洋食と言えば“街の洋食店”をイメージされる方も多いのでは。そんな洋食のクオリティを高め、ワンランク上の料理の数々でお客様を笑顔にする「kitchen俊貴」は、名古屋では知る人ぞ知る人気店です。
今回は2022年5月にリニューアルオープンを果たし、新たな門出を切った店主・阿井俊貴氏にインタビュー。移転をしたきっかけや、こだわりのメニューの裏側、阿井さんが取り組まれているプロジェクトに関してなど、様々なお話を伺いました。
娘の誕生で決意した、新天地での挑戦
‐料理人を目指されたきっかけを教えてください。
小学生の頃、父の友人にお寿司屋さんに連れて行ってもらったことがあったんです。大将がお客様と話しながら楽しそうにお仕事をされているのを見て、すごくかっこよく感じて。それがきっかけで、カウンターのあるお店の料理人になりたい、と思いました。
‐お寿司屋さんは目指さなかったのですか?
中学校を卒業後「お寿司屋さんに修業に行きたい」と父に伝えたんです。でも「高校は出ておけ」と言われ、料理とは全く関係のない高校に進学しました。
その間、ファミリーレストランでアルバイトをしていたのですが、老若男女問わず皆が喜んでいる様子を見て、ファミリーレストランで多く提供されている洋食に興味が湧き、この道に進んだんです。
高校卒業後もアルバイトをしていましたが、その際に洋食レストランの求人を見つけて、門を叩きました。
‐それが「レストラン雅木(現在は閉店)」だったのですね。
そうです。「レストラン雅木」で14年間、その後「ビストロ ダイア」で2年、「kitchen NOMU」で3年間働きました。
‐2019年に「kitchen俊貴」を開業されましたが、独立はいつ頃から考えていたのですか?
お店を持ちたいと思ったのは、小学生の頃からです。
自分のやりたい職業はこれしかないと思っていたので、将来は絶対に自分でお店をやりたいと考えていました。
‐いつまでに独立したいなど決めていたのですか?
実は全く決めていなくて、タイミングが合えばと思っていました。「kitchen NOMU」で働いていた時、お客様から「自分でお店をやらないの?」と聞かれ「いつかはやりたいけど、まだツテが無いので……」とお話したことがあったんです。
そうしたら、そのお客様が不動産を紹介してくださり、そこから場所が決まり、施工業者さんが決まり、歯車が回り始めて独立に至りました。
‐2019年に独立され、2022年の3月に閉店、2022年5月2日に現在の場所でリニューアルオープンをされました。リニューアルに至った経緯をお聞かせください。
千種区にあった以前の店舗は、交通の便が悪く、地下鉄の駅からも徒歩30分くらいの場所にあったので、お客様からも「移転した方がいいんじゃない?」とよく言われていたんです。
今の店舗がある新栄の物件は、自分が以前働いていた「ビストロ ダイア」があった場所なのですが「ビストロ ダイア」が移転するタイミングで「阿井君が入るのが一番いいのでは」とお話をいただきました。
でもお金もかかることですし、悩んでいたタイミングで、ちょうど娘が誕生したんです。
今後のことを考え、家族のためにお店を大きくしたいと思ったのが、移転の一番のきっかけですね。
実を言うと、本当は独立して10年くらいしたら、今もカウンターはありますが、カウンターだけのお店をやりたい 、と思っていたんです。だけど3年で移転したので、プラン通りにはいかないですね(笑)。
‐移転されて1年が経ちましたが、いかがでしょうか?
やはり前に比べてアクセスが良くなったことで、お客様が増えました。最近は名古屋だけではなく、東京、大阪など県外の方も増えましたし、海外のお客様も少しずつ増えてきています。自分の料理が認められてきているのかな、と実感することが増えましたね。
シェフの技術力で仕上げる「kitchen俊貴」の洋食とは
‐洋食と言えば……という美味しそうな料理が並ぶ「kitchen俊貴」のメニューですが、阿井さんが料理を作る上で大切にされていることを教えてください。
まず「美味しい」というのは最低ラインです。それは大前提として、洋食のメニューはエビフライなどの揚げ物や、ハンバーグやオムライスのような、少し重たい料理が多いんですね。そんななかで食べ終わった後「くどい」「胃がもたれる」と思われないように、技法や油などにこだわり、少しでも軽く仕上げることを心掛けています。
‐油は、どのようにこだわっているのでしょうか?
大抵の洋食店はサラダ油とラードを使用しているのですが、それだとのっぺりとした仕上がりになります。
「kitchen俊貴」では原材料が少し高くなりますが、コーンサラダ油と、ラードに関しては北海道の十勝で育ったマンガリッツァ豚のラードを使い、軽く仕上がるようにしています。
‐ハンバーグプレートの盛り付けも可愛らしいですね。どんなメッセージが込められているのですか?
例えば、レストランに来て喧嘩してしまったり、子供が泣いてしまったりとかするじゃないですか。そんな時に僕のハンバーグプレートを見て笑顔になっていただきたくて、スマイリーをイメージしたデザインで盛り付けています。
後は一目写真を見ただけで「kitchen俊貴」のハンバーグだと分かるようにしています。
‐確かに一目で「kitchen俊貴」と分かる見た目ですよね。ハンバーグプレート以外にも美味しそうなメニューがたくさんありますが、ぜひ食べていただきたい一品はありますか?
「ビーフシチュー」はぜひ召し上がっていただきたいです。多くのお店で出しているビーフシチューは、缶詰のデミグラスソースに煮込んだお肉を入れて温めて提供しています。
それが決して悪いことではありませんし、僕も缶詰のデミグラスソースを使って調理をするメニューもあります。
ブラウンルーから仕込み、焼いた牛骨と野菜を合わせて3、4日間煮込んでソースにします。次に、前日に赤ワインでマリネした牛肉を串が通るくらいまで8時間ぐらい煮込み、それと先ほどのソースにしたものを合わせて、また煮込むんです。
作るのに1週間くらいかかってしまうのですが、本来のデミグラスソースというのはこういうものだ、ということを感じていただければと思います。
‐1週間もかかることに驚きです。
どうしても、一朝一夕ではできない料理なんです。3日だと味が薄いですし、5日でも何か物足りない味になってしまうので、やはり1週間は必要ですね。
ブラウンルーの苦みやコク、味の奥深さを詰め込んでいて、一言では語り切れない味わいなので、ビーフシチューは食べていただきたいです。
‐阿井さんがおもてなしの部分で心掛けていることがあれば教えてください。
やはり“楽しんでいただくこと”が一番だと思っています。いくら美味しい料理が食べられるとしても、楽しくないレストランには行きたいと思わないじゃないですか。
料理が美味しく感じられるのは、味はもちろんですが、やっぱり一緒に行くメンバーが一番大きいと考えていて。
そのメンバー全員が楽しめるような接客ができれば、総合的に美味しいものになると思っています。
‐阿井さん自身がお客様とお話されることも多いのですか?
そうですね。料理をするのはもちろん、お客様とお話をすることは結構好きです!
美味しい食材×支援の輪を広げる「愛ふぁーむプロジェクト」
‐阿井さんは「愛ふぁーむプロジェクト」という取り組みに参加されていますね。どういった取り組みで、どのようなきっかけで参加することになったのでしょうか?
「愛ふぁーむプロジェクト」とは、障がい者の皆様が作った野菜で料理人が料理を作り、お客様に召し上がっていただくことで、雇用や就労支援に繋がる取り組みです。僕は「愛ふぁーむプロジェクト」の発起人から、料理人を繋げていく存在として参加して欲しい、とお話をいただきました。
‐「kitchen俊貴」でも「愛ふぁーむプロジェクト 」で育てた野菜をたくさん使用しているそうですね。
「愛ふぁーむプロジェクト」では「千代田ファーム」をはじめとする、障がい者の方々が一生懸命作っている野菜を料理に使っています。
畑から直接お店に届けられるので、本当に美味しいんです。
例えば、農家さんが作った野菜は収穫後に農協や大きな市場に入り、そこからスーパーなどの小売店に卸されるので、収穫から1日、2日はかかってしまいます。
しかし「千代田ファーム」の野菜は収穫してそのまま仕入れているので、数時間で手元に来ます。すると鮮度が全く違いますし、それだけ野菜の美味しさがあります。
さらに「千代田ファーム」は、全国の有名な農家さんから農業支援をしていただいているので、すごく美味しい野菜が栽培できているんです。
‐「愛ふぁーむプロジェクト」は、名古屋の名だたる名店が参画されていますね。
僕は顔が広いという訳ではないですが、年齢的にシェフの方々のちょうど中間にいるので、各お店のシェフにはお声がけしやすいですね。
ぜひ野菜にも注目して、料理を召し上がっていただければと思います。
洋食の地位を確立し、発展させていく
‐8月からは通販サイトを立ち上げるそうですね。
名古屋や東海三県、もちろんその他の県から来てくださる方もたくさんいらっしゃいますが、やはり直接お店にお越しいただけない方は大勢います。
通販では「ビーフシチュー」や「毎日使いたくなるドレッシング」などを販売する予定です。多くの方に「kitchen俊貴」の味を知ってもらい、もし旅行などで名古屋に来る機会があれば、足を運んでもらえるきっかけになってくれればと考えています。
‐「kitchen俊貴」を開業して4周年、現在の場所に移転されて1年が経ちました。阿井さんの今後の目標をお聞かせください。
大きなことを言うと、日本洋食を発展させていきたいです。洋食にとって“昔ながらのことを大切に守り続ける”というのも大事なことだと思っています。
しかし、新しい食材や技法など、今後も色々なことにチャレンジしていきたいですね。
どうしても失敗はつきものだと思いますが、失敗の積み重ねを経て、洋食をもっとアップデートしていき、たくさんの方に食べていただければ嬉しいです。
そして、お客様に笑顔になっていただける料理や、お店を作っていきたいと考えています。
‐発展させた先の未来はどのように描かれているのですか?
“洋食”はやはり町の洋食の印象が強いかと思います。身近で親しみ安い料理ではありますがとても薄利なので、時間をかけて料理に打ち込んでいる方は多いですが、それが商売に繋げることが難しい世界です。
フレンチやイタリアン、和食やお寿司などに追いつけるよう、更なる時間と技術 をかけて美味しいものを作り、もっと魅了 する料理であって良い感じていますし、そんな未来を作ることで、今後の洋食界を変えていければと 思っています。
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阿井俊貴氏 プロフィール
静岡県出身。ファミリーレストランのアルバイトをきっかけに洋食の道を志す。名古屋・一社の洋食店「キッチン雅木」(現在は閉店)で14年間、その後に「ビストロ ダイア」「kitchen NOMU」などで研鑽を積み、2019年に千種区・京命に「kitchen俊貴」を開業。
2022年3月に一度閉店し、2022年5月、新栄にてリニューアルオープンを果たす。
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【編集後記】
「kitchen俊貴」でのひとときを通して、お客様の笑顔が見たい、楽しんでもらいたいという気持ちが、終始伝わってきたインタビューでした。
「洋食」といえば、昔ならのエビフライやハンバーグなどを想像する方が多いかと思います。そんな洋食をとことん追求し、技術によって美味しさをアップデートしている阿井さんによる料理の数々を、ぜひ召し上がってみてはいかがでしょうか。
※こちらの記事は2024年10月28日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。