千代田線・赤坂駅から徒歩約2分、アクセスの良い場所に店を構える「磨匠ながやま(みがきしょう)」。オーナーシェフは、お肉好きの美食家を虜にしている「WAGYUMAFIA」で総料理長を務めた永山俊志氏です。約20年もの間、和牛一筋の道を歩んできた永山氏が、今回KIWAMINOのインタビューに応えてくださいました。
※本インタビューは、2021年3月30日に感染症対策の上で行いました。
和牛と共に20年以上、生産者の想いを届けるこだわりの道
―和牛と永山様が出会ったきっかけを教えてください。
26歳の時に、“肉の聖地”とも呼ばれる「正泰苑」さんで働かせてもらったことがきっかけですね。
実は若い頃にミュージシャンを目指していたのですが、厳格な両親だったこともあり、19歳の時に将来のことを考えて調理師専門学校に行きました。そこの講師だった方が「正泰苑」のオーナーで、音楽を辞めたという私の話を聞きつけて「うちで働いてはどうか」と誘ってくださいました。そこで初めて和牛と出会って、他の肉牛とは比べものにならないくらいの違いがあることを知りましたね。
―26歳から焼肉の世界は、大変だったのではないですか?
今から20年近くも前ですが、とにかく忙しくてかなり大変でした。洗い場からスタートして、接客、盛り付けのみの野菜場、そして初めて調理的なことができるごはんもののポジションを経て、だいたい3年がかりでやっとお肉に触れるという厳しい環境でしたね。ただ、本気で突き詰めるにはこういった環境が大切だったと思います。この時の経験が、独り立ちしてからずっと役に立っていますね。
―「正泰苑」のこだわりは、今でも永山様にあり続けているのですね。
「正泰苑」のこだわりは、例えば“自分たちの目で見て選んだお肉しか使わない”とか、寿司屋さんのように、切り置きではなく“オーダーが入ってから、柵からカットする”などがありました。そういった考えはすべて、お客様に美味しく食べてもらいたいという想いからきているんですね。その想いをしっかり受け継いで、私もお客様に喜んでいただくためにどうすればよいかを日々考えています。
―永山様の「生産者の想いを伝えたい」というのは、この頃から生まれたのでしょうか。
「正泰苑」時代に、様々な食材の生産者にお話を聞く機会がありました。こだわって生産されている方々は、「消費者に、安心して美味しく食べてもらいたい」という想いを強く持っている人たち。だからその方たちが手掛けた食材は、手間をかける分高くなっています。それを安く買い叩いてしまっては、こだわることができなくなってしまう。安全で美味しい食材をお客様に食べ続けていただくためには、正当な価格で売り買いしていかなければならない、と直接お話を伺って感じていました。
生産者の方の想いを、どうやったらたくさんの人に届けられるのか。独立して一つ店を構えるより、複数のお店のコンサルタントをさせてもらってそれぞれで想いを発信したほうが多く伝わるのではないかと考えました。
―永山様の想いに共感され、参画されたお店が今でも人気店として支持を得ているんですね。その後「WAGYUMAFIA」に参加されたのでしょうか。
「WAGYUMAFIA」に、スタート時から関わることになったのは、和牛焼肉店のコンサルタントをしている時に、ひょんなことで浜田寿人さんと知り合い、意気投合したのがきっかけですね。お店で使用する和牛は限定されていて、その一つが“幻の和牛”と呼ばれる「尾崎牛」。生産者の尾崎さんはこだわりを持った素晴らしい方です。「WAGYUMAFIA」にいた約5年の間にも、様々な生産者の方にお会いする機会があり、この方たちの想いを伝えたい、一緒にお仕事をしたいという気持ちはますます強くなりました。
美しく磨かれたお肉を使用した至高の料理を五感で堪能する
―そしてついに2020年9月、「磨匠ながやま」をオープンさせました。目の前でお肉の磨きが見られるライブ感のあるお店ですね。
「正泰苑」で得た知識と技、「WAGYUMAFIA」のエンターテイメント、「生産者の想い」を伝えるということを軸に、お店をオープンさせました。席数は8席のみ。ライブ感にはこだわりましたね。目の前で、ブロック状態の肉の塊を、お客様が今食べる状態にするため、余分な脂や筋を取り除いて美しく捌かせてもらいます。私たちはお肉を捌くことを「磨き」と呼んでいますが、見たことがない方も多く「初めて見ました!」とワクワクしてくださります。直に興味を持って楽しんでもらえるのは、ライブ形式ならではの良さではないでしょうか。
―使用されている食材は、こだわりを持った生産者さんのものでしょうか。
お取引させていただいている生産者さんは、餌からこだわっている方ばかりです。意図的にサシを多く入れようと、成長促進剤のようなものを使って育ててはいません。「サシがたくさん入ったお肉は胃がもたれるから1、2枚で十分」という方がいらっしゃいますが、私が提供させていただいているお肉は毎日食べてももたれません。こだわって育てられた和牛のお肉はいくら食べても胸焼けしないんです。それが安全で安心、美味しいお肉なんです。
―カウンターでは、お客様とお話することもあるのでしょうか。
お肉をお客様に提供する時に、生産者さんのこだわりをお話させていただいています。たとえば、長野県の菅平高原にある「ダボス牧場」さん。広大な土地に100頭余りの牛を飼われていて、餌はもちろん飼育環境を自然に近いものにするなどと、こだわられています。日本だけではなく海外の料理人たちも手に入れたいと思っている食材なのですが、ここの生産者の方は、お肉を一般の流通に乗せないんです。競り落とされたお肉を買い戻し、ご自身が認めた人にしか販売しないようにしていらっしゃいます。ウチもたまに仕入れさせてもらうのですが、味が抜群にいいですね。
―「磨匠ながやま」では、こだわり抜かれた至極の和牛以外にも、幻のお肉と出会うチャンスがあるんですね。
ひと月で1頭ほどしか出荷されないので、運が良ければ2パーツくらいは届くかも知れませんね。ただ、サシとかも少ないので、写真映えはしませんよ。でも最高に美味しいんです。ほかにも幻と呼ばれるお肉は、ご提供していますからぜひ味わっていただきたいですね。
―永山様が料理を通してお客様に伝えたいことはなんでしょう。
一番は、「和牛って本当に美味しいんですよ!」ということですね。素材ありきの業態は、手をどこまで入れるかが難しいんですよね。あまりコテコテにやりすぎると、こだわりのお肉を使う必要がなくなってしまいます。かといって、タレなどをいくつも出されてもお客様は迷って困っちゃいますよね。さじ加減が難しいのですが、おかげさまで20年以上も和牛の世界にいたことと、お客様の目の前でブロックのままのお肉を捌いていますので、今日のお肉のコンディションがわかるんです。だから、美味しく食べていただくための調理の判断がその場でできて、お客様にご満足いただける一品を提供できていると思います。
―「磨匠ながやま」のコースには、白子などお肉以外を使った料理などもあるとお聞きしました。
牛に限らずお肉には季節感がないんですよね。冬の間の牛は脂肪を貯めていて少し甘いという話もあるんですが、食べてみても実際わからないと思います。和牛と季節の食材を掛け合わせることで、日本の四季を感じていただこうと思って提供しています。白子を使った一品も、ごろっとしたサイコロ状の和牛を使った麻婆白子として、お肉をメインに出させてもらいました。今考えているのは、夏の季節に貝と和牛を使った一品ですね。なかなかこの二つの良さを引き出した料理が私の中ではうまくできていないんですが、今年こそはなんとかお客様に味わってもらいたいと思っています。
―最後に、今後の目標や展望をお聞かせください。
和牛は“世界で戦える食材”だと思っています。日本国内だけではなく、海外にもこの美味しさを伝えたい。ただ、私のお店のスタイルは再現性がなかなか難しいと思っています。今後の育成に関しても力を入れて、生産者の想いと本当に美味しい和牛をお客様に提供し続けたいですね。
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<プロフィール>
1974年福岡生まれ。18歳の時に上京。同時に調理師専門学校で学び、26歳の時に恩師の経営する「正泰苑」で研鑽を積む。その後38歳の時に飲食店コンサルタントとして活躍。和牛を世界に広めるパイオニア浜田寿人氏と出会い、堀江貴文氏とともに「WAGYUMAFIA」に参加し総料理長に。2020年9月、満を持して「磨匠ながやま」をオープン。
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おまけインタビュー:永山様がよく食べに行くお店はどこですか?
中華が好きなので「銀座 やまの辺 江戸中華」さんですね。公私ともに仲良くさせていただいています。コースなので何かを選んで注文することはないですが、最初に出てくる春雨にカラスミをかけたものはもう絶品ですね。上海ガニの季節は必ず行かせてもらっています。美味しいものしか出てこないので安心して訪れられるお店ですね。
<編集後記>
店内に入ると、赤坂の喧騒が嘘のように感じるムーディーな空間が目に飛び込みます。黒を基調とした設えの中、カウンター席の前のオープンキッチンに立つ永山氏。静かに存在感を放つ肉の塊が、磨師・永山氏の手によって宝石のように美しく輝きだす。料理はもちろんですが、永山氏の卓越した技術も堪能してみてはいかがでしょう。
※こちらの記事は2022年08月15日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。