福岡「Restaurant Sola」吉武広樹氏にインタビュー、スターシェフが目指すこれからのレストランとは

福岡県、博多港。世界の海へとつながるこの地にある「Restaurant Sola」は、国内外から注目を集めるフレンチレストランです。
オーナーシェフ・吉武広樹氏は東京やフランスでの修業後、パリでレストラン「Sola paris」をオープンし、およそ1年でミシュランの星を獲得した実力者。
今回は「Restaurant Sola」開業までの経緯から、吉武シェフが目指すレストランの在り方まで、多岐にわたってお話を伺いました。

1.憧れのシェフの元で修業した後、世界の舞台へ

―子供の頃から料理人になることを夢みていらっしゃったのですか。

「料理の鉄人」に出演されていた坂井宏行シェフを見て、憧れていました。
ただ、子供の頃に料理人になりたいと決めていたわけではなく、漠然と料理に関心があったので、調理師学校に進みました。

―調理師学校を卒業した後は、坂井宏行氏がオーナーシェフを務める「ラ・ロシェル」で修業されます。今に活かされていることをお聞かせください。

僕がいた時代の「ラ・ロシェル」は、30名ほどの料理人がキッチンにいたのですが、最初の1年間はサービスに出て、自分達が作る料理がどのようにお客様に届けられているのかを学び、掃除や整理整頓、雑用など細かい所からみっちりとやっていきました。
小さいお店だと、そこまで一つのことに向き合う時間はないですよね。
もう20年以上経っていますが「ラ・ロシェル」での修業が、自分の基礎となっていると感じています。
包丁も握らせてもらえないということで、同期も1、2年で半分以下まで辞めていって、なかなか厳しい環境でしたね。

―心が折れてしまうような環境だと思いますが、吉武シェフは続けられたのですね。

ただの負けず嫌いだと思います。
知人に相談した際、最初に選んだお店をすぐに辞めることをすごく反対され「3年は我慢しろ」と言われて、踏みとどまりました。
結局「ラ・ロシェル」では3年間、修業させていただきました。

―その後は、バックパッカーとして世界各国を巡ったそうですね。

「ラ・ロシェル」を辞めた後は、東京の違うお店で3年間働きました。
日本である程度修業した後、フランスに行くというのがこの世界のセオリーかと思いますが、自分にしかできないことをやりたいと思って。
世界中の料理を見て回ろうと、1年間バックパッカーになって色々な国を巡りましたね。

―印象に残っていることはありますか。

料理で言えば、現地で本場のフランス料理を見た時に、やっぱりフランスで学びたいと思ったことです。
他の国の料理、例えばアジアや中東などは、揚げる、焼く、蒸す、煮る、といった工程ばかりなのですが、フランス料理は違っていて。
その頃のフランス料理は、スペインで「エル・ブジ」が全盛期だったのですが、すごく分子的で科学的な料理が流行っていた時代でした。
自分の知らないことばかりだったので、もう一度フランスでしっかりと学びたいと思ったのが、その後渡仏したきっかけですね。

―フランスでの修業後に「Sola Paris」を開業され、ミシュラン一つ星を獲得されます。最初から星は狙われていたのですか。

フランスで1年半ほど修業した後、東京時代の元同僚と一緒にシンガポールに渡り、雇われですが、お店をやっていました。
その時、協会が開いたコンテストでお店が賞をいただいたことがあって、すごく嬉しくて日本の友人に話したんです。ですが、誰もそんな賞のことを知っている人はいなかったんですよね。
それが29歳頃だったのですが、その同僚と「今、自分達が時間を費やすべき場所はどこだろう」と考えた時に、やっぱりフランスだと思ったんです。
本場で「ミシュランの一つ星を取る」という目標を掲げ、日本から仲間を集めてフランスに渡りました。星が取れる店づくりを心掛けて日々営業を続け、1年ちょっとで目標は達成できました。

―本場で星を獲得するというのは、想像を絶するほど大変なことかと思います。

まず文化の違いが大きくて、労働環境も違います。料理を作るのはもちろんですが、お店を開くということがすごく大変でしたね。
例えば注文した内容と届いたものが違ったり、玉ねぎを5キロ頼んだら1キロは腐っていたり……。

―「Sola Paris」は現地での地位も確立されていたかと思います。そんな中、なぜ日本に戻られたのでしょうか。

次は二つ星、三つ星とスタッフと共に頑張ろうとも思っていたのですが、心境の変化があって。「星を目指すお店づくりではなく、もっと意味のあるお店をつくりたいな」と思い始めたんです。
長い目で見てお店づくりをする上で、自分が50歳、60歳になった時に、パリにいる景色が浮かばなかったんですよね。
そこから拠点を探し始めて、福岡にたどり着きました。

2.これからの未来に向けて構想する“意味のあるお店”

―“意味のあるお店”とは、具体的にどのようなものですか。

レストランって、地球環境や資源的にどうなのだろうと疑問を抱くようになったんです。
「Restaurant Sola」は30席ほどのゲストに対して、スタッフが13、14人。これだけの人を使って、すごく贅沢なことをしているなということが、ずっと引っかかっていて。
営業するにあたり、ものすごくゴミが出て、調理で使う薪を燃やすことで二酸化炭素を排出して、店内の照明を煌々と灯し続ける。
時代にそぐわなくなってきているなとすごく感じています。
なので、今は少しでもマイナスにならないお店づくりを目指しています。

野菜が入った段ボールはメニュー表に

例えば電気は自分達のお店でまかなったり、届いた食材の野菜の皮や端材は、全部コンポストにして、仕入れている農家さんへ堆肥として渡したり、そういう循環ができるお店を目標に、色々と試行錯誤を続けています。

―調理に使う薪には、2017年の豪雨で被害にあった福岡県朝倉市の災害ゴミを使ったり、テラスで自家菜園をやられたりなど、“サスティナブル”に対してすごく着目されている印象です。そのお考えはパリでの経験からなのでしょうか。

災害ゴミを利用した薪

そうですね。パリは2016年くらいにはレジ袋が廃止され、プラスチック製品の製造禁止だったり、2030年までにガソリン車を無くそうという動きがあったり、早くから環境問題に対してすごく敏感です。
国の主導で様々な取り組みをしていて、そういうのがすごいなと。

―その他にも最新の冷凍技術を利用して、フードロスを減らす取り組みもされているそうですね。

「冷凍」に対してはマイナスのイメージが多いので、あまり大声では言えないのですが、冷凍技術は活用していますね。
冷凍保存していた素材を、冷凍だと分からないくらいに調理できる技術は蓄積されてきているんですけど、もっとそれを勧めて、色々な人に伝えられるようにしていかなくてはと思っています。

地方は生産者さんとの距離も近いので、大量に獲れた魚の売り先が決まらずに加工される魚や、最悪の場合は捨てられてしまう魚など、そういう場面に出会うことも多いんです。
新鮮な時に加工して冷凍保存できていれば、台風やしけで食材が入らない時などに活用できる。
そうすれば、生産者さんにも自分達にも、とてもプラスになりますよね。
料理人は「冷凍」に対してすごくマイナスなイメージが多いので、その辺を少しずつ変えていかないと、食材はどんどん無くなっていく一方です。

3.博多の海を通じて世界の空へ、食の楽しさを届ける

―吉武シェフが目指すレストランのために選んだのが博多港だったのですね。このエリアは中心部から少し離れた立地かと思います。なぜここにお店を構えられたのでしょうか。

「Restaurant Sola」が入っているのは、30年ほど前にできた少し寂れた商業施設です。昔はデートコースとして利用するような場所だったんですけど、今では半分くらいが空き家になっていて、自分の好きな物件を選びたい放題でした。
目の前には高速インターがあり、福岡の物流の拠点がこの辺りに全部集まっていて、自分達が今後物販をやる際に、動きやすい場所です。
さらに海外からのクルーズ船が発着するターミナルも目の前にあって、すごく自分達のレストランのストーリーにも合っているなと。福岡にありながら、世界中の人にも料理を食べていただきたく、この場所を選びました。

―“自分達に出来る事を自分達の表現で この海を通して世界の空へ”というお店のコンセプトにもつながりますね。

本格的なオードブルが楽しめるテイクアウト&デリバリー

パリにいた時は「来ていただけるお客様に、自分達が作る最高の料理を」と考えて、レストラン一本でやっていたんですけど、実際1日40名ほどのお客様に料理を食べていただいても、提供できる数はたかが知れているなと。
どうしたらいいのだろうと考えた時に、ここに製造拠点を設けてケータリングの商品を開発したいと思い、この場所を選んだのもあります。
日中は配達業務をやって、その流れで夜はレストラン営業をしています。

―敷地内にはレストラン以外にも「フードラボ」を設けるなど、他にはない造りになっているのはそのためだったのですね。
吉武シェフが生み出す料理は、見た目はもちろん、発想も自由な一皿が多い印象ですが、メニューを生み出す際に心掛けていることはありますか。

うちのコース料理は大体11、12皿お出しするのですが、最初から最後まで印象的な色が被らないように心掛けています。
例えばインゲンを使った緑色のお皿の次は人参を使った黄色いお皿にするなど、色から色への流れは考えています。

今のフランス料理は、割と調理方法や調味料など、こだわらずに作るのがスタンダードになってきていますが、アジアの香辛料、日本のしょうゆやみりんなども料理に取り入れています。

―独創的で色鮮やかな美しさに、見ているだけでもワクワクさせられます。
最後に、吉武シェフの今後の目標をお聞かせください。

重複してしまうかもしれませんが、ゴミをゼロにしていきたいです。
とにかく環境に対してマイナスになることを無くしていきたいというのが目標ですね。
その想いを従業員と共有しながらやっていきたいです。
お店は必要とされれば勝手に大きくなっていくと思っていて、まずは色々な人に必要とされるお店づくりを心掛け、無理はせずに一個ずつ丁寧に、目標に向かってやっていきたいと思っています。

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吉武広樹氏 プロフィール
1980年、佐賀県出身。調理師学校卒業後は「ラ・ロシェル」などで修行し、フレンチの基礎を学ぶ。
26歳のときに1年間で世界40か国近くを巡る放浪の旅に出へ。帰国後、渡仏し「アストランス」にて半年間修業し、2009年にシンガポールで「HIROKI88@Infusion」を開業。
2011年パリに「Sola Paris」を開業し、わずか1年3か月でミシュラン1つ星を獲得。
2018年に福岡・博多港に「Restaurant Sola」を開業。
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モダンフレンチ

Restaurant Sola

福岡市地下鉄空港線 中洲川端駅 徒歩16分

12,000円〜14,999円

※取材後記※
「環境に対してマイナスにならないお店づくりが目標」とおっしゃられる吉武シェフ。
その感覚は、パリを始めとする世界各国を巡った吉武シェフだからこその観点だと思います。
人は誰しも目の前のことばかりを追い求めがちですが、未来に向けた取り組みを小さなことから一つ一つ取り組まれる姿勢に、私自身も感銘を受けたと共に、とても考えさせられたインタビューでした。

※こちらの記事は2023年06月07日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Minaho Ito

一休.comの宿泊営業から編集部へ。子供を預けて、つかの間の贅沢をレストランで過ごすのが楽しみ。見た目が美しい料理が好きで、イノベーティブ料理やフレンチ・イタリアンがお気に入り。
自分へのご褒美にスイーツ店巡りをすることも多く、行きたいお店リストは常に更新中。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:ラペ (La paix)
・好きなお店:NARISAWA/Crear Bacchus/オテル・ドゥ・ミクニ/ガストロノミー ジョエル・ロブション
・得意料理:イノベーティブ料理/フレンチ/イタリアン
・好きな食材:赤身肉/チーズ

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