鮨のプロ「すしログ」大谷悠也氏が伝授!高級鮨店での基本マナー

鮨店でのマナーは、鮨の味に影響を及ぼします。そして、他のお客さんや職人さんへ敬意を示す上で非常に重要です。鮨店はカウンターのみで席数が少ない業態です。“客ならば何をしても良い”などと思わず、“他のお客さんと空間を共有している”という認識が必須の教養となる次第です。本記事では、最低限のマナーを解説します。

鮨のプロが伝授!高級鮨店での基本マナーとは

・基本中の基本、予約時間は必ず守る

まず、絶対に守るべきマナーは予約時間です。時間は厳守し、もしも万が一の場合に遅れる可能性がある時は早い段階で一報する必要があります。しかし、最近は一斉スタートのお店が多いため他のお客さんに迷惑をかけてしまいますし、一斉スタートでなくても職人さんが不安に感じてしまうので、遅刻は避けるべき行為です。

・香水や柔軟剤など、強い香りのするものはNG

そして、職人さんと消費者がNG行為として最も多く挙げるのは、においです。鮨店を訪問する時は、香水や柔軟剤、強い香りのする整髪料の使用は控えるようにしましょう。使用している本人は“良い香り”と思っていても、他の人には“臭い”になる可能性があることは認識すべきです。日本料理や鮨にとって香りも非常に重要な要素だからです。インフルエンザなどで鼻がきかない時に、味が分からなくなるのと同様です。個人的に、これはお店から入店拒否をされても仕方がない行為だと考えます。

・会話のボリュームや内容など、他のゲストにも配慮を

また、カウンターでは大きな声での会話は避けるべきです。普通の声でもお店中に聞こえるのが鮨店です。過度にプライベートな内容や高級店に不適切な内容の話は論外ですが、大声も他の人の体験価値を著しく下げるので避ける必要があります。

・出されたものはお早めに!瞬間の美味しさを味わう

多くの人が陥りがちな注意点としては、鮨を食べるスピードです。提供された鮨は早めに食べる必要があります。食べ歩きをしている人は出されてすぐに食べるのが習性になっていますが、ビジネスやデートで訪問する時は、自分は頭に押さえていたとしても相手側がついつい話に夢中になって鮨を放置してしまう可能性はあります。これは職人さんや他のお客さんにとって不愉快な行為なので、優しく、それとなく伝えてあげるのが良いです。

・姿勢や所作などにも気を配り、真摯に鮨と向き合う

さらに、無意識な人が多い盲点としては、カウンターでの姿勢です。肘をつかない、足を組まないなど、基本的な礼儀作法を守る必要があります。癖で足を床に打ち鳴らしたり、貧乏ゆすりをしたりする人もいますが、カウンターのお店では注意すべき悪い癖です。また、おしぼりは丁寧に扱い、使用後は美しく折りたたむのが良いです。不思議なことにグルメな方であっても粗雑に扱い、ちらかす人が散見されるので、細かい点になりますが、記載させて頂きます。

高級鮨店へ行くからこそ知っておきたい、正しい鮨の食べ方とは

・手と箸、鮨を食べる際はどちらが正しい?

鮨を手で食べるか、箸で食べるかという問題は、昔から話題に上がり続けています。そして、時たま“接待では箸が良い”とか“女性は箸の方が優美”などといった記事を見ますが、これらは見当外れな主観論です。鮨店では、箸と手のどちらを使用しても構いません。ただ、細かくスイッチすると職人さんが戸惑ってしまいますので、一度選んだ方法で統一することは必要です。

・鮨という稀有な料理だからこそ、食べる際は一口で

なお、当たり前のことになりますが、鮨は一貫を一口で食べることがルールです。時おり、“二口で食べようとする人がいる”とか”タネとシャリを分けて食べる人がいる”と聞きます。鮨は咀嚼によって味わいが変化し、一口で複雑な味わいを楽しめる世界でも稀有な料理です。自分の一口にとって大きすぎると思った方は“シャリを小さめでお願いします”と伝えて、一口で食べられるように調整しましょう(遠慮せずとも問題はありません)。

本当の“通っぽさ”とは?用語の誤用に関する注意点

・専門用語は、本来の意味をきちんと理解したうえで使う

鮨に関する用語の正しい理解と使用は、食の教養を示す重要な要素です。例えば、「シャリ(鮨飯、酢飯)」や「ガリ(生姜の酢漬け)」は一般化しているので使っても問題ない状況ですが、「おあいそ(お会計)」や「あがり(お茶)」は本質的にお客が使用してはNGな用語です。

“専門用語を使うと通っぽい”とか“専門用語を使うと粋”と思う人もいるかもしれませんが、文脈を把握して使用してこその専門用語です。慣用化しているかどうかが使用の判断基準になります。職人さんは接客のプロでもあるので、お客が食べこんでいるかどうかは少し話をしただけで分かるものです。生半可な知識や経験で通ぶると、半可通とみなされても文句はいえません。逆に、寡黙であっても通かどうかは一流の料理人ならすぐに見抜くので、黙っていながら通なのが最も粋ではないでしょうか?

高級鮨店を満喫、最後に知っておきたいお会計の仕方とマナー

・高級鮨店だからこそ、スマートにお会計を

昨今の鮨店でのお会計は、“おきまり”ではなく“おまかせ”コースが一般的です。ですので、明示されている“おまかせ”コースの価格(時たま時価による変動あり)+追加の握りの価格+飲み物の価格がお会計の金額になります。お会計時に“明細をよこせ”などというのは無粋です。なので、追加をする時には旬やタネのグレードを考慮して高額になる可能性があるタネは避けるなど、自衛する必要があります。

また、お酒についても、明らかに高級な銘柄をおすすめされた際には、“いくらですか?”と尋ねるか、”美味しいのかと思いますが、高級ですよね?”と伝えるようにしましょう。お酒は高級かどうかではなく、あくまでも料理に合うかどうかが重要です。

・カードで支払いはあり?鮨のプロの回答

なお、最近はカード払いが普及しているので、現金でなくても問題ありません。ただ、個人的には、親方と女将さん二人で経営されているような個人店の場合には、現金をおろして訪問するようにしています。そちらの方が双方にとって気持ちが良いためです。最後に、お会計の際には必ず“ごちそうさまでした”や“美味しかったです”と一言添えて、感謝の意を示すことが大切です。料理人と食材に感謝することが、外食の基本です。

“高級鮨店のマナー”と聞くと、ちょっと緊張が走るかもしれません。ただ、上記のとおり簡単で当たり前のことばかりなので、緊張する必要はありません。大切なことは“お店に敬意を払うこと”です。お店とフェアな立場で食を楽しめる人こそが真の食通であるのは間違いありません!そして、お店に敬意を払って食べ続けると、自身の人生にも良いことが訪れるはず。外国人の鮨ファンも増え続ける現在、日本人が彼らの模範になれば何よりですね。

※こちらの記事は2025年02月15日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

「すしログ」大谷 悠也

1981年、広島県生まれ。国際基督教大学卒業。鮨研究家、広島県鮨アドバイザー、日本酒ペアリング研究家。日本ソムリエ協会 J.S.A. SAKE DIPLOMA。鮨・鮓・寿司の本質を伝え、人気を高めるべく「すしログ(https://sushi-blog.com/)」を運営。旺盛な食欲と好奇心に基づき、国内外で6,000軒以上の飲食店を訪問。市場や生産者、醸造家のもとに足を運び、自ら調理も行う。

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