インタビュー|

【対談】福山剛氏×中村孝則氏、福岡「GohGan」が創造する新たなダイニングシーンとは

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福岡の名店「La Maison de la Nature Goh」のシェフ・福山剛氏がお店を閉店し、タイ・バンコク「ガガン」のスターシェフ、ガガン・アナンド氏と「GohGan」をオープンするというニュースは、料理業界でも大きな話題となりました。
今回は福山シェフと「世界のベストレストラン50」で日本のチェアマンを務める中村孝則氏による対談が実現。料理に対しての想いから、新たにできるお店について詳しく語っていただきました。

構成力で美味しさを表現する、福山シェフの魅力

‐子供の頃から料理が好きで、そのままこの業界に進まれたそうですね。31歳で「La Maison de la Nature Goh」を開業されましたが、独立の気持ちは当初からあったのですか?

福山剛氏 以下、福山:高校を卒業する前から学校が終わった後に現場に入り、そのまま食業界に進みました。あまり独立心もなく、どちらかと言えば2番手がいいなと思っていたのですが、30歳を過ぎた頃から自分でやってみたらどうなるかなと考え、31歳で独立しました。

‐海外に行かれる方も多いなか、福山シェフはずっと福岡にいらっしゃいますね。

福山:渡仏も考えていたのですが、仕事はもちろんプライベートも楽しみたいと思った時、友人が多い福岡にずっといることになり、行きそびれてしまいました(笑)。
25歳頃から中州にある10席くらいのワインバーで働いたのですが、お客様との距離が近く、そこからお客様や料理に対しての考え方が変わった気がします。

―お客様と接することが多くなったのですね。どんな風に考えが変わったのですか?

「La Maison de la Nature Goh」外観

福山:今まではクローズドキッチンで、僕たちが料理を作り、下がったお皿が綺麗になっていたら「良かった」という感じでしたが、1メートル先にお客様がいるので、表情や食べるスピードなどを見ていると色々なことが分かるようになりました。
そうなると「自分が作りたい料理」ではなく「お客様のニーズに合った料理」を作っていかなくてはならないという考えに変わりましたね。

‐福山シェフですが、2022年の「アジアのベストレストラン50」では5年連続でランクインするという、快挙を成し遂げました。

福山:最初のランクインは2016年でしたが、普通ランクインするシェフはある程度皆に知られているかと思います。僕は福岡でこそお客様も付いていましたが、全国規模だとあまり知られていない存在だったので、中村さんも「あなた誰?」という感じでしたよね(笑)。

中村孝則氏 以下、中村:「アジアのベストレストラン50」は2013年に始まり、その頃から僕は審査委員長を務めているのですが、バンコクで開催された2016年のことは良く覚えています!
アワードの前日に前夜祭があり、そこで初めてランクインをしたシェフだけが集まるのですが、自分も当日にならないと誰が来るか分からないんです。その時初めてお会いしたのですが「この人は誰?」という感じでした。周りのシェフからも聞かれるんですけど、分からないって(笑)。

‐そんな出会いから5年、今では「アジアのベストレストラン50」の常連になっていますね。今年のランキングは地方のレストランに対して注目度が高かったのも特徴です。福山シェフは福岡から発信するガストロノミーということで、料理を作る際に心掛けていることはありますか?

「 La Maison de la Nature Goh」 店内

福山:よく地方のシェフとも話すのですが、食だけを求めて旅をする人は絶対的に少ないです。「La Maison de la Nature Goh」は34席あってそれを満席にするため、まずは福岡のお客様に好かれたいというのがありました。
今ももちろん最初にランクインした頃は、福岡のお客様が「食べて美味しい料理」と「前衛的で新しい料理」を同時に作ることに難しさを感じていました。
そのバランスを考えながらお客様もちゃんと入れなくてはならないというのが、今も昔も考えるところですね。

‐九州は食材の豊かさも魅力の1つかと思います。

福山:九州だけに縛ってしまうと、美味しくないと思ったものでも使わなくてはいけなくなるので九州を中心に、基本的には自分が食べて美味しいと思うものを使っています。

‐地方のレストランが注目されるなか、福岡から発信するガストロノミーの魅力はどのような点でしょうか。中村さんの考えをお聞かせください。

中村:2016年に福山シェフがランクインした当時は「ローカルガストロノミー」という造語が出てきた頃で、地方のレストランがスポットを浴び始めていました。
質問の答えは2つあると考えていて、まず福岡という場所の食材の豊かさ。海の幸、山の幸、お米の収穫量も高く、酒蔵も多いです。
もう1つは立地的な観点。福岡はアジアからの玄関口になっており、中国や韓国から福岡に来る方も多いです。同じローカルでも海外との距離が近く、人も味覚の動きも活発です。

‐改めて福山シェフと作られる料理の魅力をお聞かせください。

中村:1つは先ほどもお話したレストランとしての強みや魅力、後は彼のパーソナルな魅力が大きいです。レストランはやはりおもてなしの場であると思っていて、この点は「ベストレストラン50」でも評価のポイントとなっています。お客様をどうおもてなしするのか、そして楽しんでいただくかをすごく考えている。本当に人たらしなんですよ(笑)。
料理の魅力としては、まず表現力がものすごく高い。海外のお客様も多くいらっしゃるなかでその人達の“美味しい”の味覚に合わせるという術を身に付け、臨機応変に対応できるというのは大きいですし、料理の引き出しが多いです。
後はオープン当初からコース1本でやっていましたが、コースの中でお客様を満足させる料理の組み立てが素晴らしく、秀逸です。イノベーティブな料理も差し込みながら、美味しさを起承転結で表現した構成に仕立てていくんですね。
それはシェフ1人の場合も誰かとコラボレーションをする時も同じです。
ガガン氏と福山シェフが組んだ「GohGan」というユニットも、ガガンのイノベーティブなものを、お客様が満足できるよう構成の力で落とし込んでいく。まるでオーケストラの指揮者のような能力の高さを感じています。

新たな福岡のシンボル「010 BUILDING」で表現する、新たな食の形

‐2022年12月「アジアのベストレストラン50」の常連でもある、タイ・バンコク「ガガン」のスターシェフ、ガガン・アナンド氏と「GohGan」を実店舗で開業されます。ガガン氏との出会いをお聞かせください。

福山:2013年に海外のお客様にお誘いいただき、上海にある「ウルトラバイオレット」というレストランに行きました。そこがガガンとの初めての出会いです。
当時彼は「アジアのベストレストラン50」で3位に入った頃で、翌年1位になった直後に福岡に遊びに来て、うちでご飯を食べたり、佐賀に有田焼を見に行ったりと交流を深めていきました。

‐どのようなきっかけでイベントをやるようになったのですか?

福山:ガガンと引き合わせてくれたお客様の誕生日パーティーを、うちのお店を貸し切ってやったんです。ガガンは驚きや楽しさ、人を喜ばせたいという気持ちが強い人で「サプライズで一緒にご飯を作ろうよ」と誘ってくれました。
僕は英語も喋れないのですが、2つ返事でやりたいと伝えたんです。その時、ガガンが紙にハッシュタグで「GohGan」と書き始め「来年から年3回、2人で料理をするからみんな来てね!」となったのが最初です。

‐そこから何度もイベントをやるようになっていったのですね!今回実店舗を出すことになったのはなぜですか?

福山:最初はノリで言っているんだろうと思っていましたが、彼から「今度はいつどこでやる?」という連絡が来て、本当に始まっていきました。
2016年の秋、京都でイベントをやった際に「菊乃井」さんで食事をしたのですが、実際お店にするのであればどんなのにする?という話になっていきました。
彼とは料理やちょっとしたパーソナリティは違いますが、似ている部分もあると感じていて。僕も何か新しいことをしたいという気持ちもあり、彼とであれば面白いことができるのではと、そこから始動しました。

‐福山シェフは2022年10月17日「La Maison de la Nature Goh」が20周年を迎える記念日にその歴史に幕を閉じました。大きな決断だったと思います。

福山:2018、2019年頃からスタッフが独立していき、どうしてもこのまま尻つぼみになっていくなと不安に感じていました。
そのなかで「GohGan」の話が出て、もう一度チャレンジしてみようと思ったんです。

‐中村さんはこのお話を聞いた際、どのように感じましたか?

中村:僕は「GohGan」のイベントに2016年から参加しています。インド・コルカタ出身のインド人、ガガン氏と福山シェフは一見違うキャラクターですが、組み合わせとしてはすごくいいチームだと思っていました。
大人になってから、しかも国籍も違うなか一緒に仕事をするのは難しいことですが、お2人であれば大丈夫だと思っています。
また、福山シェフはお店を満席にされ成功されているなか、歳を重ねた今全く新しいことにチャレンジをするというのは人生の大きな決断です。
そこに踏み込んでいく勇気は素晴らしいと思いますし、全力で応援したいですね!

‐改めて新しくできる「010 BUILDING」、そして各フロアの全様をお聞かせいただけますか。

福山:1階はアラカルトで食事ができる「GohGan」が入ります。福岡では年齢を重ねたお客様は時間に制約されず、好きな人と好きな時間に好きなものを食べたいという方が多いです。
若い頃は料理をシェアされるといい状態でお客様に食べてもらえないという気持ちが強かったですが、実際に自分がプライベートで行くとなると、昨今人とあまり接触できなかったのが少しずつ交流できるようになり、皆と一緒にお話しをしながらご飯を食べるというのは、レストランとして大切なことだと再認識させられました。

なので1階は、ガガンのインドベースの料理と僕のフランス料理を融合した「GohGan」らしい、新しいファインダイニングを作る予定です。

2階は「THEATER 010」が入ります。ニューヨークからエンターテイメントチームを呼び、映像や空間、パフォーマンスを見ながら食事を楽しめる、日本で始めてのシアターです。

その横には奈良「LAMP BAR」の金子道人氏が監修に入った、ミクソロジーで素敵なバー「BAR010」が入ります。2階は「GohGan」の料理を、お酒を飲みながら食べていただけるようアレンジして提供します。

3階は14席の「Goh」というレストランが入ります。福岡には屋台文化もあるのでフィットすると思い、フランスの“ターブル・ドット”のようなスタイルを考えています。10メートルくらいの1つのテーブルで14人が一緒に食事をし、体験や時間を共有して、思い出に残るレストランを作っていきたいです。
器などは有田で選びましたが、日本で始めて天皇家へ洋食器を作ったという窯元に、オリジナルの器を焼いてもらいました。建物はお洒落でモダンですが、使っているカトラリーや器はクラシカルなものに戻し「Goh」でしかできないことを発信できればと思っています。
建物は、ニューヨークのグランドゼロの跡地にあるモニュメントなどを手掛けた建築ユニット「CLOUDS AO(クラウズ・アオ)」が設計します。

今のタイミングだとインバンドが戻ってくるという話題もありますが、どちらかというと海外や県外の人ではなく、地元福岡や九州の人にまずは喜んでもらい、ランドマーク的なものになればいいなと思っています。

準備中の「010 BUILDING」をお2人で視察する様子

中村氏:私も現地に行って建物や中を拝見しましたが、コンセプトはもちろん建物自体のデザイン性も含め、ユニークで新しいレストランができるなと感じました。

‐「GohGan」の料理はガガン氏とお2人で組み立てることになるかと思いますが、どのように構成していくのですか?

福山:ガガンと一緒に料理をするようになり、改めて「お客様が喜んでくれるのがいい」ということを再認識させてもらいました。
彼はいつも僕たちが思い浮かばないことを提案してくれるんですね。
日本人はすごくしっかり仕事をしますが、ガガンや海外の人は発想力の豊かさと僕たちが考えもつかないことを形にしてくれる。
いままで「GohGan」でやっていきた料理をベースに考えていますが、お互い意見を出し合いながら、今回のゴーガン流にアレンジしていきます。僕らもすごくワクワクしています。

2人のスターシェフが創造する、今の価値観に合ったガストロノミーシーン

‐中村さんは今回の「GohGan」について、どのようなインパクトがあるとお考えでしょうか?

中村:インパクトはかなり強いと思います。今回のパンデミックを乗り越え、世界の価値観が大きく変わっていくなか、非常にシンボリックなレストランになるだろうと考えています。
ガガン氏は「アジアのベストレストラン50」で1位を4年連続、世界でも最高4位までいった方です。
アジア、世界のアワード両方で上位を狙えるポテンシャルを持っているというのは、日本のチェアマンとして大きな期待を寄せています。
もう1つ付け加えると、先ほど“ターブル・ドット”というワードがありましたが、これは元々フランス語で“賄い食堂”のこと。お家でお客様をもてなす感覚で、大きなテーブルを囲み、皆で料理をシェアする伝統的な食べ方なんですね。
おそらく次のトレンドの1つとして“ターブル・ドット”はキーワードになるかと考えています。
当然グループ同士でも楽しめますが、知らない人とも自然に距離感が近くなり、そういった空間と楽しさをシェアする、新しい価値の提供だと思います。

3階の「Goh」では“ターブル・ドット”のようなスタイルでコース料理をいただけ、1階の「GohGan」ではアラカルトスタイルで食事ができ、そしてエンターテイメントなシアターもあり、同じビル内で移動できるのも新しい食空間の提案です。
2つの意味合いで注目度が高く、ぜひアワードも狙っていただきたいですね。

‐最後に福山シェフが「GohGan」で挑戦したい事をお聞かせください。

福山:まずは福岡の人に好かれ、色んな人に「食べて良かった」と思ってもらえる空間を作りたいです。
あと福岡の食は全国的に皆さんにいいと思ってもらえるのですが、お店側のおもてなしの心もすごくあり、あまり利益を出さずにお客様に言いものを食べてもらうというのが、特に顕著だと思っています。
今、小さなお店や人気店と言われるお店はしのぎを削り福岡で営業していますが、5年後、10年後の人材やお店の事を考えると不安になります。
料理人は職人なので、しっかり働き勉強していくのは大切ですが、いいお店を福岡に残すためにはスタッフやお店、お客様の関係をもう少し見直し、一緒に盛り上げていきたいです。
お客様から高いお金を取るのではなく、適正なお金を頂戴するというのを念頭に、少しずつ業界全体がいい状態になればと思いますし、「GohGan」に関しも率先してやっていきたいと考えています。

https://010bld.com/

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福山剛氏
1971年、福岡県生まれ。高校在学中からフレンチレストランで調理を行い、1989年、フランス料理店「イル・ド・フランス」で研鑽を積む。1995年からワインレストラン「マーキュリーカフェ」でシェフを務め、2002年、西中洲に「La Maison de la Nature Goh」を開業。2022年10月17日、20周年を迎える記念すべき日に閉店。2022年12月、新たな福岡のランドマーク「010 BUILDING」内にてタイ・バンコク「ガガン」のスターシェフ、ガガン・アナンド氏と「GohGan」、1月には14名のレストラン「Goh」を開業予定。

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中村孝則氏
神奈川県生まれ。美食評論家、コラムニスト。
ファッションからカルチャー、グルメ、旅やホテルなど“ラグジュアリー・ライフ”をテーマに、雑誌や新聞、TVにて活躍中。
2007年、フランス・シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を授勲。2010年には、スペインよりカヴァ騎士の称号も授勲。
2013年からは、「世界のベストレストラン50」、「アジアのベストレストラン50」の日本評議委員長も務める。剣道教士七段。大日本茶道学会茶道教授。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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