150年以上の歴史を持つ老舗料理旅館「浅田屋」の味を堪能できる「赤坂浅田」。味はもとより、心尽くしのおもてなしも、赤坂の地で50年近く多くのお客様からの支持を集めています。金沢から直送される豊かな食材を駆使したお料理の数々、長く愛されているその理由を皆様にお伝えして参ります。
エスプラナード赤坂通りに面した、赤坂見附と溜池山王のちょうど真ん中くらいの位置に
ある「赤坂浅田」。炭黒の大暖簾には品格が漂い、街の賑わいから隔絶された感があります。
店内に入ると静謐な時が流れる空間の中に咲く、笑顔のお出迎え。老舗の旅館に宿泊に来たような気分になります。通していただいた個室は、やすらぎと凛とした彩りがあり心が落ち着きます。席に座りお茶でお腹を温めた後に、冬の味覚を集めたお料理が運ばれてきました。
最高の香箱蟹、ただただ「美味しい」しか言葉が出てこない
先付は、香箱蟹と金時草の湯葉巻。文句のつけようのない美しい仕立て。冬のこの季節に、これ以上の先付はないのではと思ってしまいます。身の部分から口に運ぶと、しっとりとした身から溢れる蟹の豊かな風味と上品な甘さがたまりません。千鳥酢に昆布出汁を少し加えたものに浸して食べると、まろやかな酸味が身の美味しさをはっきりと立たせてくれ、飲み込むのが惜しく思ってしまいます。
身を食べ進めた後に、宝石のような外子に箸を向けます。口に入れるとプチプチとした食感と共に、磯の風味が鼻に抜けていきます。身と交互に食べると、これはもう箸が止まりません。身をかなり食べ進めて、香箱蟹の一番のご馳走とも言える、内子(雌蟹の卵巣)が姿を現してきます。
一口食べただけで、口の中にねっとりと濃厚な甘さが広がっていきます。ねっとりとしているけれど、しつこさも飽きもまったく感じさせません。最後はすべてを混ぜながら、香箱蟹の美味しさを余すところなく味わいます。これはもう、「完成されたご褒美」であり、大満足の味わいでした。
香箱蟹と一緒に、「手取川 純米酒 名流 大辛口」をぬる燗でいただきます。
サラッとした辛口、凛とした酸の味わいが、燗を付けることによってとろみが増し、余韻にふくよかさが出てきます。香箱蟹の風味を邪魔することのない見事な引き立て役で、すいすい飲み進めることができます。思い出したように金時草の湯葉巻と合わせてみると、塩味控えめで繊細な味付けと湯葉の香りが、実にぬる燗にぴったりの相性でした。
続いては前菜の五品。かぼすを窯に見立てて、中に巻海老、千社唐、百合根、牛蒡、でんぶ和えをあしらったものは、海老の旨味と滋味が巧みに溶け合っています。鰤と蕪の寿司は日本酒によく合う塩味と酸味のバランスが面白く、錦玉子もシンプルな仕立てだけに手抜きのない鉄板の味のよさ。
鱈真子昆布巻煮も品のよい甘みが漂います。なまことあられ金時人参、柚子、粕漬を合わせたものは食感が気持ちよく、噛み締めると口の中で変化していく旨味を追うのが楽しい一品でした。前菜からは料理長の奥深い技術が遺憾なく伝わり、すっかり心がほどけて安心してしまいます。
お椀は、鱈白子のすり流し。鱈身、金時人参ふかし、芽蕪、松葉柚子が入っています。輪島塗や九谷焼などといった、石川県が誇る見事な器にお料理が盛り付けられてくるのが美麗で嬉しくなるのですが、シンプルな仕立てのお料理が実に映えるのです。立ちのぼる湯気に誘われて一口啜ってみると、出汁と鱈の旨味が渾然一体となった美味しさが。溜息のように、ああ美味しい、という言葉が自分の口から出て驚きました。
向付は鯛薄造り、鰤、鱈子付。淡白な味の鯛は、噛めば噛むほど質の良さを感じます。途切れることのない旨味がじんわりと口に広がるので、思わず笑顔になってしまいます。鰤の脂もお醤油を弾くほどで、魚の脂の美味しさを存分に堪能させてくれます。鱈と鱈子という親子の組み合わせは合わないはずがなく、これは“お米”がほしいと思っていたところを見透かされたように、次の日本酒が目の前に運ばれてきました。
お店の屋号が入った、「純米大吟醸 浅田」。端麗でお米の素直な美味しさを感じられます。ほのかに上品な吟醸香があり、鯛薄造りのような繊細な食材ともよく合い、邪魔をしません。
中皿は図合蟹蕪蒸し。図合蟹がふっくらと蒸し上げられており、強い甘みを感じます。この甘味があんと合わさることで引き締まり、口の中がまろやかな旨味に包まれます。仕立てを変えて金沢直送の蟹の食べ比べができるというのは、堪えられない嬉しさがあります。
焼物は鰤塩焼。身は弾力があり、軽く箸を押し返してきます。箸を割り入れた時にふわっと広がる鰤の香りが食欲をそそります。ほどよく繊維の詰まった冬の鰤は、蟹に負けない魅力があり、外側はカリッと内側はジューシーな皮と一緒にいただくと、いくらでも食べられる美味しさです。
治部煮に見る、伝統を重んじつつ新しい美味も追う貪欲さ
煮物は和牛治部煮。金沢の伝統的な郷土料理である治部煮は通常鶏肉で仕立てますが、少し大ぶりな和牛が使われています。口に運ぶと、しっかりと火は入っているのにパサつきは
ありません。牛肉を噛み締める度に溢れる肉汁が、醤油の効いたお出汁と最高の相性なのですが、小玉葱と一緒に食べると味の複雑さが増し、美味しさを何倍も引き出しているように感じます。ただ和牛を用いたということではなく、意味のある仕立てであり、美味しさを追求する真摯な姿勢に感服する一品でした。
〆の食事は、加賀手打ち蕎麦。お蕎麦だけを食べてみると、蕎麦粉の香りがはっきりと感じられます。のどごしもするすると気持ちのよい食感で、見事な打ちたてのお蕎麦です。蕎麦の繊細な香りを活かすため、つゆに醤油は入らず、昆布出汁と塩を使用。十二分にお蕎麦の風味を堪能しました。
水菓子はラ・フランスコンポートと黒甘柿、甘味は栗と無花果の蒸し羊羹。ラ・フランスの甘さは瑞々しく、黒甘柿はねっとりと比重の重い甘さで、豊かで面白い対比です。蒸し羊羹は熟した栗と無花果の濃厚な甘みが羊羹とからみ合い、しっかりと調和が取れています。
微に入り細を穿つおもてなしを受けながら、豊潤な食材を美味しく食べさせていただける。日々の忙しさから解き放たれて、寛ぎの時間が過ごせるのは老舗料亭ならではだと、食事を終えてから改めて「赤坂浅田」の懐の広さを実感いたしました。
四季を通じて山海の幸に恵まれる、北陸の食材がふんだんに盛り込まれた会席料理。大切な方をお招きするのにうってつけの名店に、皆様もぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
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アクセス
住所: 東京都港区赤坂3-6-4
※こちらの記事は2020年02月28日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。