大阪・JR天満駅より徒歩5分。アクセス便利な地に店を構える「funachef(フナシェフ)」。オーナーシェフの船岡勇太氏は、東京や大阪、パリなどミシュランの星に輝いた名店で研鑽を積み、2018年にはプロサッカー・本田圭佑選手の専属料理人として世界中を飛び回っていた人物です。今回は、前回のインタビューに続き、コロナ禍において「funachef(フナシェフ)」船岡氏が行い話題となった「生産者支援弁当」について、船岡氏ご本人と実際にお取引している仲卸業者の方、生産農家の方にお話を伺いました。船岡氏の熱い男気を感じた取材となりました。
※本インタビューは、2021年5月18日に感染症対策の上で行いました。
目 次
コロナ禍という未曽有の事態に「なんとかしなければ」という船岡氏の強い思い
-コロナ禍において、船岡様が行った取り組みを教えてください。
コロナ前までは、木津卸売市場に行ってはタイやスズキが欲しいとか、お客様に食べてもらいたい料理から食材を買っていたんですね。それがコロナ禍になって、僕の知り合いが「イチゴをたくさん作ったけど、ブッフェで使用してくれるところが無くなって大量に残ってしまった。一年でこの時期しか稼ぐことはできないのに、もう農業する意味がない」と、涙ながらに話していたんです。その時「こんな世の中で良いのかな」と思いました。
改めて、農家のみなさん、第一次産業と言われる業界にいる方々の苦労を考えました。本当に大切にしなければならないのは、生産者の方々だと気付いたんです。未来の日本を考えると、今その方たちをサポートしなければならない。欲しいものだけを買うのではなく、生産者さんが売りたいもの。例えば、カタチが悪くてスーパーに並べられないものなどを買わせていただこうと思いました。そして、その食材たちを使用して作ったのが「生産者支援弁当」なんです。
でも、生産者の方だけ支援してもしょうがなくて。みんなが大変な状況にいますから、購入する方も支援しないと意味がない。なので、利益なしの価格設定にしたんです。もちろん、お弁当のメニューは一切妥協せず、お客様のことを考えて作りました。結果、莫大な赤字になりましたけど。売り上げ90万に対して、仕入れ300万とか(笑)。でもそのための運転資金は貯めていたので、通常残高が18円になった時もありましたが、何とかやらせてもらいました。でもそれは、お店の近くにいらっしゃる地元の方のサポートがあったからなんです。「フナシェフさんも大変なのにありがとうね、お魚1匹多く持ってってね」と、いろいろな方から逆に気遣っていただきました。
現場の声①:水産物仲卸「株式会社 縄芳」とシェフ船岡氏の生産者様支援の思い
御堂筋線・大国町駅から徒歩約3分のところにある「大阪木津卸売市場」。普段はプロの料理人が仕入れのために訪れていますが、月2回の朝市では、一般の方も買い物ができる地元でも人気の市場です。「株式会社 縄芳」は、この「大阪木津卸売市場」で60年以上もの間、多くの料理人や地元の人たちに愛されてきた水産物仲卸業者。現場の声として、専務取締役 引田將猛氏にお話を伺いました。
-コロナ禍、どのような状況にありますでしょうか。
会社自体で言うと、前年比の20~25%程度の売り上げでマイナス80%くらいになっています。正直、まったく売れていない状況になりますね。市場全体でも、通常であれば空きがないくらいの駐車場も今はガラガラになっています。
売れないから魚に値段がつきません。だから、漁師さんも船を出したらガソリン代で赤字になると、船が出せないでいるんです。このような状況が、2020年の2月から続いています。「GoToトラベル・イート」の間は前年比80%まで回復したのですが、長くは持ちませんでした。年末からまん延防止、緊急事態宣言となり売り上げが激減しましたね。
-「縄芳」様は、70年近く水産物卸を営んでいらっしゃいますが、過去に同じような状況はあったのでしょうか。
私が会社を継ぐことになれば3代目になる長い会社なのですが、これまでにはなかったと聞いています。阪神・淡路大震災やリーマンショックなどを2代目の社長が目の当たりにしていますが、今回の状況はその比ではないと言っていました。
-みんなで一致団結して現状を打破しようとアクションができない状況ですものね。
負けてたまるか!という思いで働いていた過去と違って、働きたくても働けないというのが大きな違いですね。私たちの方から飲食店さんに「この魚が安いですよ」とお声がけしても迷惑になってしまいますから。
-「縄芳」様と「フナシェフ」船岡様の関係を教えてください。
船岡様とはコロナ禍で知り合ったんです。今も毎日来てくださるのですが、とにかく気さくで、裏表のない方ですよね。必要なものは前もって連絡をいただくのですが、店にいらして売れていなくて困っている品があれば「じゃあ、これも買いますよ!」と言ってくださる男気のある方です。
-コロナ禍において、「フナシェフ」船岡様の「生産者支援弁当」のお考えはどうでしたでしょうか。
「生産者支援弁当」を船岡様が発案した時に、私はその場にいたんです。売れていない私たちの状況を話している時だったんですが、船岡様が「そしたら僕が協力します!」とバッとおっしゃって。その数日後には、お弁当の情報がInstagramに上がっていたんです。その行動力とスピードに驚いたとともに、ご自身も大変な時期なのになんてすごい方なんだと思いました。
-船岡様の男気を感じる行動力はすごいですね。
普通じゃなかなかできないですよね。だからこそ、私たちもその思いに応えなければと思っています。品物に関して信頼をいただいているので、それを壊さずにより良いものをお届けしたいと思っています。
現場の声②:農業「近江園田ふぁーむ」とシェフ船岡氏の生産者様支援の思い
滋賀県近江八幡市、琵琶湖のほとりにある「近江園田ふぁーむ」。今回お話を聞かせていただいた飯盛加奈子さんは、お米一筋だった農場に、無農薬の野菜作りを提案した行動力溢れる人物。現在100種類以上の野菜を育てており、その質の良さから多くの料理店と取引され、その中の一人が「フナシェフ」船岡氏です。
-コロナ禍、どのような状況にありますでしょうか。
知り合いの農家さんは、野菜をトラックに積んで市場に行っても買うのが難しいと言われ、そのまま戻ってきたという方もいて。自分の子供のように大事に育ててきた野菜を捨てたり、収穫せずにそのまま放置したり、辛い対応をしている農家がたくさんいます。
-飯盛様の野菜はどうだったんでしょうか。
飲食店さんがメインでしたので、そのお店が閉まってまったく注文が来ない日が続きましたね。「レストランは止まっても、野菜は止まれへんぞ!」って悔しく辛い思いをしていました。私たちの場合、100種類ほどの品種を少ない量ですが幅広く育てています。半年後を考えて、その前から植えるための仕込みを始めるんです。だから、出荷を止められても予定通り野菜は育つわけで、それを途中で止めることはできません。行くあてのない野菜たちを前に途方に暮れることもありました。
-飯盛様と「フナシェフ」船岡様の関係を教えてください。
コロナ前からお取引をさせていただいていたんです。「フナシェフ」のオープン前からですね。うちの野菜をとても気に入ってもらえました。私たちは京都の「GOOD NATURE STATION」さんなどと協力して、施設内の飲食店舗から出た生ごみを堆肥にして畑で利用しているんです。そのアクションも、船岡さんがお話している循環型の考えにマッチしているのかなと思います。
船岡さんとは「このくらいの予算でおすすめのものをください」といった感じでおまかせのお取引をさせていただいていました。今ではおまかせで買っていただくお店が増えましたが、当時は少なくて船岡様の信頼は嬉しかったですね。
-コロナ禍において、「フナシェフ」船岡様の「生産者支援弁当」のお考えはどうでしたでしょうか。
ある時、コロナ禍の現状を船岡さんに話したら「それ全部買います!」と言っていただいて。嬉しかったですね。本当に助かりました。その野菜が素敵なお弁当になっているので、感動しました。「フナシェフ」さん自身も大変な時期なのに、私たちのことを考えてくれて、感謝しかないですね。
-船岡様の行動力、思いの強さはすごいですね。
そうですね。最近のお取引はお電話が多いのですが、とにかく面白くて裏表がない熱い方ですよね。料理もすごいし、話術もすごい。調理に集中しながら、お客さんを楽しませてくれる料理人さんはなかなかいないですよね。だからあんなに人気のお店になったんでしょうね。私も野菜をお渡ししていますが、予約ができないですもの。
私たちも船岡さんの期待に応えるべく、質の良いものを提供し続けたいと思っています。
いつの間にか自分の方がチカラをもらっていた
船岡シェフの声
-お取引されている方々から、感謝の声や熱い思いをお聞きしました。
強い思いを持ってやっていましたが、時には心が折れそうになる瞬間はあって。そんな時に、木津卸売市場や農家の方々、ご近所の方の声に励まされ、元気をいただきました。しかも、意図せずに多くの方からお店のご予約をいただいて。得なしの恩返しのつもりで始めた「生産者支援弁当」ですが、結局支援されたのって僕なんじゃないかなと思っています。
人のために、人を元気にさせる料理をこれからも作っていきたい。この思いは、本田圭佑さんの専属料理人だった時に気付かせてもらったことなんです。高田シェフや本田圭佑さん、たくさんの方々にいただいた恩をこれからも返していきたいと思っています。
【編集後記】
実際に生産者様、仲卸業者様の声を聞かせていただき、その現状に愕然としました。そのショックで私は思考が一時停止しましたが、瞬時に動き何をするべきかというアイデアを生み行動できるのが船岡様のすごいところなのだと、現場のお二人の声をお聞きし再実感しました。私たちもまずは「フナシェフ」に食べに行くことで、お手伝いをしていきたいと思います。
【プロフィール】
引田將猛さん:水産物卸「株式会社 縄芳」の専務取締役。大学卒業後に楽天株式会社に入社。その後、2代目社長である父親からの猛プッシュを受け「株式会社 縄芳」に8年前に転職し現職に。今も現場に立ち、多くの料理人さんから厚い信頼を受けている。
飯盛加奈子さん:「(株)近江園田ふぁーむ」勤務。介護士として働き結婚後3人の子宝に恵まれる。忙しい仕事と育児の両立に限界を感じ、介護士を辞め叔父が営む滋賀県の「(株)近江園田ふぁーむ」に入社。お米中心の職場に、野菜づくりを有志とゼロからスタート。今では多くの料理人から信頼を得て、様々な種類の野菜作りに挑戦している。
船岡 勇太(フナオカ ユウタ)
1985年、滋賀県土山生まれ。東京の「タテルヨシノ」や、パリの「ステラマリス」大阪の「La Cime(ラシーム)」など名だたる名店で研鑽を積む。その後、大阪・中之島のフレンチレストラン「DUMAS(デュマ)」のシェフに就任し、ビブグルマンを獲得。2018年からは、プロサッカー・本田圭佑選手の専属料理人に。本田選手と各国を飛び回った2年後、大阪に自身のフランス料理店「funachef(フナシェフ)」をオープンする。2021年10月には、船岡氏がコロナ禍で思い描いていた新しいお店がオープン。
<店舗情報>
「Funachef」(フナシェフ)
大阪府大阪市北区黒崎町6-4 2F
・JR天満駅より徒歩5分
・地下鉄堺筋線扇町より2番A出口徒歩4分
・地下鉄谷町線中崎町、天神橋筋六丁目より徒歩6分
http://www.funachef.com/
※こちらの記事は2023年04月17日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。