食レポ|

「六雁」実食レポ。温故知新を舌で感じるスーパー割烹

2004年、銀座に「スーパー割烹」をコンセプトにオープンした「六雁」。「割烹すずき」、「月心居」を経て2005年に料理長に就任した秋山能久氏の料理は、国内外の食通から多くの支持を得ています。今回は、その魅力を探りにお伺いしました。

6階のオープンキッチンがよく見えるカウンター席からお届けします。

最初の前菜は、「新蓴菜とデラウエアの煎り酒昆布出汁」、「八幡巻」、「帆立のおかき揚げ」の三品。
蓴菜とデラウエアのトロッとした食感は同じなのに、それぞれ繊細な苦味と甘みを味わうことができるのですが、昆布出汁が二つの素材を違和感なく繋ぎ、何とも口の中が楽しい一皿です。

ここに「鳥居平・今村・キュヴェ・ユカ・ブラン2004」の甲州ワインを合わせました。甲州と聞くとやや甘すぎる印象を持たれるかもしれませんが、記録的な真夏日を経て造られたこの白ワインは、ふんわりとした優しい甘さとコッテリとしたコクのある旨味が前菜とよく合い、特に帆立のおかき揚げの甘辛い味付けとの調和が格別でした。

続いての「ごま豆腐」は、丁寧にすりおろされた山葵と、ねっとりとしたごま豆腐が心落ち着く味です。

合わせるワインは、「ル・ガレのシャンパーニュ」。辛口でほんのりとフルーティーなロゼワインは、ごま豆腐の淡白な味わいを邪魔することなく、旨味だけを倍加させるような見事な活躍でした。

煮物椀は、そうめんに茄子と車海老を合わせた一品。
茄子の皮の苦味、車海老の甘さ、ともに旨味過剰にならずに決して主役の出汁の美味しさを邪魔しない調理がされています。主張はするけれど過剰になってしまう要素は排除する、ここに割烹と精進料理で研鑽を積んできた、秋山料理長の矜持が垣間見える気がしました。

ここで「善知鳥の大吟醸 30BY」が、縦長のワイングラスで登場。
ソムリエの山本氏にその意図を伺うと、口に含む前に先に香りから味わってほしいとのこと。試してみようと鼻を近付けると、まずグラスの中に溜まった上品な吟醸香が入ってきました。
続いて、口の中には辛口の善知鳥がスッと入ってきます。お椀に使われている青柚子と、吟醸香が一つに合わさります。辛口の液体が茄子の苦味と溶け合って、味に奥行きが感じられました。
「なるほど、これは美味しいです」という言葉が、素直に口から出てきました。

お造りは、「星鰈」、「本鮪赤身」、「アオリ烏賊」。深く味わうためにしっかり細工包丁が入っています。

お造りに合わせて、「ひこ孫の純米大吟醸 23BY」を。今度はちょっと飲み比べしてみましょうかということで、お猪口と、少し横長のワイングラスと、二種類のグラスで飲んでみました。
精米歩合が高く、米の中心部の美味しい所だけを使用した、絹のような滑らかさが魅力のひこ孫。
お猪口で飲むと濁りのない清冽な味わいがすっと口中に入り、魚の味を邪魔しません。
ワイングラスで飲むと、淡いマスカットのような香りに柑橘系の酸味と甘味が感じられ、純米大吟醸の満足感はそのままにお魚ともよく合います。

焼き物は、鱧の皮目炭火焼、ズッキーニのパスタにカラスミを掛けたもの、新蓮根のあちゃら漬け。ズッキーニパスタとカラスミの塩味、新蓮根の甘酸っぱさをつまむと丁度良い箸休めになります。

引き続き日本酒を合わせて、「悦凱陣 燕石 純米大吟醸」をいただきます。香ばしい鱧と合わせる為ワイングラスで口の中に注ぎ込むと、燕石の旨味と酸味が気持ちよく広がります。

和え物は、関山麩と、胡瓜の胡麻辛子酢味噌和えで大豆とアボカドを。

この和え物に対しては、悦凱陣の最高級酒「しずく 斗瓶囲い 純米大吟醸 生 27BY」を。
ここまでかなり飲み進めていますが、このクラスになるとお猪口で飲んでも贅沢で奔放な旨味をしっかり感じられます。

肉料理は、黒毛和牛のローストビーフにトマトとアスパラを塩麹で和えた一皿。肉自体の濃い味と旨味を生かす、薄めの味付けになっています。塩麹和えの野菜も、甘さが引き立っていて肉の旨味ともかち合いません。

合わせるのは「ルバイヤート メルロー プレスティージュ 2008」の赤ワイン。肉の旨味だけで勝負できる黒毛和牛に対して、豊かな果実感と程よい樽香を纏った上品なメルローは余計な渋味がなく、まさにぴったりの一杯です。

締めのご飯は、深川飯の味噌汁仕立て。香ばしく焼き上げたおにぎりが入っているので、
少しずつ崩しながら食べます。

最初はおにぎりの美味しさを味わいながら、後半は味噌汁となじませながらサラサラと食べられ、一度で二度楽しめます。

赤ワインの余韻を保ちながらの深川飯もよかったのですが、最後の最後に今となっては貴重な「雪の茅舎 大吟醸 古酒 14BY」を。最後にこの古酒を出していただいた意味が分かりました。
この後に飲むべき日本酒が見つからないと思う位に、本当に美味しい一杯であったからです。深い熟成感と、秋田酒こまちの米の旨味が惜しみなく引き出された、格別な味わいを堪能できる熟成古酒でした。
「六雁」のお料理だけでなく、お酒の品揃えの豊富さにもこんなに驚かされるとは、嬉しい誤算でした。

デザートは、レモンソルベと蓬豆腐のあんこ添え、白いマカロンを。レモンソルベは綺麗に口の中をさっぱりとさせてくれ、白いマカロンは上品な甘さが口の中に綺麗な余韻を残してくれる、風味豊かな味わいでした。

「六雁」のお料理とお酒の流れには、いたずらに奇をてらった演出がありません。
「盛り上げる」ということは、お客様を楽しませるために勿論必要な場合もありますが、終始心安らげる清流のように、自然な流れのサービスに抱かれながら食事を楽しむことができます。
これは、秋山料理長が掲げている「スーパー割烹」という新しい日本料理の形を、スタッフ全員が理解し、体現し得ているからに他なりません。大切な方とのお食事や会食など、様々なシーンで喜ばれる懐の深い日本料理店です。

日本料理

六雁

東京メトロ銀座・丸の内・日比谷線 銀座駅 B5出口すぐの マツモトキヨシを左折して すぐ左手にあるポニーグループビル内6F・7F。1~5Fはケイト・スペード ニューヨーク

15,000円〜19,999円

橋本 恭一

美味しいお酒とお料理を求め続ける 都内屈指の胃袋&肝臓フル回転系ライター。 和洋中ジャンル問わず、王道の古典料理から イノベーティブ系のお料理にどんなお酒が合うかを ひたすらに追い求めており、食前食後などのバーの 楽しみ方も皆様にお伝えしてまいります。

MY CHOICE
・さいきん行ったお店:Buca del Tappo/サエキ飯店/赤坂 らいもん
・好きなお店:日本料理 晴山/ラ クレリエール/私厨房 勇
・自分の会食で使うなら:くろ﨑/リストランテ ペガソ/Panacee
・得意ジャンル:フレンチ/イタリアン/バー
・好きな食材:サルミソース/真鱈の白子/生トリ貝

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