インタビュー|

【対談】「エディション・コウジ シモムラ」下村浩司×「由布院 玉の湯」桑野和泉 ~大分の魅力を引き出す美食旅~

地元食材をその土地でいただく「フードツーリズム」。国内でも徐々に広がりを見せる新しい旅の形で、有名シェフが手掛けると地域に新たな息吹が芽生えることも。
今回KIWAMINOが注目したのは、 大分県国東市の「国東市観光親善大使」に就任した「エディション・コウジ シモムラ」下村浩司さんと、由布院から大分の情報発信に貢献されている「由布院 玉の湯」桑野和泉さんの取り組み。地域の魅力を伝える楽しさを「由布院 玉の湯 」にてお二人に語っていただきました。

土地ごとの味わいを見直す旅へ

(桑野和泉さん:以下、和泉さん)私が下村さんと知り合ったのは、フランスがきっかけなんです。下村さんがフランスで修業をされていた「ラ・コート・ドール」さんは、ベルナール・ロワゾーさんの「水のソース」という考えと、その土地が持っている力に一体感があるオーベルジュ。そこに、日本人のシェフがいたというお話を聞いたんです。帰国して、たまたまお友達から「和泉さんの好みはきっと、下村さんの味よ」と紹介を受け、「Restaurant FEU」に行きました。
(下村浩司さん:以下、下村さん)当時の私の料理はフランス本国と比べても時差のないよう感じだったかと思いますが、和泉さんは特にデザートがお気に入りで何度もいらしていただいて。
最初に由布院にお呼びいただいた際もデザートに特化した依頼でした。

(コラボイベントのメニュー:ハイビスカスとスパイスのジュレ/ブラックチェリー/リュバルブ/アタップ/スイカ/パイナップル&大葉のソルベ 撮影場所: 由布院 玉の湯 )

(和泉さん)下村シェフのデザートは、一口食べただけで私たちが味わったことのない、美しい物語が始まっていくような感動があって。きれいな器の中で時間と共に変化していく、大人のデザートというか。
由布院の皆さんにもこの世界を見せたいという思いから、下村シェフに「デザートだけを作ってほしい」とお願いしました。
フレンチのシェフにデザートだけ!でも地元の方々も感動してくださって、以来ご縁が始まったんです。

(下村さん)料理人の作るデザートは野菜や魚、肉なでと同じように果物やチョコレートを扱うので、従来のパティシエとは異なる仕上がりになるのです。
和泉さんと出会って約20年。今回は「由布院 玉の湯」で大分食材とのコラボイベントをさせていただきました。大分の食文化は基本的に和ベースなので、発想も「和」を中心に広がっていきます。一方で僕は「洋」ですので、和食の延長線になってはダメなんですよね。和の素材を洋の仕立てに変化させるには、一度、頭の中をリセットして自分自身のフィルターを通して、再度 構築を行うようにしています。
大分素材からは、多大なインスピレーションが湧いてきますね。

(コラボイベントのメニュー:豚/タコ/蕎麦粉/竹墨/大山梅エキスソース/ホンモロコ/ひじき  撮影場所: 由布院 玉の湯 )

今回の新しい発見は「ひじき」でした。大分には「2日ひじき」という特別な食材があるんです。今回は乾燥品を使いましたが、細くて特殊な食感を活かすために、戻しすぎない、煮ない、お砂糖を使わず、さっと加熱する程度に仕上げました。あまりいじらずに、本来の食感や味わいをどう地元の方に提供するかに意識が向きますね。

大分の良さを知るシェフを通し、地元の人も魅力を再発見する

(コラボイベントのメニュー:胡椒餅/紅芯大根/蕗味噌/ナスタチウム  撮影場所: 由布院 玉の湯 )

(和泉さん)今回のイベントではみんなが香りを楽しんだり、食感に対して言葉が多様に生まれてくるハーモニーがありました。
私たちが目の前で気づかない本質的なことを、シェフが教えてくれる。
地元の人たちも食材を「美味しい」と言ってもらえるだけでなく、シェフが今の時代に響く姿にしてくれることで気づきがいっぱいあるし、自信にもつながるんです。
こんなに九州や大分に貢献してくださって、本当にありがたいです。

(下村さん)なぜ、大分なのか。スタートのきっかけは、和泉さんなんですよ。今から18年程前、8年間のフランス滞在から帰国した頃です。仕事は一生懸命やっていましたが、時折 国内を観光しても、ヨーロッパのスケールの大きさに比較すると、山も川も滝も、日本ってこの程度なのかなぁって感じていたのですが。
初めてお伺いした玉の湯には、即座に魅了されました。
有名旅館の玉の湯は、必要以上に手入れをせず、部屋同士が目隠しになる庭や、お客様の時間を最優先し、声をかけすぎないように努めるという接客が心地よくて。
また、夜に「亀の井別荘」を訪れたときのライティングがとても幻想的で、まるで夢の中にいるような錯覚を感じたんです。「こんな場所が日本にあるんだ、またすぐにでも訪れたいな」と思ったものです。

(和泉さん)本来あるべき美しい田舎の姿って、どの国でも一緒だと思うんです。ただ、それを受け取る側の感性として、シェフは飛びぬけているんでしょうね。私はヨーロッパの田舎の雰囲気が大好きです。玉の湯も近づきたいと思っているんです。
下村シェフが由布院に来て感じた、ヨーロッパの田舎の良さ。見た目ではなく違う感性を語ってくれることが嬉しいので、自分が六本木に行くだけでなく、皆さんと分かち合いたいなと思います。人がつながることで、土地がつながって、広い世界がつながっていく。参加くださった方々は、自分たちでやれることや知らない世界に気づけたとすごく喜んでいました。

人が集う場を作る「人の魅力」

(和泉さん)由布院でイベントをすることで県内各地の方が集まり、東京とは違った感動が得られると思います。

(下村さん)今後は、国東、別府、佐伯、杵築など、由布院以外でも、このような活動を加速させていきたいです。自治体だけではなく、料理人同士もそうですね。利害関係がない僕がつないでいくことで、新たな動きになればいいなと。自治体、生産者、料理人という「チーム大分」で手をつながないと、世界では戦えないと思うんです。僕がちょっと小旗を振って、皆さんに気づいていただくような役割ですね。
(和泉さん)そういう意味では、世界を知る下村さんじゃないとできないってことですよね。料理人の方も気づきを求めている。
下村さんが絶対的な力になって、全体のレベルが上がっていくのではないでしょうか。

(エディション・コウジ シモムラ 店内)

(下村さん)実は、和泉さんから由布院の方を東京に沢山ご紹介いただいているんです。皆さん「わたし、和泉さんと仲いいの~」ってアピールしています。素晴らしいブランド力ですよね。みんな「和泉ちゃん」って呼ぶので、僕はあえて「桑野さん」って呼ぶこともありますが、他の人より仲がいいと思います(笑)。人としての魂を共有できるというか…。
由布院に来たら、まずは和泉さんに会いに行く、といったように。
どの地域でも、その地に「どんな人がいるのか」という人を作らなければいけないです。彼女に会える、話ができる。人に会うことを目指す旅には、人間力が求められます。
昔、和泉さんのお父さんに「なぜ和泉さんを(後継者に)選んだのですか」と聞いたことがあるんですよ。「長女だからではなく、昔からあちこちの集まりに嬉しそうに参加していた。和泉は特別なんだ」とおっしゃっていました。

(和泉さん)多様なことを経験できる機会が由布院にはありました。そこでおいしい幸せな時間もたくさん経験できました。今度は、私がそんなおいしい幸せと出会える場を由布院で作っていけたらいいなと思います。
だから下村シェフという一番信頼できる人と、「由布院 玉の湯」を使って食の世界の新たな発見ができることは、自分にとっても大きな挑戦ですね。

(下村さん)2019年7月で、オーナーシェフになって13年。料理が好きでみんなを喜ばせたい少年から、プロになっていくと葛藤やそこだけでは成り立たない部分もあって。それでも地方では本来の少年のような思いで料理ができ、自分の中のバランスが保たれるんです。

(エディション・コウジ シモムラ 店内)

東京の「エディション・コウジ シモムラ」では目一杯働き、スタッフ及び自身の豊かな生活のベースを築く。今回のように、地方では自分の役割を果たし、皆様に喜んでいただく。「由布院 玉の湯」は、自分の人生を築き上げるためのバランスを保ってくれる存在で、桑野さんには、その機会を与えていただき、感謝しています。

(和泉さん)そう言ってくださって、ありがたいですね。宿って皆さんが24時間滞在して、色々な世代が来る場所です。先代から次の世代へみんながつながっていく、そんな宿を目指しているので、皆さんや時代と共に成長していきたいです。
下村シェフの持っている前向きな姿、それは自分と無関係ではないんです。ローカルと世界を両方見ている料理人ってなかなかいないですし、ある意味地方に対する大きなプレゼントだなって思いますね。
今までの蓄積と次のステージがあるという段階で、新たな一歩を踏み出している。それが私たちの世代だから出来る社会への責任かなと思います。

旅の目的の一つに「人」を挙げる下村シェフの温かみ。そして、地域に根差し新しい文化発信を自然に行う和泉さん。グローバルな規模で物事を考え、ローカルな行動に落とし込んでいくお二人のハーモニーとお人柄から始まった活動から、大分の持つ良さを改めて感じたひとときでした。

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【プロフィール】

下村浩司(しもむら こうじ)
六本木「エディション・コウジ シモムラ」オーナーシェフ。
22歳で渡仏し、「ラ・コート・ドール」などの三ツ星レストランを中心に8年間研鑽を重ね、1998年に帰国。都内のフランス料理店でシェフとして腕を振るう中、フランス大使公邸において数多くのパーティーの総指揮をとる。2007年に六本木「エディション・コウジ シモムラ」(現在ミシュランガイド東京版2ツ星)をオープン。シンガポール、バンコク、コペンハーゲンでの海外イベントの実施。JR九州クルーズトレイン「ななつ星」のデザート、JAL国際線ファーストクラス機内食を担当するなど、国内外の招致が絶えない。

フランス料理

エディション・コウジ シモムラ

東京メトロ南北線 六本木一丁目駅 1番出口方面六本木ティーキューブ連絡口直結徒歩3分

20,000円〜

桑野 和泉(くわの いずみ)
株式会社玉の湯代表取締役社長。
1964年大分県湯布院町(現由布市)生まれ。
家業の宿「由布院玉の湯」の専務取締役を経て、2003年10月より代表取締役社長。
由布院温泉観光協会長を12年勤め、現在は、一般社団法人由布市まちづくり観光局代表理事、町づくりなどの市民グループの代表、世話人も務める。公益社団法人ツーリズムおおいた筆頭副会長。

◆由布院 玉の湯 https://www.ikyu.com/00002536/

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Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。最近器にはまり中。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:「和田倉」パレスホテル東京 / 御成門はる / エクアトゥール
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / 福しま / サンフォコン
・自分の会食で使うなら:ひのきざか(寿司)
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: からすみ / シャンパン(RM)

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