東京メトロ銀座線「外苑前駅」から徒歩約4分。外苑西通り沿いに建つビルの2階に店を構える「たでの葉」。鮎やジビエなどの天然の食材を中心とした一皿が味わえると、“ホンモノ”を知る美食家たちを魅了し続けている炉端焼きの名店です。今回は店主の小鶴清史氏が、プレミアム美食メディア「KIWAMINO」のインタビューに答えてくれました。
夢だった競馬の騎手の道から料理の世界へ
―まずは、料理人を志したきっかけをお聞かせください。
実は10代前半の時、本気で競馬の騎手を目指していたんです。受験するためには、体重を10キロ以上落とさなければならず、食事の管理を自分でしていたことが、料理のはじまりでした。でも、ダイエットの過程で無理がたたり身体を壊してしまったんです。初めての挫折でしたね。それで別の道を探した時に、これまで我慢して食べていなかった料理自体の美味しさ、調理の面白さに気が付いてこの道に進んでみようと思ったんです。
―若い時に挫折を経験して、料理の道へ。そこで中華料理の世界を選んだのはなぜですか?
単純に美味しい料理がたくさんあると思っていたからですね。火力が命と言われるほどのダイナミックな調理方法も面白く感じていました。上野毛の「吉華」で約3年半、麻布台の「新中国家庭料理 浅野」で4年ほど過ごさせていただきました。
お客様を満足させるオンリーワンになるために
―約7年もの時を過ごした中華料理に区切りをつけ、異なる世界に進路を変えたのはなぜだったのでしょう。
中華料理の世界を知れば知るほど、ナンバーワンは目指せてもオンリーワンにはなれないんじゃないかと思ったんです。“自分にしかできないこと”と“自分だからできること”、それを求める私が進む道はこの方向ではないと。じゃあ自分には何があるんだろうと考えたのが、28歳くらいの時でした。
―とても自分に厳しくストイックな考えだと感じたのですが、そこから「たでの葉」の道を決められたきっかけは何でしょうか。
※熊本の川辺川で獲れたヤマメ
オンリーワンを考えたときに、小さい頃の思い出までさかのぼってみたんです。そしたら父親が鮎を獲っていたことを思い出して、父親の鮎をメインに山の食材を使った料理をやってみてはどうかと考えました。一つのことに深く突き進む自分だからこそ、表現ができる世界なのではないかと思ったのです。
その想いを胸に、ジビエや山菜、キノコなど山の食材を学ぶべく、西麻布にある「またぎ」で修業をさせていただきました。鹿や猪、熊などはこれまで扱ったことがない食材だったのですべてが新鮮。「またぎ」では一頭買いをされていたので、食感や形が異なる細かい部位を学べたことも大きかったです。あとは、狩猟免許を取って大将と一緒に狩猟へ行ったことも勉強になりましたね。命の大切さと自然の力強さを、直に感じることができました。
―ジビエ料理の世界で研鑽を積まれて、33歳の時に独立されたわけですね。
独立するためには、食材のルート確保も大変でした。全国津々浦々、時には直接現場にお邪魔して猟師の方とお話をしたり。信用、信頼が重要な業界なので、そこで認めていただいたからこそ「たでの葉」をオープンできたと思いますね。
店内は、どこか懐かしくホッとするような空間にしたいと思い、昔ながらの炉端の設えにしました。席はカウンターのみという点にもこだわりました。料理はもちろん、店内や調理過程の雰囲気も味わっていただきたかったんです。
絶妙な火入れが生み出す至高の一皿
―ジビエ調理のこだわりを教えてください。
特に鴨は、網を使った猟で捕まえたものを仕入れさせてもらっています。銃などで仕留められたものは鮮度の落ちも早いですし、野鴨として最も重要な“血”が流れて旨味が逃げてしまうからです。鹿も猪も熊も、猟師さんとの信頼関係があるので最高のものを送ってくれますね。
肉の旨味を閉じ込めるために、串焼きは慎重に行っています。気温もそうですし炭火の火力は天候にも左右されるので、日によってベストな焼き入れ位置をひと串ひと串見極めています。それを塩や特製のたれ、発酵させたトウガラシを醤油に漬け込んで味噌と混ぜた自家製の「トウガラシ味噌」などで味わっていただいています。
お出ししている鴨は、尾長鴨のほか、真鴨、小鴨、軽鴨ですね。山の天然ものはシンプルにいただくのが一番だと思います。熊やキジなども扱いますが、猟師さんから電話で「こんなの獲れたよ~」って連絡がくるんです。タイミング次第ですね。
―6月からは、お父様が獲られる鮎が味わえますね。
6月から11月くらいまでが鮎の季節でしょうか。熊本県を流れる球磨川で獲れた新鮮な鮎です。天然ものを扱うので、量を確保するために岐阜県からも仕入れています。
おすすめは塩焼き。天然ものは大きさもまちまちですから、大きさを意識して、火加減を調整しながら約50分じっくりと焼いていきます。良質の苔を食べて育った天然ものにかぶりついて、内臓まで余すところなく堪能していただきたいですね。
※個体差のある魚にする串入れは、焼きに影響が出る重要な作業
川辺川で獲れたヤマメも提供させてもらっています。これは、川辺川のヤマメが好きすぎて移住までした漁師さんが釣ったものですね。目が透き通っているし、艶があることもわかるかと思います。
ジビエには赤ワインを、鮎の塩焼きや鮎の刺身にはぜひ日本酒を合わせてみてほしいですね。私が今特に好きな日本酒は「冩樂(しゃらく)」。華やかな味わいが好きなので、ぜひお料理と一緒に堪能してほしいです。
―最後に今後の目標や、やりたいことなどをお聞かせください。
もうこれはやることにしているのですが、自分が山に入って採った山菜やキノコを、その時のお話と共にお客様に提供したいと思っています。また、2020年の自粛期間中に蕎麦打ちの勉強をしたので、蕎麦もぜひ味わってもらいたいですね。
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【プロフィール】
小鶴 清史(コヅル キヨフミ)
1984年、熊本県生まれ。調理師専門学校卒業後、上野毛の「吉華(きっか)」にて修業し中華料理の道へ。その後麻布台の「新中国家庭料理 浅野」で研鑽を積んだのち、西麻布「またぎ」にて4年間、料理長として活躍。その後、2017年5月に「たでの葉」をオープン。
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おまけインタビュー:小鶴氏がよく食べに行くお店はどこですか?
「白金 あき山」さんです。釜炊きのご飯とそのおかずたち。素材の味、特に香りを大事にされているところに惹かれています。私はその季節の食材をそのまま味わえるような料理が好きなようです。
【編集後記】
炭火を前にじっくり調理していく職人気質の店主という勝手なイメージを持っていましたが、さわやかで優しい口調の素敵な方でした。「常連のお客様にはよくいじられる」とおっしゃっていましたが、確かに肩ひじを張らずに楽しめるお店の雰囲気も小鶴さんの人柄の表れだと感じました。
※こちらの記事は2022年08月15日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。