横浜「RISPETTO」井上亮氏にインタビュー!イタリアンの枠を超えた、シェフの感性が光る一皿とは

戸部駅から徒歩3分・横浜駅からも徒歩圏内の、2021年にオープンしたイタリアンレストラン「RISPETTO」。「ゴ・エ・ミヨ 2023」では2トックを獲得し、注目を集めています。今回はシェフ・井上亮氏にインタビューを実施。国内外での修業時代のエピソードから、シェフの感性が光る料理の魅力についてなど多岐に渡ってお話を伺いました。

イタリアンが好き、純粋な気持ちから始まった料理人人生

料理人を目指された経緯、中でもイタリアンの道に進まれたきっかけを教えてください。

幼い頃から母が入院しがちで、よく入退院を繰り返していました。そのため母の手伝いとして料理を作ったり、お酒好きな父親に簡単なおつまみを作ってあげたりしていたんです。自分が作った料理を両親が褒めてくれるのが嬉しくて、自然と料理に興味を持つようになりました。イタリアンに興味を持った理由は、シンプルに1番好きな料理ジャンルだったからです。家族で行く外食もイタリアンが多く、他の料理ジャンルよりも肩ひじ張らず気軽に行ける雰囲気も好きでした。

発想力に磨きがかかった「リストランテ イマイ」での6年間

吉祥寺にある「リストランテ イマイ」で料理人としてのスタートをされたそうですね?

「リストランテ イマイ」に初めて伺ったのは、調理学校の研修です。今井康二朗シェフに気に入ってもらえて「研修が終わったらバイトに来ていいよ」と誘っていただけました。学校卒業後にはお店に就職させてもらうことになり、イタリアに行くまでの約6年間お世話になりました。なので、僕の料理人としての原点は「リストランテ イマイ」にありますね。

修業時代、特に印象に残っているエピソードなどはありますか?

最初に研修で入った初日に、まかない作りを任されたんです。 ちょうど調理学校でベシャメルソースを学んでいたので、教わったベシャメルソースを作ったグラタンをまかないとして出したんです。そしたら今井シェフがすごく気に入ってくださって、その時のメインの1つに出していた牛頬肉の赤ワイン煮込みの付け合わせに「このグラタンみたいなの付けるから、井上くん作って」っていきなりおっしゃったんです。

初日にですか?!すごいですね。

その後も、まかないはシェフに料理を提案する場でもありました。農家さんに直接発注しているものなどは、少し多めに入れてもらって、それでなにか料理を作ってシェフに提案するイメージで色々と作ってみたりしました。今井シェフは特に試作などされない方で、メニューが変わる前の週とかに新しいメニュー内容を紙で知らさてくださるんですけど。その中に、自分がまかないで作ったものみたいなメニューがあったりするんです。すると「これ、井上君があの時作っていたやつだから、やってみてね」と言ってくれたりするので、やりがいがありましたね。

試作なしで料理をお客様に出すって緊張しそうです。

そうですね、でも少しでも疑問点があればシェフと作り方などをすり合わせていたので大きな問題はありませんでした。今僕が料理メニューを考えるスタイルも同じです。特に試作はしないです。なので、当日メニューを変えたり、アレンジしたりしています。サーブする側はペアリングを考えるのが大変かもしれませんが(笑)。常連さんなどがいらっしゃったらアレンジしますし、朝届く食材を見てふとメニューが浮かぶ時もあるので、思い思いに作っていますね。

イタリアの感性に触れたイタリア修業時代

その後2012年にイタリアに渡られたそうですが、きっかけなどはありますか?

料理の道に入り、イタリアンをやると決めた時からいつかイタリアへ行こうと決めていました。イタリアンをやるのにイタリアに1度も行ったこともないっていうのが、僕の中で嫌だったっていうのと、本物のイタリアンに触れたいという気持ちが強かったです。「リストランテ イマイ」にいた時、今井シェフが当たり前のように食材同士を組み合わせていて「どうしてですか?」って聞くと「美味しいから」って答えるんですよ。でも、その感覚って日本にいたら絶対わからないんですよね。「この食材にはこれ」が当たり前の感覚は、その国にいかないとわからないんだろうなって思いました。

イタリアでの経験はどこからスタートされたのですか?

始めは、フランスとの国境にある山に位置していたレストランにお世話になりました。言葉も話せなかったこともあり、まずは洗い場として入りました。そこでもまかないを作らせてもらっていたんですが、「亮のパスタは美味しいね」と認めてもらい、まさかのパスタを担当させてもらえることになりました。当時はシェフがパスタをやっていたので、パスタを僕がやる代わりにシェフが洗い場をやることになったんですけど。結局そのシェフはやめてしまったので最終的にパスタも洗い場も担当することになり、てんやわんやでしたね。

洗い場担当がシェフからパスタ担当を奪っちゃうなんて、壮絶なイタリアデビューでしたね。

その後三つ星レストランの「ULIASSI(ウリアッシ)」をはじめ、二つ星レストラン「Ristorante Cracco(リストランテ クラッコ)」、一つ星レストラン「i・portici(イ・ポルティチ)」など名だたる名店で研鑽を積まれましたが、そこでの経験はいかがでしたでしょうか?
「リストランテ イマイ」は小規模なお店でしたので全然環境が違いました。まず調理場の人数も全然違って、それぞれのセクションごとにシェフがいて、すごい人数でしたね。研修生も含めたら30名近くはいたと思います。それぞれのセクションごとに分業化されていて、正確な仕事が多かったですね。帰国後に努めていた「BVLGARI Il Ristorante Luca Fantin」の環境も同じような形でした。

「RISPETTO」で表現する井上氏の世界観

「BVLGARI Il Ristorante Luca Fantin」での経験から開業に至るきっかけはなんでしょうか?

いつかは自分のお店を持ちたいと思っていましたが、1番のきっかけは「BVLGARI Il Ristorante Luca Fantin」で出会った先輩の言葉です。彼のことをとても尊敬しているんですけど、そんな彼が「井上君の料理は発想が面白いね、早く自分の料理を作れよ」と言ってくれて。自分では変わった料理にしているつもりはなかったのですが、その言葉に背中を押され、2021年に自身のお店「RISPETTO」を横浜にオープンすることになりました。

イタリア語で「尊敬」「敬意」を意味する店名「RISPETTO」 に込められた思い、そしてコンセプトについてお聞かせください。

「RISPETTO」をオープンする前も今も、本当にいろんな方に支えられてきました。ずっと下の立場だった自分を指導し支えてくれたスタッフもいっぱいいますし、今一緒に働いているスタッフ、そして生産者の方など多岐に渡ります。もちろんいつも自分の心の拠り所となってくれている家族も。そういった方々に常に敬意を忘れないようにしたい、ある意味自分への戒めじゃないですけど、そういった感謝や敬意の思いを込めています。

料理に関してお聞かせください。素材本来の味を引き出すイタリアンについて、特に意識されているのはどういったことでしょうか?

1番意識しているのは、主食材が活きる料理を作るというところです。
お客様に「何を食べているかよくわからないけど、なんだか美味しい」と思われるのは嫌なんです。魚料理を出せば、魚本来の味を楽しんで、その魚自体を1番楽しんでもらいたいんです。そのため主食材の美味しさをいかに引き立てるかを常に考えています。手間をかけること、時間をかけることは惜しみませんが、下手に手は加えずに食材には素直に向き合っています。

食材選びも大切ですね。

野菜は特に良いものを使わないとダメだと思っています。主に千葉県にある八百屋から仕入れているのですが、信頼する生産者から仕入れた野菜を届けてくださいます。もちろん、お魚やお肉も品質は大切ですけど、調理方法次第で美味しくできる部分があると思うんです。だけど野菜に関しては、美味しい野菜をシンプルに仕上げてあげるのが1番美味しい気がします。

遊び心を感じるメニューが印象的ですが、メニュー作りで心がけていらっしゃることはございますか?

メニューの中に少しだけ、遊び心を取り入れています。例えば今提供しているディナーコースの一例ですと、まず「最中」が出て、その後に「屋台」をテーマにした料理を出しています。お客様が飽きずに、最後まで楽しんでくださったらと思っています。外食をする以上、美味しいのは当たり前なので、プラスαで「楽しかったね」って言ってもらえるような世界観を目指しています。

修業時代からパスタをメインに作られていた印象がありますが、井上シェフのスペシャリテはなんでしょうか?

僕のスペシャテは「ラビオリ」です。季節はもちろん、日ごとに湿度が異なるので、「ラビオリ」の生地を作る際は、水分量を細かく調整しています。具材によっても、生地の厚さも微調整しています。水分量や味の濃さが異なるので1番気を使っているかもしれませんね。

お肉の火入れはいかがでしょうか、焼きについてのこだわりをお聞かせください。

基本的にオーブンを使い焼き、 仕上げには藁を使っています。豚の脂など、ちょっと血生臭い感じがあるものも、香りのアクセントが加わることで甘く感じられたり、旨味を増幅させられたりするんです。その他、お肉の焼き方に関しては有名レストランのシェフたちの火入れを参考にしています。うちとは席数も提供スタイルも全く違うので全てを真似することはできないですが、取り入れられるものは取り入れるようにしています。その他、実際に伺っていない店舗だとしても、テレビや他の情報を基に作り方を参考にさせていただいています。後はホールのスタッフが元々働いていたレストランでの手法を試してみたり。色々なものからインスパイアされていますね。

シェフの料理は、イタリアンだけどイタリアンらしくないメニューもありますよね。

あまりイタリアンという形式にこだわっていないんです。パスタを必ず出すのと、今までお世話になったお店が全部イタリアなので、自分の料理もイタリアンとは言っているんですけど(笑)。カツオの藁焼きみたいな料理や、カマスを焼いて茄子を合わせたような、完全に和食みたいな料理を出す時もありますね。あまり枠を決めているわけではないです。

イタリアンを軸にクリエイティブに料理を作られているということでしょうか?

僕としては、思いついたものを具現化しているだけなので、あまりクリエイティブにやっているつもりはないんです。変わったことをしているつもりもあまりないんですけど、周りからは「変わっている」ってよく言われるんですよね(笑)。

お客様には「RISPETTO」でどんなひとときを過ごして欲しいなと思いますか?

僕は、誰かの真似をして料理を作ることはないので、僕にしか作れない料理と、ここでしか味わえないサービス、そしてペアリングを楽しんでもらいたいです。 なかなかこういう価格帯で、ここまで厨房とホールの距離が近いお店もないと思います。ホールには2人スタッフがいるんですが、僕の料理に合うワインを合わせてもらうこともあれば、逆に提案してもらったワインに合わせて料理を作ることもありますし、常にチームで何が最適かを模索しています。うちではぜひワインと料理のペアリング、そしてスタッフとの会話を楽しんでもらいたいです。「今日もお客様とのおしゃべりが弾んで帰りが遅くなったなあ」なんて思いながら帰る日々が楽しいです。

「ゴ・エ・ミヨ 2023」にて見事2トックを獲得されましたが、シェフの今後の目標や現在取り組んでいらっしゃることについてお聞かせください。

これからはトックの点数をどんどん上げていきたいですね。
もちろんミシュランや「アジアのベストレストラン50」なども常に意識をしていて、高みを目指していきたいなと思っています。ただ、現状自分1人体制ではキャパは超えてしまっている状況なので、もっと上を目指していくにはチームで料理を作るような環境を整えないとだなあと思っています。そしてチャンスが来た時にいつでも戦えるように準備したいと思います。あとは、毎日体壊さないようにしながら、鍛錬あるのみですね。

井上亮氏プロフィール
1985年 宮城県生まれ。吉祥寺「リストランテ イマイ」にて料理人としてのキャリアをスタート。その後2012年にイタリアへ渡り、「ULIASSI」をはじめ「Ristorante Cracco」「i・portici」など数々の名店で研鑽を積んだ後に帰国。帰国後は、銀座「BVLGARI Il Ristorante Luca Fantin」で部門長を務め上げ、2021年10月に「RISPETTO」を横浜にオープン。「ゴ・エ・ミヨ 2023」では2トックを獲得。

イタリア料理

RISPETTO

京浜急行電鉄線 戸部駅 徒歩3分

編集後記
遊び心溢れるメニュー、そしてイタリアンの枠を超えた料理の数々が印象的でした。クリエイティブと意識していなくても自然に溢れ出す井上氏の感性が成せる技なのでしょうか。シェフやスタッフさんとの会話も楽しい居心地の良いレストラン「RISPETTO」。気になる方はぜひ足を運んでみてください。

Mika.A

外食が何よりの楽しみな編集部メンバーです。
野菜へのこだわりは人一倍!好きが高じて
ベジタリアン・フルーツアドバイザーの資格を取得しました。

・好きなお店:さ行/ボッテガ/鮨かなやま/銀座レカン/シンシア
・好きなジャンル:鮨・肉・フレンチ(正統派クラシック派)
・最近行ったフレンチ:シンシア/レストラン西洋銀座/マダム・トキ/シェ・イノ
・好きな食材:野菜全般/鴨/トリュフ

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