昨今の寿司屋と言えば“おまかせ”スタイルが主流。“おこのみ”という昔ながらの江戸前スタイルを楽しめるお店は希少な存在になっています。“おまかせ”のお店は良く行くけど、“おこのみ”はちょっと敷居が高いと思われる方も多いはず。今回KIWAMINO編集部が伺ったのは、昭和12年創業、銀座・歌舞伎座至近にお店を構える「寿司処 銀座ほかけ」。戦前から変わらぬ江戸前寿司を提供する老舗寿司店で “おこのみ”の楽しみ方や江戸前寿司の基礎に関してタベアルキスト・マッキー牧元氏に伺いました。
ご紹介してくれるのは……
マッキー牧元氏
「味の手帖」編集顧問。国内、海外を問わず、年間700食ほど旺盛に食べ歩き、雑誌、テレビ、ラジオなどで妥協なき食情報を発信。近著に「超一流サッポロ一番の作り方」(ぴあ)がある。
目 次
江戸前寿司店で“おこのみ”を粋に楽しむ注文法とは
基本的な注文の順番は、味が薄いものから濃いものを注文するのが良いと言われています。本来はお好みなので、何をいつ食べても問題ありません。ただ、いきなり穴子とか煮蛤のようなツメ(寿司ネタに塗る、甘辛いタレ)が乗ったものから食べるのは、あまりおすすめできません。口の中がツメの味になってしまうので、まずはイカや平目などの白身魚を選び、徐々に濃いものを注文するのが基本的な流れです。
今回は、平目、イカ、赤身、中トロ、コハダ、アジ、イワシ、トリガイ、赤貝、青柳、ゲソ、煮蛤、煮ホタテ、卵焼き、干瓢という順番でお願いしました。最初は味の薄いもの、江戸前の代表格であるマグロ、そして中トロの脂を、これまた江戸前鮨の代表格であるコハダで、あっさりとさせる。続いてアジやイワシといった酢〆の寿司だねに行き、次にツメの乗った煮蛤などをいただき、玉子焼き。そして最後は干瓢巻で〆るというのが一通りの流れです。
江戸前寿司店と言えば、必ず食べたいあのネタ
コハダ、赤身、煮物、〆たアジやイワシは一番大事です。まずは、それら基本のネタを注文します。昔は冷凍技術がなかったので、基本的に酢で〆るか、茹でるか、煮るかで調理したネタが中心でした。
なかでもコハダ。最近ではコハダの〆を浅くして、ジューシーさを出すお店が増えてきましたが、きっちりと〆てないと、微かに臭みが残ってしまうこともあります。コハダはやはり〆た方が酢飯に合いますね。関西だと酢〆の鯖などは昔からありますが、コハダを見かけることはありませんでした。今では全国で食べられるようになりましたが、やはり江戸前と言えばコハダですね。
青柳とは馬鹿貝とも呼ばれている二枚貝です。小柱は青柳の貝柱で、身の部分を青柳と言います。青柳もなかなか見かけなくなってきていますね。青柳は江戸時代、千葉で豊富に採れていたので、江戸っ子に人気だったそうです。
煮蛤も、昔はよくありましたが、見かけなくなってきました。昔は東京湾で採れていましたが、今は採れないですよね。煮ホタテも最近のお店ではなかなか見かけなくなりました。
巻物も大事です。最初に生まれた巻物が、干瓢巻きと言われています。鉄火巻やかっぱ巻きは6つに切りますが、干瓢巻きは4つに切るのが特徴です。そして巻物こそ、出されたらすぐに食べるのが大事。海苔がパリッとしているうちに食べましょう。
粋な握りの食べ方とは
寿司は手で食べても、箸で食べてもOKです。握りの正しい食べ方ですが、まず手で食べる場合は人差し指を外して、親方が握りを出してくださった手の形と同じようにつかみます。親方の差し出された指の形を真似る、これが1番正しい寿司のつかみ方ということです。
箸の場合は、握りと箸が平行になるように、やや下側から持ち上げるようにして食べるのが正しい食べ方です。斜めに箸を入れがちだと思うんですけど、こうすると難しいですし、崩れてしまったりします。もちろん手に匂いが付くのを気にされて、箸で食べる方も多いと思いますが、手ならではの味があると思いますし、僕自身は手で食べるのが好きです。
知っておきたい、寿司を食べる上でのマナー
① 予約をしたら、遅れないこと。お店の方への配慮が大切です。
② 香水はつけない。寿司は繊細なので、香りで台無しになってしまいます。
③ Tシャツ、ショートパンツ、サンダル、ダメージジーンズなどはNGです。まずは身なりを整えましょう。
④ カウンターに物を置かない。時計や指輪などはカウンターが傷つくので基本的に外します。
⑤ 何人かで訪問する際は上座に注意します。基本的にお店の奥が上座ですが、カウンターなどの場合は親方の目の前が上座になることがあります。ケースバイケースで対応することが大事です。
⑥ 「ガリ」、「むらさき」、「おあいそ」などの単語は使わないこと。これらの単語は元々お店側が客に対して使っていた言葉なので、客側が使うのは正しくないです。「ショウガ」「醤油」「お会計」といった言い方を心掛けましょう。
⑦ 握りが出たらすぐ食べる。昨今は、写真を撮るのが当たり前になっていますが、何枚も撮らないこと。1枚撮ったらすぐに食べる、これが大切です。
⑧ 一口で必ず食べる。握りは一口で食べられる大きさで握られています。
⑨ 食べ終わったら、さっさと帰る。長居しないことです。
気になる寿司用語や豆知識を解説!
「親方」
寿司屋の主人のことを「大将」と呼ぶ人がいますが、あれは誤りです。本来は「親方」と呼びます。大将は、日本料理の店主などを指します。最初、親方と呼ぶのがはばかれる時は、まずご主人と声をかけ、段々と親方としていくのが良いでしょう。
「つけ台」
握られた寿司が置かれる台を「つけ台」と言います。今では「ゲタ」と言って、寿司をのせる台を置くことが多くなっていますが、江戸前ではそのまま「つけ台」に握りをのせるスタイルが主流でした。
「のれん」
江戸前の寿司屋には、玄関の他に、店内にも小さなのれんがかかっていたりします。これは、寿司屋が屋台だった頃の名残。昔はお手拭きはなかったので、食べ終わったらそののれんで汚れた手を拭いて屋台を後にしていました。そのため、のれんが汚いお店ほど人気店と言われていたんです。
「地紙型の握り」
寿司の握り方の中でも、酢飯を扇の地紙型に握るのが美味しいと言われています。扇にはられた地紙の形に似ています。全体は流線形。ほろりと口の中でとろける触感を楽しみましょう。
「三尺という計算された間合い」
寿司職人と客の間合いは、約三尺(約1メートル弱)。昔は寸度尺と言って、人間のサイズに合わせて、容器などの大きさが決まっていました。成人男性の箸のサイズが七寸五分(25センチ弱)と決められていて、箸を2本縦に繋いだ長さが一尺五寸(約50センチメートル)です。客側、職人側、それぞれ一尺五寸ずつの間合いがあると、互いが気持ちよく食べられる空間となります。近すぎても息苦しいですし、遠くても寿司が出しづらく、よそよそしくなりますからね。
今回お邪魔した「寿司処 銀座ほかけ」とは
「寿司処 銀座ほかけ」は、昭和12年に三田にて創業。戦後の昭和23年に現在の銀座・歌舞伎座至近に移転して以来、多くの食通たちに愛されてきた江戸前寿司の名店です。現在は3代目として半世紀以上に渡り板場に立ち続ける親方・矢崎桂氏と、4代目・哲也氏の親子二人で切り盛りされており、時代が流れても変わらない昔ながらの江戸前の粋を味わえる希少な存在となっています。
今回は、タベアルキスト・マッキー牧元氏に江戸前寿司の基礎から、マナーや“おこのみ”の楽しみ方など多岐に渡って伺いました。本格的な江戸前寿司を提供するお店も少なくなってきていますが、江戸前スタイルをマスターしたら、新しい寿司の楽しみ方が見出せそうですね。
※こちらの記事は2024年07月08日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。