インタビュー|

二つ星シェフ成澤由浩に聞く。「NARISAWA」が探求する持続可能な美食とは

東京・南青山に佇むレストラン「NARISAWA」。今回は、「イノベーティブ里山キュイジーヌ」という独自のジャンルを打ち立て、環境問題にも造詣が深いシェフ・成澤由浩氏のもとを訪れ、「NARISAWA」が目指す世界観や、料理に対する思いを語っていただきました。

――まずは「NARISAWA」のコンセプトについて改めてお聞かせください。

「NARISAWA」のコンセプトは、ずばり日本です。長い歴史の中で、日本の地理的環境や気候条件を通して築かれてきた独特な生活様式や食文化について、私は多くのことを学んでいます。

実際、国内の自然に近い場所、いわゆる田舎や地方に住むご年配の方々に話をよく聞きます。そういった先人の知恵を知ることで、日本の本質に触れることが出来ます。日本の食文化がいかに優れているか、環境や健康に良い、日本人さえも忘れかけている素晴らしい生活様式に気づかされます。

私は料理人として、「NARISAWA」というフィルターを通して、昔からある本来の日本の
優れた食文化を、現代の人々が美味しく楽しめる料理にして提供しています。重要なポイントとしては、単純に昔から地方にある伝統料理を再現するということではなく、現代の人々が楽しみながら、日本の持つ大切な文化のメッセージを受け取ってもらえるように工夫すること。もちろん「NARISAWA」でしか表現できない方法で。

すなわち「NARISAWA」のコンセプトは、日本の食文化を紐解き、美味しく楽しく食べ手に伝えていくことです。日々、学びながら前進しています。

―「イノベーティブ里山キュイジーヌ」という独自のジャンル・世界観ともつながりますね。

「イノベーティブ」という言葉については、先ほどお話した先人の知恵を現代に蘇らせるという意味合いが強いです。革新的というよりも、お客様に楽しんでいただくために用いる「NARISAWA」ならではのフィルター・工夫を表現するのに適した言葉として「イノベーティブ」を選びました。

もともと、ジャンルへのこだわりは希薄だったんです。祖父も父も料理人でしたし、自分も日本料理からスタートして、ヨーロッパ各国に渡っています。8年間ヨーロッパのレストランを渡り歩きましたが、スイスからイタリア、スペイン、ポルトガル、モナコ、フランスまで、一つの国に留まらずバランス良く滞在していました。

ヨーロッパで学んだことの一つに、各地域で支持されているレストランは、その土地の個性を活かした料理を作っているということです。
また、各国・地域にはその土地ならではの文化や食材があるので当然なのですが、食材の良さを活かすためには、ジャンルにかかわらず様々なテクニックを駆使していくべきなのではないかという思いも芽生えました。

帰国後、小田原で「La Napoule(ラ ナプール)」をオープンしてからは、全国の生産者たちを訪ね歩きました。食材と巡りあう中で確信したのは、日本の食材の美味しさを最大限活かすために、日本料理のテクニックをベースに、中国料理、イタリア料理など様々な技術を用います。

―素材の美味しさを活かし、先人の知恵を現代に蘇らせるという文脈で「イノベーティブ里山キュイジーヌ」というジャンルが生まれたのですね。

そう気づかせてくれたのは、海外のジャーナリストの方なんです、2008年頃です。

当時はまだ日本のメディア等ではジャンルは日本料理なのか、フランス料理なのか、イタリア料理なのか、中国料理なのか?と、どれかのジャンルに当てはめないといけない状態でした。しかし、今から10年以上前から「NARISAWA」では独自のテクニックや考え方のもと、様々な技術を用いて料理を表現していました。日本料理のテクニックはもちろん、中国料理、ヨーロッパの料理のテクニックを使い、他にはない料理を表現していました。
そんな頃、ある海外のジャーナリストの方に、「なぜ、ここはフランス料理店と名乗っているのだ」と言われたんです。「食材もテクニックもフランス料理ではないし、フランス料理や日本料理など、どのジャンルにも当てはまらないのに」と。

「これはあなた個人のオリジナルなジャンルなのではないか」と教えてくれたのです。

「イノベーティブ里山キュイジーヌ」というジャンルが確立した瞬間ですね。「里山」は、人と自然が共存する場所。生活の糧となるものが生まれ、食文化の多様性が生まれる場所なんですね。

私は、「里山料理」という言葉を「日本料理」と言った時の一般的にイメージされてしまう、”伝統やルールに縛られた概念” ではなく、”日本の長い歴史と自然環境から生まれた独特の食文化”という、もっと深い、広い概念でとらえています。
「イノベーティブ」と合わせて、「イノベーティブ里山キュイジーヌ」を謳ってから10年ほどですが、すぐには受け入れてもらえなかったのも事実で、食後の最後に「結局、何料理なの?」と、やはり既存のジャンルに当てはめたい方もいらっしゃいました。

一方、海外では「イノベーティブ里山キュイジーヌ」という言葉はしっくりきたようでした。日本の「NARISAWA」の料理をもっと深く知りたいからと訪れる海外のお客様が多くいます。日本に住んでいても、日本の食文化について考えを深めるのはなかなか難しい。しかし、それを深く掘り下げていくと、意外と知られていない真実があるんですよね。例えば「発酵」と一口にいっても、とても奥が深いわけですから。

それらの日本の食の真髄の部分を伝えたいという思いが、「イノベーティブ里山キュイジーヌ」には込められているのです。これまでお話ししてきた、先人の知恵に耳を傾け、日本の食文化や古き良き精神性に触れるということに通じています。

―国籍問わず、「NARISAWA」にいらっしゃるお客様は、料理に込められた理念を受け止める懐の深い方が多い印象がありますね。

料理を作る際は、常に食べ手であるお客様のことをイメージして組み立てています。料理人の意図を押し付けないように気をつけています。

一方で、100人が食べて100人が美味しいという料理もあれば、そのうち50人が美味しいという料理もあります。私が提供する料理は、森の中から採取した山野草など、本当に多種多様な素材を用いています。素材によっては、例えばルッコラを食べた時に感じる万人受けする美味しさとは違った味わいがあっても決して不思議ではありません。

また、食べ手であるお客様が受け入れる気持ちや、それにまつわる経験があるかどうかによって、美味しいか、美味しくないか、判断することもあるのではないでしょうか。

例えばジュンサイ。海外のお客様には、なかなか受け入れてもらえないものなんですよね。ただ、そのバックボーン、日本の春~夏のある一時だけしか採れず、きれいな水でしか育たない神秘さを理解していただくと、あのヌルっとした食感だけで敬遠されることはなくなります。

あと、時代が変わるようにお客様の意識や好みも変化していくと考えています。
ガストロノミーに限らず、世相というのは30年前と20年前では違うし、10年前と今も全然違うのは当たり前です。だから、料理人として自分はこうなんだと立ち止まるのではなくて、常に社会の流れや、今生きている人たちの好み、求めているものを考えていかなくてはなりません。

withコロナの時代もそうですね。今のお客様一人ひとりが、心から美味しいと思うものを提供しなくてはいけない。コース料理のバランスについても同じです。

―「プレミアムボックス」といったテイクアウトメニューも、かなり早い時期から取り組んでいましたよね。「KIWAMINO」でも取り上げさせていただきました。

このような状況下でも、記念日やお祝い事などハレの日がなくなるわけではありません。その時に必要とされる料理を、レストランに訪れることなく食べられる仕組みが必要だという結論に至ったのです。

テイクアウトメニューについても、レストランで出している食材と同じものを使っています。4月頃であれば花山椒、夏であれば鱧や鰻など。レストランと同様に旬なものを用意し、レストランのコース料理と同じく日々メニューも更新しています。いつでもご自宅で安心してレストランの美味しさを楽しめるよう工夫をしています。

―成澤さんは、かなり早い段階で環境問題に対しても関心を寄せ、料理人として発信を続けてきましたが、その点についてもお話を聞かせてください。

ガストロノミーと環境問題を一緒に考えるべきだということはずっと発信してきました。最近やっと日本でも一般的に“持続可能な環境”という言葉が聞こえるようになってきました。やはり、ここ数年の悪化が身近に感じられるからでしょう。

私は、お客様に食と環境問題に目を向けてほしいという思いがあります。ただし、レストランではポジティブな伝え方をしなくてはいけないと考えています。お食事を召し上がっていただいて、「こんな素晴らしいお野菜やお肉を作っている生産者の方がいるんだ」というように、発見・認識してもらう。
美味しく楽しい時間を過ごす中で、「この野菜はどうして味が濃いの?」という問いかけが生まれてほしいですね。

―最後になりましたが、改めて料理人になった理由と、料理人ゆえの醍醐味をお聞かせください。

"人を幸せにできるから"の一言です。これは、料理人を目指した当初も今も変わらないことです。食べることは人間にとって一番幸せな行為であり、もっとも必要不可欠な、オギャーと生まれてから死ぬまでのお付き合いです。

また、これまで大切なお客様の最期のお食事も作らせていただいたこともありますし、まだ小学生だった頃に家族で食事に来ていたお子様が大人になって、ご友人や結婚相手と再び食事にいらっしゃることもあります。お客様の人生と共に歩んでいるなあと、ちょっと言葉にならない部分がありますね。

料理人は人の人生や社会と共に歩むことができるんです。その歩みの中で喜びを提供できることが何よりの醍醐味です。

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成澤由浩氏 プロフィール
愛知県出身。19歳料理の世界に入り、日本料理からキャリアをスタート。その後、8年間ヨーロッパ各国にて研鑽を積む。帰国後、小田原にオープンした「La Napoule(ラ ナプール)」が高い支持を集める。2003年に東京・南青山に移転し、店名を「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ」に。2011年「NARISAWA」に店名を改める。「世界のベスト・レストラン50」への入賞や、『ミシュランガイド東京』など有名ガイドブックでも高い評価を受ける日本を代表する料理人の一人。

【編集後記】
長年にわたって、美食と環境問題を同じ文脈でとらえてきた成澤シェフ。今回は、「イノベーティブ里山キュイジーヌ」という成澤シェフ独自のジャンルについて、改めてご本人に語っていただきました。withコロナという厳しい時代にあって、テイクアウトメニューに対する工夫など、「NARISAWA」の新しい取り組みからますます目が離せません。

お店の衛生対策について

平素よりNARISAWAをご愛顧頂き、誠にありがとうございます。
当店では、新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、お客様およびスタッフの健康と安全を考慮し、感染拡大の防止策を強化しております。

・従業員のマスク着用
・消毒液の設置
・うがいをする環境が整っている
・スタッフの体調管理
・お釣りの受け渡し時、キャッシュトレーの使用
・お客様同士、各席の間隔をあけてお席をご用意(約2メートル間隔)
・入店時、営業時にエントランスの扉を開け換気を実施
・次亜塩素酸を設置

イノベーティブ

NARISAWA

東京メトロ銀座線・半蔵門線 青山一丁目駅 徒歩2分

20,000円〜

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謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:和田倉、SENSE
・好きなお店:六雁
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

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