名古屋の人気店「京味 もと井」本井将樹氏インタビュー。日々進化を追求する京料理の道

愛知県名古屋市。覚王山駅から徒歩約8分の地に門を構える「京味 もと井」。店主の本井将樹氏は、京都の名店で10年間研鑽を積み、36歳の時に満を持して自身のお店をオープンさせ、多くの美食家を唸らせてきた人物です。今回は、2021年4月に移転オープンした新店舗のこだわりと共に、本井氏の料理への想いをお聞きしました。
※本インタビューは、2021年7月14日に感染症対策の上で行いました。

カウンターを挟んでお客様を笑顔にさせる料理の世界に興味を持って

-まずは、料理人を目指したきっかけを、お聞かせください。

実は、18歳くらいまで建築の道に進もうと大学で学んでいたんです。でも、18歳の頃からバイトしていた居酒屋の調理が面白くて、料理の道へ行こうと決心したんです。そもそも、料理に興味を持ったのは祖母の影響ですね。両親が共働きだったので、祖母と一緒に料理をしていたんです。それで居酒屋で調理のバイトを始めたというのがありますね。
バイト先の居酒屋はカウンターがあるお店だったんですが、板場に立って調理しながらお客様と会話するのがとても楽しかったんですね。日本料理を本格的に学ぶならやっぱり京都だろうと思い、大学を中退して20歳で飛び込みました。

-決断力と行動力がとても早くてびっくりです。でも、20歳から料理界へスタートだと大変だったのではないでしょうか。

いろんな壁がありましたが、辛いと感じたことはなかったですね。まず、初めに働かせていただいたのが京都の「京料理 やまの」さん。たくさんのお弟子さんがいましたが、ほとんどが自分より年下。その方たちがみんな先輩になるので、正直複雑な思いがありました。

でもその環境だからこそ、休日や休憩時間を使って市場に行ったり、廃棄になる鱧を使って骨切りの練習をし続けたり、必死で学びました。寝る間も惜しんだ日々でしたね。良かったのは、お店に寿司職人さんがいらしたこと。日本料理の基礎はもちろん、幅広く勉強させてもらえました。

-基礎を徹底的に自らの身体に叩き込んだ本井様が、次に選んだお店はどこだったんでしょうか。

今はもう、大将が引退されてお店はないのですが、こぢんまりとした割烹料理屋さんで働かせてもらいました。客として通っていたんですが、料理はもちろん大将と女将さんの人柄が素晴らしくて。自分が将来開きたいと思っていた理想のお店に、ぴったりな雰囲気だったんです。

そこには5年ほどいたんですが、様々なことを学ばせていただきました。私が大事にしている言葉に“目配り、気配り、味配り。想いも配って、笑顔の人生”というのがあるのですが、これはその大将の言葉なんです。この言葉が私の料理道の軸にありますね。

故郷の名古屋へ、ごまかしができない素材の味わいを生かす京料理を

-京都で約10年間、研鑽を積まれて地元名古屋へ凱旋なさったわけですが。

故郷に錦を飾るためではないですが、「いつかは故郷で」という想いがあったので、娘が小学生になるタイミングで名古屋に拠点を移しました。自分のお店も地元でスタートさせたかったので、エリアの雰囲気を理解するために2店舗ほど働かせてもらいました。

※最初の出店地「池下」のお店

35歳の時に、名古屋の池下で最初のお店をオープンしました。京都の修業先のような温かみのあるお店にしようと思いましたね。カウンターのみで席数は8席。その時の自分が、お客様を満足させることのできる人数に限らせてもらいました。

仕入れ先も市場で信頼のおける方ができたので、四季折々の旬のものを使い、素材本来の味を大切にしながらも自分らしさを表現した一皿を提供しようと。
一番うれしかったのは、お客様として自分の祖母を呼べたことですね。もう亡くなってしまったんですけど、とても喜んでくれて本当に良かったと思います。

覚王山に構えた自分の理想をカタチにした新しい店舗

-自身のお店をオープンされて、約6年後に移転を決意されたのはなぜでしょう。

出会い、タイミングでしょうか。師匠のお店も京都の長屋を改修していたんですが、私も庭があって木の温もりがあり、どこか非日常を感じさせる空間で料理を提供したいという想いがあったんです。その想いが強くなっている時に、新店舗の物件に出会ったんです。

築80年と歴史のある家で、所々に当時の大工さんだからこそできたこだわりの設えがあったり。それらを活かしてモダンに改装してもらいました。庭は、待合室からも廊下からも見ることができて「どこかに旅行したみたい」と言ってくださるお客様も多く、うれしいですね。

-店内で目を引くカウンター。木目がはっきりして素敵ですね。

カウンターは、樹齢300年の赤杉を使い「浮造り」という技法で作られたものなんです。白木のカウンターも考えたのですが、木目の凹凸を鮮やかに浮かび上がらせた、こちらの方が店内とマッチするかなと考えました。

設えは、大工さんやデザイナーの方と半年くらいかけて、京都の料亭にも足を運びながら決めてきました。客席も板場も、自分の料理に合う設えになったと思います。

-お店を移転されて、新しく取り組まれたことなどはありますか?

素材の味を活かすために、使用する調味料は少なくしています。そのため、京料理では出汁がより重要なんです。今回の移転を機に、削りたての鰹節で出汁がとれるように専用機械を導入しました。鮮度が抜群に上がったので、以前とは違うと思います。前のお店を知るお客様も「おいしくなった」と言ってくださるのでうれしいですね。

日々進化を続ける「もと井」流の京料理

-これまでの京料理の枠の中にありつつも、「もと井」だけでしか出会えない一皿も多いと伺いました。

基本の京料理というものは変えませんが、時間をつくってはフレンチやイタリアン、中華のお店に行ってインスピレーションを得たりしています。中華料理で使用される発酵調味料の「豆?(トウチ)」を鱧に合わせて「鱧の豆?あんかけ」としてお出ししたり、エシャレットをポン酢につけてお刺身と一緒に味わっていただいたり、日々進化した料理をお出しするように心掛けています。

当店は、おまかせのコースのみにさせていただいています。冷たいものの後は温かいものを、といったような緩急をつけながら、最後にお出しするお抹茶まで、お客様におなかいっぱいになっていただきたいと思っています。
デザートまで入れると、だいたい11品。結構ボリュームがあると思いますよ。

日本酒も、全国の銘酒から地酒まで9種類ほど揃えています。在庫がなくなったら違うお酒を仕入れるので、それも楽しみにされるお客様もいらっしゃいますね。他にも、白を中心にワインのご用意もあるので、ぜひ料理とのマリアージュも堪能していただきたいです。

-本井様の今後の目標、想いなどをお聞かせください。

最初にお話しした“目配り、気配り、味配り、想いも配って、笑顔の人生”という言葉通りに歩んでいき、それを弟子たちにも伝えていきたいと思っています。自分が言うのもなんですが、素敵なお店になったと思います。非日常の空間でゆっくりお食事をされたい方、ぜひおいでください。

プロフィール
本井将樹氏
1980年生まれ。愛知県出身。高校を卒業し、建築を学びに大学に入学するも中退し日本料理の道へ。京都の名店で約10年間研鑽を積み、2015年に愛知県名古屋・池下に自身のお店「京味 もと井」をオープン。2021年4月に、名古屋市・覚王山に店舗を移転。地元はもちろん、県外にも多くの常連客を持つなど、注目を浴び続けている。

◆店舗ホームページ◆
https://kyoto-cuisine-restaurant-109.business.site/

【編集後記】
物腰が柔らかで笑顔の素敵な本井様。高校生になるお子様もお店でバイトしてらっしゃるとか。どこかほっとするような雰囲気も、本井様ご家族の温かさがお店に表れているからなのでしょう。お話の中でたくさんの驚きがあり、その一つが、ご自身の料理のレシピは一切メモなどに残していないというところ。その言葉と行動に、過去のものに囚われずに日々進化を求める本井様の矜持を垣間見た気がしました。名古屋を訪れたら必ず行きたいお店が、また一つ増えました。

※こちらの記事は2023年08月22日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

吉田ふとし

人材業界系メディアの編集・制作を経て、現職。小学生の娘をもつ1児の父。アルコール(日本酒、焼酎、ウィスキー)を好むのは祖母譲り。読者のみなさまには、気づきのある多くの情報をお届けいたします。よろしくお願いいたします。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ジランドール
・好きなお店:広東料理 センス
・自分の会食で使うなら:「赤坂浅田」
・得意ジャンル:和食 / バー
・好きな食材: ジビエ、白子

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