【九州鮨紀行】宮崎「一心鮨 光洋」×「ひとつ」・熊本「鮨仙八」インタビュー&おすすめの宿紹介

真の鮨好きが注目する「九州の鮨屋」巡り。「KIWAMINO」では「一度は訪れたい九州の鮨の名店と名宿を巡る旅」を連載開始。第3弾は、宮崎の名店「一心鮨 光洋」店主・木宮一光氏と2022年新たに誕生し話題を集める「ひとつ」大将・上村亮介氏、熊本の名店「仙八」大将・中原貴志氏に、それぞれの県でいただく鮨の醍醐味についてインタビュー。併せて宮崎県と熊本県で泊まりたいおすすめの宿をご紹介します。地元の魚による絶品の一貫を味わい、余韻に浸る旅へ出かけてみませんか?

【宮崎県】「一心鮨 光洋」店主・木宮一光氏×「ひとつ」大将・上村亮介氏

-全国から多くの人が集まる「一心鮨 光洋」で、長年鮨を握ってきた上村亮介氏。上村氏を大将に据えた新店「ひとつ」が、2022年1月11日にオープンしました。
上村さんはもともと大阪で修業された後、地元でもある宮崎に戻って来られたそうですね。

「ひとつ」店主・上村亮介氏

上村亮介氏(以下、上村):もともと料理人を目指していたわけではなく、モノづくりが好きで大阪に行ったんです。最初に仕事をしたお店が鮨屋で、新たなものを作るということが、モノづくりという観点と当てはまり、どんどん魅了されて行きました。
大阪から戻った当初、自分でお店をやろうと思っていたのですが、宮崎の食文化について何も知らないなと感じて。
宮崎の鮨屋で勉強しようとネットで調べてみたら「一心鮨 光洋」しか出てこなかったんです(笑)。そこから入店して、約7年間働きました。

-その後「一心鮨 光洋」の姉妹店として「ひとつ」をオープンされたわけですが、どういった経緯でお店を立ち上げたのでしょうか?

「ひとつ」内装

上村:オーナーの兄、木宮一洋さんが大将をやっていた時に入店し一緒に握っていたのですが、一洋さんが4年程前に抜けたんです。その後は長年いた空久保晴義さんと2人大将としてやっていました。
僕らがずっと大将をしていると、なかなか若い子たちが次のステージに進めないなと思う所があったんです。下の子の成長も考え「一心鮨 光洋」を1人大将にして、僕は新しい店舗で頑張ろうかなと、という話から始まったのが「ひとつ」です。

木宮一光氏(以下、木宮):「ひとつ」に関しては、もっと職人にフォーカスを置いたお店を造りたいと考え、小さくて強いお店を目指しています。

-「ひとつ」という名前の由来は何ですか?

木宮:色々な意味があるのですが、亡くなった父親で「一心鮨 光洋」の先代の大将が「一つ一つに心を込めて作る」という事を大切にしていたこと。
あとは「一心鮨 光洋」と2店舗だけれど心を一つに、そして父親も含めて兄弟全員の名前に「一」が入っているというのもあり、「ひとつ」という店名にしました。

-そんな「ひとつ」に上村さんを大将に据えた理由をお聞かせください。

木宮:職人をチームで輩出していきたいという気持ちがあって、飲食業界や飲食店をもっと盛り上げたいというビジョンがあります。
今回の新店はそのモデルケースになるので、やはり僕とも年齢が近い上村さんに引っ張って欲しいと思い、抜擢しました。
20代の若い子たちや、これから入る子たちに「上村さんみたいになりたい」と思ってもらう事が重要だと思っていて、上村さんはすごく面倒見も良いので、とても信頼しています。

-「一心鮨 光洋」と「ひとつ」の違いはどんな点でしょうか?

「一心鮨 光洋」外観
「一心鮨 光洋」内装

木宮:「一心鮨 光洋」は宮崎県にとって迎賓館でありたいと考えていて、空間をはじめ料理やサービスにおいて、そういった設えの中でお客様をおもてなしする佇まいになっています。

上村:「一心鮨 光洋」はどちらかというと県外からのお客様が多くて、全体の7割くらいを占めています。価格もハイクラスですし、地元密着型かと言われるとそうではないんですね。
逆に「ひとつ」は宮崎県のお客様をメインに美味しいお鮨を食べてもらいたいと考えています。

-お客様の層が異なるのですね。お鮨の特徴も全く違うのでしょうか?

上村:全てが違うスタイルなので、根本的にシャリも異なります。熟成ブームという事もあり、赤酢を使われているお鮨屋さんも巷では多いですし「一心鮨 光洋」でも赤酢を使っていますが「ひとつ」では全く赤酢を使っていません。
宮崎の鮨文化的は赤酢を使わないですし、熟成系のネタではなく、フレッシュなネタを使っているのが宮崎流なので「ひとつ」もそうしています。

-「一心鮨 光洋」では宮崎が誇る天然蜂蜜を使ったシャリが代名詞かと思いますが「ひとつ」のシャリはどんなものなのでしょうか?

上村:赤酢ではなく白酢を使って、シャリはお客様の目の前で炊き切ります。基本的な鮨屋は多めに炊いて、シャリを切ってから保温しますが「ひとつ」では固めに炊き上げて、保温せずにそのまま置いておきます。砂糖を使っているので、ジャストで炊き上げてしまうと、すぐに口が甘くなってしまうんですよね。それを防ぐためにもお米の粒自体に酢を吸わせ、お米の芯を取るんです。

-ネタも何か工夫されているのでしょうか?

上村:握るネタは決め打ちなので用意はしていなくて、当日の仕入れによります。
最初の方の握りで使うシャリは温度が高く、米の表面に酢がまとわりついている状態なので、白身よりも脂身が強い鮪から握ったりしています。

-フレッシュなネタが多いと仰っていましたが、ネタは九州近海、特に宮崎のものが多いのですか?

上村:「ひとつ」に関しては、宮崎の食材に特化している訳ではなく、基本的に全国から仕入れています。
例えば宮崎のお客様はいくらが好きな方が多いんです。なぜかというといくらが取れないので珍しいから。いくら以外にも毛ガニや今の時期ですとツブ貝など、こっちで獲れないものをお出しすると、宮崎のお客様に喜ばれるんですよね。なので九州や宮崎の食材だけに捉われず、全国から仕入れるようにしています。

-逆に「一心鮨 光洋」のこだわりは?

上村:食材は宮崎を中心に九州全般のものを使うという所ですね。ほとんど九州内からの仕入れだったんじゃないかな?やっぱり県外からのお客様は地産のものを食べたいという方が多いですよね。
後はワインとのマリア―ジュ。「ひとつ」では置いていないので、「一心鮨 光洋」ならではの楽しみかと思います。

-同じ宮崎にありながら、双方でいただけるお鮨が違うので、行き来して楽しむのも面白そうですね。上村さんが考える、九州の近隣と宮崎で食べるお鮨の違いは何ですか?

上村:魚自体でいうと、宮崎で獲れる魚は黒潮の流れが強いので、寝かして美味しくなる魚ではなく、どちらかというと筋肉質でプリプリしている魚が多いです。
九州でも太平洋側と日本海側で2種類の魚が獲れるので、同じ魚でも質が異なります。そういった観点をチェックしてみると面白いかもしれませんね。

-最後に「一心鮨 光洋」「ひとつ」に足を運ばれるお客様に対して、一言お願いします。

木宮:宮崎は海の幸、山の幸共に食材が豊富で、魚もとても美味しいです。魚に関しては「一心鮨」「ひとつ」が最高のものを提供するので、ぜひ宮崎にいらっしゃったときは足を運んでいただけると嬉しいですね。

一心鮨 光洋

JR線 宮崎駅 東口から徒歩10分

20,000円〜29,999円
寿司

ひとつ

JR線 宮崎駅 830m

12,000円〜14,999円

宮崎に行くなら!一度は泊まりたい宿

ガーデンテラス宮崎ホテル&リゾート(宮崎県/宮崎市)

「竹と水」をテーマに、世界的建築家・隈研吾氏がデザインを担当した「ガーデンテラス宮崎ホテル&リゾート」。竹林を中心に水盤のある中庭は夜になるとライトアップされ、幻想的な雰囲気を醸します。

全12室の客室にはテラスが備わり、柔らかい自然光がたっぷりと差しこみます。心地よい風を感じながら、静かに流れるひとときに癒されてみてはいかがでしょうか。

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【熊本県】「鮨 仙八」大将・中原貴志氏

-「鮨 仙八」は、中原さんのご実家でもあるそうですね。鮨が身近にある環境で育ったかと思いますが、幼少期の頃から鮨職人になろうとお考えだったのでしょうか?

「鮨 仙八」外観

正直、何も考えていなかったというのが本当のところですが、やはり祖父の時代から見てきて鮨職人の世界が身近にあったのもあり、自然とこの道に進みました。僕で4代目になります。

-福岡にある割烹「とき宗」、東京「鮨 真」で研鑽を積んだ後、28歳の時に熊本に戻って来られたかと思います。そこで学び、今に活かされていることはなんですか?

「鮨 仙八」内装

自分の中で修業は10年間と決めていて、28歳で熊本に戻り独立しました。
修業先では“鮨屋とは”という点をものすごく教わりました。やっぱりお鮨屋さんって独特な世界で厳しい面もありますが、そういったところは全て学ばせていただき、今も活かされていると感じています。

-東京で江戸前鮨を学ばれ、熊本で鮨を握られていますが、関東と九州でいただく鮨の大きな違いは?

九州の鮨は、今日水揚げされたものをそのまま出すという、新鮮なお鮨が主流です。一方関東のお鮨は、塩で〆たりお酢を入れたり、いぶしたり……一つ一つ仕事が入るものを江戸前鮨と言いますよね。

-「寿司 仙八」でいただく鮨は、九州・熊本で獲れた魚に中原様の江戸前鮨の技術が融合された握りが特徴かと思います。

熊本の魚を使いながらいかに江戸前の仕事ができるのかというのは、心掛けている点でもあります。
まずシャリに関してですが、江戸前鮨は酒粕を発酵させた赤酢を使い、砂糖を入れずに塩のみを入れるのですが、「鮨 仙八」のシャリもそのようにしています。
季節によって塩味を強めたり、固さを変えたりはしますが、基本的にシャリは1本です。

-ネタに関して、熊本でいただく鮨とはどのような特色があるのでしょうか?

熊本は有明海の魚が多いですね。九州の他エリアで獲れる魚ともまた違います。熊本の海は湾内なので、小さな魚が多いです。特に小肌は日本一有名と言われるくらいで、脂も入っていて、湾内なので餌も豊富にあり、身が柔らかくてふっくりしています。
後は特色として、熊本の海の旬は7月~9月にかけてです。アカウニや新子(小肌の稚魚)、鱧やワタリガニ、車エビや太刀魚などが旬を迎えます。一方で同じ九州でも、福岡や宮崎の海は冬が旬です。

-中原様は熊本の田崎市場で毎朝目利きをして食材を仕入れているそうですね。心掛けていることはありますか?

熊本の市場は漁港からすぐ近くなので、魚が新鮮過ぎるんですね。だから選び方は東京と全く異なります。お客様に提供するタイミングから仕込みの時間を逆算して、鮮度などを見ながら仕入れるようにしていますね。
やはりお客様に召し上がっていただく以上、少しでもいい魚を仕入れたいので、毎日足を運ぶようにしています。

-新鮮な魚介類が豊富な九州ならではのこだわりですね。基本的には熊本の魚を使用されているかと思いますが、それ以外からの仕入れはあるのですか?

鮪のみ豊洲から仕入れていますが、その他はありません。できるだけ九州、熊本の魚で握るというのを心掛けています。
無理やり仕入れても熊本のカラーが出せませんし、うちはほとんどが県外、特に東京のお客様が多く同じものを出しても「東京で食べる鮨と一緒」になってしまいますよね。東京では食べることのできない地元の魚を工夫して出す、ということは考えています。

-お客様が楽しみにしているものの一つにスペシャリテ「鮑のリゾット」があるかと思います。こちらはどういった経緯でできたメニューなのでしょうか?

握りで最後に出るのは大体味の濃いもので、海老、ウニ、穴子、この辺で〆ることが多いのですが、熊本はいい穴子が獲れないんです。
脂が薄くて、炊き上げてもパサパサになるものばかりなんですね。何か最後に味が濃くて他にないような、誰にも真似できないようなスペシャリテがないかと考えて生まれたのが「鮑のリゾット」です。なので穴子は年間を通してもほとんど仕込まないですね。
鮑は年間で獲れるものになるので、あまり美味しくない穴子を出すよりも「鮑のリゾット」を出す方がお客様に喜んでいただけると思って提供しています。

-食事と一緒に合わせるお酒も九州のものが多いのですか?

九州のお酒が多いです。酒屋さんがうちの献立を食べた上で合わせてくれるのを話し合って決めているのですが、東京でも飲めるお酒を出してもあまり意味がないので。
九州って焼酎文化のイメージが強いかと思うんですが、熊本はお米がいいので、いい日本酒がたくさんあるんです。それらと合わせて食事を楽しんでいただきたいですね。

-おもてなしの面で心がけていることはありますか?

どうしても僕ら鮨職人は、料理が美味しいかの目線で見てしまうのですが、お客様は美味しいだけではなくて雰囲気も含めたトータルバランスで“美味しい”と判断されると思うんですね。先ほどもあったように県外のお客様が多いので、観光の案内なども含めたコミュニケーションをとるようにして、一人一人と向き合いながら握ることを心掛けていますね。

-熊本で鮨をいただくことの醍醐味はなんだとお考えですか?

熊本は海もあって山もあって、自然が本当にたくさんあります。
熊本と聞くと皆さん、馬刺しなど肉にいきがちで、熊本に来てまでお鮨を選択される方は少ないかもしれません。
でも実際は魚の方がたくさん獲れるんです。なのでそういった味覚もぜひ楽しんでいただきたいなと思います。

-ありがとうございます。最後にお客様に一言お願いします。

正直地震の影響もあり、熊本城もまだ完全に復旧していないので、市内も少し寂しい部分もあります。ただ、熊本が誇る天草などの自然は健在です。熊本の自然と合わせて食も楽しんでいただきたいなと思います。

鮨 仙八

熊本市電線 花畑町駅 徒歩2分

15,000円〜19,999円

熊本に行くなら!一度は泊まりたい宿

ホテル日航熊本(熊本県/熊本)

熊本駅から車で約10分、熊本のシンボル「熊本城」も徒歩圏内に位置する「ホテル日航熊本」は、観光の拠点としてもぴったりです。

2022年4月に全客室フロアのリニューアルが完了し、より快適に滞在ができるようになったのも嬉しい点。“和”や“熊本らしさ”をコンセプトに一新された家具やインテリア、伝統工芸のアートワークなど、モダンな雰囲気が特徴です。客室の窓からお城を一望できるお部屋も。威風堂々と佇むその姿に思わず見入ってしまうこと

ホテル日航熊本のご予約はこちら

九州ならではの握りと恵まれた自然を楽しむ、ここだけの豊かな美味に癒される旅を、体感してみませんか。

※こちらの記事は2023年01月03日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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