インタビュー|

【対談】「焼鳥 おみ乃」小美野正良氏×「鳥おか」白石優太氏 に聞く、「鳥しき」イズムを継承する2人が語る「焼鳥」とは

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数多の食通を唸らせる押上の名店「焼鳥 おみ乃」店主・小美野正良氏、ミシュランで星を獲得する目黒「鳥しき」の分店である「鳥おか」店主・白石優太氏。共に池川義輝氏の下で研鑽を積まれた2人に、1串を丁寧に焼き上げる「焼鳥」の奥深さについて伺いました。

料理人の家に育ち、サラリーマンから焼鳥職人になった「共通点」

―お2人とも、ご実家は飲食のお仕事をされていたそうですね。

右から「焼鳥 おみ乃」店主・小美野正良氏、「鳥おか」店主・白石優太氏

小美野正良氏(以下、小美野):私の実家は鰻屋を家業としていまして、飲食店で働く親父の背中を見ながら育ちました。サラリーマンになったものの、飲食店に憧れがあり、30代に差し掛かった時に料理人になる決断をしました。
学生の時に3年間、焼鳥屋さんでアルバイトしていてとても楽しかったのと、焼鳥が大好きだったというのもあって焼鳥一本に絞り、当時の食べログで上位TOP10に入る焼鳥屋さんに片っ端から電話をかけて「修業させてください」と。
そうして拾っていただいたのが、池川親方の「鳥しき」。池川親方もサラリーマン上がりの職人で、私と共通する部分があったんですね。
「私みたいな未経験の者でも、きちっと修業すれば一人前の職人に育つ」と言われて。理不尽なことがあったとしても、絶対についてくればものにするからと。その言葉が1番心に残って、信じてついていこうって思ったんですよね。
独立を志したのは、アルバイトをしていた大衆的な焼鳥屋のイメージでした。でも「鳥しき」で修業をさせていただく中で、こういうお店をやっていきたいなと考えが変わっていきました。
「鳥しき」を選んだのも、独立するなら振り幅が広い方が良いかなと。飲食店で大切なことは高級店であれ大衆店であれ、変わらないと思いますが、より高いものを目指して身に付けた方が、自分が独立する時に選択肢が増えるじゃないですか。

白石優太氏(以下、白石):(小美野)正良さんは大先輩で修業時代は被っていなかったため、今初めてお話を聞きましたが、自分も一緒で似ているなと。両親がお店をやっていたのですが、親は飲食の仕事をする前に会社員をやっていて、自分には飲食はするなと言っていました。子供にはきつい思いはさせたくなかったんですかね。
ただ背中を見て育ったので、潜在意識の中で将来はこういうことをやりたいなと思い、大学卒業後は飲食関係の会社に入りましたが、会社の母体が大きかったため、希望と違う部署に送られて。やりたいことと違う悶々とした気持ちの中、区切りをつけないといけないという時に出会ったのが、焼鳥です。

小美野:家業で実家が飲食店をやっていたから、という子は意外と多いと思います。うちにも実家が焼鳥屋さんをやっている若い子が修業で来ていますね。
私が「鳥しき」に入ったのは開店して3年目を迎えた頃。翌年にミシュランの星を取って、あれよあれよという間に、1,000回電話しても繋がらなくなりましたね。

「鳥しき」で学んだ、黒子に徹するプロフェッショナルの姿勢

―憧れのお店「鳥しき」に入ってからのエピソードをお聞かせください。

小美野:入った当時は親方と女将さんと私の3人だけ。女将さんは事務方で仕込みをされないので、池川親方と2人で仕込んでいました。いつも時間に追われ、仕込みが終わってまかないを食べて、すぐに営業に入る。営業時間は18時~23時まで、帰る時間は2時~3時近くになる日々でした。
入った時は鳥も捌けないですし、串打ちもできないので、追い回しからやらせてもらい、最終的には内臓が付いた丸鶏から捌けるようにやらせていただきました。

白石:自分は2018年くらいに入り、来年の2月で5年目になります。入った時は何が起きているのかもよく分からないスピード感。
決まりごとの包丁の位置、包丁が汚れていたら拭くとか、飲み物のお代わりやお気遣い、お客様によっては決め事など、日々当たり前の繰り返しなんですけど、同じようにできない。とても苦労しました。

小美野:「鳥しき」に関しては、プロフェッショナルに徹している部分があるんですよね。親方には、我々はもう「黒子に徹しろ」と。お客様がお店を後にした時「美味しかった、楽しかった」と喜んでいただけるためには、自分達が何をしたら良いかを全部考えるようにと。今、白石君が話した決まり事も“美味しいだけじゃなく、お客様にどれだけ喜んでもらうか”ということなんです。

白石:親方はお店を作った時からその姿勢を変えてないそうです。
僕が入った時は、今石川で「蛤坂まえかわ」をやっている前川良輝兄さんと、京都「鳥さき」の畑智己大将がいらして、生意気な小僧に対して真剣に色々教えてくださいました。
2番手、3番手の方がいらして、その上に親方がいる仕組みができていたので、親方と営業中に喋ることはなく、すぐ伝えたくても上手く伝わらない時もありました。
営業が終わった後ミーティングし、なぜ駄目だったか、どうしたら良いか、翌日からどうしていくかを共有して、翌日にはそれを実行する。僕が入った時には、そこまで完成されている状態で入らせていただいたので、修業する場所としてはとても恵まれていました。
仕込みが押すと休憩が取れないのですが、親方は絶対に時間を守れと。自分の時間をどう使うか考えて、成功体験を作って、下の子達にショートフローを教える。「この子にこれを教えて、こうやらせよう」というのをまず作らせていただきました。
親方が言うのは、心技体、スポーツアスリートみたいですけど、足りなければそこを補っていかなければいけないと。

小美野:いや、大変だったと思いますよ。自分の場合は教えてくれた方が親方なので、恵まれていたんだなって。
話を聞いていて「鳥しきイズム」がずっと今でも根付いているのは親方の力だなって思いますね。今の若い子達は、親方が教えた2番手から伝授され、それが継承されていますね。

白石:(小美野)正良さんは押上で独立されて、親方の教えをちゃんと守ってやられているから、すごいなと思います。僕も「鳥しき」の考え方を、今度は親方を見てない人達に伝えることを勉強中です。

「焼鳥 おみ乃」、「鳥おか」 それぞれの味、これからの味

―「焼鳥 おみ乃」はお店を辞めてすぐ出されたんですか?

「焼鳥 おみ乃」

小美野:「鳥しき」での最後の1年は、焼きの練習をやらせていただいたんですが、全然お客様に出すレベルではなく、休みの日に練習のため出てきて、炭を組んで焼いていました。実戦で焼く経験をしないと、独立はできない。まして「鳥しき」の親方の焼きを見てるわけですから、同じものを出せるかっていうと、まず無理と分かっていたので。
当時は「鳥かど」もなく、若手が焼きを練習する場がなかったので「鳥しき」を上がった後に、焼ける場所を求めて2年ほど他の焼鳥屋さんで焼きをさせていただきました。そこの社長さんがすごく柔軟な方で、色々な炭を使いましたし、色々な鶏を捌いて試すこともできて、違った経験ができたのは大きかったですね。
ただ、頭の中ではどうしても「鳥しき」以上のお店はないと思っていたんで、環境やクオリティが全然違う中で、腐らないでやることだけは心がけていました。

独立する場所はどこでもよかったんですよね。妻が押上出身で、まだ子供達も小さかったので、実家に近い方が助けになっていただけるんじゃないかと。実際お店に専念できて、とても助けられました。
オープン1年目は、ただ前だけ向いてやってたので、毎日へとへとになって帰っていてあまり覚えていません。4年経ち、2店目(「おみ乃 神谷町」)を構えることができ、今はオープン時から関わってくれている人間が押上に立ってくれています。

「鳥おか」

白石:僕が入った時には分店「鳥かど」がありました。弟子に焼く場所を提供したいという親方の思いでできて、いつか僕もやらせていただきたいと思っていたら「鳥おか」ができて、そちらに配属になりました。
「鳥しき」で2番手をやりましたけど、「鳥おか」では1番下からで、また追い回しから。でないとお店が隅から隅まで分からないですし「鳥おか」のやり方で後輩に教えることができなかったので、掃除からスタートしました。

小美野:今いくつだっけ?

白石:35です。

小美野:もっと若いイメージがありました。

白石:良い分岐点だと思うんですよ、35歳って。他の業種でも役職に就くような年齢で、もしくは独立されて社長をやられてたり。あまり「鳥しき」だけの世界で見るのではなく、他のところの業種の同年代も比べて頑張らないと、と思うようにしています。会社として枝分かれが起きていく中「鳥おか」という分店をしっかりと立たせたいですね。親方も兄さん方もリスペクトしかないです。これだけ焼鳥を真剣にやってくださっているから僕らは今できていると思います。

―お店で使われているのはどちらも「鳥しき」でも使われている「伊達鶏」でしょうか?

小美野:そうですね、福島県産の伊達鶏です。飼育日数が長くなると固くなり、旨みは強くなる一方、うちのようなおまかせストップ制では、多くの本数、色々な部位を召し上がっていただきたいという思いもありますので、固すぎると食べ疲れする。伊達鶏は若鳥ほど水っぽくなく、柔らかすぎない「鳥しき」のスタイルに適してると思いますね。

白石:グループ全体で同じ伊達鶏を使っていますね。

小美野:これも継承の一つですかね。炭の組み方から、焼きに至るまで「鳥しき」の特徴はどこの店舗でもやっていると思いますね。焼きは感覚的な部分プラス、親方が教えてくれたこと。お客様の口に入る一瞬まで、生産者の方からの思いを引き継いでいるっていう点に一貫性があるんですよね。その中の過程に、串打ちがあったり、炭を組む作業であったり、全てがあるんで。もう全部一貫しているんですよね。一つ一つの作業の全てに理由がある。

―親方のもとを離れ、焼鳥の焼き方も含め、自分なりに新しく進化・変化されていることはありますか?

小美野:最初の押上のお店に関しては「鳥しき」で学んだことを、素直に実行していこうと。それ以上のことはできないかもしれないですけど、限りなく近づいていこうという思いでやっていましたね。

「おみ乃 神谷町」

このお店(「おみ乃 神谷町」)に関しては、少し進化と言いますか、アプローチを変えて。和食、日本料理を取り入れて、四季感を演出できたらと思ってやっていますね。焼鳥は季節感というのが、どうしても出しづらいジャンルなので。
「鳥しき」の「しき」は“四季を感じていただけるように”というのが名前の由来なんです。親方も試行錯誤されてきたと思うんですけど、それを昇華させていきたいなと。新しいことにチャレンジしていく気持ちは今でも持ち続けています。

白石:和食と焼鳥の掛け合わせは丁寧な仕事が求められますし、舌の肥えたお客様達に対して、毎日やってらっしゃる(小美野)正良さんはすごいなって思います。
「鳥しき」は、おまかせストップ制ですが「鳥おか」のコンセプトは“グループ初のコース”。形は違いますが、お客様に対するサービスは変わらない。進化よりも引き継ぐ方が難しいですね。
裏もバックヤードが広く、目で合図できない距離感があり、声も出しますが雰囲気を崩しちゃいけない。声の出し方も変えていますし、体力勝負ですね。
「鳥しき」と何が違うのって言われた時に「見せ方は違いますけど中身は一緒です」と言えるように、頑張っています。やっていることは同じですが、独立と分店の違いというか、より濃く出すのが分店なのかなと思ってます。

―これからの焼鳥店に求められることは?

白石:焼鳥はすごく強いコンテンツだと思っています。日本だけでなく世界のお客様に、本当の焼鳥を伝えたいというのもあります。
今、お店でランチをさせていただいていますが、お昼から本気の焼鳥をやっているお店は数少ないと思っています。コロナもあって1回の食事が貴重になっていると思うので、自分が調べて予約取れるかなとなった時に、この時間だけと決めずに行けたらなと。選んでいただけるようにスタッフにも伝えていますし、努力する方向でいけたらと。

小美野:焼鳥って、鳥だけでも色々できると思っているんですよね。焼鳥文化をもっと世界に発信できたらということ、後はお客様が評価してくれると思うので、ただ良いものをお客様が喜んでくれるように徹してやっていくだけなんじゃないかな。

対談をしてみて

小美野:白石君の話も聞いて、今の「鳥しき」からも芯のしっかりした若手が育ってると実感しました。親方の指導が若手まで行き届いていると感じて、僕も若手の人間達に「鳥しきイズム」を今後も継承していかないと、と思いました。

白石:この機会を作っていただいたことに感謝です。転職して、修業したら(小美野)正良さんみたいなお店ができるし、2店舗、3店舗と頑張ってくださることで、修業している若手に夢を与えてくれていると思います。改めて焼鳥って夢があるなって。僕もますます精進していきたいと思っております。

【プロフィール】
小美野正良
システムエンジニアとして10年。実家が鰻屋であったこともあり、会社員の頃より自然と飲食店に興味を持ち始める。
元々好きであった焼鳥に強く惹かれ、30代になり目黒にある鳥しきに入店。
約6年間の修行ののち、押上にて焼鳥おみ乃開業。
5年目となる今年3月、神谷町におみ乃神谷町開業。今後は海外展開も視野に入れ、焼鳥文化の発展に努める。

焼鳥

焼鳥 おみ乃

京成押上線 押上駅 A1出口より徒歩3分

8,000円〜9,999円
焼鳥

おみ乃 神谷町

東京メトロ日比谷線 神谷町駅 B3出口より徒歩3分

12,000円〜14,999円

白石優太
1986生まれ。岡山県出身。大学を卒業後、社会人として企業に就職。
その後焼き鳥の道へ。鳥しき池川義輝氏の下で3年間の研鑽を積み、2021年「鳥おか」の店主となる。
火入れ、炭、お客様との間にこだわりを持ち1串を丁寧に焼きあげる。

焼鳥

鳥おか

東京メトロ日比谷線 六本木駅 1C出口より徒歩5分(コンコース内直結) 六本木ヒルズのウエストウォーク5階となります。

10,000円〜11,999円

【編集後記】

じっくりとお話をされるのはこれが初ということながら、お2人の息の合ったトークに魅了されました。「串打ち3年、焼き一生」という言葉を背中に背負い、お客様に美味しい1串を届けるため、黒子に徹し精進を重ねる。同じお店で修業を積み、究極の焼鳥を求め続けるお2人に、これからも目が離せません。

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。高級旅館のお取り寄せが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:鮨 梢 / Le Signe / 愚直に / ICARO miyamoto
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / ブラマソーレ / 美伶
・自分の会食で使うなら:SÉZANNE / 中国飯店 富麗華 / エディション・コウジ シモムラ
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材:山菜

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