「にくの匠 三芳」伊藤力氏インタビュー。肉の旨味を最大限に引き出すこだわりから、唯一無二の包丁製作へ

滑らかにとろける、牛肉の究極な旨味を存分に味わうなら、京都・祇園へ。「にくの匠 三芳」では、京都、神戸、滋賀の信頼のおける生産者から直接取り寄せるブランド牛を、銘柄と部位を使い分け、肉そのものの魅力を最大限に活かしたお料理をいただけます。

今回、KIWAMINOでは、「にくの匠 三芳」ならではの牛肉への探求心を特集します。ご主人の伊藤力様が追及されてきた「肉割烹」のご紹介と、鮮度の良い肉を切る包丁へのこだわりが高じて生まれたオリジナルの包丁への想いについて伺いました。

1. 肉の旨味の可能性を和の技法で魅せる

―祇園にお店がある「にくの匠 三芳」。店名の由来について教えて下さい。

母の祖父の屋号です。元は三人の芳の頭文字をとって「三芳」とつけたと聞いています。ルーツは人力車をやっていたそうで、その名を継いでいます。
もともと、この場所で母がラウンジで「三芳」を営業していまして、独立するときにお店を改装して肉割烹を始めました。

うちの店は日本料理ではないのですが、落ち着いた和の空間の設えにしています。友人の左官の方にお願いしたのですが、天然素材のカウンターは漆喰で塗っていただいて、研ぎ出しで仕上げています。

―落ち着いた雰囲気で伊藤様による絶品のお料理をいただく、何とも贅沢な空間です。伊藤様が、肉割烹を始められたきっかけは?

もともと「肉割烹」というジャンルでお店を始めようとは思っていませんでした。

今から15年程前、牛を捌く仕事をされていた先輩に、捌きたての肉を初めて食べさせていただきました。当時は生食が可能だった牛レバーやハラミなど、新鮮で上質な牛肉の美味しさ、フレッシュさに衝撃を受けまして。食材としての見方が変わり、以来ひたすら肉料理を追求してきました。

肉といえば寝かす方が美味しいという認識がありましたが、朝捌いた牛を食べることを経験して、魚のようなフレッシュな使い方の可能性に気づき、また火の入れ方や食べ方の概念が変わりました。そこから肉の世界にはまって、自分が独立する時に、この食材を使った料理を出したいと思いました。

その後狂牛病(BSE)問題なども発生し、生食に関する法律も厳しくなり、肉を安全にいただく知識も高まってきたため、今はスーパーフレッシュなホルモンを使うことはなくなりました。一方で15年の間に肉の調理法について研究し、生産者さんにフォーカスすることを始めました。

―信頼のおける生産者から直接やり取りされていらっしゃるそうですね。

生産者の方ごとに、牛の系統やどんな餌や育て方をされているかまでインプットしています。なので扱う肉によって料理も変わりますね。こだわりの肉をより美味しくするにはどうすればいいかを日々考えています。
肉割烹というのは前例が無いので、毎日実験のような感じですし、発見があります。
例えば今月お出しする料理に、蛤のお椀をテールの出汁で作る一品があります。
テールと水と昆布だけで5時間程炊き、蛤を開かすと今までになかったスープになります。蛤は薄味の昆布か、かつおの出汁で引くことが多いのですが、テールを加えることによってさらに濃厚な味に仕上がります。
また、単一の生産者だけのすね肉で作ったコンソメであれば、今までと違ったコンソメを作ることができます。15年前に比べると、より味について深く向き合っていますね。

―部位ごとの旨味を引き出すために、どのような工夫をされてらっしゃるのでしょうか?

今までやってきたことの積み重ねと、新しい組み合わせの挑戦ですね。
やってきたから分かるということもあって、組み合わせでいかに肉そのものの魅力を引き出すかということを試しています。
季節ごとの食材を組み立てていく際に、お肉を合わせたらどんな感じになるのか。単体で美味しいものはあえて合わせる必要がないですが、肉が加わることによって旨くなる料理を考えています。出汁の要素と食材の要素が合致し、旨味が引き出されるような感覚です。
特に、岡崎さんという滋賀の生産者の方の近江牛が合わさった時の旨味は、爆発力がありますね。
小浜の方に希少な幻の赤ウニがあって、それに赤酢のシャリを混ぜ、岡崎さんのお肉で濃厚なタルタルを作ったり。食感と共に旨味と甘みを感じるような工夫をしています。

食材と肉の組み合わせで新たな旨味を発見する、肉に対する豊富な知識と独自の研究で生み出される味のハーモニーを、ぜひ楽しんでみたいですね。

2. 肉の旨味を最大限に引き出すこだわりから、職人と唯一無二の包丁製作へ

包丁の切れ味にもかなりのこだわりがある伊藤様。常日頃から愛用されている包丁専門店「真刀」の谷岡様を交えてお話を伺いました。

―今回、祇園の「真刀」様と家庭でも使える包丁を製作されたそうですね。

伊藤様:「真刀」さんはオープンして3年になる包丁専門店。彼とはもともと幼なじみでお店も近いので、よく通っています。高価なものですし、お客様はプロの料理人さんが多いですね。

いわゆる「包丁屋」さんは世の中に沢山ありますが、一般的な「包丁屋」さんは包丁が置いてあり、販売する人がいて、研師は工場など別の場所にいる。技師と売る人が別だと切れ味や刃あたりについて伝わらないこともあるんです。
こちらは包丁に特化した専門店で研ぎ師が販売しているので、用途に応じて相談に乗ってもらえますし、店内に研ぎ台があり、包丁を買ってから仕上げの本刃付けをしてくれます。そうすることで、出来立ての包丁がより切れるようになり、長持ちします。

「真刀」さんの包丁は僕が一番使っているし、距離が近いこともあって彼とも一番話していると思いますが、使用しながら使い心地をフィードバックする、理想的な関係ですね。
使い心地を話している中で、包丁の長さやサイズ感や形と切れ味の良さを兼ね備えている理想の包丁があったらということを何度も伝えて、家庭でも使える包丁を作ってもらいました。
家庭のキッチンはそこまで広くないので、プロ用のものは家庭の狭い場所で使うとしては長すぎるか、短すぎるという印象でした。
「真刀」さんの包丁の形は色々と使っているので、これがベストという形を調整しながら、コラボ商品として製作しました。

―プロが手掛ける家庭用の包丁がどんなものか、非常に気になります。作ろうと思ったきっかけは?

伊藤様:もともと、素早さが要求される仕込み段階で使用頻度の高い理想の包丁を考えていたんです。三徳包丁だと分厚いから小回りがきかないんですよ。でもペティナイフだと短い。三徳包丁より細くぺティナイフより丈夫で、切れ味がそれ以上のものが欲しかったんです。
トマトも鶏肉も切れて、仕込みがこれ1本で全部できるので、家庭の全ての作業もできるなと思いました。野菜を切る時、鉄はあまり良くないのですが、この包丁の材質は野菜を酸化させないので、そういう面でも良いですよ。

―プロ仕様の包丁だとメンテナンスはどの程度で考えれば良いのでしょうか。

「真刀」谷岡様:家で研ぐのは難しいですから、皆さん研がない方が多いですね。切れ味は徐々に落ちるのですが、そのまま使う人がほとんどです。簡易の研ぎ機を使う方もいますが、あくまで簡易のものなのであまりお勧めはしないです。
家庭用の包丁だと、1~2か月に1度くらい砥石で研ぐのが理想ですね。自分で研ぐと癖がついてしまうので、研ぎ屋さんに出して何年かに1回修正してもらうのが理想です。
真刀では、ある程度欠けたりして切れなくなったら送ってもらって、研いでお返しするという形をとっています。

―伊藤様はどうされているんですか?

伊藤様:自分ではあまり研がないんですよ。1週間~2週間使って別のものに変えるので、いつも新品のようです。切れ味についてはかなりこだわりがありますが、ここで買うと最初にちゃんと研いでくれるので、めちゃくちゃ切れるんです。
僕は沢山包丁を買って回していくというのが理想。包丁は沢山持っていまして、2週間に1回持ってきてもローテーションが回るんですよ。

「真刀」谷岡様:「切れなくなったから研いで」と言って持ってきたものが、全然切れるんですよ。頻繁に持ってくるのでメンテナンスも楽ですが、すぐに切れなくなったというんです。彼は切れ味にこだわるのですが、普通の人はまだまだ使う程度だという感じですね。
意見交換はよくしています。僕は基本的に料理人ではないので、プロの人に使い心地を聞くことで、料理人の方が包丁を探されている時に答えやすくなりますね。
彼が「こういう包丁が欲しい」ということをずっと言っていて、本来はこういうことはしないのですが、とうとう作ることになりました。

―待望の一品が漸く完成されたということだったんですね!

伊藤様:最初は受注生産からの予定です。
基本はプロの包丁専門店なので今回の販売は特別な機会になると思います。普段「真刀(谷岡氏)」さんはインターネット販売をしていません。本来はオンラインなどでは売らないです。用途に合っているか分からない中で沢山の人に売るのはどうか、という考えの職人さんなので、今回はとてもレアな機会になると思います。仕込みでも重宝する逸品なので、ぜひご家庭で試していただきたいですね。

「にくの匠 三芳」×「真刀」コラボ包丁はこちらでお求めいただけます。
URL:https://niku-miyoshi.com/?mode=cate&cbid=1847324&csid=0
「真刀」ホームページ
URL:https://kyoto-shintou.com

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【プロフィール】
伊藤 力
1975年、京都府出身。もともと食べることが好きだったことから飲食業に興味を持つ。最高の肉職人がその日にさばいた新鮮で上質な牛肉の美味しさに衝撃を受け、2004年末に京都・祇園の地にて【にくの匠三芳】をオープン。現在は「今まで誰も見たことのない肉料理を創ってみたい」という新しい挑戦を胸に、日々肉と会話しながら新しい味を探求している。
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【編集後記】
肉の銘柄、火入れの方法、食材の組み合わせなど、日々進化を遂げている「にくの匠 三芳」。そのこだわりは肉だけにとどまらず、切れ味の良い包丁への想いにも強く感じました。究極の包丁を求めて、職人に頼み込むという伊藤様の熱い情熱に魅了されました。

肉割烹

にくの匠 三芳

京阪電気鉄道線 祇園四条駅 6番出口より徒歩5分

50,000円〜


※こちらの記事は2023年10月31日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Airi Ishikawa

一休のメディア事業部長。日本全国を旅しながら、その道のプロにインタビューや取材をしています。休みには足をのばして国内ワイナリーを巡るのが好き。地産地消や、生産者に近い距離で食材や料理に向き合う「極みのシェフ」がいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:銀座 しのはら / 南青山 まさみつ / サエキ飯店 / コートドール
・好きなお店:鮨 梢 / フランス料理 エステール / コンチェルト / エンボカ 京都
・注目しているお店:SeRieUX / プルサーレ / bistronomie Avin
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材:山菜 / 鴨

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