京都「真白」小霜浩之氏に聞く、フランス料理をベースに自由な発想で作り上げる“ジャンルレス”な世界とは

京都・烏丸御池駅から徒歩5分ほどの場所にある「六角堂」。遥か昔、聖徳太子が創建した古寺で、いけばな発祥の地としても知られています。2023年8月にオープンした「真白」は、そんな「六角堂」のすぐそばに位置する“ジャンルレス料理”の店。今回は、シェフ・小霜浩之氏にKIWAMINO編集部がインタビューを実施。店のコンセプトや斬新なアイデアから生まれる料理への思いなど、多岐にわたってお話を伺いました。

ホテルにある、様々なジャンルのレストランやバーで研鑽を積んだ修業時代

-まずは、料理人の道を選ばれたきっかけについてお聞かせください。

もともと料理人になろうと思っていたわけではなく、高校を卒業する際はとりあえずサービス業に就きたいと考えていました。サービス業と言っても幅広いですが、これといった業種を決めきれなかったので、ひとまずホテルで働こうと考えたんです。ホテルなら、フロントもレストランもバーもすべてサービス業になりますから。

面接は、大阪の「リーガロイヤルホテル」へ。「どの業務に就きたいですか?」と聞かれ、料理人とバーテンダーですごく悩んだのですが、料理人を選んで無事配属となりました。僕がホテルに入社した当時は、ちょうどテレビ番組の「料理の鉄人」が流行っていた頃。フランス料理の坂井宏行シェフに憧れていたんです。

-修業時代に苦労したことや、今も印象に残っているエピソードなどはございますか?

坂井シェフへの憧れからフランス料理をやってみたかったのですが、長い間別ジャンルの店を任されていました。鉄板焼きやコーヒーハウスなど、色々なところで働きましたよ。何年も経っていくなかで、先輩、後輩、同期と途中で辞めていく人間も多かったです。僕も辞めようと思えばいつでも辞められたのですが、どうせなら一度はフランス料理の店を経験したいと思っていました。

社内コンテストをきっかけに、フランス料理のレストランで料理長を経験

-その後、フランス料理のレストランに配属されたのはいつ頃のことでしょうか。

店内 カウンター席

入社して10年目を迎えた頃ですね。僕が配属されたフレンチレストランは新店だったのですが、ホテルが“コンテストで料理長を決める”という新しいスタイルを打ち出したんです。当時僕はホテル内のバーで働いていたのですが、フランス料理の経験がないままそのコンテストに挑戦してみることにしました。

そもそもコンテストに出るには総料理長の許可が必要なため、許可をもらいに行くと「何しに出るの?」という感じで、あしらわれてしまって(笑)。しかし、一緒にバーで働いていた同僚に「見返してやればいいじゃないか」と言われて決意しました。終わってみると結果は2位。1位だったシェフが料理長になるわけですが、彼に「僕の下で働いてほしい」と引っ張ってもらえて、とても嬉しかったのを覚えています。

-フランス料理は未経験のなかで2位、華々しい結果ですね。ホテル内でも有名人になったのではないでしょうか。

未経験と言っても、コンテストの前から社外のコンクールに出るなど、個人で努力はしていたんです。当然勝てることはありませんでしたが、勉強は続けていました。2位という結果が出てからは、やはりホテル内でも話題になっていたようですね。ホテルで働き始めてから何年も経っていましたが、それまで特に名前が知られるような立場ではなかったので。急に自分の存在が広まった気がしました。

独立後の店でミシュラン掲載、2023年8月新たに「真白」をオープン

-その後「リーガロイヤルホテル」を離れることになったのは、どのようなきっかけからでしょうか。

フランス料理のレストランに配属となってから、1年半で料理長を任されることになりました。ホテルは言い換えれば企業にあたりますので、料理長になると実際に料理をする機会は少なくなってしまいます。一番多いときで40人もの部下がいましたから、それぞれの査定などの事務作業に追われるばかりで。自分の料理をほとんど作ることができなくなっていると気づいたとき、外に出てみようかなと思い始めました。

あるとき、自分で店を出そうと考えて見積もりを出してもらったのですが、びっくりするくらいの金額を提示されまして。これはちょっと無理だなと思い、少し考えを変えてみることに。もともと、町場の店も経験してみたいと思っていたんです。そんなとき「真白」のサービス担当でもある小林さんに声を掛けていただき、彼が当時支配人を務めていたレストランで働くことになりました。

左:小林さん 右:小霜シェフ

その後は、小林さんと一緒に兵庫・芦屋の「Koshimo Plus(コシモ・プリュス)」や「祇園 呂色 (ぎおん ろいろ)」と、自分たちの店をオープン(現在は閉店)。小林さんとは本当に長い付き合いになり、僕の妻や子供よりも一緒にいる気がします(笑)。ありがたいことに両店ともミシュランに掲載していただきました。

-2つの店を経て、2023年8月に「真白」をオープン。店があるのは「六角堂」のすぐそばですが、この場所を選んだのはどのような理由からでしょうか。

本当に偶然と言いますか、ちょうど良いサイズ感の物件を探していたところ、たまたまこの物件が見つかったんです。店の斜め前に「六角堂」があるということを知ってからは、お寺について勉強しましたし、何度もお参りに行きました。

実は「真白」という名前も「六角堂」を意識して付けたものなんです。「六角堂」って上から見ると六角形の形をしているのですが、これは人間の五感に“意識”を加えた6つの感覚によって生じる欲を表しています。「六角堂」の「6つの角を捨てて心を丸くしよう」という教えをもとに「心を丸く、真っ白にする」という意味合いを込め「真白」と名付けました。あとは「料理を楽しんだお客さんに、真っ白な気持ちで帰ってもらいたい」という意味もありますね。

-壁やカウンターなど、内装にもこだわりを感じます。

店内の壁には六角形の瓦が使われているのですが、これも「六角堂」をイメージしています。京都産の「京瓦」というもので、これを焼ける職人さんは日本全国を探してもたった一人しかいません。窯に入れてから焼き上がりまで2日もかかる貴重な瓦を、店内に800枚設えました。また、一枚板のカウンターは10メートル以上もあり、これもすごく珍しいかなと。建築が好きな方にも楽しんでもらえる造りだと思います。

「真白」でシェフが表現する“ジャンルレス料理”の魅力とは

-店のコンセプトにもなっている“ジャンルレス料理”。小霜シェフが表現したい料理とはどのようなものでしょうか。

僕はフランス料理だけでなく、様々なジャンルで修業をしてきています。その経験を活かして、もっと自由な料理を作りたいと思ったことが「真白」をオープンしたきっかけです。

僕が20代の頃は「ポン酢を使っていたらフランス料理じゃない」とか、そういう既成概念のようなものがあって。でも僕は、枠にはめられた感じがすごく嫌なんです。「この食材を一番美味しく食べるには、どんな方法があるだろう」と自分で自由に考えたい。ただそれだけなんですよね。

だからこそ「真白」では、様々なジャンルの調味料やスパイス、技法、調理器具を使っています。今の時代は、肉を美味しく焼けるシェフも美味しいソースを作れるシェフも数えきれないほどいますし、調理器具も本当に優秀です。そのなかで他にはない料理を作るとなれば、料理のジャンルを越えることが必要なのかなと。

-ゲストが想像する上をいく、様々な驚きが盛り込まれた小霜シェフの料理。料理のアイデアは、どのようなきっかけから生まれてくるのでしょうか。

よく聞かれるのですが、急にアイデアが降ってくる感じで、これと言ったきっかけはないんです。でも、それは常に考えているからであって、料理のことはいつも何かしら頭の中にあります。仕事中に玉ねぎを切っているときもそうですし、何か食べているときは特に考えていますね。

例えば、スープを作るために牛乳が欲しいと思って、冷蔵庫まで取りに行く。その途中で何か別のものが目に入ったら、これを混ぜてみようかなとか。あとは、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味という五味に分解して考えることもあります。酸味を出したいとき、通常なら酢を使うところでオレンジや梅干しに変えてみるとか。色々なことを頭の中でイメージしますね。

味が美味しいのはもちろんですが「お客さんを楽しませたい」という思いが一番強いかもしれません。全部とまではいかなくても、コースの中で2皿くらいは「真白」ならではの驚きのある料理を出したいと思っています。

-食材の仕入れについて、意識されていることはございますか。

食材については、現地で生産者の方と直接お話をしてから仕入れることが多いです。どの生産者さんもこだわりが強いので、欲しいと言っても出してもらえないことがあります。「まだ熟していないから、もう少し待ってね」と。それもあって、実際にいただける食材はものすごく美味しいんですよ。生産者の方と信頼関係が築けているからこそ、良いものが手に入るんです。

世界中の人が一目見ただけでわかる「真白」ならではの料理を作りたい

-これからも続けていきたいこと、未来で挑戦したいことがあればお聞かせください。

今後続けていきたいことは、やはり料理ですね。自分らしく新しい料理を作り続けていきたいと思っています。あとは、日本の方だけでなく世界中の人に美味しいと言ってもらえたら嬉しいですね。「祇園 呂色」では、どなたかがSNSでご紹介してくださったようで、あるとき急に海外からのお客さんが増えた時期もありました。
他の店にはない、見ただけで「あ、これは真白の料理だ」とわかってもらえるような一皿。そんな名刺代わりになる料理を、この先も作り続けていきたいと思っています。

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小霜浩之氏 プロフィール
・1971年   大阪府生まれ
・1989年より 「リーガロイヤルホテル(大阪)」にて19年間勤務
・2004年   「リーガロイヤルホテル」史上最年少の33歳で、
「リーガロイヤルホテル 小倉」の「レストラン シャンボール」のシェフに就任
・2009年3月 京都のフレンチレストラン「DOUZE GOUT 12+」のシェフに就任
・2012年5月 兵庫県芦屋市に「コシモ・プリュス」をオープンし、
『ミシュランガイド京都・大阪2014』で一つ星獲得
「ボキューズ・ドール国際料理コンクール2015日本代表」ファイナリスト
・2017年11月 京都でフレンチ割烹「祇園 呂色」をオープンし、
『ミシュランガイド京都・大阪2018』で一つ星獲得
・2023年 8月 京都烏丸・六角に「真白(ましろ)」をオープン

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公式HP:https://mashiro-kyoto.com/

【編集後記】
唯一無二のパートナーとも言える小林さんとは「真白」でもタッグを組まれているとのことで、お二人が歩まれてきたストーリーにも興味が湧いたインタビューとなりました。小霜シェフが新たに生み出す“ジャンルレス料理”の魅力から、今後も目が離せなくなりそうです。

※こちらの記事は2024年01月05日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Yuri

校正の仕事に興味を持ち、スクールを経て一休コンシェルジュ編集部へ。好き嫌いはほぼなし。食べることが大好きで、どんなものでも美味しく・楽しくいただきます。編集部メンバーとのお店巡りが最近のマイブーム。もう少しお酒が強くなりたいと思う今日この頃です。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:さ行/デンクシフロリ/BLESS/レストラン プルニエ/ラフィナージュ

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