北海道「エレゾ エスプリ」で体験する、食肉料理人集団「エレゾ」の哲学とおもてなしを体現する料理とは

グルメ界隈では、言わずと知れた食通・マッキー牧元氏。今回訪れたのは、2022年10月に北海道・豊頃町に開業したオーベルジュ「ELEZO ESPRIT (エレゾ エスプリ)」。食肉料理人集団「エレゾ」の哲学とおもてなしを表現する「ELEZO ESPRIT (エレゾ エスプリ)」で、マッキー牧元さんが感じた思いとは。

我々人間は、たとえ葉っぱ一枚でも、他の命を絶って身に取り入れることにより、生きながらえている存在である。その中で「食材を活かす」あるいは「命に感謝する」という言葉を発し、耳にする。だが真の意味は、なかなか掴めない。ここ「エレゾ エスプリ」に来て、その意味が、ようやく少しだけだが咀嚼できた気がした。目前の料理を噛み締めながら、その意味を痛感し、深く考える自分がいた。食は“人が良いことをする”と書く。その良いこととは何かを、掘り下げて考えようとする、自分がいた。

「エレゾ エスプリ」は、食肉料理人集団「エレゾ」が開いた、レストラン兼オーベルジュである。場所は北海道中川郡豊頃町大津にある。とかち帯広空港の東南、車で1時間ほど走った土地である。十勝川が太平洋に流れ出す河口の近くの丘の上、雄大な草原を前に、大海原を背に、レストラン棟と3棟のコーテージが立っている。車の音も人の声も聞こえない。浜に打ち寄せる波の音と風の声しか聞こえない。食肉料理人集団「エレゾ」は、この地で開業した。料理人経験者を雇い、有能なハンターを社員にし、鹿肉などを加工してレストランに下ろし、シャルキュトリを作って来た。その後、放牧、放鳥による畜産を始め、レストランを札幌で開業。渋谷区松濤では紹介制レストランを開き、虎ノ門横丁にも出店した。そして札幌と松濤の店は閉め、去年本拠地に、長年の構想だったレストラン兼オーベルジュを開いたのである。

ディナーの時刻は18:30。外で待っていると、時間きっかりにシャッターが開き始める。エントランスには、「エレゾ」の主要メンバーの写真と、メンバーそれぞれの役目と関連した肉や動物の写真とを合わせたコラージュ写真が、アートとして飾られている。それぞれの仕事への熱意と役割の大切さが、胸に迫る。

そして、カウンターに通される。オープンキッチンに立つ、佐々木章太社長とスタッフたちに出迎えられて、まず出されるのは「鹿のコンソメ」であった。解体された後、精肉やシャルキュトリに使われなかった、端肉や筋、骨などからとったコンソメである。コンソメでありながら、とろりと舌に広がっていく甘みも酸味もすべて内包した、深く清廉された味わいが膨らんで、ため息をつかせる。そして飲み終わった後の香りは、熟成香のような甘い複雑な余韻がある。

続いて「シャルキュトリ」が出された。
鹿のブーダンノワール、豚としゃものパテアンクルート、生ハムとサラミが盛りあわされる。鉄分の甘みだけを抽出したブーダン、豚としゃもの純粋な滋味を感じるパテアンクルート、脂のうまみに顔が崩れる蝦夷鹿サラミが素晴らしい。

だがなにより生ハムに驚いた。生ハムを広げ、指でつまんで口に運ぶ。口の中で2〜3回噛んでから、舌と上顎で、押しつぶすように崩す。まず塩気を感じ、豚が秘めた滋養がゆっくりと膨らんでいく。最後のかけらになった時、オレンジの香りが吹き抜けた。一番稼働する豚肩肉部分を切り取り、オレンジの皮と共に豚の膀胱に包んで、一年寝かした生ハム「グランカレ」である。今まで食べたどんな生ハムより、濃密である。それでいて、今まで食べたどんな生ハムより、きれいなのである。色が赤いことからもわかるだろう。良きご飯を沢山食べ、十分に運動しましたよと語りかけてくる、健やかな味わいなのである。それは30数回噛んで、小さく小さくなっても、命の力があった。

続いて「軽くスモークした鮭 コンソメジュレと人参のムース」が出される。
目の前の海で採れた鮭だという。これから十勝川を40キロメートル遡上するために、身がしっかりしている。塩加減が精妙で、なんとも艶かしい。

続いて出されたのは、180日間飼育されたシャモである。驚いたのは、通常弱い胸肉もささみも筋繊維が凛々しい。グイグイと音が立つような噛みごたえで、歯を喜ばす。香りも濃く、鼻腔に迫ってくる。放し飼いで良く運動して来た証なのだろう。そしてコンフィされた腿肉は赤く、濃密なうま味を舌に落とした。

次は、放牧された豚肉が出された。野菜の端材を加熱した後、微発酵させて食べさせながら、1年半育てられた豚肉である。一口噛んで目を丸くする。“肉汁が湧き出る”とはまさにこの豚のことを言う。脂がしまって、甘い香りを発散させながら消えていく。さらに添えられた「白もつ小腸と大腸と根セロリのグラタン」は、ベシャメルソースがもつ脂の甘みがにじみ出ていて、実にうまい。

最後の肉は、鹿である。鹿ヒレを切って噛む。途端に肉汁が湧き出て口を満たす。ハツを噛む。溌剌としたエキスが、舌を過ぎ、喉に落ちていく。すべてに生命の躍動がある。
なにか味わうというより、命にのしかかられた感覚がある。体にゆっくりと、命が満ちていく感覚である。

これこそが我々が本来感じる、“おいしい”の本質なのかもしれない。
ここまでの感覚は、松濤では味わえなかった。
食は深い。愛情を注いで育てられ、誠意をもって解体され調理された食は、その地に立って初めて完結することを思い知らされたのである。

ELEZO ESPRIT (エレゾ エスプリ)
〒089-5465 北海道中川郡豊頃町大津127
Email: esprit@elezo.com
Phone: +81 (0)70-1580-1010
https://esprit.elezo.com/

※こちらの記事は2023年05月24日作成時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

マッキー牧元

「味の手帖」編集顧問。 国内、海外を問わず、年間700食ほど旺盛に食べ歩き、雑誌、テレビ、ラジオなどで妥協なき食情報を発信。近著に「超一流サッポロ一番の作り方」(ぴあ)がある。

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