食通に聞く、旅してでも訪れたい地方の名店 Miki D’Angelo Yamashita氏編

美食体験をするためにわざわざ地方を訪れる「ガストロノミーツーリズム」という言葉も浸透してきましたね。今回は、その土地の食に対する料理人の強いこだわりを感じる魅力満載の名店を5軒厳選して紹介します。

1.和食の味をイタリア・スペインの技術で撚り合わせた創作料理

SHOKUDO YArn(石川県/小松駅)

SHOKUDO YArnの店内

北陸の玄関口・小松空港から車で約20分、JR小松駅からは約10分。住宅地に黒く塗られ窓もない謎めいた平屋が現れます。「SHÓKUDŌ YArn」と小さく記された店名を確認しながら扉を開けると、店の中心に植えられたオリーブの古木にはさんさんとふりそぐ太陽。

客席からは、奥にあるガラス張りのキッチンでオーナーシェフ&ソムリエの米田裕二氏、デザートシェフ&ハーブコーディネーターの米田亜佐美氏が、なにやら実験器具を操りながら調理をする姿を望めます。2人は、スペインの星付きレストランやイタリアのレストランなどで修業後、2015年、亜佐美氏の実家の撚糸工場跡に店を構えました。

店名は編み糸を意味する「Yarn」。北陸の素材を撚り合わせて紡がれるひと皿は、ジョーク満載のメニュー名からは想像もつかない料理ばかり。日本の家庭の味をスペインやイタリアの感性で再構築。ゲストの横で仕掛ける料理も楽しく、シェフとの会話もはずむイノベーティブレストランです。

イノベーティブ

SHOKUDO YArn

JR北陸本線 小松駅 タクシーで約8分

20,000円〜29,999円

2.美食家が全国から集う究極の地産地消を供する山荘

比良山荘(滋賀県/堅田駅)

京都から若狭に抜ける鯖街道沿いに立つ歴史を感じる屋敷が「比良山荘」。京都市内からタクシーで約40分、次第に山奥に入り、行き着く鄙の里で饗されるご馳走はここでしか味わえない、山の幸、川や琵琶湖の幸。

うなぎ、すっぽん、山菜、鹿、猪などが季節ごとに姿を変えて現れます。春は花山椒、夏は鮎、秋は松茸、冬の「月鍋」は、ツキノワグマの肉を鍋仕立てにするこの店のスペシャリテ。熊鍋は甘みのあるスープで、しゃぶしゃぶのようにくぐらせます。鯉の洗いや鯉こく、鮎のなれずしなど、通年登場するご馳走も人気。

昭和34年に創業し、2代目は鮎料理を確立。現在の3代目・伊藤剛治氏から本格的な料理屋として名を馳せるようになりました。郷土料理とは異なるこの店だけの特別な供応、究極の地産地消は、美食家が全国から集う上質な饗膳です。

懐石・会席料理

比良山荘

JR線 堅田駅 江若交通バス堅田葛川線(細川行き) 坊村バス停下車 徒歩2分

3.命の尊さをいただく、ジビエも盛り込んだ十勝の肉料理コース

ELEZO ESPRIT (北海道/豊頃町)

北海道帯広空港から車で約1時間半、十勝の豊頃町の海に面して立つオーベルジュ「ELEZO ESPRIT(エレゾエスプリ)」。ジビエの狩猟から豚や鶏の飼育、生ハムやパテなどのシャルキュトリ作り、レストランに至るまでを、一貫して自社で行う「食肉料理人集団」エレゾがオープンさせてまもなく、食通に注目されました。

動物の生きていた過程を料理に表現することを理想とするオーナーシェフ佐々木章大氏。動物が感じている環境、その空気感を伝えていきたい、と自社のハンターが撃ったジビエや自ら育てた肉料理、近隣漁師から入手する魚のみで構成するコースが味わえます。

この環境を宝物と捉える佐々木氏。遠くからこの地を訪れた1日4組のみのゲストは、生き物と直接対話して、この料理のベースに潜む命の尊さを感じながら、高度な技術で生み出される一皿ひとさら に舌鼓を打ちます。

公式HP:https://esprit.elezo.com/

4.南魚沼の「二十四節気・七十二候」を料理に表現

里山十帖(新潟県/越後湯沢)

東京から上越新幹線とJR上越線に乗り約1時間40分、築約150年の母屋を含め、2年間を費し全館リノベーションした古民家オーベルジュ 「里山十帖」。絶景露天風呂を誇り、日本家屋にデザイナーズ家具やアートを配したスタイリッシュな空間が新しいコンセプトの宿として注目を浴びました。

料理長の桑木野恵子氏は、アロマテラピーやアーユルヴェーダを海外で学び、アジアのスパイスの知識を深め帰国。その後、吉祥寺のヴィーガンレストランで料理長を務めたという非凡なバックグラウンドの持ち主。

自然の力強さを感じる食材を豊かな里山から探し出し、南魚沼にあるからこその「二十四節気・七十二候」を料理に表現します。雪国ならではの発酵文化を積極的に取り入れているのが特徴。土地に住む人の経験からしか得られない知恵を学び、独自の料理を追求しています。

https://www.ikyu.com/00002026/

いずれも地産地消の考えに基づく料理が楽しめる個性的な店ばかり。その土地の気候風土が生んだ食材や伝統に育まれた食文化に触れる旅に出かけてみませんか。

※こちらの記事は2024年10月11日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Miki D'Angelo Yamashita

コロンビア大学・パリ政治学院修士。新聞社を経てフリージャーナリスト。専門は別だが、趣味が高じて食担当記者に。延べ3000人料理人インタビュー、約30カ国で食関連を取材。料理本も多数編集。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:未在 / 晴山 / レヴォ /茶禅華
・好きなお店:ギ・サヴォワ / Restaurant KEI / 祇園さゝ木 / 宮坂
・自分の会食で使うなら:ル・ブルキニオン / ラルジャン / 乃木坂しん / 蕎麦おさめ
・注目しているお店:お料理ふじ居 / 日本料理 研野 / ELEZO ESPRIT
・得意ジャンル: スイーツ
・好きな食材:麺類

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