大阪「緒乃」小野孝太氏に聞く、縁が繋いだ北新地の舞台で織りなす、故郷・淡路島の恵みが詰まった日本料理とは

大阪府・北新地にある人気が絶えない日本料理店「緒乃」。淡路島出身の料理長・小野孝太氏が提供するのは、故郷・淡路島が紡ぐ贅を散りばめたお料理の数々です。今回「KIWAMINO」では、小野氏にインタビューを実施。「淡路島緒乃」、「出張料理人」、「芦屋緒乃」の集大成として北新地にお店を出されるまでの経緯や、食材をはじめとしたお料理へのこだわりなど、多岐に渡って語っていただきました。

料理人一家に生まれ修業の後、家業を継ぐために淡路島へ

―淡路島にある料理屋の三代目として幼い頃から料理人を目指されていたとお伺いしました。長崎の料亭で9年間修業されていたそうですが、家業を継がれるまでの経緯をお聞かせください。

物心ついた頃には両親が商売をしておりましたので、幼い頃から料理人になるのが当たり前だと思っていました。17歳の頃には、長崎にある父の知り合いの日本料理店でお世話になることになり、そこで料理の基礎を学んでいました。ですが9年ほど経った頃、父親が体調を崩してしまいまして。母親から「父親と息子を一緒に仕事をさせてあげたい」という手紙が、おやっさんの元に届いたんです。当時は仕事も充実していましたし、師匠のことも実の父のように慕っていたので離れ難かったのですが、おやっさんに「戻れ」と言われたら、戻るしかないですよね。懐の深い師匠や仲間に支えられて、これを機に家業を継ぐことになりました。

―その後ご実家の「淡路島緒乃」に戻られましたが、どんなスタイルのお店をされていらっしゃったんですか?

価格帯はリーズナブルで、40席くらいある、地元のお客様が気軽に入れるようなお店をやっていました。提供スタイルもコースなどではなく、アラカルトです。ただ、自分は長崎ではしっかりとした懐石料理をやっていたので「今よりもっとしっかりとした料理を提供したい」という思いが常にありました。昔ながらのスタイルを維持したい父と何度もぶつかりました。

4年ほど経って、父がやっと折れてくれてお店を改装したんです。それを機に提供スタイルも、カジュアルではあるものの地元の食材を使ったコーススタイルに変えてみました。ただ、ミシュランを獲得するようなお店と比較すると、価格設定が全く違います。「もっと上を目指したい」という思いが巡るのですが、淡路島に来るお客様が求めているものは、海鮮丼だったり、観光的な料理だったり……自分が提供したいものとは違いました。自分の中で色々な格闘がある中、ある日突然、母が脳梗塞で倒れてしまいまして……。寝たきりになった母を父が看病することになり、40席のお店を自分1人で回す状況になってしまったんですよね。

そこからですね、出張料理人を始めることになったのは。大阪・北新地みたいな場所なら、繫華街なので人も集まりますけど、淡路島は違います。ただ来るかわからないお客様を待つ生活はやめて、自分から外に出ようと思ったんです。そこからは、元々大阪などから淡路島に来てくださっていたお客様のご縁などで、北新地をはじめあちこちに出張料理人として仕事を取りにいくようになりました。その後もご縁で芦屋にお店を持つことになり、淡路島緒乃、出張料理人、そして芦屋緒乃、いずれかのどこかで自分を予約してもらうところで料理をしていくというスタイルになっていきました。

逆境を乗り越えて高見を目指す中で紡がれていく人とのご縁

―出張料理人、芦屋緒乃を経験。集大成として、2019年に現在のお店「緒乃」を北新地に開業されましたが、そこにはどんな思いやきっかけがあったのでしょうか?

さすがに体力的にも限界が来ていましたし、一旦、淡路島に帰ろうと思っていました。ただ、あちこちに顔を出していたので、京都のホテルや北新地でも「イベントにこないか」とお声がけいただけるようになっていました。北新地でのイベントは毎日満席でした。ただ自分のお店ではないので、勝手が利かないですし、もっとできるのにできない、そのギャップに苦しんでいました。そんな時、元々淡路島に来てくださっていたお客様をはじめ、様々な方よりお力添えをいただき、北新地にお店を出せることになったんです。

―本当に全てが縁で繋がって、最終的に北新地にお店を出されるまでになられたのですね。

故郷・淡路島、そして繋がる人にこだわり作るお料理の数々

―20年以上に及ぶ熟練の料理技術に、小野様ならではのお料理について、その特徴やこだわりをお聞かせいただけますか。

こだわりは1つの皿に、必ず故郷である“淡路島”を入れるということです。

―全てのメニューに淡路島を入れるということは、やはり食材に1番こだわりをお持ちということですよね?

そうですね、食材をはじめ醤油や味噌などの調味料も全部淡路島産のものを使っています。大阪にいる仲買さんを通して購入していますが、彼も淡路島の出身なんです。塩も淡路島のものですね。淡路島にいらっしゃる塩職人さんに、淡路島で取れた海水を天日干しにして送ってもらっています。また、塩を作る過程で、にがりというものができるんですけど、これを料理の味付けに使っています。

牛肉は、椚座さんという淡路島の生産者さんから仕入れています。椚座牛というんですけど、うちはその中でも「緒乃」のためだけに選んでくださったプレミアム牛を必ず仕入れています。2年ほどかかりましたが、毎週のように無理を言って、今のこのレベル感の牛を作っていただいています。お互いにもっともっと知名度を上げて頑張っていこうというタイミングだったこともあり、一緒に高めあえた気がしますね 。

僕が大事にしているのは、どこの食材かということではなく、誰が作っている食材かということです。正直、今の時代どんな食材でも買おうとすれば、すぐに手に入ります。だからこそ、誰から買うかということが大事だと思うんです。例えば昔、一緒に遊んでいた近所の友達に奥田君という子がいたんですけど、その奥田君が一生懸命トマトを作っていて、そのトマトが全国区になれるように頑張っている。それを見たら「僕も頑張るからお前も頑張れよ」と、同じ方向を目指して頑張りたくなります。自分が彼のトマトを使うことで、応援できたら嬉しいなって思いますね。淡路島にこだわっているだけでなく、誰が作っているのか“人”を大事にしています。

―季節によって異なると思いますが、希少な淡路島産の由良の赤ウニを贅沢にも1人木箱丸ごと1個分くらい提供されたりもしているそうですね。お客様の反響はいかがでしょうか?

厳密に言うと、半分に切っています。1枚の板に乗っているウニを、半分ずつお客様に提供しています。それだけで原価5,000円はしますね(笑)。正直、和え物などにちょっとウニをのせて「これが淡路島です」って言っても、お客様も何を食べているのかよくわからないんじゃと思ったんです。こんなけち臭いことしていたら、ウニを一生懸命採ってくださっている漁師さんたちにも失礼だなって。

―確かに、それだけボリューム感がしっかりあれば、食べた瞬間口いっぱいにウニが広がって、本物の淡路島の味を堪能できそうです。

あと特徴的なのは、日本料理店だけど出汁をあまり引かないところです。普通、日本料理店と言えば鰹や昆布などから出汁を引いて、それをベースに料理を作っていると思うのですが、うちは大体3~4種類ほどの食材から出汁を引いています。その日獲れた魚だったり、貝だったり、そこからスープにしたり、何かを炊く時に使ったりしているので、そこは特徴的かなと思います。

―トリュフがたっぷりかかった茶碗蒸しなどは定番のメニューのようですね。季節ごとに色々とメニューが変わると思いますが、なかでもこれだけはゲストに食べてもらいたい、こだわりの逸品についてお聞かせください。

トリュフの茶碗蒸しは、トリュフを使いたくて作った料理ではなくて、北坂養鶏場の卵を使いたかったからです。まず卵を茶碗蒸しにして、お客様が喜んでくれるのは何かなと思った時に、卵と相性の良いトリュフが思いつきました。こちらは反響もあり、定番メニューになっていますね。トリュフにも季節性があるので、春は甘味のあるビアンケットや冬トリュフの終わりかけと合わせたりしていますね。

―〆は、種類が異なる3種類のご飯を味わえると伺いました。口コミを見ているとお客様からも非常に好評のようですね。

「緒乃」を北新地で始めた時からこのスタイルでやっていますが、以前は3つのうち2つをお客様に多数決で決めていただいて、作るスタイルでした。ですけど、元々作れる用意をしているなら作ってあげた方がお客様も喜んでくれるかなって思い、今では毎回3種類提供しています。

―メニューを拝見していますと、ご飯のラインナップが豪華すぎてびっくりしちゃいました。カニの時期は、まさかカニのカレーまであるのですね。

今月は100%ヒレのキーマカレーです。先ほど食材の話に出てきた奥田君のトマトを使うんですけどね。彼のトマトは本当に美味しいんですよ。その奥田君のトマトをたっぷり使い、100%ヒレを使っているのでお客様からも1番人気ですね。このカレーも定番メニューとして愛されています。1回カレーを出すのをやめたことがあったんですけど、3種類のご飯を出したあとに「カレーが欲しい」って言われるんです(笑)。これは……カレーを定番化しないと、ってなりましたね。

ある意味、定番があるのって良いなって思うんです。例えば常連さんが、初めての人を連れて来る時に「次あれ出てくるで、まだご飯たくさん出てくるから少な目にした方が良い」とか、1回来たことのある人がちょっと自慢したくなるような、誰かを連れて来て食べさせてあげたいと思ってもらうようなスタイルが良いなって思います。

ご縁を大切に、今度は自分が誰かのために何かをしたい

―最後に、現在挑戦されていることや今後取り組んでみたいことについてお聞かせください。

食材の話の際にあげさせていただいた、淡路島の「奥田トマト農園」と、淡路島の天日塩のブランドアンバザダーをさせてもらっています。また、関西の有名店を中心にお取り寄せグルメを紹介している「グルメサイトごちそうさん」というサイトのブランドアンバザダーも請け負っています。現在の「緒乃」が出来上がるまで、本当にたくさんの方々に支えられ、いただいたご縁のおかげで今があると思っています。僕自身も頑張っている方を応援していきたいと思っていますし、少しでもお役に立てるのであれば積極的に行動したいと思っております。

***
小野孝太氏 プロフィール
兵庫県・淡路島出身。料理屋の三代目として生まれ、幼い頃から料理人を志す。長崎にある日本料理店にて約9年間の修業後、淡路島の家業を継ぐ。その後「出張料理人」、「芦屋緒乃」を経て、2019年、北新地に集大成として「緒乃」をオープン。2021年以降、ミシュラン一つ星を獲得し続けている。
***

懐石・会席料理

緒乃

JR線 北新地駅 164m

30,000円〜39,999円

【編集後記】
どんな境遇にいても諦めずに上を目指していく向上心、そして何が起きても諦めない精神力、周りの人々をどんどん魅了してしまう人間力。その全てを持ち合わせた小野様だからこそ、今の「緒乃」があるんだなと、しっくりくるインタビューでした。絶え間なく変動していく中、今できることをやりきる思いで、常に150%を出して走り続けてきた小野様が作るお料理の数々。小野様の全てが詰まった逸品を、ぜひ1度食べてみたくなりました。

※こちらの記事は2024年06月04日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:CIRPAS/Sincére/Heritage by Kei Kobayashi
・好きなジャンル:フレンチ/鮨
・最近行ったフレンチ:ラルジャン/apothéose/渡辺料理店/フロリレージュ
・好きな美食宿:ホテルリッジ/sankara hotel&spa 屋久島

このライターの記事をもっと見る

この記事をシェアする