インタビュー|

「SECRETO」薮中章禎氏に聞く「好奇心のすべてを超え続ける料理」の“秘密”

牛込神楽坂の閑静な住宅街の一角にひっそりと佇む「SECRETO」。スペイン語で「SECRETO(セクレト)=秘密」という名の通り、訪れたゲストだけが体験することのできる美味しさと楽しさを兼ね備えた“秘密”のレストランです。
今回は同店でオーナーシェフを務める薮中章禎氏に、「SECRETO」が生み出すクリエイティブな料理の世界について伺ってきました。

両親から学んだ、レストランや料理の面白さ

―薮中シェフのご両親は飲食店を営んでいると伺いました。幼い頃から料理に触れる機会が多かったかと思うのですが、ご自身も料理人を目指そうと思ったエピソードがあれば教えてください。

きっかけはやはり両親ですね。経営しているのは田舎のファミリーレストランですが、そこで働いている姿を見て楽しそうだなと思ったんです。中学生の頃から少しずつ洗い物や料理を手伝うようになり、高校卒業後は料理人になろうかなと。当時はフランス料理を食べたことがなかったので「ハンバーグを綺麗に焼けたらいいな」「エビフライを綺麗に揚げられたらいいな」くらいに思っていましたね。

両親に「料理人になる」と伝えたときは、家のレストランを継いでくれると思ったのか喜んでくれましたね。料理人になるにはどうすればいいかと相談したら「現場で働くか専門学校の二者択一。章禎の場合は学校に行っても遊ぶだろうから、すぐ現場に行け」ということで、「京都ロイヤルホテル(現在は閉館)」に就職しました。あとで聞いた話だと、進学するお金がないから就職してくれて万々歳だったようです。

「京都ロイヤルホテル」では最初の1年間はサービスを担当、2年目からレストランに配属されました。ちょっとずつ包丁を触らせてもらえるようになった頃、テレビで『料理の鉄人』が流行ったんです。そのとき出演していたフィリップ・オブロンさんのレストランが近くにあったので食べに行ったら、店内のスタッフはフランス人ばかりでまるでフランス!海外旅行は行ったことがありませんでしたが、直感的にピンときました。その場で「ここで働きたいので面接してもらえませんか?」と声をかけ、日を改めて面接していただき入社。初めて本格的にフランス人と働くことになりました。

フランス、スペインで研磨を積んだ修業時代

―フランス料理の世界に入ったのは『料理の鉄人』がきっかけだったのですね!その後フランスへ渡られた経緯とは?

オブロンさんのお店は日本人も働いていたのですが、みんなフランス帰りだったので現地の話をたくさん聞くんですよね。僕も行ってみたいなと思って、ツテも何もない状況でフランスへ渡りました。フランスの「ル プチニース」などのレストランを経て、次はスペインですね。

―料理ジャンルの垣根を超えて他の国へ渡られるのは珍しいですよね。

「エル・ブジ」フェラン・アドリア氏との1枚

ちょっと珍しいですよね。スペインへ行ったのは、スペイン料理というより「エル・ブジ」で働くことが目的でした。今でもフランス料理は好きだし使うテクニックはフランス料理が中心なんですが、「エル・ブジ」の記事を見たときにそれはもうカルチャーショックで。どこにあるお店か調べるとスペインだということがわかり、また何のツテもなくスペインへ渡りました。

「ドス・パリージョス」での1枚

ご縁があって「ドス・パリージョス」というレストランで少し研修をさせてもらえることになったのですが、そこのアルベルト・ラウリックさんが「エル・ブジ」のフェラン・アドリアさんの下で2番手として総指揮をやっていた方で。幸運なことに直でお話を繋いでいただくことができました。

―帰国後は「マンダリン オリエンタル 東京」さんの「タパス モラキュラーバー」ですね。国内外問わず名だたるレストランで経験を積まれていますが、特に今のご自身の料理に影響を受けたと感じるシェフやレストランはありますか?

実は一番最初の根本は「オテル・ドゥ・ミクニ」の三國シェフ。初めてテレビで見た10代の頃から憧れる存在です。もうちょっと自分自身が成長できたら食べに行きたいなと思っています。さらに僕の人生を変えてくれたアルベルト・ラウリックさんと「エル・ブジ」ですね。一つの食材に対して、これは蒸してみよう焼いてみよう、炭でやってみようとか、料理を諦めない姿勢。そこから物を生み出すことの大切さを学びました。

自分とお客様に掲げるコンセプトを実現するために

―薮中シェフが料理を作るうえで心がけていることがあれば教えてください。

メニューには食材名しか書いていないので、何が出てくるかわからない“おもちゃ箱”のようなコースになっています。使用する食材は、僕の出身地である能登産のものが中心。最近ようやく仕入れのルートも整って、より新鮮な野菜や魚が届くようになりました。地元の食材を使うことで、さらに気合いが入るじゃないですか。気合いを入れながらも決して斬新すぎず、食べて素直に美味しいと思える料理を心がけています。

僕の料理は一見「わ~!」って驚くものが多いかもしれませんが、裏ではしっかりと計算して、クラシックフレンチをベースに理にかなったテクニックで仕上げています。あとは食べられないものや色合いのためだけのソースなど、意味のないものはお皿の上にのせません。そういう細かいところを毎日ぶれずにやっていく。うちの料理を支持してくださる方がいらっしゃるのなら、多分そういうところを見ていただいているんだと思っています。

―華やかな演出の裏には、計算されたテクニックがたくさん詰まっているのですね。では「好奇心のすべてを、超え続ける。」というコンセプトには、どのような想いを込められているのでしょうか。

美味しいものを食べたいとか人に優しくしたい、楽しくありたい、幸せになりたいなど、人にはさまざまな好奇心があると思うんです。その好奇心を僕らが心をこめて作る料理と空間とおもてなしで、1ミリでも半歩先でも超えてもらいたい。超えることで、お客様にも元気になってほしいのです。また、その好奇心を超え続けることが自分に課したコンセプトでもあります。

12席のカウンターにしたのも、自分の目の届く範囲で提供したかったからです。このアイランドキッチンで盛り付けをしながら一斉に説明するので、一体感はすごく生まれますよ。他のお客様と会話が弾んだり、仲良くなって別のお店に一緒に行かれたりとか。そういう様子は見ていても楽しいです。

東京にはお店がいっぱいあって、どの料理人の方もたくさんの知識と技術を持っている。その中で、常に自分だけにしかできないものを探しています。料理の世界に入ってもう27年程経ちますが、大事にしているのは確かな技術の上にある美味しさです。決して遊びのエンターテインメントレストランではなく、まずは美味しさ。その上で、みんなと楽しみたい。このホスピタリティの気持ちは両親の影響が大きいですし、1年間のサービス経験も「タパス モラキュラーバー」でのカウンター越しの接客も、すべてが今に繋がっている。どうすれば自分を一番引き出せるか、逆算して店作りをしていますね。

―ホスピタリティ溢れる薮中シェフですが、料理以外のおもてなしで大事にされていることはありますか?

お客様のモチベーションを最大限に引き出すことでしょうか。最初は手前のウェイティングルームで待っていただき19時になってからカウンターに移動してもらうのですが、まず「ようこそ!」と元気にお迎えして、こちらからパワーを持っていきます。なので僕も営業直前は、ライブが始まる前みたいな感覚です。だから料理も一斉スタートしか考えていなかったですね。「今から始まるぞ!」と気合いを入れて、一気に気持ちを切り替えます。
あとはあまり小難しく考えずに「お料理どうでした?」「最近行ったおすすめのお店があったら教えてください」とか、お客様と積極的にコミュニケーションをとるようにしていますね。

日本全国、世界各国で「SECRETO」を体感してほしい

―オープンから3年目を迎えられ、今後挑戦したいことや新たにやってみたいことがあれば教えてください。

東京にお店を構えさせてもらって3年経つので、今後は全国各地で「SECRETO」を体験してもらいたい。もし「SECRETO」の“秘密”という世界観を表現できる物件が見つかれば、ポップアップという形で3日でも1週間でもお店をやってみたいと思っています。

海外からのお客様も多いのですが直近の予約をなかなか受けられないので、機会があれば海外でもチャレンジしたいですね。東京まで来ていただかなくても、こちらから行きますよ!と。そうしたら、東京まで来られない方にもご来店いただける。店を構えるのは大変なのでここの本店を起点に、さまざまな場所でポップアップのお店をやってみたいと思います。

編集後記
黒を基調としたシックで落ち着いた店内とは対照的に、明るいパワーに満ち溢れた薮中シェフ。美味しさと楽しさでお店にいる全員が一体になれる“秘密”は、薮中シェフのホスピタリティがあるからこそだと感じました。

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薮中章禎 プロフィール

1975年生まれ。国内のホテルやレストランを皮切りに、1999年よりフランス「ル プチニース」、スペイン「エル・ブジ」「ドス・パリージョス」を経て、マンダリンオリエンタル東京「タパスモラキュラーバー」のスーシェフを務めた後、2017年10月より「SECRETO」をオープン。

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イノベーティブ・フュージョン

SECRETO

都営地下鉄大江戸線 牛込神楽坂駅 A1出口 徒歩6分

15,000円〜19,999円

misaki

一休.comレストランの元営業。300店舗近いレストランを担当したのち、もっと世の中に宿やレストランの魅力を発信したい!という思いから、KIWAMINOの編集に。よく食べ、よく遊び、よく働くがモットー。全国各地を飛び回り、インタビュー記事を通してシェフの熱き想いをたくさんお届けできるよう日々奮闘中です。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:LATURE/TAKAZAWA/銀座 きた福
・好きなお店:オテル・ドゥ・ミクニ
・自分の会食で使うなら:六雁
・得意ジャンル:フランス料理
・好きな食材:赤身肉/鴨/海老/いくら

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