フードコラムニスト・門上武司がおすすめする日本料理店5選 京都編

京都の日本料理の凄みは、代々日本料理を営む老舗と新店の料理店が、お互いを尊重しながら情報交換など密接に関係を築いていることです。老舗には歴史と人脈と器などがあり、新店はとてつもないエネルギーを有しています。そこに「京都」というブランドを守るといった意識が流れ、それぞれの良さを掛け合わせ、他の地域とは異なる連帯感が生まれているのです。

1.2021年4月オープン、美術館のような空間で新味を楽しむ注目の割烹

月おか(京都府/東山)

京都・岡崎に昨年暖簾を掲げた割烹「月おか」の店内は、まるで日本の伝統文化の小さな美術館のような佇まいです。主人の月岡正範氏が、これまで買い集めた器や工芸品が心地よく並んでいます。また、なんとカウンターが畳というのも、他の割烹にはない特徴です。

月岡氏は「草喰なかひがし」で修業後、滋賀県草津で独立、その後ニューヨークで店を開く準備をしていましたが、コロナ禍になり、断念となったのです。師匠の薫陶よろしく、毎日野山や畑に出向き食材を求めるのですが、南草津にある「サカエヤ」(多くの料理人がここで手当された牛肉を使いたがる)から送られてくる炭火で見事に焼き上げます。その姿と味わいに魅了され、リピートするお客様が、どんどん増えているのもこの店ならではの特色といえるでしょう。

懐石・会席料理

月おか

京都市営地下鉄東西線 東山駅 徒歩5分

30,000円〜39,999円

2.炭火に魅せられた店主の技で美味へと誘う斬新な炭火割烹

炭火割烹 いふき(京都府/祇園四条)

祇園にある町屋「炭火割烹 いふき」のカウンターに腰を落ち着けると、前に置かれた炭床の存在が気になります。ご主人の山本典央氏は、炭火が持つ火力が食材のポテンシャルをさらに増すことを熟知した料理人です。炭火を使いこなすためには研究が必要と、スペインなどで火入れを研究。また、料理にとって香りがいかに大切かも考え、炭火と藁や日本茶なども加え、ここでしか感じることができない香りの追求にも余念がありません。

また、最初に供される5種の前菜が素敵です。いつか食べたうずらの山椒焼の香りと火入れの技術は忘れることができません。そして女将さんがセレクトする器の素晴らしさも必見、器が料理の着物ということを実感します。

懐石・会席料理

炭火割烹 いふき

京阪線 祇園四条駅 徒歩5分

30,000円〜39,999円

3.食材第一の料理で、割烹の醍醐味と楽しさを存分に味わう

祇園 大渡(京都府/祇園四条)

「祇園 大渡」。ここでは割烹の醍醐味と楽しさを存分に味わうことができます。凛としたカウンターなのですが、大将の大渡真人氏の素敵な笑顔とホスピタリティの素晴らしさに思わず頬が緩んでしまうのです。

例えば、冬のスペシャリテ「柚子風呂」は柚子釜の中に雲子などが入るのですが、柚子釜自体がお湯の中に浸かっているのです。「お風呂に入って温まっている気分でお召し上がりください」という説明が、大きな笑顔と共に届けられます。ここで一気に身体も気持ちもほぐれてゆきます。
料理は食材第一で、常に新たで上質なものを求めています。そのために他ジャンルの料理人との交流や食べ歩きなど、アンテナの張り方が半端ないのです、その結果が確実に料理に表れています。

懐石・会席料理

祇園 大渡

京阪電気鉄道線 祇園四条駅 徒歩8分

30,000円〜39,999円

4.名店の魂を受け継ぐ店主が生み出す丁寧な日本料理

和ごころ 泉(京都府/四条)

「和ごころ 泉」のご主人・泉昌樹氏は「招福楼」出身の名料理店「桜田」で、修業を重ねて独立し「桜田」が閉店後、その屋形を受け継いだのです。それほど「桜田」のご主人の信頼が厚いということでしょう。泉氏はまさに「真摯」という言葉がぴったりくる料理人です。現在はカウンター割烹が主流ですが、泉氏はあえて料亭の仕事を尊び、それを残そうとしています。

八寸などはその典型。夏なら祇園祭の鉾を模した器に季節の料理が盛り込まれ、まるで祇園祭の音が聞こえてきそうな感覚を覚えます。また、鮎の塩焼きは長時間弱火で火入れをするため、まるで揚げたような食感と味わいになり、大きな感動を覚えます。伝統的な技をきちんと残しながら、現代の息吹も軽やかに取り入れる姿勢には、いつも頭が下がります。

懐石・会席料理

和ごころ 泉

地下鉄烏丸線 四条駅 5番出口 徒歩2分

5.2021年11月開店、日本料理の過去、現在、未来を味わう気鋭の割烹

ひがしやま司(京都府/東山)

京都の新顔「ひがしやま司」。昨年末に開店しましたが、今や予約の取れない料理店の仲間入りです。ご主人の宮下司氏は、多くの人気店を送り出した「祇園さゝ木」出身。修業先のカウンターでのダイナミックな動きは、確実に受け継いでいます。また従来の技法などにとらわれず、時代の流れを巧みに取り入れるスタイルも見事なものです。

鮎の春巻きなどは玉ねぎ麹を使い、発酵という観点から発想した一品。これまで食べた鮎料理の概念を変えるものでした。また牛肉の串料理では、牛肉の上に鰻の蒲焼を乗せて。鰻は鰻のタレと赤ワインの味を含ませるなど、その相性は寸分の狂いもありません。まるで日本料理の過去、現在、未来を味わっているような感覚が深まる、新たなタイプの割烹です。

公式HP: https://www.higashiyama-tsukasa.com/

今回は京都エリアにある、フードコラムニスト・門上武司がおすすめする日本料理店をご紹介しました。

※こちらの記事は2023年04月20日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

門上 武司

1952年10月3日大阪生まれ。フードコラムニスト。
株式会社ジオード代表取締役。
関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言も多い。一般社団法人 全日本・食学会 副理事長。2002 年日本ソムリエ協会より名誉ソムリエの称号を授与。
著書に、『門上武司の僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)のほか、『スローフードな宿』『スローフードな宿2』(木楽舎)、『京料理、おあがりやす』(廣済堂出版)等。2023年11月29日発売の「あまから手帖別冊 食べる仕事 門上武司」(クリエテ関西)はこれまでの門上武司の食の歴史と、これからの「食」を考える刺激的な一冊。

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