腰を入れて川辺川の漁師になる決心がついたんです。

小鶴:田副さんとしっかりとお話したのは、「たでの葉」を創業する時で、父に紹介されたのがきっかけ。一緒に川へ行って、鮎を釣りましたよね。ほかにも鰻の仕掛けとか、餌のとり方とか、いろいろ教えてもらったな。

田副:一緒に行ったね、懐かしい。小鶴さんは、モノの価値をとても分かっている人。貴重な食材を、真心込めてお客様に提供されていることを、実際食べさせてもらって実感しました。この人が貴重な川の恵みを扱ってくれるのなら、やりがいを感じる仕事ができるなと思いました。モノの価値を分かっている人と取引をしたかったので、まさにピッタリでした。

最高の食材を届けるためのこだわり

小鶴:田副さんのこだわりはすごいですよね。美味しい魚を得るために、下流ではなく、岩場の多い上流で漁をされますよね。だから、漁の時はロボットみたいな姿に。上流の漁にこだわる理由をお聞きしたいです。

田副:水質が若干、上流の方が良いんですよね。味の差も少し出る。頻繁には起こらないけれど、崖や滝つぼに落ちたり、スズメバチやイノシシに襲われたり。「たでの葉」さんに良い魚を届け、お客様が笑顔になるなら、そういう危険を承知でこだわった仕事をしたいから。

小鶴:本当に、上流の魚の味は違うんですよね。お腹の中の砂が、無いに等しいくらい。だから、塩焼きにした魚をガブッと腹ごと食べられるんですよ。でも、生のままだとお腹の中の微生物で発酵が早いから、梱包の際の氷詰めなどはとても気を使いますよね。

田副:一番良いのは、獲ってすぐ食べられる地元なんだろうけどね。でも、それに負けないくらいの状態にして送っていますよ。

小鶴:たしかに。釣った後の処理のこだわりがすごいですよね。釣った魚を地下水で満たしたタンクの中に入れて、生きたまま作業場へ。これはどういった理由からなんですか?

田副:下処理をせずに死んだ魚と処理後の魚では、味に歴然とした差が出るからね。川魚は特に、足が早い。内臓から傷んでくるんだよね。だから「たでの葉」さんへ送るのは、鮎以外一つひとつハラワタをとって魚同士で傷がつかないように個包装して送ってるでしょ。

小鶴:使用する水も、作業場の地下水ですよね。

田副:そうですよね、塩素が入っていない綺麗な地下水。これがあるから、その家に住んでいると言ってもいい。昼釣った魚を、地下水が満たされた池に放してお腹の中が綺麗になった次の朝に〆たりしてる。お腹の中に何もない方が、そのまま美味しく全部食べられるでしょ。

小鶴:田副さんの山女魚の釣り方も独特ですよね。普通、のべ竿を使用するのに、リール付きの短い竿を使っているじゃないですか。

田副:のべ竿を使った方が格段に釣れるんだけど。私が使うと釣りすぎてしまうから、資源を守るという意味で、あえて使用しています。これは、SDGsに繋がる考え方だと思ってます。

小鶴:そうだったんですね、それは素晴らしい。田副さんとは毎週のように連絡して、いろいろとお願いしていますよね。できるだけ生で送ってくださいとか。

田副:そうですね、できるだけ朝に「たでの葉」さんへ送っていますよ。だから一番の爆釣りタイム、朝イチでの釣りがなかなかできなくってね。

小鶴:それは申し訳ないと思っているんですよ。でも、生の方がやっぱり美味しいんですよ。でも、そのお願いに応えていただいてるので、本当に感謝しています。

貴重な食材を、今も未来もお客様の笑顔のために

小鶴:お客様にこの美味しい川辺川の魚を提供し続けたいのですが、今後の問題はやはり後継者不足でしょうか。

田副:そうですね、後継者不足と貴重な天然魚の資源の保護。いかに後継者と共に天然魚を育てていくかが、私が所属する漁業組合の課題となってる。

小鶴:私としては、獲ったものは獲った分すべて買わせていただこうと思っていますし、うちの父もそうですが、一番高い価格帯で取引をさせてもらってると思います。

田副:「川漁師は儲かる」ということになれば、若い人もやりたがると思うので高く取引をさせてもらっているのは、業界の発展に繋がるのでありがたいです。こういう思いが他にも伝わっていくと良いですね。

小鶴:環境の問題もありますよね。2020年には球磨川で水害がありましたし。川を深く掘ったりなど、治水も大事なのですが、その影響で川がどうなるか心配です。そこのところ、どう思いますか?

田副:影響は出てくると思っています。気候の変化での影響も徐々に見受けられるし。ただ、大きく自然に影響を与えるダムの建設には反対。巨大なダムができてしまったら、私たちは廃業でしょう。ダムによって100%生命財産が守られれば良いのだけど、そうではないと国も認めているので。川漁師としては、美しい川と緑の自然を守っていきたいと思っていますね。それこそが、今と未来の人たちを守り幸せにするものだと確信しています。

小鶴:今日はありがとうございました。田副さんには、これからも健康で長く漁師としてご活躍いただき、私に魚を届けてもらいたいと思っています。

田副:川辺川の自然を守りながら、小鶴さんに素晴らしい魚を届けたいと思います。またその先にあるお客様の笑顔を、小鶴さんを通して見させてください。

【編集後記】
料理人と生産者という関係を超え、食するお客様の笑顔のために一丸となっているのが、お二人のお話を通して感じました。生産者である田副様から、小鶴様に様々な食材の提案もあり、今オススメしている食材はヤマメの腹の腸だとか。これまで量が少なく市場に出回らなかった逸品で、ボイルなどで調理してたで酢で食べると酒のつまみにもなり、絶品だそうです。現場の方の意見も取り入れながら、新たな一皿を創造していく小鶴様。一流の人たちの仕事の風景が少し垣間見えた時間でした。お二人ともありがとうございました。

炭火焼

たでの葉

東京メトロ銀座線 外苑前駅 1a出口より徒歩4分

12,000円〜14,999円

※こちらの記事は2022年08月15日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

吉田ふとし

人材業界系メディアの編集・制作を経て、現職。小学生の娘をもつ1児の父。アルコール(日本酒、焼酎、ウィスキー)を好むのは祖母譲り。読者のみなさまには、気づきのある多くの情報をお届けいたします。よろしくお願いいたします。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ジランドール
・好きなお店:広東料理 センス
・自分の会食で使うなら:「赤坂浅田」
・得意ジャンル:和食 / バー
・好きな食材: ジビエ、白子

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