大阪「ラ カンロ」仲嶺淳一氏にインタビュー!経験と感性が生み出す、アートのようなイノベーティブ料理とは

大阪市・南森町の静かな街並みにひっそりと佇む「ラ カンロ」。専用のアプローチから上階へ上がり店内に足を踏み入れると、どこか神秘的な雰囲気を感じる空間が広がります。腕を振るうシェフ・仲嶺淳一氏は、パリにあるミシュラン二つ星獲得店だった「アストランス」や、大阪のイノベーティブレストラン「カモシヤ クスモト」など、国内外の名店で研鑽を重ねた実力者。自身の培ってきた経験と感性で、独創的な料理を提供します。今回KIWAMINOでは、仲嶺氏にインタビューを実施。修業時代から料理に対する思いまでたっぷりとお話を伺いました。

自由に、そして感性で作る料理を学んだフランス修業時代

―料理人としてのキャリアは大阪にある会員制レストランで始められたのですよね。その後渡仏され、当時ミシュラン二つ星を獲得されていたフレンチの名店「アストランス」で修業されていらっしゃったと伺いました。当時を振り返って印象的だったエピソードや今に活かされていることについてお聞かせください。

「アストランス」では、何よりも感性で料理を作るということを学びました。シェフのパスカル・バルボは、独自の世界観を持っている人です。例えば、鍋に食材を入れると、「ジュージュー」と音がしますが、彼は鍋に耳を近づけたまま「食材の声がする」「食材の声を聞け」って僕に語りかけてくるんですよ。これにはびっくりしました。彼ならではの感性だなって思いましたね。僕は「アストランス」で働く前に勤めていたどこの店でも、こうして、ああしてって、ルールに則って作るやり方しか教わってきませんでした。でもパスカルはそれを全てすっとばして、最終的に1つの料理として完成させるんです。彼には、彼独自のロジックがあるそうなのですが。そのようなパスカルと過ごした日々からは、何より自分の感性で料理を作るということを学びました。

―「アストランス」の次は「ジャン・ジョルジュ」に移られたんですよね?

もっと自由に料理を作りたいなと思い「ジャン・ジョルジュ」で働くことにしました。ジャン・ジョルジュと言えば、アジアにインスパイアされたフランス料理家です。そのため、フランス料理店ではあるのですが、醤油やココナッツミルク、魚醬などもあって、小腹が減った時にはマグロとキュウリを入れた春巻きなどを作って、醤油をつけて食べていました。僕のスペシャリテの1つである「花の春巻き」は、ここでの経験が元になっています。もちろん「アストランス」にも自由さはあったのですが「ジャン・ジョルジュ」ではより一層自由度が高かったと思います。フランスでは、自分の感性を出して自由に料理を作る、この2つを学びました。

―帰国後、大阪のイノベーティブレストラン「カモシヤ クスモト」で修業をされていたそうですが、印象に残っているエピソードや今に活かされていることはなんでしょうか?

「カモシヤ クスモト」での経験は色々な面で今に活きています。1つ目はお客様とのコミュニケーションです。今までは、クローズドキッチンで料理を作ることしか学んでこなかったんですが「カモシヤ クスモト」はカウンター席がメインだったので、初めて料理以外の接客に関して勉強させてもらいました。2つ目はワインです。店名の「カモシヤ(醸しや)」とあるように “ワインや日本酒、ビールなどの醸造酒とイノベーティブな料理を合わせる”がコンセプトなので、ワインにこだわっていました。特にワイングラスへのこだわりがすごくて「ロブマイヤー」を中心としたワイングラスを使っていました。はじめて“グラスでお酒の味が変わる”ということを痛感しましたね。3つ目は、食材です。イノベーティブな料理を作るので、当時フランス料理では触れたことがないような食材にもたくさん触れることができました。魚ではキンキを使ったり、山菜を使ったり、色々な食材を使う機会があったのも学びでしたね。

シェフの経験と感性が光るイノベーティブ料理とは

―そこから2013年にご自身のお店「ラ カンロ」 をオープンされましたが、店名に込められた思いや、目指されている世界観をお聞かせください。

「ラ カンロ」の意味は「la 甘露」です。“la”はフランス語の定冠詞で“甘露”は仏教用語です。仏教の世界では、甘露は“神様の飲料水”という意味で、蜜のように甘く「これを飲めば不老不死になる」と言われます。神秘的で特別な意味合いを込めています。店の世界観に関しては“色気のあるレストラン”です。男性がデートで女性を連れてきて喜ばせられるような店ですね。お客様には、店に入った瞬間から、空間から料理まで全てを通してこの非日常的なひとときを満喫して欲しいなと思っています。

―フレンチの技法をベースにしながらも独自の感性で織りなす料理についてお聞かせください。

確かに考え方やテクニックはフランス料理をベースにしていますが、僕の料理はフランス料理ではないです。僕が経験してインプットしてきた技術と、僕が感じてきたことをアウトプットしているイノベーティブ料理です。

―メニューは10品コースを毎月変えられていると伺いました。独創的な料理の数々はどのように考案されていらっしゃるのでしょうか?

実は今は、1つのコースで31品お出ししています。初めにショットグラスでコンソメスープを出していて、その次にキャビアと卵、アミューズの盛り合わせまでで9品、さらに肉料理が6品、合間にハーブ水、小菓子が8種類とチョコレートが3つ、ちょっとしたデザートに自家製パンで31種です。パンは加水率125パーセントなので、とてももっちりですよ。品数も多いので、全てのメニューを変えているわけではないのですが、メインや、アミューズに関しては少しずつ調整しています。メニューはフランス料理をベースに、日々の生活の中で自分の目に触れてインスパイアされたものから発想しています。正直原型がわからなくなるくらい変わりますけども。例えば、着想はカレーから得るかもしれませんが、でき上がるものは全くカレーではないものになったりします。
1つの物からどんどん派生して、アートのように料理ができていきます。うちはステーキハウスではないので、調理をする時は「ある程度手を入れたいな」って思っています。もちろん焼くことにも技術はいりますけど。僕が作る料理には、自分の技術と感性をたっぷり入れていきたいですね。

―メニューが変わっていく中でも、これはお客様に出し続けているこだわりの逸品はございますか?

まずは、卵と燻製カシューナッツの料理です。誰もやっていないので、個性があるんです。後は野菜料理です。今まで野菜を付け合わせで出しても、残されてしまうことが多かったんです。そこで付け合わせとしてではなく、“野菜を楽しむ1品”として野菜の料理を作るようになりました。これにはバターをベースにした貝の出汁に、野菜を加えています。季節によって野菜の内容は変わりますが、ベースの味わいは一緒です。
他にはアミューズの中で、オニオングラタンをマシュマロにしたものを出しています。これは、マッシュルームのメレンゲを作っている時にインスパイアされました。

―料理と合わせてソムリエ・桒原孝明氏が織りなすペアリングについてお聞かせください。

桒原のワインペアリングは卓越していると思います。僕の料理に敢えて被せたような組み合わせをしてくれるんです。それによって、凹凸じゃないですけど、足りない部分が補われてピタっとハマります。かつ、それで終わりじゃなくて、ハマった後にさらにワンランク上に行くようなイメージです。「カモシヤ クスモト」と同じく、うちもワイングラスにはこだわっていて、全てのグラスは「ロブマイヤー」で揃えています。およそ200脚はあると思います。極限まで薄く、繊細に作られているので非常に軽いんです。持った時、そして口をつけた時の特別感は「ロブマイヤー」ならではだと思います。ワインと合わせて、このグラスの良さも味わってもらえたら嬉しいですね。

非日常感を存分に味わい、余韻まで楽しんでもらいたい

―現在挑戦されていらっしゃることや、今度取り組んでいきたいと思っていらっしゃることについてお聞かせください。

今の31品目出すコーススタイルは、この春から始めました。今まではスタンダードな感じで、料理を7品くらい出して、デザートを2品くらい出して、小菓子を3種類くらい出すみたいな感じだったんですが、それをこの春からの新しい取り組みとして、大きくスタイルを変えました。まだ完成はしていませんが、小菓子を入れて持ち帰ることができる、専用の箱ができたら一旦完成です。正直、品数が多いので食べきることが難しい方もいらっしゃると思うんです。でも食べきれなかった小菓子なんかを持って帰ってもらえるように工夫したら、家に帰ってもレストランの時間を思い出して余韻に浸ることができるかな、2度楽しんでもらえるかな、などと思って試みています。後は、年に1回バーテンダーの方を呼んで、カクテルペアリングもやってみたりしていますよ。どんどん新しいことに挑戦していくつもりなので、色々な方に食べに来ていただけたら嬉しいですね。

仲嶺淳一氏 プロフィール
1975年、大阪府生まれ。大阪にある会員制レストランで修業後、渡仏。当時ミシュラン二つ星を獲得していた「アストランス」「ジャン・ジョルジュ」にて研鑽を積む。帰国後は、大阪にあるイノベーティブレストラン「カモシヤ クスモト」で研鑽を磨き、2013年に独立。東天満に「ラ カンロ」をオープンし、今に至る。

イノベーティブ

ラ カンロ

JR線 南森町駅 徒歩5分

20,000円〜29,999円

編集後記:
1つのインスピレーションから、どんどん派生して1つの料理(作品)となっていく仲嶺氏の料理は、まるでアートのように美しく、独創性に溢れています。きっとお店に入ったらその非日常感に虜になってしまうのだろうなと、足を運んでみたくなりました。

※こちらの記事は2024年01月19日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:銀座レカン/シンシア/Heritage by Kei Kobayashi
・好きなジャンル:フレンチ/鮨/肉料理
・最近行ったフレンチ:ラルジャン/apothéose/渡辺料理店/フロリレージュ
・好きな美食宿:ホテルリッジ/sankara hotel&spa 屋久島

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