岐阜「開化亭」古田貴達氏に聞く、継承と革新で紡ぐ枠に囚われない中国料理とは

岐阜県・岐阜市の官庁街にお店を構える「開化亭」。日本でも指折りの料理人、古田等氏が1978年に開業して以来、国内外から注目を集める中華料理の名店です。
今回は、そんな歴史あるお店を継いだ2代目・古田貴達氏に、今もなお多くの食通を惹きつける「開化亭」の、枠に囚われない料理の秘訣について、お話を伺いました。

料理は効率。父の背中から学んだ料理の極意

‐古田さんは料理一家で育ったかと思いますが、幼少期の頃から料理人になりたいと考えられていたのですか?

弟と父の背中を見て育ち、かっこいいと感じていました。子供の頃は両親共に働いていたので、お店の3階で留守番し、父と母が持って来てくれる賄いを食べて過ごす生活。お店が身近だったこともあり「いつか継ぐだろう」と漠然と考えていました。
だから自分で商売をやるのであれば勉強しようと、高校は商業科に進んだんです。

‐お父様のどのような点を、かっこいいと感じていたのですか?

開業当時の「開化亭」

父が作った料理を、お客様が「美味しい」と食べている光景でしょうか。高校生の時にお店で接客のアルバイトをしていたのですが、身近で見てより感じましたね。
後は料理をしている姿。父はすごく手際が良く、50席弱ある客席の料理を1人で調理していました。僕は大阪の調理師学校を卒業後、都内や横浜のレストランでも修業しましたが、そういったことができるシェフって実は少ないということを知ったんです。
父がオーダーを捌く姿を見て、それが当たり前だと思っていましたが、大人になり父の凄みをさらに実感しています。

‐「開化亭」以外のお店で修業した後、20代半ばで戻られたそうですね。お父様からの学びの中で印象に残っていること、今も活かされていることがあればお聞かせください。

父から「料理は手際が大切」だと学びました。なので、今も頭の中で、お客様の状況や調理の工程など全体をイメージし、組み立てながら調理をしています。
そんな動きをするには、仕込みの段階でどれだけしっかりと作業できているかも重要。そういった考えは父から継承していると思います。
なので、仕入れは僕が市場に足を運ぶようにしていますし、誰よりも早くお店に来て、下準備をするようにしています。

‐「開化亭」はアラカルトメニューも豊富です。そんな中、頭の中で段取りを組むのは並大抵のことではないですね。

そうですね。アラカルトの担々麺を召し上がっているお客様の隣で、コース料理を召し上がっているお客様もいる、というのが「開化亭」の昔ながらのスタイル。
小さい頃から父の働き方を見ているので、その感覚が自分の中にも根付いています。今は父に及ばないにしても、少しはスピーディーな仕事ができるようになったかなと感じます。

食材の味を極限まで活かす「開化亭」ならではの料理

‐2014年に「開化亭」を引き継がれたかと思います。引き継いだ経緯をお聞かせください。

明確に家族間で話し合っていた訳ではありませんが、僕自身、お店を継ぐことは当然のことだと認識していました。
父の元で働いた5、6年の間に僕も30代になり、そろそろ任せてもいいかなと。そんな中で父も「東京に行く」ことを意識し始めたのでしょう。東京に出店するというタイミングで、父から僕に引き継いでもらいました。

‐「開化亭」は県内だけでなく、全国各地、また海外からのお客様も多いそうですね。岐阜から美味しさを発信するということで、心掛けていることはありますか?

中華料理は、流行りがあるジャンルだと思っています。SNSでも美味しそうな料理や目新しい食材、綺麗な盛り付けなんかもありますが、それに流されず、僕にしか作れない「開化亭」ならではの料理を、曲げずに作り続けることを心掛けていますね。

‐「開化亭」ならではの料理とはどのようなものか、具体的にお聞かせください。

まずは食材ありきで、いいもの、本当に美味しいと思うものを使うこと。そして調理はなるべくシンプルにすることです。
シンプルというのは一番難しくて、火入れの加減であったり塩加減であったり、そういった点に気を使い、食材を加工しすぎないようにしています。
そして使調味料も最小限に抑えています。中華は多くの“醤(ジャン)”を使うのですが、それも必要最低限に。
使う調味料は、豆板醤、甜麵醬、塩、醤油、日本酒、紹興酒、胡椒、オイスターソース。味付けは、ほぼこれだけで行っています。

あとは、あまり中華ではやらないと思いますが、食材から出汁を抽出するなど。例えばハマグリの茹で汁から旨味成分を引き出して、料理に加えるなど、調味料からではなくて食材から味を引き出すということもしています。
それらは調理師学校、関東では洋食レストランでも働いていたことがあるので、その時の経験を活かしています。

‐まさに「食材を活かす」ですね。仕入れは必ず毎朝自分が足を運ぶようにしていると仰っていましたが、古田さんが良い食材を選ぶポイントは?

例えば魚屋さんであれば、並んでいる魚体を実際に見て、コースの中で本当は使いたかった魚ではないものを購入することもあります。
岐阜の市場は魚が並び始めるのが大体6時半くらい。僕はその時間に合わせてどのお店より一番早く足を運び、一番いい食材を買い付けるようにしています。

‐元々考えられていたコースの内容を当日に変更することもあるのですね。

よくあります。使いたい食材の質に満足がいかない時は使いたくないので、毎朝自分で確認し、並んでいるものから最善を自分で見つける。
後は魚屋さんとの信頼関係もあり、毎朝自分が一番に行くことで、魚屋さんもいい食材を奥に取って置いてくれたりもするんです。そういった信頼関係を築くためにも、毎朝自分で足を運ぶようにしています。
その代わり勧めてくれたものは、ほぼ買うようにしています。せっかく「使って欲しい」という想いで取って置いてくれている食材なので。それをお客様に提供し、喜んでもらえると僕も嬉しいですね。

進化しづける、長年愛されるスペシャリテ

‐「開化亭」には、長い歴史の中で多くのスペシャリテが生み出されているかと思いますが、継承されている点と進化している部分をお聞かせください。

長年のスペシャリテと言えば「キャビアの冷製ビーフン」「フカヒレのステーキ」「鮑の肝入オイスターソース」ですが、メニューはそのまま引き継いで提供しています。
その中で日々進化しているのは、やはり調味料と食材の調理法。調味料は必要最低限しか使いませんが、使う塩や油などをより良いものに変えていっています。家族全員が料理をやっているので、情報やアドバイスを貰ったりしていますね。

調理法は例えば「フカヒレのステーキ」で使うシャンタン。以前は丸鶏をぶつ切りにしてスープを取っていましたが、今はより出汁を取りやすくするために、ミンチ状に細かく砕いたものでスープを取っています。
ミンチにすると短い時間でしっかりと出汁が取れますし、スープを取る際に抽出させ過ぎない方が雑味を少なくできるんです。
「キャビアの冷製ビーフン」は茹で時間を調節しながら、よりアルデンテに近い食感を出せるよう進化させています。
大元は変えていませんが、食材の吟味の件と調理にかかる前の仕込みの段階で、より美味しくできるよう工夫しています。

‐それ以外にも季節のスペシャリテがあるそうですね。

夏は鮎の春巻き、冬はふぐの白子を使った四川山椒風味焼きなどがあります。
これから冬や春にかけてだと、僕が考えたスペシャリテの中で「ホタルイカと金目鯛、フキノトウ、ピータンの春巻き」はすごく好評をいただいています。ホタルイカの味噌の旨味、金目鯛の油、フキノトウのほろ苦さが春巻きに包むことで口の中に同時に入り、全てが一体となって美味しいです。

‐古田さんが考えたスペシャリテとのことですが、毎シーズン毎に新しいメニューが考案されるのですか?

1シーズンに出すメニュー数は特に決めていませんが、思いついたものはお客様にアラカルトとして提供し、反応がイマイチだったものはすぐに取りやめます。また、新メニューは常連さんなどにアラカルトで提供し、好評だったものはコースに組み入れています。

‐アラカルトのメニューは何種類程度あるのでしょうか?

アラカルトだけでも100種類近くのメニューがあると思います。グランドメニューとは別に、毎日の仕入れで買う予定のなかったものが手に入った時は、メニューも合わせて考えるので、仕込みをやりながらメインのことも考えつつ……朝は本当に忙しいですね(笑)。

‐100種類もあるとは驚きです!その中でも一番人気のメニューは何ですか?

オーダーが多いもので言うとチャーハン、担々麺、エビチリや酢豚などの定番料理。遠方からいらっしゃるフルコースで予約されたお客様も、コース料理を召し上がった後に〆として頼まれる方も多いです。
アラカルトもしっかりと食材を吟味し、他では食べられない一皿に仕上げるよう心掛けています。

‐遠方からいらっしゃるお客様も多いとのことですが、おもてなしの面で古田さんが心掛けている点はありますか?

お客様一人ひとりに合わせた対応が、一番のおもてなしだと考えていますので、お客様の希望を聞いて、なるべく対応できるようにしています。
例えばお客様が女性だった場合は食材を小さくカットしたり、ご年配の方であれは辛さや塩分を控えたり、お客様に合わせて対応する。サービスマンとお客様のやり取りで、臨機応変に対応することを心掛けるようにしています。

‐それはお客様にとっては嬉しい対応ですね。

逆に「辛くして欲しい」と言われたら激辛にもしますよ(笑)。メニューにないものでも作れるものであれば即興で作ったりもしますし、餃子は通常1皿8個なんですが、1個だけ食べたいと言われたら1個だけ焼いたりもしています。
何故かというと、岐阜にわざわざ来ていただくというのは、すごくハードルが高いことだと思っていて。わざわざ足を運んでくださったのであれば、なるべくお客様の満足度を上げたいという想いです。

岐阜の観光拠点になれるようなお店造りを

‐最後に古田さんが考えている今後の展望などがあればお聞かせください。

僕は弟と2人兄弟ですが、僕にも2人兄弟の子供がいます。子供達が将来「開化亭」を継ぐということを選択肢の1つとして残せるよう、息子達が社会に出るまではお店を続けたいですね。

‐古田さんは幼少期の頃からお父様の仕事が身近にあったとのことでしたが、2人の息子さんも同様なんですね。

チャーハンを休日の昼食に食べさせてあげるのですが「世界一美味しい」と言ってくれて、すごく嬉しいですね。

あと「開化亭」がある岐阜市は、観光資源があまりない場所なんです。ただグルメという点においては、他にも美味しい飲食店が多くあるので、そういったお店と協力しつつ、グルメを目的に来てもらえるようなお店の1つにしていきたいと思います。

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古田貴達氏プロフィール
「開化亭」を開き、現在東京・銀座「Furuta」を務める店主・古田等氏を父に、東京・広尾「CHIUnE(チウネ)」のオーナーシェフを弟に持つ。
大阪の調理学校を卒業後、都内や横浜の中華料理店、洋食レストランにて経験を積む。20代半ばで「開化亭」に入店し、2014年に父から店を譲り受ける。
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中華料理

開化亭

線 駅 岐阜バス 市庁舎西口 岐阜駅よりタクシー「市役所裏の中華屋さん」で。

20,000円〜29,999円

【編集後記】
素材を活かした料理の数々でゲストを魅了し続ける「開化亭」。それらは徹底した食材選びと計算し尽くされた仕込みから生まれることなのだと、改めて考えさせられました。古田さんのお話の中で感じたのは、お父様に対しての尊敬の念と、進化を止めないという強い意志。強い信念で生み出される枠に囚われない一品が、今も昔も県内外からグルマンが後を絶たない、中華の名店と呼ばれる所以なのだと思いました。

※こちらの記事は2023年12月16日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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