インタビュー|

【対談】中村孝則氏×「傳」長谷川在佑氏、世界が注目する「アジアのベストレストラン50」の魅力

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世界に数ある食のコンペティションの中でも、今注目を集めている「ベストレストラン50」。
2022年3月に発表された「アジアのベストレストラン50」で、東京・神宮前に店を構える「傳」が、日本料理というジャンルで初の1位を受賞したことは、記憶に新しいことでしょう。
今回は「傳」の店主・長谷川在佑氏と「アジアのベストレストラン50」で日本のチェアマンを務める中村孝則氏との対談が実現!
世界中の人々が注目するランキング「アジアのベストレストラン50」の魅力や、世界のレストランシーンのこれからなど、多岐にわたって語っていただきました。

2022年版「アジアのベストレストラン50」を振り返って

-長谷川シェフ、この度は本当におめでとうございます!日本料理というジャンルで初めてのアジア1位ですね。発表されたときのお気持ちはいかがでしたか?

長谷川在佑氏(以下、長谷川):「まさか!」と思うくらい、正直びっくりしました。うちのスタッフ達も、発表を聞いたときに「え!?うち!?」というような感じだったみたいです。笑
今回はそれよりも、あのようにみんなが集まって開催できるというのがすごく良かったなと思っていて、それだけで結構満足だったんです。順位が発表される中で、友達のシェフ達がランクインしているのを見ていて「いいな」と思ったのが第一の感想です。

-その次には、どのようなことを思われましたか?

長谷川:今まで「アジアのベストレストラン50」で色々なレストランが1位になってきましたが、今回うちが選ばれたのは、僕の中では、料理だけではなくて、みんなが「行って楽しかった」「また行きたい」とか「応援したい」「守りたい」というレストランに票を入れてくれていたような気がしています。
それは何故かと言うと、コロナが流行し始めて約2年半、みんながずっと海外に行けずにいた中で、レストランに求めるものや時間の使い方が変わってきたから。みんなにとってのレストランの価値観が、僕らがずっと昔から実践してきた「楽しめる空間」に動いてきて「ここで過ごした時間がすごく良かった」というのが、投票するきっかけの中で上位に入ってきたのかなという感じがします。そう思ったら1位になったことが「嬉しいな」という実感になっていきました。

レストラン評価の新たな基準を作った「ベストレストラン50」の特徴

-中村様に伺いたいのですが、食のコンペティションには「ミシュラン」「ゴエミヨ」などの世界的なものから、日本国内の評価サイトまで、特徴や基準が異なるものが多数存在していますよね。その中でも「ベストレストラン50」の一番の特徴は何でしょうか?

中村孝則氏(以下、中村):一言で言うと、多様性です。世の中には色々な評価基準とか、ランキングがあるんですけど「ベストレストラン50」というコンテンツの場合は、カテゴリーの壁を排除していて、ジャンルレスなんです。どんなジャンルでも、どんなエリアでも、どんなスタイルでも、それを一緒の軸で投票できるというのが、一つの大きな特徴になってきます。それによって浮かび上がってくるトレンドや人気度もあるので、他にはないユニークさだと思いますね。

長谷川:屋台のお店もランキングに入っていますもんね。

中村:そうそう。例えば「アジアのベストレストラン50」だと、46位になったバンコクの「Raan Jay Fai」は、カニのオムレツが有名で、女性シェフの屋台のお店です。そういう屋台も入ってくれば、もちろん三つ星の高級店も入ってくるし、色々な並びで入ってくるのがユニークなところですよね。

あともう一つ、多様性という意味だと、投票に対して、評価基準をあえて作っていません。「あなたにとってのベストはどこか?」という中で、理由付けが、投票者に委ねられているというのもまた面白いところです。
レストランなので、当然「美味しさ」とか「料理のクオリティ」というのは評価の主なところだと思うんですけど「ベストレストラン50」の場合はそれだけじゃなくて、例えば「おもてなし力」とか「デザイン性」「ファッション性」、レストランの「驚き」や「楽しさ」「シェフのキャラクターが好き」とか、何でもいいんですよ。
「美味しさ」とか「料理」以外の要素も、レストランの評価になったというのが結果的に、他とは違う、今人々が注目しているランキングの理由なのかなと思いますね。

-「食のトレンドが浮かび上がってくる」と中村様がおっしゃったのは、そういった選考・投票のスタイルがあるからなのですね。

中村:そうですね。だから、ランキングを見たときに、前後の順位で全然違う国の、全然違うスタイルのレストランが並ぶというのが面白くて。カテゴリーが決まっていたら、ある程度は文脈で読み取れるけど、文脈は自分で読み取りましょうと。そういう読み解きの面白さはあると思いますね。

あとは「ベストレストラン50」の投票のシステムが、自分が実際に旅して行ったところしか投票できないというのも、一つポイントなんですよ。となると、旅するということもすごく重要なファクターですよね。
そのレストランに行くためには当然ホテルも取らないといけないし、だから「食べに行く」ということは旅も含めて総合的なエンターテイメントと言うのかな。「食べること」は同時に「旅すること」でもあるからね。

「傳」を筆頭に、世界から注目を集める日本のレストランの魅力

-長谷川シェフご自身として、多様な視点から投票される「アジアのベストレストラン50」で1位を獲得できた要因を、どのように分析されていますでしょうか?

長谷川:これは毎回言っているんですけど、僕はうちが1位になった要因は「チーム力」だと思うんですよね。シェフ一人で全部引っ張っていくお店ももちろんあると思うんですけど、うちのお店は、みんなが協力して、みんなでチームを作り上げています。
料理の味って、好みが色々入ってくるとは思うんですけど、味だけで選ぶとなるとうちは「ベストレストラン50」の評価の中で上位にはいけない、というのが、僕の思うところ。その中でうちのお店であれば、海外のお客様も来てくれて、リピートする率がすごく高いんです。

-国内だけでなく、アジアや世界に向けて「傳」の魅力を伝えるために、どのような工夫をされているのでしょうか?

長谷川:海外の人達や、日本の若い人達が「日本料理に行きたいけれども、なかなか行けない」と言うのは、日本料理がちょっと怖かったり、ルールが難しかったり、という理由があるんですけど、うちは、お客さん により寄り添うようなお店作りをしています。ベースにあるものを下げる訳ではなくて、より気軽に入ってもらえるような入口というか。そういったところがお客さんに「楽しい」とか「また行きたい」って思ってもらえるのかなと思いますね。
自分達としても「来てもらって食べてもらって終わり」じゃなくて「また来てもらって」となる方がいいと思うんですよね。

-私自身、日本料理の敷居の高さを感じることがあって、まさに「行きたい」と思っているけれど行けていないというのがありました。「傳」さんのように「楽しい」という要素があれば「行ってみよう」と行動に移すきっかけになると思います!

長谷川:日本のお店って、僕からしてみたら世界一美味しいと思うんです。でも、美味しさだけを突き詰めていくと、それ以外の部分がそぎ落とされて行ってしまう。
海外の人は、美味しいものを食べることよりも、楽しい時間の方が覚えていて、それは全世界共通です。だから、それがレストランとリンクすると「楽しいレストラン」「ここへ行って良かった」というものに変わるんです。
「美味しい」という感覚は、自分が育った味がベースになっていると思うので「美味しい記憶」と共に「楽しい」っていう記憶をお客さんに与えられた方が「また行きたい」とか、記憶に残っていくというか。そういう経験をレストランでできるというのが、うちの目指しているところです。

中村:さらっと言っていますけど「また行きたい」とお客さんに思わせるのは、結構大変なことだよね。

長谷川:確かに難しいですけど、でも相手のことを思いながら料理を作って。食べるときにもリラックスして食べてもらう。
僕にとって、日本料理というジャンルはラッキーなんですよ。だって、海外の人でも「日本に来たら日本料理のお店に行きたい」って思うじゃないですか。そんな中で、日本料理が広がっていくためにはやっぱり、フレンチやイタリアンに、ビストロやトラットリアのようなカジュアルなものがあるように、日本料理でも高級なお店と簡単な居酒屋さんの間が必要なんです。中間を経由して上に行ける、みたいな。そういうお店がもっとたくさん増えてくれればいいなと思うし、うちが目指しているのはそこなんです。

2022年のランキングで見える、レストランシーンの今とこれから

-2022年の「アジアのベストレストラン50」では「傳」の1位を始め、前年に比べて日本勢が大躍進を果たしていますよね。この理由はどのようなところにあると思われますか?

中村:2013年に「アジアのベストレストラン50」が出来てから今年で約10年ですが、ようやくアジア全体に「日本のレストランって、こうなんだ」というのが伝わったというのは一つあると思います。みんなが色々な国のレストランに一通り行って、食べ手の力量や評価する力が上がったということです。
あとは、こういうコロナの流行もあって、今まで以上に、おもてなしの本質的なところにみんながコミットできるような時代背景というか。だから「幸せなレストランのランキング」みたいな感じもちょっとするんですよね。
「僕、あそこ行ったんだよ」と威張れるレストランというのもあると思っていて、それもありなんだけど、そうじゃなくて「幸せな気分になったね」みたいな。より本質的なことを求める時代になって、そういう意味では、食べ手の力量も含め、少し成熟したのかなという感じがします。

長谷川:「幸せなレストランランキング1位」って、カッコいいですね!そう思ったら、すごく嬉しいし「うちのお店だな」って思いました(笑)。
多分、日本人がこのランキングをぱっと見たときに「いや、もっと美味しいお店いっぱいあるじゃん」と言う人もいると思うんですけど「美味しいお店」はいっぱいあるんです。

「ベストレストラン50」に入っている海外のお店に行って、僕が感じるのは「日本には絶対にないものがある」ということ。それは、食だけではなくて、パフォーマンスであったり、そこでしか食べられない食材であったり。海外のレストランは箱が大きいのも、僕は結構すごいなと思っています。
海外に比べると日本は「英語が喋れない」とか「席数が少ない」とか色々な理由から、海外のお客さんを入れることに対してちょっとハードルがあると感じていて。そういう環境だと、海外の人達が行きたくても行けないですよね。もし和食屋さんで、60~70人入れるような箱で、海外から評価されるお店が出てくれば、日本料理がもっともっと広がっていくんだろうなと思うんですけど……

日本料理だけじゃなく日本のレストランを世界に広めるために、中村さんはもちろん、日本のファンの皆様が海外のメディアやフーディーたちに日本の魅力を伝える活動を通じて、日本のレストラン全体を地道に応援してくれてきました。
そういった背景を知っているので、僕の中では「僕らがやっている日本料理がアジアナンバーワンを獲りたい」という目標は以前からあったんです。なので、それを今回実行できたのは、日本のレストランのことを応援してくれている方々に対しての、僕の中での恩返しというか。きっと他の日本のレストランのシェフ達も、同じように思っている方がいるはずです。
だって今回の日本人、すごかったじゃないですか!コロナ禍とかこういう状況でも強い力を発揮できるのは、日本の良さなんじゃないかなと思いましたね。

-日本のレストランを広めたい、応援してくれている方々に恩返しをしたいというシェフ達の強い想いも、要因の一つになのですね。

長谷川:そうですね。日本にまず来てもらうということが大前提なので、今回はコロナ禍もあってなかなか難しかったんですけれど、これからまた、お客さんがどんどん日本に戻ってきてくれるということを考えると、日本の色々なレストランがランキングに入ることによって「日本に行きたいな」と思ってもらえると思います。
そういった意味では、一つのレストランランキングということじゃなくて、日本に海外のお客様を呼び入れるという、日本を知ってもらうきっかけの一つになりますよね。

中村:「傳」に関して言うと、長谷川さん自身が率先して、日本料理の面白さを伝えるアンバサダー的な役割をやっているというのも強みというか。
「どうしたら50に入れますか?」と聞かれたときに、もちろんいいレストランを作るのはみんなが思っていることなんだけど、その魅力をどう伝えるかっていうのも同時に考えていかないと。SNSの時代になっているので「伝える力」「伝えようとする力」が、今後ますます重要になってくるよね。

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中村 孝則
神奈川県生まれ。美食評論家、コラムニスト。
ファッションからカルチャー、グルメ、旅やホテルなど“ラグジュアリー・ライフ”をテーマに、雑誌や新聞、TVにて活躍中。
2007年、フランス・シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を授勲。2010年には、スペインよりカヴァ騎士の称号も授勲。
2013年からは、「世界のベストレストラン50」、「アジアのベストレストラン50」の日本評議委員長も務める。剣道教士七段。大日本茶道学会茶道教授。

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長谷川 在佑
高校卒業後、老舗料亭「神楽坂 うを徳」にて修業し、2008年、東京・神保町に「傳」を開店。3年目で「ミシュランガイド東京2011」にて一つ星。以来、近年は二つ星を維持し続け、2022年はミシュラングリーンスターにも評価。
和食の伝統を大切にしながら、枠にとらわれない自由な発想で生み出す料理と、家庭の温もりを原点とした店作りやおもてなしが高く評価され、2022年版「アジアのベストレストラン50」第1位にランクイン。
2016年、神宮前に移転。

公式HP:https://www.jimbochoden.com/

Mika Tsuboi

一休.comの宿泊営業アシスタントから編集部へ。ワインと一緒に、美味しいものを少しずついただくのが最高の幸せ。こぢんまりとしたフレンチやネオビストロがお気に入り。
最近は日本ワインにも興味を持ち、旅先で出会った好みのワインを自宅で愉しむのが日課。パンやスイーツなどにも目がなく、週末にはカフェやパン屋巡りをし日頃の情報収集も欠かさない。
・最近行ったお店:Restaurant Fermier/六雁/Varmen
・好きなお店:広尾 ぺりかん/RESTAURANT MAMA./LATURE
・得意ジャンル:ビストロ
・好きな食材:ジビエ/蛤/伊勢海老/キノコ

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