「東山 緒方」福井康司氏に聞く、素材の美味しさを引き出す緒方氏直伝の料理とは

京都・四条通から一歩足を踏み入れた小路に佇む、日本料理の名店「緒方」。2021年の秋、左京区岡崎に「東山 緒方」を開き、広く注目を集めています。今回は、料理長を務める福井康司氏に「東山 緒方」ならではの料理の魅力について語っていただきました。

名店「緒方」の新たなる挑戦「東山 緒方」

東山 緒方が入る宿「眞松庵」の外観

2021年10月、京都・岡崎に開業した宿「眞松庵」の1階に居を構える「東山 緒方」。赤杉のカウンターからは見事な主庭が眺められ、見事な空間演出が印象的です。腕をふるうのは、「緒方」で2番手として活躍していた福井康司料理長。
厳選した素材の旨味や風味を存分に引き出し、カウンターで供される繊細かつ大胆な仕上げが目を見張ります。美しい器と共に、食材の旨みから季節を五感で感じられるような滋味深い料理が特徴です。
「緒方」の味を楽しみにしているゲストに、どのように満足していただくか?今回のインタビューでは、料理人を志したきっかけや「緒方」ならではの料理を作るために心がけていること、今後の挑戦についてお伺いしました。

京都で生まれ育ち、料理人の道へ

―福井様が料理人を志されたきっかけは?

大学に進学して教員の勉強をしていましたが、学生生活を送るうちに、もっと違う世界で手に職をつける仕事に挑戦しようと思い直しました。

学生時代に調理場のアルバイトを始めたんですが、料理人の方が筍の若竹煮を作っていた時に、お出汁を一口いただいたんです。その出汁がびっくりするくらい美味しくて「絶対に自分でもこの味を出せるようになりたい」と思いました。

(ぎおん畑中)

大学卒業後は、京都の料理旅館の「ぎおん畑中」さんに入り、6年ほどお世話になりました。「ぎおん畑中」さんの調理場は若手でもどんどん仕事をさせてくれたので、野菜を切ることや盛り付けから始まって、1年毎に次のポジションに移らせていただき、6年で一通りのことを経験させていただきました。

―「ぎおん畑中」も料理旅館として有名です。フラットな環境で色々とご経験されたんですね。

旅館の仕事も勉強になりましたが、基本的に料理人はお客様の前に出る仕事ではないので、次第にカウンターでの仕事にも興味を持つようになりました。自分のステップアップもしたいと思い、次のお店を探していた時に、人づてに「緒方」さんで料理人を探していることを教えていただいて。それがご縁で入社しました。「緒方」さんのお店はもちろん知っていましたが、自分にはレベルが高くて入れないだろうと思っていたので、嬉しかったです。

食材を第一に考える「緒方」の料理に魅せられて

―「緒方」での仕事は、前の厨房とはどのように違いましたか?

(緒方)

どちらも日本料理なので、出汁を引いたり、魚をおろしたりという基本の仕事自体は一緒ですが、料理の仕方、見せ方が全然違います。
旅館の仕事はどちらかと言えばオーソドックスな日本料理で、八寸や炊き合わせ、という京都の料理を全面に出す形です。季節によって食材の切り方を変えて何かに見立てたり、紅葉や桜の花、葉を添えた装飾で、季節感を表現したりしていました。
緒方さんのスタイルは真逆で、季節感も食材自体で表現しますし、旬の素材の旨みをどうやって最大限に引き出して、料理にするかという部分に重きを置いています。
一皿に要素を多く詰め込まず、シンプルな表現が特徴で、野菜・魚・肉、何でも“どうやったら一番美味しいか、どうやったら綺麗に見えるか”を突き詰めていて。「自分がやりたい料理も、こういうスタイルがいいな」と改めて感じました。

―「緒方」一門として働かれている中で、大事にされていることは?

緒方さんの仕事を見ていて、僕が一番大事だと思っているのは、とにかく食材にまっすぐ向き合うこと。
例えば、野菜で言うと、筍も毎日表情が違います。それは日々の移り変わりでちょっとずつ変わっていくもの。日々状態の異なる食材に向き合い、料理をすることが「緒方」で働く中で一番重要じゃないかなと思います。料理に対しても、お客様の接客に対しても、フラットな目でものを見るということが、一番大事なことだと考えています。

初の支店「東山 緒方」での挑戦

―2021年に初の支店となる「東山 緒方」がオープンしましたが、どのような経緯で料理長になられたのですか?

「緒方」で7年ほど勤めていて、次のステップとして独立を考えていた時期がありました。緒方さんはちょうどその頃、若手に活躍できる場所を作りたいという気持ちで、新しいお店を始めることを考えていたようです。
自分が行くという話になった時は、不安はありましたが、とにかくやるしかないと思っていました。こんな素敵な場所で、女将さんや一緒に働いてきたスタッフと一緒に新しくお店を立ち上げる経験はなかなかできることではないので、料理長として任せていただいたことに感謝しています。
それまでは、独立することに何となく囚われていましたが、実際に料理長としてやってみて、自分にはまだ足りないところが沢山あると気づきましたし、課題や、やらないといけないこともまだまだあると感じています。
それに「緒方」という看板を背負ってお店をやるというのは、自分で独立する以上のプレッシャーというか難しさがあるので、大変な分、やりがいもあると感じています。

―確かに緒方さんがいない場所で「緒方」の料理をだすのは、相当なプレッシャーですよね。

どちらのお店にも頻繁にお越しいただいている常連の方もいるので、どうしても「緒方」での料理と比べられる部分はあります。
そういった意味では、責任感というか緊張感は常に持っています。
本店だと、緒方さんがいて、自分はスタッフの1人でしたが「東山 緒方」では、自分が表に立つという立場になった時に、料理を出すだけではダメなんだなと。お客様をお出迎えして、お話しして、端から端まですべてのお客様に目を配ったり、サービスしたり。女将さんもいますので心強い部分もありますが、スタッフの皆で相談しながら、今までやってなかったことを取り入れ、本店にはない東山緒方らしさを模索しています。

―東山緒方でのメニュー構成は、どのように考えられているんですか?

最初の半年くらいは「緒方」と同じものにしようとしていましたが、作る人も違えばお店も違いますし、徐々に変えていきました。今では季節の定番のもの以外は被らないような形にしています。食材が同じでもお出しする形を変えていって、少しずつこちらの良さも出てきたかなと。

また、お庭が綺麗に見える良いロケーションで、くつろぎながら料理を召し上がっていただけるので「京都らしく華やかな料理の方がいいんじゃないか」という話はしています。

―カウンターからの見事なお庭の眺めと、福井様が目の前で説明しながら仕上げてくれる料理もまた、見どころの一つですね。

こちらのお店には、緒方さんがいないので「緒方」の料理を楽しんでもらうなら、お店全体としてきちんと丁寧な説明やサービス、気遣いをできるようにしないと、魅力的にならないんじゃないかと。
特にカウンターが広いお店なので、サービスが隅々まで行き届くよう、スタッフには「お客様が一つの空間で楽しんでもらうためには、スタッフ皆が声をかけたり、気持ちよく挨拶したりしないと駄目だね」と話して、いつも皆で考えを共有することを意識しています。
カウンターで食材を事前にお見せしたり、焼いたり盛り付けしたりと、動きがある方が、大きいお店をより活かせていいんじゃないかなと、いつも思ってます。

―今後福井様が挑戦されてみたいことは?

当たり前のことなんですけど、お客様に来ていただいて「今日は本当に美味しかったね、楽しかったね」って言って帰っていただけるお店にしていきたいです。良いお店というのは料理だけでなく、スタッフ皆で作り上げるものだと思っているので、毎日話し合っています。特に海外の方も沢山お越しいただく中で、英語は得意ではありませんが、事前に料理名や他食材名の単語などを予め調べておく、などして日々努力しています。
接客に関しては、表情や声の出し方で印象が大きく変わってくるものなので、特に意識をしています。海外からいらっしゃる方も、東京や遠方の方、地元の京都や関西の方、すべて同じように楽しんでいただけて「良いお店だね、また来たいね」って思ってもらえるようなお店を皆で作っていけたらと思います。

料理については、昨日より今日、今日よりも明日、同じ料理でもより美味しくなるよう日々工夫していますので、本当に毎日が挑戦です。
今後してみたいことは、ダイナミックな料理の中に、伝統的な粋な仕事を入れていきたいなと。

例えば、粽寿司などの伝統的な料理は、昔から端午の節句の頃に作る、粋な京都らしい仕事です。「緒方」のダイナミックで素材感のある料理の合間に、京都らしい料理がいくつかある。そういったものを入れていくと、自分の好きな「緒方」の料理もできますし、ちょっと目線が変わって、粋な料理になるんじゃないかなと思います。

「新しいものを作りたい」ということより、単純に「本当に美味しいものを作りたい」という気持ちが強いので、それに近づくにはやはり日々の料理に向き合って、より良くしていくことの繰り返しなのかなと考えています。

日本料理

東山 緒方

京都市営地下鉄 東西線 東山駅 徒歩8分

【プロフィール】
福井康司
1984年生まれ、京都府出身。
旅館「ぎおん畑中」で約7年の修行を得て、「緒方」で7年間2番手で修行。
2021年に「東山 緒方」料理長に就任。

【編集後記】

「東山 緒方」は、見事なカウンターを背景に食材を丁寧に扱う繊細、かつ大胆な料理で、心地良いひとときを過ごせるお店。海外からのゲストにもスタッフの方が丁寧に説明している姿を見て、このお店を皆で作り上げていくという意識が浸透していることを感じました。岡崎に生まれた「東山 緒方」は、通うほどに居心地の良さが増すような、そんな魅力が詰まっています。

(こちらのインタビューは2023年5月に行いました。)

※こちらの記事は2024年10月31日更新時点での情報になります。最新の情報は一休ガイドページをご確認ください。

Airi Ishikawa

一休のメディア事業部長。日本全国を旅しながら、その道のプロにインタビューや取材をしています。国内ワイナリーを巡るのが好き。地産地消や、生産者に近い距離で食材や料理に向き合う「極みのシェフ」がいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:割烹かわだ / 南青山 まさみつ / 寺子屋 すし匠
・好きなお店:ICARO miyamoto / フランス料理 エステール / レストラン・マッカリーナ
・注目しているお店:オーベルジュeaufeu / bekka izu / 無垢 / KOBAYASHI
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材:山菜 / 鴨

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