インタビュー|

西麻布の名店「常」の常安孝明氏に聞く、和牛の美味しさと和食の神髄を届ける心意気とは?

2018年4月の開店以来、多くのエグゼクティブから大人の隠れ家として人気を集める西麻布の割烹「常(とわ)」。「ミシュランガイド東京2020」では一つ星を獲得するなど、フーディーからの注目も高まっています。「一休.comレストラン」のプレミアム美食メディア「KIWAMINO」では店主の常安孝明氏を訪ね、料理や食材への思い、修業時代から今後の抱負まで広く深く話を伺いました。

※この記事は2020年2月に取材した情報をもとに制作しました。

「常」ならではのコースの流れを楽しんでほしい

―まずは、料理への思いについてお聞かせください。

料理については、自分が美味しいと納得したものをお客様に提供したいという思いが強いですね。その一方で、あの方ならこれが好きそうとか、食べてくださる方の好みも考えるようにしています。料理人として当たり前のことなので、あえて言葉にすると恥ずかしいくらいなのですが、美味しいと喜んでいただけるよう基本的なことは徹底するよう心掛けています。
また、使う食材についても厳選させていただいています。
例えば、黒毛和牛は未経験の雌牛を、昆布は「奥井海生堂」さんからの2等検の利尻昆布を使用しています。夏のアユも、自信を持ってオススメできる産地から取り寄せています。豊洲市場にも信頼できるお魚屋さんがあるので、密に連絡を取りながら満足のいく魚を「活」で送ってもらえるようにしています。

―美味しい和食と一緒に和牛をいただけるということで、「肉割烹」と評されることも多いようですが。

実は、自分から「肉割烹」と謳ったことは一切ないんです。一般的な割烹よりも、お肉料理が多いのは確かなのですが、それも「黒毛和牛は世界に向けて誇れる日本の素晴らしい食材。だから楽しんでほしい」という思いがあってのことです。

八寸こそ出していませんが、やはり割烹なので和食の神髄を楽しんでいただきたいと考えています。だから自然と、お造りやお椀にも力が入るんです。お造りではその日活〆して身が引き締まった「イカッた」ものを、お椀ではカツオの一番出汁を使っていて、椀種には海老や白身などの真薯系を入れています。

季節の旬を感じられる、和食の伝統的なスタイルを踏まえたコース料理の合間に、美味しい和牛を用意していますから、ぜひその流れを「常」で楽しんでいただきたいですね。
例えば、和を感じるお椀の後に少しジャンクな牛テールの春巻きを出すというのが、オープン当初から変わらない一連の流れです。そして、その後に「こんなに分厚い牛タンがあるのか!」と驚いていただけるよう、黒毛和牛のタンを用意しています。

まずは伝統的なお椀で気を引き締めていただいてから、春巻きでリラックスしていただく。これは、「常」のおもてなしのスタイルとも関わってくるのですが、程よい緊張感と寛ぎのバランスを、コースを通して感じてもらえるよう工夫しているんです。

和食の伝統を重んじ、素材の美味しさを活かす

―調理の面で気を付けていることはありますか?

食材の下処理や管理から、調理は始まっていると思います。「この食材がどう調理して欲しいのか?」「美味しくなるのか?」を考え調理法と結びつけます。

黒毛和牛のタンについては、タン元だけを使用して、炭火でできるだけ塊のまま火入れをして乱れ切りにして提供しています。そうすることで、お客様に牛タンの美味しさを存分に楽しんでいただけると考えています。

―和食の伝統を重んじる姿勢や食材を活かす考え方が、とてもしっかりされていますね。

「赤坂 菊乃井」さんからスタートして、フランスの日本料理店「花輪」さんを経て、「日本料理 かんだ」さんで7年くらいお世話になって独立しました。

「赤坂 菊乃井」さんでも「日本料理 かんだ」さんでも、やはり料理をする上でのベースを学ぶことができたと考えています。「赤坂 菊乃井」さんでの1年目あたりですかね、当時の大将が私の先輩に対して、「こうやって調理したらコリっとして美味しいし、こうしたら柔らかくなるんだ」と話していたことをよく覚えています。そこから、料理人としての基本みたいなもの、美味しいものを作ることが料理人の使命なんだと身に染みて学べたと思います。今の自分にも生きている経験ですね。

苦労という面については、今振り返ると全部が良い思い出だと考えています。思い返せば辛い時もありましたが、あの経験があったからこそ、ここぞという時に歯を食いしばれるようになったのも確かなことですから。

フランスへ行ったのは、若気の至りといいますか、知らない世界を見てみたいという気持ちが強い年頃だったのが理由ですかね。3年間働かせてもらうことになりました。

フランスで働くうちに、「本当の日本料理とは何だろう?」という考えが自分の中で芽生えてきました。「現地の食材を使って作る日本料理が、本当の日本料理と言えるのか?」など、日本料理とは何か?ということについてよく考えていましたね。
その結果、よく食べ歩きをするようになって、知見を広げることができたのではないかと考えています。

「日本料理 かんだ」については、帰国が近くなったころに読んだ日本の雑誌で特集されていて、お客様に合わせてメニューを決めるという割烹のスタイルに大きな感銘を受けたのがきっかけとなって働くこととなりました。
帰国後にお店を訪ねると、1週間住み込みで働らかせてもらえることとなり、気がついたら7年もお世話になっていました。

独立については、35歳ではまだ早いという気持ちもありましたが、人生の分岐点だったこともあってチャレンジすることにしました。

程よい緊張感とリラックスした非日常感を演出

―先ほど少しお話されたおもてなしの面についても、修業時代の影響があるのではないでしょうか。

そうですね。学ばせていただいたと思います。
帰り際、お客様に「美味しくて楽しかったね」と思ってもらっていただけるように程よい緊張感と寛ぎのバランスが大切だと考えています。食事は毎日欠かさずとるものですから、「常」では少しでも非日常を感じていただければ嬉しいですね。

寛ぎという部分では、料理が進むにつれて冗談をはさんだりしてリラックスした空気になるように心がけています。これもお世話になった方々の教えの一つですね。

―2年目にミシュランガイドで星を獲得して、新規のお客様も増えたかと思います。3年目の抱負についてお聞かせください。

オープンして3年目ということで、自分としてはここが一番の踏ん張りどころではないかと考えているところです。ここを乗り越えないと、10年、15年と続いていきませんから、若いスタッフの育成や技術の伝承にも力をいれていきたいですね。

3年目を乗り越えた後は、海外からの招聘イベントにも積極的に参加していけたらと考えています。私個人は経験があるのですが、若いスタッフにも体験させてあげたいという思いがあるからです。ですから、3年目はお店のスタッフ全員の方向性を整えて、足元を固めて、さらなる先を目指していきたいと思います。

**********************************
常安 孝明 プロフィール
1983年生まれ。「赤坂 菊乃井」より日本料理のキャリアをスタート。フランスの日本料理店「花輪」を経て、「日本料理 かんだ」で約7年研鑽を重ねる。2018年4月、東京・西麻布にて割烹「常(とわ)」を開店。以来、多くのエグゼクティブから大人の隠れ家として人気に。「ミシュランガイド東京2020」では一つ星。「ゴ・エ・ミヨ 2020」 (Gault&Millau)でも高評価を受け、現在東京で、フーディーから最も注目される名店の一つ。

編集後記
前回の店舗取材から約1年。常安さんとお会いするのは今回で3回目でした。所々で笑いが起きるなど、終始和やかな雰囲気の常安さん。料理へのこだわりについて伺ったところ、「料理人として当たり前のことなので、あえて言葉にすると恥ずかしいんですよ」と語る表情に、料理人としてのプライドを感じました。今後のさらなる活躍を楽しみにしています。

お店の衛生対策について

いつも「常」をご利用頂きありがとうございます。
新型コロナウイルス感染予防対策として、下記を実施しております。
・カウンター席は2組までの制限を設け、お客様同士の間隔をあけてご案内
・従業員のマスク着用
・アルコールによる殺菌洗浄
・次亜塩素酸加湿器を使用

割烹・小料理

東京メトロ日比谷線 広尾駅 駅から徒歩約12分

20,000円〜

アクセス
住所: 東京都港区西麻布4-11-25 モダンフォルム西麻布ビル パート3 2F

#常 の記事をもっと読む

謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:六雁
・好きなお店:すぎた
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

このライターの記事をもっと見る
link

この記事をシェアする